4.アールストーン校外学習初日【魔法授業 4】
謝罪の礼をとるフィーナに、レオロードはにっこりとほほ笑んだ。
「今後、気をつけて頂ければ結構ですよ。
――もし。謝罪の意思があるのならば。
以前、所望した薬茶を、後日、セクルトに戻ってから、この場にいる面々に振舞っていただきたいですね。
アレックスも気にいっていたようですし」
あえて「カイルも所望している」と表立って出さずに、相方のアレックスを引き合いに出して「迷惑をかけた面々に振舞ってくれ」との状況に導く。
アレックスも、自身を引き合いに使われたとわかっているだろうが、本人も所望しているから、機嫌はそこねないだろうと考える。
実際、自身を引き合いに使われたと気付いているアレックスだったが、嫌な顔一つせず、逆にらんらんと瞳を輝かせている。
レオロードの話を聞いていたカイルも、注視していなければ気付かない程度だが、機嫌を直していた。
瞳に、輝きが戻っている。
以前、宮廷庭園で振舞われた薬茶を、カイル、アレックス、レオロード。
男性陣も気にいっていたのだ。
「薬茶?」
宮廷庭園に居合わせなかったダードリアだけ、首をかしげている。
薬茶は総じて「効果はあるが、苦い、まずい、飲みたくない」が定説となっている。
それをカイルを筆頭に護衛騎士二人も望むのが、ダードリアには理解できなかった。
「一般的な薬茶とは違って、治療目的要素は低い、気分転換的な、飲みやすくした薬茶なんです」
フィーナはダードリアに説明して、レオロードに顔を向けた。
「簡単なものでも、いいんですか?」
「効能があるものなら」
答えを受けて、フィーナは周囲をぐるりと見渡した。
そうして少し考えて、レオロードに向き直る。
「簡単なものなら、ここ――アールストーンでも用意できますけど……」
「…………は?」
思ってもいなかった返事に、提案したレオロード自身が、呆気にとられていた。
「基本、薬草って、自然溢れる場所なら、身近にあるものなんです」
夜。
運営陣と教師陣が共に過ごすコテージで、連絡事項のやり取り、初日の状況把握、反省点、翌日の段取り確認等。
一通りの作業を終えてから、フィーナはレオロードに所望された薬茶を、コテージで共に過ごす運営陣と教師陣に振舞った。
薬草はアールストーンで採取したものだ。
コテージへの道すがら、休憩所の道すがら。ところどころに薬草が生息しているのに気付いていた。
頭数には、カイルの護衛騎士であるアレックスとレオロードも含まれている。
リビングに設えた楕円形のテーブルを囲んで、コの字型にソファーが配置されている。
残りの一辺には椅子が二脚、準備されていた。
ソファには運営陣と教師陣が座り、椅子二脚に、アレックスとレオロードが腰をおろしていた。
薬茶は効能は同じものの、トッピングを二種類準備していて、事前にどちらがいいかを尋ねている。
そうして準備されたものを、フィーナは一人一人、どちらを所望したかを尋ねて配膳した。
配膳し終わったフィーナは、当初、座っていた場所に戻って腰を下ろした。
右隣にはサリア、左隣にはカイルが座っている。
どこに誰が座るか、決まってはおらず、自然とそうした座る位置になったのだが、当初、サリアが座り、その隣にフィーナが座り、その隣にカイルが座った時、運営陣を除く面々は静かな動揺を見せていた。
カイルは曲がりなりにも第二王太子だ。
そのカイルが何の臆面もなく、女性の隣に座ったことに、何かしらの想いがあるのではと感じたのだ。
校外学習の準備時には、男性陣、女性陣、それぞれ横並びで対面する形をとっていた。
今回も、少々広いテーブルだが、同じ配置となると思っていたのだが。
(――カイル殿下は、フィーナを気にいっているのでは)
と、誰もが脳裏をかすめた心情は、やがて誰もが「勘違い」と思い至る。
市井出身者だからだろうか。
フィーナの発言は、貴族籍、もしくはそうした面々と接することに慣れていた者たちからすれば、はっとする内容が多々ある。
しかしだからと言って、それをどう対処すればいいかなど、問題解決までを考えた発言ではない。
そうした時、両隣のサリアとカイルが、場をうまくとりなしていた。
そうした状況を見続けて、座った席の位置は、特に意図するものではない、効率を求めてのものだったと、誰もが思い至っていた。
――カイルとしては今回、意図してフィーナの隣を陣とっていたのだが。
隣に座ったのは、一通りの作業の後、振舞われた薬茶のためであった。
薬茶に関してです。
本編では「宮廷庭園」で出たきりになってましたが、薬茶に関する小話をいくつか考えてました。
本編でがっつり絡んでくるかも? 的な話もありますが、今回のは小話となりました。