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家族ってね  作者: 宮原叶映
25/50

黙ってろ!

 空は、紘季と藍李を学校や保育所に送り届け、家に帰った。

 

「ただいま~」

 

 空の声だけが、玄関で響いた。それは、当然のことだ。家には、病人が二人もいるのだからだ。

 彼女はリビングに行き、鞄をテーブルに置いてソファに座った。


ヴーヴーヴーヴー

 

 空のスマホから着信音がした。

 

「誰だろ?……えっ!? 」

 

 スマホの画面に、表示された名前に驚いた。空は、通話のアイコンをスクロールした。

 


「もしもし、西原空さんでお間違いありませんか? 」

 

 通話相手は、中年男性だ。

 

「もしもし。はい、西原空です。」

 


 彼の声は、沈んでいる。

 

「安堂さん、何かうちの兄にあったんですか? 」


「それが……」


 安堂は、事情を話した。


「えっ……」


 空は、固まる。


「もしもし…空さん? 」


 空の頭は、真っ白になった。

 


「あっ、すみません。覚悟してたんですが……」


「お気持ちは、分かります。すみません。我々の落ち度です」



「兄が、勝手にしたことなので気にしなで下さい」



「……空さん、ありがとうございます」



 安堂の声のトーンが、少し上がった。


「安堂さん。実は、その病院はうちのかかりつけです。もう一人の兄が、風邪をひいたので連れて行こうと思ってたので、行け次第行きます」


「了解しました。京介さんから、海李くんの体調が悪いと聞いてたのですが。そちらは、大丈夫ですか? 」


「あぁ……。友たちに頼もうと思ってます」


「了解しました。では、お待ちしています」




 通話を終えた。空は、すぐさまある人物に電話をかけた。


「もしもし、空だけど。今、大丈夫? 」


「うん、大丈夫だよ。今日は、お店を休みにしているの」


「そんな時に、ごめんね。でも、さなえちゃんにしか頼めないことで」


「どういうこと? 」


 空は、事情を話した。


「えっ?京介さん、大丈夫なの? 」


「今、手術室にいるって連絡が来て」


「分かった。すぐに、そっちに行くからね」


「ありがとう」




 さなえは、息子の学校の振替休日に合わせて店を休みにして、兄夫婦たちとお出かけをしようと計画をしていたのだ。

 ちょうど、彼らがさなえたちを迎えに来ていた。空との電話をしていた彼女の様子をのだ見て、過保護の兄が心配した。メモ紙にこう書いた。


『空ちゃん、大丈夫なのか?大変そうなら、行っていいんだぞ』


 さなえは、頷いた。


『送って行くからな』


 さなえは、頷いた。その後は、過保護の兄によって今後の計画が決まり、彼女を西原家に送り届けたのだった。




 一方、とうの西原家はバタバタしていた。空は、勢いよく透の部屋のドアを開けた。


「透兄、病院に行く準備して! 」


 透は、眠そうに目を擦る。


「京兄が……」


 透は空の言葉と今にも泣き出しそうな表情を見て、目を覚ました。彼女に、こっちに来るようにジェスチャーをする。

 空は、ベッドの縁に座る。透は、小さく震える妹の背を撫でる。

 


「……恐いね」

 

 透は頷き、空を抱き締める。


「海李くんに、透兄を病院に連れていくのと。さなえちゃんが、来てくれるの言っておくね」

 

 透は、頷く。

 

「病院に行ける準備しててね」

 

 透は、頷く。

 空は、海李がいる子供部屋に行った。どうやら、海李は寝れないようで絵本を読んでいた。

 

「海李くん。透兄も、体調が悪いみたいなの。だから、これから病院に連れていかないといけなくてね。ここまで、分かる? 」

 

 いつもより早口になる彼女の言葉に、海李は頷く。

 

「その間、海李くんを一人にしたくないから。れんちゃんは、お仕事が忙しいから来れないの。その代わりに、空ちゃんのお友たちが来てくれることになったの」

 

 海李は、頷く。その年にして、理解力がすごい。それは、絵本を読んでいるからなのかも知れない。

 

「うん。もうすぐ、ここに着くと思うよ。空ちゃんの一番大好きな友たちだからね。信用して、大丈夫だよ」

 

 海李は、頷く。

 

 

ピンポーン

 

 チャイムが鳴った。

 

「ちょっと、待っててね」

 

 海李は、頷く。空は、オートロックを解除しにリビングへの向かった。

 

