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家族ってね  作者: 宮原叶映
48/50

別の存在にはなれる

西原家は、賑やかになる。

 西原家の食卓はとても賑やかになった。紘季の声が戻ったからだ。

 

「にろにい!あいちゃんっていって! 」

 

「藍ちゃん! 」

 

「ぼくも! 」

 

「かいくん! 」

 

 ご飯の最中に、何度も藍李たちは紘季に名前を読んでもらうようにせがむ。紘季は、ニコニコと笑顔で何度も名前を呼んでやる。

 

「ヒロロ、声が出るようになって良かったね」

 

「本当にな」

 

 そう言う空と透は、内心ビクビクしていた。この調子で、今度こそ紘季自身が事故にあったことを思い出すんじゃないかと心配していた。

 

「空、ちょっと聞きたいんだけど。いいか? 」

 

「うん、いいけど」

 

「空の書いた小説に、悪魔が出てたことあったか? 」

 

「えっ? 」

 

「いやなぁ、さっき紘季が悪魔のおかげなのかなって言ってたんだ」

 

「京介さん!? 」

 

「紘季は、空の大ファンだから。なんか影響とかしてる気がして」

 

「で、気になったから空に聞いたのね」

 

「あぁ」

 

「悪魔の話、あるよ」

 

「本当か? 」

 

「うん」

 

 紘季は恥ずかしくて、顔を真っ赤にして下を向いた。

 

「簡単にどんな物語か教えろよ」

 

「簡単にって、難しいとこ言わないでよ」

 

「ごめん」


「天使のように心優しい性格の悪魔とある悩みで苦しむ人間の話よ」

 

「紘季、その本のタイトル言えるか? 」

 

 京介は一端落ち着きを取り戻した紘季に話しかけた。

 

「うん。『他と違う二種の悩み』だったよね? 」

  

「正解だよ」

 

「ヒロロは、その本って持ってるの? 」


「うん。持ってるよ」

 

「紘季。あとで、本貸してくれないか? 」

 

「いいよ」


「でも、京兄は全巻持ってなかったっけ? 」

 

「ところどころ抜けてんだよ。仕事が忙しくて買えなかったんだよな」

 

 京介は、鼻を触る。

 

「じゃあ空、俺に貸してくれ」

 

 透も便乗した。

 

「ハイハイ」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 と、双子はお行儀よく手を合わせた。

 

「はい。お粗末様でした」

 

 双子は、自分が食べた食器を片付けたがる。そのため、落としても丈夫で軽いプラスチック性の食器を使っている。しかし、台所は危険がいっぱいなので誰かと一緒にいってあげる。 

 

「よし、二人とも行こうか」

 

 今回は透がついていく。飲み物のおかわりのついでという口実で。

 

「「うん!! 」」

 

 そうとも知らず、双子は元気に返事をしている。三人で台所に行って、透は二人を順番に持ち上げてシンクに置いている洗い桶に食器を入れさせる。

 

「藍、海、お手伝いありがとう」

 

 双子は、ニコニコと天使のような笑顔をする。二人は、ほめられるのが嬉しくてたまらない。

 立花家では、少しのことでもありがとうを言い、褒めて伸ばすタイプの家庭だった。もちろん、京介たちもその事をよく知っていた。

 そのやり方は良いと賛同していて、西原家に取り入れることにした。

 

「紘季、藍李たちが寝たあとでいいから。俺たちとここで話そう」  

 

「うん。分かった」

 

 紘季は、何かを悟った表情をした。そのあとは、双子を連れてお風呂に入りに行った。

 

 紘季が風呂に入っている間に、さっき彼や空から借りた本を京介と透は読んでいた。

 

「京兄、本当は空の本は全巻持ってるでしょ? 」

 

「バレたか」

 

「京兄は、嘘をつくときに鼻を触る癖があるから」

 

「そういえばそうだな」

 

 透は聞いてるのか、どうかが怪しい言い方をする。

 

「透、話を聞いてないなら黙って本を読んどけ」

 

 その言葉通りに、透は本を読み始めた。

 

「京兄、読みながらでもいいから聞いて」

 

「分かった」

 

「ヒロロ、あの事を思い出さないよね。本人のなかでは、無かったことになってるから」

 

 その言葉に、京介と透のページをめくる手がピクッと止まる。

 

「あぁ、そうだな。俺たちからわざわざいう必要はない。紘季が思い出して聞いてきたのなら話したらいい」

 

「空の悪魔が、助けてくれたんじゃないか? 」

 

「ん? 」

 

 透はところどころの言葉が抜けているので、慣れてても一瞬意味がわからなくなる。

 

「「空の本に出てくる悪魔が紘季を助けてくれたんじゃないか」ってであってるか? 」

 

「そう言ったけどな」

 

 透は、自分何か間違ったこと言った?と言いたげな顔を二人に向ける。

 

「「言えてないから」」

 

「透兄は、いつも言葉が足りないからね」

 

「それなのに、社内で上位に入る営業成績いいとか取れるのって不思議だな」

 

「ホンマにね」

 

「部下がいるって、不思議だよな」 

 

「そんなに褒めるなって、何も出ないぞ」

 

「褒めてないから、何も出さなくていい」

 

「……そうか」

 

 と、透は首をかしげる。透は、家族の前だけに素を見せて、仕事では頼れる存在になる。

 

「話、脱線したな」

 

「そうだね。透兄、さっきのどういう意味で言ったの? 」

 

「紘は、空の本が大好きだ。それは、紘が生まれる何年も前からだ。けっこう売れてたから、今手にいれるのは難しいだろ」

 

「そうだな。かなり、読み込まれてるみたいだ」

 

