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家族ってね  作者: 宮原叶映
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二人の女性

あの三人が、登場します!

 ある日の日曜日の午前の十時半。透は、ある女性と昔ながらの喫茶店で会っていた。落ち着く雰囲気の店内。

 

「透くん、二人で会うなんて久しぶりね」

 

「そうだな。れんか」

 

「昨日は、ごめんね。他人行儀になって」

 

「それについては、何度も言ってるだろう。れんかは、空の小説の編集者だ。立場もあるし、私情を持ち込まないのは、社会人として当たり前だ。俺からしたら、それが出来て普通だ」

 

「そうだね。透くんは、社会人二十年だもんね」

 

「あぁ。そうだな。もう二十年か・・・」

 

 透は、しみじみと言う。晴山れんかの立場を理解した上で、それに合わせて透と京介も受け答えをしている。 


「先生の進行状態は? 」

 

「必死にやってるよ」

 

「よかった」

 

 晴山れんかは、ホッとしたようだ。


 彼女について、補足しておこう。透の肩ぐらいにれんかの頭があるという小柄だ。年は、透たちのひとつ下だ。京介よりも透の方が、れんかと交流が多かった。

 透とは、小中高と一緒だった。後輩ではあるが、その時からの付き合いなので敬語でない。透が、敬語を嫌うのもあるが。彼との出会いは、小学校の時に、委員会が同じだったからだ。


 西原きょうだいは、そもそも部活に入っていないので同じになることはなかった。そのためれんかが、この委員会に透なら入るだろうと考えて何度も同じ委員会に入った。

 

 つまり、意図的だ。


 透との共通点や交流する場を持って、彼のことをもっと知りたかった。れんかは、透のことが好きだからだ。

 

「今日、呼び出したのはな」

 

「うん」


「これから、ショッピングモールに行かないか? 」

 

「へっ?二人で? 」

 

「すまん。主語が、無かったな。紘季たちを連れてだ。嫌か? 」

 

 透の話には、時々主語がない。

 

「ううん。大丈夫だよ」

 

「良かった。あいにく、京介は仕事。空も締め切りに終われててな」

 

 そこまで言うと、一口だけコーヒーを飲む。


「紘季は、明日から、高校に行くことになった」

 

「そうなの? 」

 

「あぁ、だけど。家に、一週間引き込もってたから、いきなり学校は、きついだろうから外に出そうということになってな」

 

 れんかは、なるほどと頷く。

 

「それに、れんかは紘季たちと何度か会ったことがあるだろ? 」

 

「あるよ」

 

「良かった。俺一人で、三人をみるのは公園に行ったときで()りた」


「えっ?そんなに、大変だったの? 」

 

 と、れんかは驚く。

 

「基本、紘季くんが藍李ちゃんたちをみてくれるんだが。例の人物たちはいないか、警戒してたからな。それに、一人じゃ暇だ」

 

「なるほどと、言いたいけど。暇って、ちゃんと三人をみてたんでしょ? 」

 

「みてたよ。話し相手が、欲しいだけだ」

 

 れんかは、あぁそういうことかと頷く。


「今回は、ショッピングモールだ。人も多いし、三人を見ながら、警戒をするのは無理だ。でも、藍李ちゃんたちの新しい服を買わないもいけなくてな。それに、下手に遊園地や動物園とかは行けないだろ」

 

「そうだね」

 

 亡き時雨たちは、遊園地や動物園が好きなので、何度も行った思い出の場所だ。二人が、亡くなって一週間が過ぎたばかりだ。


 まだ、傷はいえない。本当なら、紘季たちの家に行き、遺品整理や片付けなどをしないといけなかった。


 だが、その管理会社や大屋さんとは、時雨とめぐみの知り合いだった。その方々のからのご厚意で、遺品整理や片付けなどは、急がなくていいと言われている。京介たちにとっては、とてもありがたいことだ。

 

「昨日の今日で悪いが、また(うち)に来てくないか? 」

 

「いいよ」


「紘季たちを迎えにいってから、ショッピングモールに行こうと思ってな」

 

「分かった。でも、少しだけ先生の様子をみさせてくれる? 」

 

「あぁ。いいぞ。空にとっては、れんかが恩人だからな」

 

「そうなの? 」

 

「あぁ」

 

 空にとっては、れんかが恩人というのは理由がある。空が初めて小説を投稿して、ついた担当編集者がれんかだった。


 れんかが、空の才能を引き出した。無名だったのを大切に育てて、今では有名作家で売れっ子に成長した。

 

 空にとっては、恩人で何でも話せる姉のような存在だ。

 

「そろそろ、店出るか」

 

「そうね」

 

 席をたって、お会計をする。

 

「さなえちゃん、ごちそうさま」

 

「さなちゃん、ごちそうさま」

 

「こちらこそ、いつもありがとうございます! 」

 