「さなえちゃん、どうぞ」

 

「うん。ありがとう」

 

 こうして、さなえは西原家の部屋に言ったのだった。

 

 

 玄関で、空はさなえを抱き締めていた。

 

「さなえちゃん……」

 

「空ちゃん」

 

 さなえは抱き締め返し、彼女の名前を呼ぶ。

 

「私が、来たから大丈夫だよ」

 

「うん」

 

 二人は、離れた。空は、子供部屋の場所を案内すると、透が部屋から出てきた。

 

「透兄、大丈夫? 」

 

 透は、頷く。そして、さなえにメモ紙を差し出した。

 

『さなえちゃん。忙しいと思うのに、来てくれてありがとう。とても、助かるよ。こんなときに、俺が風邪なんてひかなかったら、良かったのにな』

 

「透さん、大丈夫ですよ。ちょうど、過保護の兄が来てたので。それに、困ったときはお互い様です。体調不良を甘くみてはいけません」

 

 透は、過保護の兄のとこで、あぁ~という顔をした後に辛そうな顔をする。

 それは、さなえの旦那のことも含まれていることを察したからだろう。

 

「そ、それじゃあ、さなえちゃん。案内の続きするね」

 

「うん。ありがとう」

 

「透兄は準備の続きして、そのあとリビングで待ってて」

 

 透は、頷く。

 

「そこが、子供部屋だよ。元は、物置小屋に使ってたとこね」


「そうなんだね。来る度に思うけど。空ちゃんたちのお家は、広いね」

 

「まぁね。透兄が、頑張ってくれてるからね。あと、京兄もね」

 

「空ちゃんも、小説を頑張ってるからでしょ」

 

 二人は話を切り上げ、子供部屋に入って海李とさなえの対面と自己紹介を済ませる。


 リビングに行くと、透がソファーで横になっていてスマホで何か操作をしていた。空は、その兄を回収してリビングを出た。

 この時点で、まだ紘季たちの学校や保育所には連絡は入れてない。京介の容態にもよるし、紘季の再登校したばかりだからだ。

 空は、自分よりも背の高い透に肩を貸して歩く。

 

「透兄、重い」

 

 透は、熱が上がっていたのか辛そうにしていた。なんとか、歩いているという状態だ。

 こんなときに、京兄がいれば良かった。何が、早く帰ってくるって?このバカ兄が!!心の中で、叫んだ。

 

「空ちゃん、大丈夫? 」

 

「うん」

 

「本当? 」

 

「なんとか下まで運んで、車に投げ入れるから大丈夫だよ」

 

「実は……」

 

 さなえは、何か言いにくそうにする。

 

「どうしたの? 」

 

「うん。実はね。お姉ちゃんが……私の兄の奥さんが、玄関の前で待ってるの」

 

「ええ!? 」

 

 空は思わず、透の耳元で叫ぶ。彼は、嫌そうな顔をする。病人の身体に響くからだ。

 

「透兄、ごめんね」

 

 透は、頷く。

 

「まさか? 」

 

「そのまさかだよ……」

 

 過保護の兄の差し金だ。さなえから透が体調が悪い、しかも京介もいないと聞いてヤバイと想った。西原家があるのは五階だ。


 空がエレベーターまで運び、駐車場に行き車に透を車に放り込むのは重労働だと判断したからだ。

 彼が、数年前の事故で障害を負わなければ運んでいた。


 そのため、嫁を派遣した。空にとってはありがたいが、透にとっては辛い。いくら体調が悪かろうと、女性に肩を貸してもらって歩くのだから……。

 透は聞き取れないガラガラ声で、過保護の彼に文句を言った。彼女らは、なにも言わない。

 

 玄関を開けると、彼の嫁が待っていた。挨拶と少し話したあとに二人係で透を運んだ。駐車場に行き、透を車に放り込む。

 空は、謝罪とお礼を行って別れた。

 

「京兄、大丈夫かな」

 

 空は、小さい声でいた。ミラー越しに写る透は頷く。

 病院に着くと、空は受付けをする。透は待ち合い室の椅子になぜか座らず、空の隣になんとか立っていた。


 受け付けしてくれたのが、顔馴染みの看護師だった。彼女に事情を説明すると体温計と記入するものを持って、ふらつく透の対応をしてくれると申し出てくれた。

 

 そして、京介の方に行くことを進めてくれた。空は、それに従うことにした。

 

 ちょうどその時、空が来ていないか様子を見に来てくれた安堂と合流した。

 

