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家族ってね  作者: 宮原叶映
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だいじょうぶという言葉

 これは、京介が絋季達を家に連れ帰った夜の話。京介は、家のチャイムを鳴らす。透達が、玄関の戸を開けて、家に出迎え入れてくれた。

 

「ただいま! 」

 

「お帰り! 」

 

「あっ、京兄ちゃん。お帰り! 」

 

「ただいま! 」

 

「で、京介の言ってた子達? 」

 

「そうだ」

 

「自己紹介しないとな。俺は京介の弟で、名前は透。よろしくな」

 

「空はね。二人の妹なの。よろしくね」

 

 紘季達は、固まっている。もう、たくさんのことが起こりすぎて、自己紹介をする気にもなれない。

 

「透、空。今、俺達は玄関の外。この意味分かる?早く家の中に入りたい」

 

 京介は三人の様子を見て、これはヤバイと思った。さりげなく話を変える。

 

「ごめん!!空、手を貸せ! 」

 

「えっ?あぁ、なるほどね」

 

「京介、お清めの塩もらったよな? 」

 

「うん。俺は、自分で出来るから子供達のをして上げてくれる? 」

 

「あぁ、任せろ」

 

「うん、任せて」

 

 そのあと、京介達は、家の中に入り、改めて二人から自己紹介をしてもらう。


 紘季は、葬儀の後から声が出なくなった。両親を失ったショックと幼い双子達を守らないといけない責任感からくるストレスが原因なのかもしれない。そういう、たくさんの感情が襲っているのだろう。透は、紘季達に優しく声をかける。

 

「もう遅いから、お風呂に入ろう? 」

 

 紘季は、頷くしか出来なかった。それでも、嫌な顔をせずに、優しく話す。目で声で、味方だよというように。

 

「藍李ちゃん。女の子同士で、空姉ちゃんとお風呂入ろう? 」

 

 藍李は、コクッと頷く。少し、顔が赤い。

 

「海李君。透兄ちゃんと後で一緒に入ろう? 」

 

「うん」

 

「紘季は、一人で入れる? 」

 

 と、京介が、紘季に話しかける。フラッと、紘季の体が傾き床に崩れ落ちる。とっさに京介が、彼を抱き止める。

 

「紘季! 」

 

「「ひろにい?! 」」

 

 京介は、紘季の容態を調べた。

 

「大丈夫だ。気を失ってるだけだ。色々、ありすぎて疲れがたまってるんだろ」

 

「よかった」

 

「それと、紘季と藍李は、熱があるから。風呂は、入るな。空は、藍李の汗をふいてやれ」

 

「うん、分かった」

 

 空は、藍李を連れて部屋を出ていく。

 

「透は、海李を風呂にいれろ」

 

「了解。海李君、お風呂に行こう」

 

 海李は、倒れた絋季を心配そうに見ている。両親を失ったばかりなので、もしかしたら、紘季もと、想ったのかもしれない。

 

「海李、大丈夫だよ。紘季は、疲れているだけだから。寝たら、元気になるよ」


「うん」

 

「ここは、京介に任せていこう」


 透は、そう言って、海李を連れて部屋を出た。取り残された京介と紘季。


 京介は、紘季を抱き上げて、新しい紘季の部屋に連れていった。透と空が、はじめからリビングや紘季の部屋の戸を開けていた。


 京介の部屋移動は、そのぶん楽になった。紘季をベットに、そっと寝かす。紘季が、息していることが嬉しい。紘季は、生きてる。


 心友の時雨を失った京介にとっては、すごく嬉しいことなのだ。でも、絋季は、辛そうな顔をしている。その瞳には、涙もある。そして、紘季の心が限界を越えないのか心配になった。

 

 京介は、紘季が生まれたときからの付き合いなので、紘季のことをよく知っている。紘季は、努力して何でも出来るようになった。それは、片耳が不自由な時雨、家族を支えるめぐみ、幼い双子の藍李と海李を守るためだった。

 


 これは、紘季が中学生で、藍李達が今よりも幼い頃の話。紘季が、学校の先生や友達から色々なことを頼まれて、自分の時間を割いてすべてをやろうとした。


 周りが、紘季なら出来て当然と思っているぶん断れなかった。抱えすぎた紘季は、声が出なくなって、倒れたことがあった。みんなは、紘季の大丈夫を信じすぎたのが原因だっだ。


 それでも、絋季は、学校に行きたいと、時雨達に訴えた。最初は、首を縦に振らない時雨。めぐみが優しく紘季に言う。

 

「紘。お母さん達ね、すごく心配したの。辛かったの。こんなになるまで、紘のことを気付けなかったことが、悔しいの。それは、分かってね」

 

 紘季は、泣きながら頷く。

 

「紘の方が辛かったよね。紘は、頑張りやさんで、みんなのためになにか出来ないかなって想う、心優しい子だもんね。でもね。自分にも優しくならなきゃダメ。たくさんの人が、自分達のせいで紘が倒れた。どうしようって、不安になってるの。それも、知っておいてね」

 

 紘季は、泣きながら頷く。

 

「よし。お母さんが、今から言う四つのことを約束してね」

 

 紘季は、少し驚きながらも頷く。

 

「一つ目。人に頼まれても、自分がやりたいことがあれば、自分を優先すること。二つ目。自分のしないといけないことをチェック表にして、一気にせずに、ゆっくり落ち着いてやる。そのチェック表を必ずお母さん達に見せること。三つ目。自分に優しくすること。四つ目。不安や心配ごとは、抱え込まずにお母さん達に言うこと。そうじゃなくても、お母さん達と、もっと話そう。約束、守れるかな?」

