会ってしまった
ついに、ある人物が登場!?
某月某日の学校のことだ。紘季は、放課後の教室でいつものメンバーと話しをしていた。
「お前って、やっぱバカだよな? 」
「何で? 」
「それは、俺が聞いてんの」
「そっか」
「この問題は、今日の授業で習ったのを使ったらいいんだって」
「え~と? 」
「授業、聞いてた? 」
「はぁ?だから、テストあんな点取るはずだよ」
同中二人組のこのやり取りは、数十分続いている紘季とたかは少し二人のやり取りを気にしつつも、自分たちの宿題を教え合いをしながらしていた。
「河村は、いいよな」
「何が? 」
「頭が良くて」
「授業と宿題をお前と違って必死にやってるからな」
「そうだよ。川上は、中学校からの不真面目なとこをそろそろ直そう」
「なんだよ。たかまで……」
「紘は、気にしなくていいから」
紘季は、頷く。今更ながらだが、同中二人組の名前についてだ。
同中のもう一人こと河村と同中の一人で頭の悪い川上は、息のあったコンビでもある。二人は、小学校からずっと同じクラスで出席番号も近くて、よく名前の漢字を間違えられる。
「紘、どうした? 」
たかは急に席から立ち上がる紘季に声をかけた。
『トイレに行ってくる』
と、メモ張に書いて見せる。
「分かった。俺も行くよ」
「じゃあ俺も!! 」
「俺も行こうか。コイツが、嘘ついてどこかに行かないように見張る」
「なにそれ? 」
「お前なら、トイレに行ったフリしてよく逃亡するからな」
「チッ」
「今、舌打ちしたよな。なぁ、たか達も見た……あれ? 」
二人は、いつの間にか教室から出ていった。
「二人のアレは、長いからさっさと退散した方がいいからね」
紘季は、頷く。
二人は、トイレから出て廊下を歩いた。結局、同中二人組はトイレにやってこなかった。
「紘、自販売機で飲み物買って来ようと思うんだけど。ついてくる? 」
紘季は、頷いた。
『勉強を頑張る川上と河村にも、なんか飲み物を買ってあげよう』
と、紘季はメモ紙に書いた。
「うん。そうだな」
二人は、自販機が連なるエリアに行った。
「確か、川上はサイダーで、河村はりんごジュースだったよね」
そうだよと紘季は、頷いた。
自分たちのぶんも買って、両手には二本のペットボトルを抱えた。
「温くならないうちに、教室に戻ろうか? 」
紘季は、頷く。
二人は、事務室や職員室がある棟の前を通って教室に向かう。その方が早く教室にたどり着けるからだ。
「今日は、お越しいただきありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
幸雅と隣のクラスの担任とどこかで聞いたことのあるおじいちゃんの声が聞こえた。紘季は誰だろうという興味で、そっちをチラリと見た。
「俺は、こう思うんだよ。紘? 」
二人の会話は、たかが話て紘季が相づちを打つかメモ張に書くというものだ。二列になって、それをしていたのにたかの横には紘季がいなかった。彼は少し後ろにいた。
「紘、どうした? 」
紘季は、黙って彼らを見つめていた。
「ほれ、お前からももう一度言いなさい。」
「先生、今までありがとうございました。それと、迷惑をかけてすみませんでした」
「謝るんじゃないよ。匠くん、あまり自分を思い詰めたらダメだぞ。生徒は、先生に迷惑をかけるんもんだからな。新しい学校でも、頑張りなさい」
「うん」
「匠くん、落ち着いたら手紙を書きなさい。そして、サッカーを止めてたはいけません」
「はい」
「紘!待ってそっちに行ったら……」
たかの声が響いた。
「えっ? 」
紘季は、ある人物……鍵原匠に突進した。突然のとことで、勢いのあまり鍵原は紘季を受け止めたものの、二人して地面に倒れた。
彼にとって匠は、サッカー部の仲のいいチームメイトだ。それが突然、新しい学校につまり転校すると知ったら驚くし、何で言ってくれなかったのかという怒りだ。
紘季が学校に戻って、彼を探しても見付からなかった。それもそのはずで、紘季は彼が自分の両親の死に関わりがあって学校に来なくなったことを知らなかったからだ。
「紘季?突進してきたら痛いやろ。怪我せんかった? 」
