21 彼女と食べれば尚美味しい
とても長くなってしまいましたw
俺は立花に話しかけられるまで、口を開けて馬鹿な顔を晒していたのだろう。
立花は不思議そうな目で見てくる。そんな綺麗な目でを俺を見ないでくれ。
こうなったのも立花が原因なのに。
あの発言はやばかった。
心臓の音がうるさいと感じたり、胸の奥がじわじわと熱を持ち始めたり、立花の頭を撫でまわしたいと思うほどに。
まあそんなことは言えないし出来ないので、実際にはしないのだが。
立花は心配そうに声を掛けてきた。
「だ、大丈夫ですか?」
「お、おう。たぶん大丈夫だ」
俺は今顔を赤くしているだろうが、そんなことは気にしないことにした。
時間も時間なので、腹が減ってきた。
せっかく立花が料理を作って待ってくれていたのだ。完食する以外に選択肢はない。
ふと俺は立花が勝手に台所を使ったことについて謝っていたのを思い出す。
俺は全然気にしていないし、むしろ立花の温かい料理を食べられる事は願ったり叶ったりなのだ。
だから俺は立花にその事を言っておくことにした。
「立花」
「何でしょうか」
先程まで目が合っていたが、俺が何も話さなかったので立花は何も無いのに周りを見渡していた。
俺の声を聞くと、すぐに顔をこちらに向けて、目を合わせてくれた。
「あのな立花。さっき台所を勝手に使ったことについて謝ってたよな。そのことに関して、俺は全然怒ってないし、むしろ嬉しいよ。だって立花の料理を温かい状態ですぐに食べられるんだろ?そんなの幸せじゃないか。だから立花は謝らなくていいよ」
立花は俺の話を聞くと、顔を一気に赤く染めた。だが目は逸らしていない。
「で、でも…勝手に台所をいじられたら嫌じゃないですか?」
立花は心配そうに聞いてくる。
俺は立花に笑顔を向けて、言った。
「俺は料理が出来ないから、普段台所に立つことは殆ど無いし、この家では台所はお役御免だったんだよ。だけど料理の上手な立花に使われて、台所も嬉しがってると思うよ。まぁ、何より俺は立花の料理が大好きだからな」
俺がそういうと、立花はきめ細やかな白い頬を赤く染めて顔を右に逸らした。
俺は急に立花に顔を逸らされたので、不思議に思いながら立花の反応を待っていた。
立花はゆっくりと口を開いて、ぼそりと言った。
「…や、やっぱり結城さんは…ず、ずるいです」
やっぱり何がずるいのか分からないけど、とても反応が可愛くて俺は心臓の鼓動を速めてしまう。
俺は立花に顔が赤くなっているのをばれないように、立花の料理が待っている部屋に行くことにした。
「さ、さあ早く夕飯を食べよう。今日はなんだか何時もよりお腹が空いてるんだよな」
立花にそう言って、俺は走って部屋に入っていった。
ちらりと顔を見たが、立花の顔はほんの少し、笑っていた様な気がした。
☆
俺が部屋に入った後、すぐに立花が入ってきた。
盛り付けくらいは出来るのだが、立花に「結城さんは座って待っていてください」と笑って言われたので、抵抗できずにいた。
料理の美味しそうな匂いが漂ってくる。
この特徴的な匂いは、あれしかないな。
俺は立花の料理を楽しみに待っていると、料理が運ばれてきた。
「はい、どうぞ。今日はカレーですよ」
予想していた通り、今日はカレーだった。
俺はカレーが大好きなのだが、母が作るカレーが特に好きだった。
今は一人暮らしをしているので、カレーなんて作れない俺は、久しぶりに見るカレーに、感動すら覚えた。
俺が少し感動していると、立花が台所ではなくソファーに向かおうとしていた。
どうかしたのかと思い、立花に声を掛ける。
「どこに行くんだ?」
俺の声を聞いた立花は、少し驚いたように振り返る。
そして立花は口を開いた。
「いえ、家では食事の際は一人にするように言われていますので、そのほうが良いかと思いまして」
立花は至って普通の様に話しているが、その声はどこかいつも通りではなく、悲しげな声だった。
この様な声は、俺が立花に両親の事を聞いた時や、そういう話をした時に聞く声だ。
俺はこの声が嫌いだ。
俺と立花が普段話すときの声を、明るくて暖かい声だとすれば、今の立花の声は暗くて冷たい声だ。
そんな悲しげのある立花は見たくないし、そうあって欲しくない。
俺は立花にもう一度声を掛けた。
「立花、一緒に食べよう」
俺がそういうと、立花はさらにどこか悲しそうな顔をした。
「気を遣わなくても結構ですよ」
立花は苦笑いをして、歩みを続けようとした。
俺はその声を聞くと、立ち上がって立花の手を取った。
「俺は気を遣ってるんじゃない。立花と一緒に食べたいんだ。一人で食べるより、二人で食べたほうが絶対に美味しい。それに相手が立花なら、もっと美味しくなる」
俺は立花と目を合わせながらそういうと、立花は少し頬を赤くする。
そのままじっと見つめ合っていると、立花は観念したように笑った。
「分かりました。一緒に食べましょう」
俺は立花の声を聞くと、手を引いて座らせた。
立花は準備をしようとしていたが、問答無用で座らせた。
お皿にご飯をよそって、いい匂いのするカレーをかける。
そして立花の前にお皿をコトンと置いた。
俺が立花の前にお皿を置くと、立花は小さく「…有難うございます」と言った。
そして俺も座って、手を合わせた。
「よし、じゃあ食べよう。いただきます」
俺がそういうと、立花も手を合わせて「い、いただきます」と言った。
俺は立花のカレーを口に入れる。
とてもとろとろで、俺は水っぽいカレーより、とろとろカレー派なのだ。
とても優しくて、甘さとスパイスのバランスが完璧だ。
これはご飯が進む。
だけどこの味は食べたことが無い。市販のものではないのだろうか。
「なぁ立花。これのカレーは市販のじゃなくて、立花が作ったのか?」
俺がそう言うと、立花は口に含んでいた物を飲み込んで、話した。
「はい。ルー自体は簡単にできますから」
俺は正直びっくりした。
カレーというのは市販のルーを入れて完成、みたいなのを母が言っていた気がするのだが、そのルーを一から作るなんて俺には真似できない。
母のカレーも好きだが、立花のカレーは、もっと好きな味だと思う
「そうなのか。道理でめちゃめちゃ美味しいんだな」
俺が立花にそう言うと、立花は頬と耳を赤く染めて、「…有難うございます」と言った。
俺が立花の料理を夢中で食べていると、どこからか視線を感じた。
ちらりと立花を見ると、カレーを食べながら俺の事を見つめていた。
顔に変な物でもついているのだろうか?
「ん?どうしたんだ?」
「いえ、結城さんの言う通り、二人で食べればとても美味しいですね。相手が結城さんなら、尚更です」
俺は立花の発言に、一気に顔を赤くさせ、心臓の鼓動を速めた。
「…不意打ちは、やめてくれ…」
俺がそういうと、立花は「不意打ちとは、なんですか?」と少し不思議そうに、でも少し笑っていた。
今回は今までで一番の幸せ回だと思います。
心が温かく感じたりした方は、感想、ブクマ、評価等、宜しくお願いします(*´▽`*)