19 彼女の返事
俺は何故か悪口を言われたものの、否定は出来ないので話を逸らす様に明日の話をすることにした。
「あーそうだ。俺は明日この時間に帰って来れないかもしれないから。家に上がってもらって大丈夫だぞ」
まあ別に許可しなくとも、入ってもらっていいのだが一応な。
「分かりました。ですが何時も八時には家にいるのに、どこか遠くへ行くんですか?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「えーっと。まあアルバイトの募集をしている喫茶店があって、そこに行ってみようと思ってさ」
「そうだったんですか。でも何で急に働こうと?」
「まあ前から金には少し困っていたんだが、本音を言うと立花にお礼をしたいからな」
「えっ私ですか?」
立花は驚いて何時もより声を少し大きくして反応する。
前からお礼をすると言っていたが、まさか自分のために働くとは思わなかったのだろう。とても驚いている。
「ああ。前から立花にはお世話になってるし、看病もしてもらったんだ。お礼をしたいのに、金が無いと何もできないだろ?ついでに働く練習もしてみたかったし」
俺がそういうと、立花は少し頬を赤く染めてから言葉を返す。
「で、でもそんな。前にお礼は受け取ると言いましたが、何も働かなくたって」
「でも物以外でお礼されても困るだろ?」
立花は少し沈黙する。
ほらやっぱりそうじゃないか。
俺が苦笑いをして、話を続けようとした時。
「…結城さんがしてくれることなら、別にそれでも構いません…」
立花は少し俯いて、上目遣いという形で俺と目を合わせる。
何それ。どういう事でしょうか。
俺は自身の顔にどんどん熱が溜まっていき、顔が赤くなるのが分かる。
痒くも無いのに、頬をぽりぽりと掻く。
立花さん、前から思っていたけど何でそんなに俺に甘いんでしょうか。止めてください変な気になってしまいます。
まあでも立花は俺に気遣って言ってくれたんだろうが、俺も働くっていうことを経験してみたいし、別に気にすることはないのだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今は働くってことも経験してみたいんだ。もしも俺に物以外でお礼が出来るなら、なんでも言ってくれ。パシリにでも何にでもなってやるからさ」
俺はそう笑いかけると、立花は「パシリになんかしませんよ」と少し笑ったので、なんだか嬉しくなったのであった。
☆
翌日俺は、学校が終わると、歩いて例の喫茶店まで向かった。
昨日電話で面接の予約をした。初めてアルバイトの面接をするので、緊張して指定の時間より少し早めにやってきた。
俺はカランカランと音が鳴るドアを開けて、中の様子を窺う。
中にはお客さんが数人いたが、たくさん人がいる様な感じではなかった。
俺がドアの前で立っていると、奥から店長らしき人が歩いてきた。
「あっあのすみません。アルバイトの面接の予約をしている結城なんですが」
「こんにちは、結城君だね。私は店長の白石です。少し早いけど、奥で面接しようか」
この喫茶店の店長さんは少し年を取っているが、顔は普通にイケメンで、喫茶店で店長やってますって言うと、誰もが納得するような風貌を持った人だ。
店長に連れられ、奥の部屋で椅子に座って面接を受ける。
店長さんから色んな質問をされたが、冷静にゆっくりと質問に答える。
ニ十分ほど面接をしていると、店長さんはうんうんと頷いて、笑顔になった。
「とても真面目でいいね。採用するよ。うちは週に二、三回くらい出てくれればいいんだけど、あんまり長く働かなくていいからね。学校で疲れているだろうし」
あっさりと採用されてしまった。
店長さんなのだからいいんだろうけど、本当に良いのかな?
店長さんとっても優しいし。
俺は店長さんと、シフトについて少し話して、店長さんに「お疲れ様。今日はもう帰っていいよ」と言われてお礼を言って家に帰ることにした。
☆
あんまり面接に時間はかからなかったが、歩いてきたので、結局八時より少し後になってしまった。
今日は立花の料理が玄関に置いてあるんだよな。
立花一人で帰って大丈夫かな。
俺がそんな心配をしながら、鍵を開けてドアを開く。
「ただいま」
誰もいないけど、小学校の時からの癖でただいまと家に話しかける。
「お帰りなさい」
家が擬人化したのだろうか、とても可愛い少女から返事が返ってきた。
あまり面接について書く気はありませんでした…。
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