2.密談後 2
それが、校外学習時後に、それまで内情をひた隠しにしていたマサトが少しずつ、秘匿していたことを明かすにつれて、フィーナは言いようのない不安に駆られていた。
秘密にする必要がないのなら――。
(――私が主でなくても……主でないほうが……いいのかな……)
「――――、……ナ。フィーナ」
近くで呼ばれて、フィーナは物思いからハッと我に返った。
反射的に顔を上げると、椅子に座っていたフィーナの側に、カイルが立っている。
怪訝な表情を浮かべるカイルに、フィーナはぎこちない笑みを浮かべた。
「ど――どうかしたの?」
「それはこっちの台詞だ。ぼんやりして、見てなかっただろ」
「……えっと……。……ごめんなさい……」
フィーナは嘘が苦手だ。
苦手だから、悪いと思った時には素直に謝る。
うつむくフィーナに、カイルは小さく息をついて、隣の椅子に腰を下ろした。
「何か……あったのか?」
「え……?」
怪訝そうな表情をのぞかせるフィーナを見て、自身の言葉に、カイルは恥ずかしさを覚えつつ、後方に控えるアレックスとレオロードを見た。
二人とも、事前に言い付けたカイルの言葉に従って、背を向けたまま直立不動の体勢を取っている。
離れているが、声は聞こえる範囲なので、小声として聞こえているだろうが。
アレックスとレオロードが離れた位置にいるのを確認して、カイルは言葉を続けた。
「『困ったことがあったら話して』。
――フィーナが俺に言ったことだろう?
同じ言葉を返す。
あの後――何か、あったのか?」
この時のカイルは、マサトがフィーナに「話したいこと」を話したあとだと、思いこんでいた。
そうした話をしたあとだから、フィーナが沈んだ様相を見せているのだと思っていた。
フィーナはカイルの問いに、小さく首を横に振った。
「まだ……何もないよ。
話も、聞いてない。
多分……休みの時じゃないかな」
休みにはドルジェに戻る。
久しぶりの郷帰りだから、嬉しいはずなのに、不安がついて回る。
おそらくマサトは、休日中に話をするだろう。
――何を話そうとするのか、それが怖かった。
フィーナの答えを聞いて、カイルは怪訝な思いを一層深めた。
「だったら……なぜ不安そうな顔をしている」
「……だって……」
――不安。
考えないようにしていたことを、その言葉すらも思い浮かばないようにと自分をごまかしていたところへ、カイルが告げて、現実を突きつけられた。
何が不安かも、自分でもわからないまま、不安、心配、疑念――。
それらの感情がない混ぜとなって、胸に溢れた。
溢れた感情を、自分でもどうしようも出来ず、涙がぽろぽろとこぼれていた。
顔を歪ませて泣き始めたフィーナに、カイルはぎょっとして、思わず、アレックスとレオロードを呼ぼうとした。
こうしたとき、どう対処していいのか、カイルにはわからなかった。
わからなかったが――。
――二人を呼ぶのは違う気がして、名を呼ぼうとした声を飲み込んで、フィーナに向き直る。
フィーナは顔を伏せて、肩を震わせていた。
細く吐き出す呼吸の間から、涙声が漏れている。
戸惑いながらも、カイルはフィーナの肩に手を置いて「――大丈夫か……?」と声をかけた。
声をかけつつ、滑稽な問いだともわかっていた。
大丈夫でないと、見てわかるのに。
声をかけられたフィーナは、ゆっくりと顔を上げた。
涙で頬が濡れている。
涙でうるんだ瞳がきつく閉じられたかと思うと、その頭がゆっくりと傾いて――カイルの肩口に、額を乗せた。
「フィー……っ!」
至近距離のフィーナに焦って、戸惑うカイルは、すぐにフィーナを離そうとした。
が、漏れ聞こえる嗚咽と、カイルの袖口を握りしめるフィーナに気付いて、離そうとした行為を押しとどめた。
久しぶりの番外編更新です。
ずいぶん前に書き上がってはいたんですけど。(汗)