「二人とも、何推理してんの? 」

 

「まぁ、いいじゃん」

 

「ふーん」

 

「で、紘季は空の本が好きで読みまくってたら登場人物の悪魔が夢に現れたということか? 」

 

「まぁ、そういうことだな」

 

「それでもいいや」

 

「「と言いますと? 」」

 

「だって、空が生み出した悪魔がヒロロの力になれたってことでしょ。それって、作者としてとても嬉しいことなの」

 

「そうだな」

 

 三人は、笑う。どんな不思議なことが現実に起こったとして、それが誰かのために役にたったというのは変わらない。

 

 紘季たちが風呂から上がったようで、双子が元気にバタバタと廊下を走る音がした。その音ともに紘季の声も聞こえた。

 

「二人とも、廊下を走らないの! 」

 

 紘季は、急いで二人に追い付きリビングのドアを開ける。

 

「あいちゃん、おふろでたよ! 」

 

 その隣で、海李はコクッと頷く。さっきは、藍李に手を引っ張らて走っていたが、すでに海李の頭のなかは寝たい。

 

「空が、藍ちゃんの髪をドライヤーで乾かしてあげるね」

 

「うん!! 」

 

「透は、海李を頼む」

 

「へーい」

 

「紘季は分かっていると思うが、待ってろよ」

 

「うん」

 

 西原家には、空専用と京介と透の共同用のドライヤーが合計二つ存在する。

 元々ドライヤは一つだった。空が美容に興味を持ち自分のが欲しいと、学生時代に透にせがみ買ってもらった。

 そうしてこの家では、二つのドライヤーがあり、男女でドライヤーを使い分けてるともいえる。

 

「あっ、紘季。本はまだ半分読めてないから。読み終わったら、返すな」

 

「うん。いつでもいいよ」

 

「了解」

 

 京介は、唐突に紘季の頭を撫でた。まだ濡れてる髪は、少し水しぶきが起こった。

 

「えっ?どうしたの? 」

 

「そういう気分だ」

 

「そうなんだ」

 

「紘、次お前の番だ」

 

「はーい」

 

 紘季は、透たちのとこに行くその途中で、後ろ振り返りニコッと笑った。

 京介は、彼に話すことを決めていた。それは、双子の保育所で起こったことや家族のことを。

 

 

 

 双子が子供部屋で寝ている頃、リビングでは紘季と京介たち向かい合うように椅子に座っていた。 

 

「紘季、この間のことなんだが。保育所で、海李が同じ組の男の子に手を出したんだ」

 

「えっ?海くんが?! 」

 

「そうだ。でも、それにも理由があるし、相手側にも問題があった」

 

 紘季は、黙って聞くことにした。

 

「今度、保育所で家族も一緒に参加する遠足があるんだ。でも、紘季たちの両親は参加することができない。その男の子は、俺たちが親じゃないから参加出来ないと言ってきた」

 

 そこまでいうと、京介は黙った。そのあとを引きつくように透が話し出した。

 

「その男の子は、自分には両親がいるのが当たり前で、突然迎えに現れない三人の両親のことを理解してなかったんだ。でもな、知らなくても理由があっても言ってはいけないこともあるんだ。それは、紘にも分かるな? 」

 

「うん」

 

 少し涙が混ざったような声で紘季は返事をした。

 

「空たちも、同じような経験をしてきた。親がいないだけで、悪口を言う人たちやガラスを触るように接してくる人、同情する人。自分が(みじ)めでかわいそうって思えって言われてるようで辛かった。そういうときに、京兄や透兄がいてくれたおかげで救われことがたくさんあったんだ」

 

「だからな、これからそういうことを言ってきたり嫌なことをしてきたりする人にこの先何度も出会うと思う。俺たちは紘季、藍李、海李の親じゃない。だけどな、俺たちはお前らを守って、救う存在だ」

 

「無理せず、遠慮せずに頼ってくれていいからな」

 

「空たちが、出来ることは少ないかもしれないけど。やれることは、やるからね」

 

 三人の話を聞きながら、紘季はポロポロと涙を流していた。彼らのストレートで、素直な愛情のある言葉で心がいっぱいになった。

  

「紘季は、泣き虫だな」

 

「泣くってのは、良いことだから好きなだけ泣け」

 

「ヒロロ、温いタオルで目を(いや)してね」

 

 紘季は、コクコクと頷く。

 

「俺、風呂入ってくるから。透は、洗い物しろ」

 

「何でだよ」

 

「いいからしろ」

 

「へーい」

 

 京介が部屋から出ようとリビングのドアに向かう。

 

「京介さん、待って! 」

 

「うん?紘季どうした? 」

 

「え~と」

 

「ゆっくりでいいから話して」

 

「京介さん、透さん、空さん、ありがとうございます」

 

「「「礼を言われることはしてないよ」」」

 

「でも、僕は嬉しくて。たくさん助けてもらって、僕たちを引き取ってくれたことが、本当に嬉いんです。でも……」

 

「もう、その言葉で充分だ」

 

「これ以上言わなくても、ヒロロの気持ちは分かってるよ」

 

「はい」

 

「紘は、時々敬語になるな。普通でいいからな」

 

「うん」

 

「じゃあ、風呂に入ってくるわ」

 

 今度こそ、京介はリビングを出ていったのだった。彼が出ていっても、リビングは賑やかな声が聞こえた。

絋季の声が戻り、西原家は賑やかになった。何度か登場した悪魔たちは、空の書いた本から出てきて絋季を助けたのかもしれない。


誰にでも誰かのために存在している。実の親じゃなくても、その人たちにとって別の存在になれるんだ。


読んでいただき、ありがとうございました。


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