鍵原は、以前と変わらずに紘季に話しかける。
「大丈夫か? 」
紘季は鍵原の乗っかていたが、なかなか立ち上がらない。
「紘季、本当に大丈夫か?頷くだけでもしてくれへん? 」
紘季は、やっと頷いた。
「さっきの話、聞いてたん? 」
紘季は、また頷いた。
「突然でごめんな。俺は、じいちゃんのとこに行くことにしたけん。そこは、ここから離れててな。だから、向こうの学校に転校するんや」
紘季はうつむいていたが、その言葉で顔を上げた。その表情は、そうなの?と言ってるようだ。
「ああーそうやって泣くなよ」
紘季の目からは、涙がポロポロと流れた。でも、彼の声は出ていない。鍵原は、頭を撫でる。
少し離れたところから、集団の声が聞こえてきた。耳のいい幸雅はすぐに気づいた。
「すみません。お時間大丈夫ですか? 」
と、おじいさんに聞いた。
「大丈夫ですよ」
一行は、生徒指導の教室に行った。鍵原と紘季だけにして、隣の教室で大人たちは見守る。たかは、買った飲み物を教室に持っていくついでに紘季の鞄を取りに行った。
「紘季、落ち着いたん? 」
紘季は、頷いた。
「いきなり、俺がどっか行くって聞いたらあ~するのも当然やわ」
天パでボサッとした鍵原は、苦笑いをする。
「親父とうまくいかんくて。お母さんは、おらんけん。弟と一緒に、じいちゃんとこに行くんや」
紘季は、泣いている。
『また、会えるよね? 』
と、彼はメモ張に書いた。
「会えるかわからん。会えると思ったらいつかあ会えるんじゃないか? 」
うんと、紘季は頷いた。彼にとっては、大切な両親を失ったばかりで生きていく。でもまた誰かどこかに行くのが恐くてたまらない。知らないとはいえ、その相手が両親の死に関わりがあったとしてもだ。
鍵原の転校の理由は、いつ紘季にその事がバレるか分からない恐怖と彼の顔を見ると罪悪感に心が支配される。今も微かに震えがあるが、心配をかけて平然を装っている。
「紘季、さっき会えるかわからんって言うたやん?それ、撤回するわ。やっぱり会わん。会うんは、これが最後にしよう」
鍵原は、立ち上がる。
「お前が、みんなに守られすぎとんが嫌って前から思った。ごめんな、めちゃくちゃな俺でな」
そういうと、鍵原は泣きそうな顔をしているのを隠すように紘季に背中を向ける。そのまま振り返ることなく教室のドアを開けようとした。
ガラガラ
「匠、これ以上紘を悲しませるな! 」
たかは、今まで見たこのないような顔で、鍵原を殴ろうと拳を振り上げるが出来なかった。
「桃瀬、やめろ」
ソイツがたかの腕を押さえた。ソイツは廊下を歩いていると偶然たかを見つけた。でも彼の様子がおかしかったから追いかけたのだ。すると、たかが教室の前で立ち止まっていた。
「何で? 」
たかの目からポロポロと涙が零れる。
「立花が悲しむだろ」
「分かったから、離せよ」
「あぁ」
騒ぎを聞き、遅れながら隣で待機していた大人たちがやって来た。
「ちょっと、これはどういうことなのか先生に説明してください」
と、隣の担任が聞く。幸雅は今の現状が内心ドラマを見てる感覚になって、笑いたくなって仕方がない。もちろん、それを顔に出さない。
「すみません。俺がカッとなって」
「俺が止めただけっすよ」
ソイツの目は、鋭かった。まるでもう何も言うなというように。
「先生、それは後にして今は」
「そうですね。匠くん、今日はもう帰りましょ」
「はい」
「先生、うちの孫すみません。では、失礼します」
「こちらこそ、すみません」
ひとまず、この場は解散となった。鍵原たちは、今度こそ学校から去っていた。
紘季は放心状態になり、そのまま保健行きになった。たかは、川田と河村が迎えに来て一緒に家に帰り、ソイツは独り寂しく学校から出た。
紘季を中心とした関係者たちが会ってしまった日だ。それぞれの想いが交差した日になった。幸雅は京介に、今日のことを連絡したのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
ある人物こと、鍵原匠くんです!
かわいそうな境遇ですが、僕は好きですね。