 

 紘季は、泣きながら頷き、めぐみに抱きつく。めぐみは、なにも言わずに、紘季の背中を優しく撫でる。次に、時雨が口を開く。

 

「紘季、母さんが言った約束が守れるなら、学校に行ってもいい。だか、いきなり朝から放課後まで教室にいる必要はないからな。保健室登校をしよう。さっき、調べたから。まだ、よく理解が出来てないなりに話すからな」


 時雨は、自分の頭の中で整理をしながら紘季に伝えた。


「小中の間は、保健室登校でも出席扱いになるから欠席にならない。保健室以外にも、特別な授業の時だけ、教室で授業を受けることが出来るらしい。行事や部活は、保健室以外のとこで活動していい。無理せずに、体調が悪くなったり、家に帰りたくなったり、何かあったら早退したらいい。お父さんは、家で仕事をしてるから。遠慮せずに、迎えを呼べ。すぐに迎えに行くからな」

 

 紘季は、泣きながら頷き、時雨とも抱きつく。京介は、生前時雨に教えてもらったことがあった。


 紘季が倒れたときに、ふと思い出した。京介は冷静さを持って透達に指示を出したが、整理できない気持ちでいっぱいだった。紘季の手を握る。


 どこかで京介は、大丈夫という言葉が紘季にとって呪いのように感じがした。そのため、なにも言えなかった。

 


 コンコンと、部屋の戸をノックの音がした。返事をする前に透と空が、部屋に入る。泣いてる京介を部屋から二人係で、静かに連れ出した。


 二人は、リビングのカーペットがしかれてる上の座布団のところに、京介を座らせた。

 

 そして空がさっき作ったであろう、できたての酒のつまみをフライパンから皿に移す。


 透は、キンキンに冷えた小さいサイズのビールを冷蔵庫から三本と食器棚からガラスコップを三個取り出す。


 それらを、京介の目の前の机にドンドンと置く。透と空は、京介を挟むようにして座る。

 

「これは? 」

 

 驚く京介に、二人はたんたんと言う。

 

「飲むぞ」

 

「飲みたい気分だからつきあって! 」


「あぁ! 」

 

 京介は、二人が気遣ってくれてることが分かったが、あえて言わなかった。言わない方がいい。それから京介達は、今後について話し合いをした。

 

「紘季達を引き取ったからには、俺に責任があるが。俺は、事件がいつ起きてもすぐ出動出来るようにしないのと、書類を書かないといけない。明日から、仕事だからな。付きっきりで面倒がみれない」

 

「京介、無理するなよ。まぁ、そういう俺も課長だから、やることが多い。なかなか、定時で帰れないんだよな」

 

「じゃあ、空が世話をするよ。大丈夫!兄ちゃん達は、しっかり仕事に励んできてね」

 

 と、空は立ち上がり二人の背後に回り、二人の背中をバンッとおもいっきり叩く。

 

「「イテェ!! 」」

 

「空!俺達は、お前と違って歳なの! 」

 

「やめろ! 」

 

 京介達、痛みを訴えると、空はダメージの高い言葉を笑いながらいう。

 

「四捨五入したら、四十のオッサンだもんね!しょうがないね! 」

 

「三十路を越えたお前がいうな! 」


「四捨五入は、するな」

 

「それは、お兄ちゃん達もでしょ!! 」


 結果。今は空がメインに紘季達の世話をやることになった。

 なぜなら、京介と透は仕事が大忙しになってしまったので、 定時に帰れないことが多いからだ。


 空は、締め切りあけなのでゆとりはある。それは、連載中の作品を二本書いているうちの一つだけの話。三人の予定をみながら、交代で世話をすることにもなった。

 

 あれから数日たった。

 

 両親を失った紘季の心は、不安定な状態だった。


 藍李も不安定で、しばらくの間は熱を出した。


 海李だけは、違った。泣きはするが、いったって普通で変わらずに絵本をよく読んでいた。時々、絋季と藍李のところに行っては、黙って手を握っていた。


 そんな海李が無理をしていないかと、京介は不安になって聞く。すると、思いもよらない答えが返ってきた。

 

「おとうさんとおかあさんが、いなくなって。ひろにいとあいちゃんたいへんだから、ぼくがまもるんだ!だからね、だいじょうぶ! 」

 

 京介は、その言葉に驚いた。


 六歳の男の子が、兄と姉を守るという。だからね、大丈夫と。海李は、強いと思った。


 海李も辛いはずなのに、紘季達のために、できることを考えたのが守るだった。

 

 その守るは、たぶん何かあっても聞かないで、寄り添う父親と母親のような、意味合いがあるのかもしれない。海李のおかげで、少しずつ紘季と藍李の体調も回復していった。

 

 大丈夫という言葉は、人を励ます、勇気づけるなどが、出来るけれど。


 時として、自分を苦しめたり、呪いになったりするのを忘れてはいけない。自分で、気づくことが出来ずに、周りには大丈夫と言って安心させる。


 でも、苦しくて、一人になると泣いてしまう。そうならないためにも、自分に優しくすること。


 周りをみて、困ってたら、助ける行動を、互いに出来れば平和な生活を送ることが出来るだろう。そう、感じた京介であった。

読んでいただき、ありがとうございます。

どうか、大丈夫という言葉が、呪いにならないことを祈ります。

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