6.アールストーン校外学習初日【魔法授業 6】
そうした面々に、テーブルに置いていた黄金色の液体が入っている小瓶を、ことり、とテーブルの中央に差し出した。
「ハニーブロッサムの密です。ベリーの香りを選んだ方で馴染めない方は、この密を混ぜて試してみてください」
「ハニーブロッサム?」
隣にいたカイルが「それは何か」と聞いてくる。
「植物の名前よ。習性で、花をつける時期になると、花の根元に人のこぶし大程の密壺をつくって、そこに密を溜めるの。
授粉に必要な虫や鳥を呼ぶためらしいけど。
料理やお菓子にもよく使われているものよ」
薬茶は二種類、用意していた。
効能は同じだが、香りづけとしてベリー系のものと、柑橘系のもの、二つ準備していた。
どちらも、ベリー系の香りがする香草、柑橘系の香りのする香草を使っているので、ドライフルーツと共に煎じたものとは異なり、香りだけで、舌から感じる果物の名残は全くない。
柑橘系のものは、もともとの薬草の効能である、すっきりとした効果との相性がいいので、ほぼ受け入れられているようだった。
甘い香りを希望した面々が、香りに反し、味覚に甘みがないことに、慣れないようであった。
そうした人がいるであろうことを見越して、フィーナはハニーブロッサムの密を、料理室から所望していた。
「俺のでも入れていいのか?」
カイルは柑橘系を選んでいる。
「カイルって甘党?」
「試してみたいんだよ」
「甘くてもいいのなら、いいけれど。
人の好みって、それぞれだし」
フィーナの答えを受けて、カイルは密をカップに垂らした。
ティースプーンで混ぜてから口にすると、確かに、味わいが変わってくる。
「少し手を加えるだけで、様変わりするのだな」
「そこは自分でいろいろ試して。
自分の好みを探すのもおもしろいよ?」
「他にどんなものがあるんだ?」
「他って――え?
どんなのがいいの?」
フィーナの隣を陣取ったのは、薬茶に関して話を聞くためでもあった。
宮廷庭園で口にしてから気になっていたのだが、話す機会を脱していた。
唐突に、薬茶の話をふっても、フィーナは応じてくれるのだが、カイルにはこれまでの経験上、それができなかった。
この機会を逃さんとして、フィーナの隣に座り、そうしてフィーナがつくる薬茶に関して様々な方面の話を聞きだしたかったのだ。
カイルが密を入れて飲んだのを見て、興味をそそられた面々が、密を入れて、また別の風味になったのを楽しんでいる。
人によっては「たしかあれが――」と風味が増すのではと、独自に試そうとする輩もいた。
そうして人それぞれ。
思い思いの薬茶の楽しみ方を模索した後。
就寝時間を迎えて、それぞれの部屋へと戻ったのだった。
翌日。
すっきりとした目覚めを体験した面々は、フィーナの薬茶の効能を身をもって知ったのだった。
(了)
小話、第一弾でした。
こうした軽~いお話しを掲載していこうと考えています。
そして次回予告(笑)。
次回はシリアスです。(苦笑)
「軽い話」と言っている側から申し訳ないのですが。
書きあげちゃったので。(言い訳)
書いてる時期が、そうした時期だったので、めちゃくちゃ影響受けました……。