 さなえちゃんこと楠木さなえは、空の同級生でシングルマザーをしている。そして、この店の看板娘だ。


 ここは、元々彼女の旦那の実家のお店だった。彼が、彼の祖父から店を継いでいた。


 しかし、彼は病気で亡くなっている。その後、彼の祖父が、再びマスターをしている。そして、さなえが看板娘を続けることになった。

 そういっても、二人のはあくまでも肩書きだ。彼の祖父は年を取っているので、主にさなえが店に出てマスターとして接客をしている。

 最初は、さなえが本格的に店を継ぐ話もあったが、彼の祖父が反対した。さなえは、自分の孫のために良くしてくれてるし、今、ひ孫を育てることに専念して欲しいという願いがあった。


 そんなかで、店を継ぐと名乗りをあげたのは、まだ小学生のさなえの息子だった。理由は、お父さんと約束したからだ。二人は、それを了承している。

 

「さなえちゃん。息子さん、元気? 」

 

「元気です。今日なんて、暑いから友たちとプールに行ってるんですよ」


「それは、いいな! 」


「透くん、じゃないか。おはよう! 」

 

 そこに、店の厨房から現マスターのおじいちゃんが出てきた。 

 

「あっ、おじいさん。おはようございます! 」

 

 おじいちゃんは、ニコニコと透に話しかける。


「空ちゃんの小説を読んでるよ。いいね」

 

「ありがとうございます」

 

「私も、読んでますよ! 」

 

「ありがとう。空に、言っておくね」

 

 二人に、お礼を言う。実は、この楠木家の後押しのおかげで、空が小説家になろうと思ったのだ。

 

 その当時、空とさなえは同じ高校に通っていた。彼女たちは、当時高校三年生で受験生だ。

 

 ある日のこと。空は、さなえに進路の相談したいと話を持ちかけた。さなえは良い場所があるからと、昔ながらの喫茶店に連れていった。その相談事とは、自分が書いた小説を読んで欲しいという。

 

 さなえは、空の小説を真剣に読んだ。小説のタイトルは『証』で、ジャンルはヒューマンドラマ。内容としては、孤独だといわれ続けた少女の半生を描いたものだった。

 

『空ちゃん、何て言ったら良いのか分からないけど。すごいって思うよ!空ちゃんが、書いた小説をもっと読みたい!他の物語は、あるの?』

 

『うん。あるよ』

 

 空の顔は、褒められたのにも関わらず、まだ顔は暗い。さなえは、優しく話しかける。


『空ちゃんは、私の心友なんだから。何でも、言っていいんだよ』

 

『ありがとう。さなちゃん』

 

 空は京介たちに内緒で小説の新人賞に応募して、優秀賞をもらったことを話す。賞をもらうと担当編集者がつき、小説を書籍化になること。

 さっき読んでもらったこのが、賞をとった作品だということも。


 さなえは、一口だけオレンジジュースを飲む。そして言う。

 

『お兄さんたちには、小説のことを話せないの?』

 

 空は、頷く。

 

『空ちゃんは、小説家になりたいの?』

 

『なりたい!』

 

 空は、真剣な表情で言う。

 

『空ちゃんは、小説家になるチャンスが出来たってことでしょ?』

 

『うん』

 

『じゃあ、答えは簡単だと思うよ』

 

 その言葉に、空は、あっという表情をしたかと思うと。スッキリした顔で言う。

 

『そうだね。なに悩んでいたんだろ。家に、帰ったらお兄ちゃんたちに言ってみるね』

 

『うん!それが、いいよ』

 

『さなちゃん、相談にのってくれてありがとう!本当に助かったよ!』

 

『いえいえ。こちらこそありがとう。空ちゃんに、頼られたことがすごく嬉しいの』

 

 さなえは、嬉しそうな表情する。その後、さなえの最初で最後に愛する彼がやって来た。テーブルに、アイスクリームの入った容器を置く。

 

『これは、サービスです』

 

 と、言ってその場を立ち去った。

 

 こうして、二人の女性に支えによって、小説家星時空が、誕生したのだ。



 そして、現在に戻る。透は、最近起こったことについて軽くさなえに話した。そして、さなえたちに挨拶をしてから店を出た。

 

 駐車場に止めてある、透の車に乗り込む。二人は、西原家がある高級とまでいかないマンションに向かう。移動時間は、車で十五分かかる。

 その道中のこと。

 

「透くん、ひとついい? 」

 

「うん?なんだ? 」

 

「私は、紘くんとは赤ちゃんの頃からの付き合いだけど。透くんは元々会ってなかったの? 」

 

「あぁ、れんかは京介と同じだな。俺はお前らみたいに、そこまで二人とは親しくなかったかもな。仲は良かったけど、俺は手のかかる空がいたからな。それと、仕事が忙しくてな。なかなか、紘季くんと会えなかったから、ほぼ初対面だったな」

