5.アールストーン校外学習初日【魔法授業 5】
「人それぞれ、好みがあるので、無理に飲んでもらわなくてもかまいません」
言って、出されたカップの中を見た面々が、戸惑いをにじませた。
「これが……薬茶、ですか」
誰ともなくつぶやかれた言葉に、フィーナは苦笑した。
「薬茶、ほどの効果はないのですが……。
レオロード様、申し訳ございません。
私の中ではこれも薬茶の部類に入るので、あの場で今日、対応できると話したのですが……所望されたものとは異なるかもしれません」
薬茶の振る舞いは、レオロードに迷惑をかけた、フィーナからの謝罪を兼ねたものだとは、この場の面々は知っている。
――その内容までは知らない者もいるが。
サリアはクラスが違ったので、事情は知らなかったが、立ち上った火柱は目にしたので、それがフィーナの仕業であろうこと、それに関して、レオロードが迷惑を被ったのだろうとは薄々感づいていた。
「これは……?」
以前、口にしたものとの違いを感じているレオロードは、今回がどういったものかを尋ねた。
「前の薬茶は、乾燥した薬草も持参していたので、その場で摘み取った薬草と共に、煎じて効能を煮出しています。
今回は、アールストーンで採集したばかりの薬草を使用しています。
薬草は乾燥させることで、日持ちを良くするだけでなく、水分を飛ばすことで、効能の純度を高めるのですが……。
今回は摘み取ったばかりの薬草と香草だけを使っているので、成分はあまり出ていません。
薬でなく、気分転換的なものだと思ってください。
私が作る薬茶は、ほとんどそう言ったものなので。
今回は特に、鮮度を感じるものだと思います」
「これまで、私が飲んできた薬茶は、茶色のドロドロ、濃い緑のドロドロだったのですが……これは透き通る、普段の水の色に、薄く緑が色づいているだけですが。
それは作り方によるものなのですか?」
教師陣の一人が告げた内容に、フィーナは頷いた。
「通常、処方される薬茶は、効能を重視のため、薬草自体を細かくすりつぶして濾しとることなく、飲むようにされています。
実際、怪我や病気の時の薬茶は、そうしたものでなければ効果はないでしょう。
けれど今、この場に用意したものは、怪我や病気の方の為ではなく、ちょっと疲れたな。よく眠れないな。――など、日常の不調に効果が望めるのではと思えるものです。
今日は皆さん、お疲れでしょうから、不眠の心配はないと思われますので、少しだけ気分転換――疲れが……ぼんやりとする頭がすっきりするものを、出させていただきました。
……レオロード様。
それでよろしかったでしょうか?」
「十分ですよ」
所望したレオロードの許可を経て、皆、それぞれ出された薬茶を口にした。
初めはカイルだった。
カイルが口をつける前に飲むことは憚れたので、カイルが口にしたのを確認して、それぞれ口に含んでいった。
毒味は別の概念である。この場に置いて毒は、ありえないことだった。
薬茶の反応は、人それぞれだった。
気にいって受け入れる者もいれば、表立って口にしないものの、一口、飲み干しただけで顔をしかめてそれ以上、口にしない者もいる。
顔をしかめた面々にも、フィーナは気付いていた。
薬茶というより、ハーブティーです。
学生時代、友人宅で振舞われた、摘み取ったばかりのアップルミントを綺麗に洗って、それに熱湯を注いだだけの、シンプルなハーブティ。
初めて飲んだ時の衝撃と言ったら。
それからフレーバーティーを時折飲むようになりました。
今回のお茶は、そのイメージです。
好みは真っ二つに割れると思います。
だけど、私は好きなのです~。