 

 透のいう二人とは、時雨とめぐみのことだ。京介は、小中高と二人と付き合いがあった。そのぶん、透が空の世話や仕事をしていた。


 もちろん、京介が一切してないことはない。互いの仕事が、非番の時は三人でお出掛けもする。


 だか、毎回ではない。その理由としては、透と時雨とめぐみが関係してるのだ。三人は、京介の想いをちゃんと理解し、気を効かせているからだ。


 時雨は、京介がめぐみに対する想いに気が付いている。京介にとってのめぐみは、初恋の相手だから。

 しかも、結婚した今でも想っていることを二人は知っている。たとえ知っていても、変わらず心友でいたいと想っている。京介も、時雨やめぐみと透の三人が自分のためにしてくれてることが分かっていた。


 これは、四人にとっては暗黙の了解に近い。付き合いが長いぶん、言わなくても分かるのだろう。

 透がよく一緒にいた人物は、れんかと矢野幸雅だった。


 透は、変に気をつかう人間だ。京介が二人とよくいたがるので、自分からあえて必要以上に一緒にいないことにしている。


 れんかにもよく会いに行くこともあれば、会わずに幸雅と一緒に過ごすこともあった。

 

「そうだったね。透くんは、学年が違う私のとこに幸雅先輩とよく会いに来てくれてたよね」

 

「そうか? 」

 

「そうだよ。話の続きをしてもいい? 」

 

「あぁ」

 

「さっきのちょっと言いかけだったんだ。もう一度、言い直すね。紘くんとは付き合いが長いけど、藍ちゃんたちとは付き合いがないから警戒されると思う。覚えてくれてるか不安だな。仕事が、忙しくてなかなか会えてなかったからね」

 

 れんかは紘季が生まれたときも、仕事は忙しかった。今としては、空の小説がより売れてきたから、余計に忙しいのだ。双子は、人見知りをするようでしない。その時にしか分からない。

 

「着いたな」

 

透は、車を駐車場に止める。二人は車を降りて、エントランスに行く。オートロックのとこで、操作と解除すると扉が開いた。少し歩いて、エレベーターに乗る。そして、階数の数字を押す。


 エレベーターは、西原家が、ある階に止まる。エレベーターを降り、部屋の前に着く。

 

「なんか、どきどきしてきた」

 

 透が玄関の戸を開けようとすると、れんかがそう言った。透は、ドアノブから手を離す。

 

「うん?いきなりどうした? 」

 

「めぐみさんに、紘季くんたちの写真を何度も送ってもらったことがあったの。写真と実際に会うのって違うから」

 

「そうだな」

 

 もういいだろうと、透は玄関の戸を開ける。


「ただいま! 」

 

 双子は出かけると聞いていたので、楽しみにしていたのか玄関に走ってきた。

 

「「おかえり! 」」

 

 と、元気に挨拶をする。れんかの存在には、気が付いてない。それには、無理もない。透の背中に隠れているのだから。

 

「あぁ。紘季くんも、ただいま! 」

 

 紘季は、双子のあとに続いてやって来た。彼は、『お帰りなさい』と、紙に書いたものを見せる。

 

「実は、俺の後ろにお客さんを連れてきているんだ。紘季くんは、知ってる人だと思うよ」

 

「お邪魔します」

 

 と、れんかはひょこっと透の背中から顔を出す。

 

「れんちゃん! 」

 

「藍ちゃん!私のこと覚えてたの? 」

 

「うん! 」

 

 れんかは、ホッとした。

 

「紘くん、藍ちゃん、海くん。今日は一緒に、遊びに行こう! 」

 

「うん!! 」

 

 紘季は、頷く。

 

「その前に、先生…じゃなくて。空さんのとこに、行ってくるからね。その間に、準備しててね」

 

「はーい! 」

 

 れんかが立ち去ろうとすると、海李が呼び止める。

 

「れんちゃん! 」

 

「海くん、どうしたの? 」

 

「れんちゃんは、なんで、そらちゃんのことをせんせいって、いったの?なんで、そらちゃんのとこにいくの? 」

 

「それはね。透くんが、教えてくれるよ」

 

「おい!れんか、自分で説明しろよ! 」

 

 と、れんかはスタスタと空の部屋へと歩いて行く。

 

「とおるくん、なんで? 」

 

 と、そんなことお構い無しに海李は聞く。

 

「それはな……。空の仕事の……」

 

 透は幼児にどう説明したらいいか悩みながらも、頑張って説明しようとする。


 そんな彼を、れんかはまるで子供がいたずらをして、喜ぶようにクスッと笑う。空の部屋の前に着くと、さっきまでと違い編集者の顔になる。

 

 そして、ノックしてから部屋に入ったのだった。

読んでくださってありがとうございます!

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