「こんにちは、空さん。来られたんですね」

 

「こんにちは、安堂さん。兄は? 」

 

「はい。手術が先程終わりまして、病室案内します」


 安堂は、申し訳なさそうな雰囲気をしている。空は、その様子が気になった。

 

「こちらです」

 

 案内されたのは、個室だ。壁のネームプレートには、西原京介と書かれていた。

 

コンコン

 

「安堂です」

 

 返事は、無かった。安堂はドアを開く。

 

「京兄? 」

 

 ベッドに、弱々しく横たわる京介が眠っていた。その横には、点滴やよくドラマに出てくる機械があった。

 

「なんで? 」

 

 安堂は、辛そうに話し出した。

 

 

 京介は、朝呼び出しをくらい、現場に駆けつけた。警察が追っていた組織に、動きがあったからだ。

 部署の中で一番頭の切れるは、指示をしたり合図を送ったりと動きまくっていた。相手も相手なので、裏をかくことが必要だ。もちろん、それを両者がしていた。

  組織を追い詰めたと思った矢先に、後輩がミスをしてしまった。相手は、その隙に組織の組員が銃で彼の命を奪おうとした。

 結果、京介が後輩を庇い銃で撃たれた。致命傷に近いところだ。幸い弾は、貫通したが出血が激しかった。直ぐに緊急搬送し、手術が行われた。

 かなり危なかったが、奇跡に助かったという。しかし、なかなか意識が戻らない。

 

 病室には、空の泣き声が響いた。

 安堂が空に連絡したときには、京介が事件に巻き込まれ怪我をして、手術を受けているということを伝えていたのだ。彼女からすれば、ここまでひどいとは思ってもみなかった。

 空が、落ち着いたときに安堂がもうひとつ言った。

 

「京介さんが、空さんにこのことを「黙ってろ!って言ってほしい」と言われました。そのあとに気を失いました」

 

 空は、小さい声で「なるほどね」と言った。京介の言葉の意味を理解したからだ。

 

「京兄のバカ。何が、早く帰る?黙ってろ?本当に勝手すぎるよ……」

 

 眠っている京介に向かって言った。座っていた椅子から急に立ち上がった。

 

「空さん?! 」

 

 空は驚く安堂をよそに、ペコッとお辞儀をするとフラフラしながら部屋を出た。

 

 

 

 空は、部屋の外のベンチに座り込むと泣いた。こっちに、近付く足音が聞こえた。その音は、なぜか空の前で止まる。

 

「すみません。西原京介先輩の妹さんですか? 」

 

 空は、頷く。しかし、声の主を見ようとしない。


「僕が、ミスをしたせいで……。こんなことになってしまって……」

 

 後輩が言いかけた時に、二人の足音がした。一人は、空の隣に座り、咳をしながら背中を擦る。もう一人は、その場から離れるよう後輩に言った。

 その人は、空の前にしゃがみこむ。

 

「はい。先生、これ好きでしたよね?飲んで、気持ちを落ち着けましょう」

 

 いつの間にか来ていたれんかは、泣いている彼女にぶどうジュースが入ったペットボトルを渡す。空は頷き、それを受け取る。そして、れんかは、空の隣に座る。二人は、彼女を挟んで何も言わずに座り続けた。

 空が落ち着くのには、時間がかかった。彼女は、なかなかベンチから立ち上がれなかった。病院に来てから、何時間たったのかも分からないほど。

 それでも、二人は黙って空の背中をさすったり抱きしめたりしていた。

 

 

 

 その様子を何度も見に来る人物がいた。安堂だ。彼の方が少し年上で、京介の一つ先輩だ。そして、相棒だ。

 彼は、何度も西原家に行っている。そのため、彼らのことをよく知っていた。京介に何か関わることがあったら連絡をする。今回で、二度目の電話になった。辛い役を自らやっている。

 今回のことで安堂は、自分が後輩を庇っていたら、彼らが悲しまなくて済むと想った。後悔をした。

 しかしその行動は、なん手先をみる力のある京介にしか出来なかった。


 自分が、気付いて動こうとしたときには、もう遅かった。京介が、撃たれた。すぐさま安堂は、逃げる犯人の足を撃つ。仲間に犯人の確保と救急車を呼ぶように指示を出した。急いで、京介の元に行くと、庇われた後輩がすみませんと座り込んで謝り続けていた。


 安堂は後輩を退かし、相棒の応急手当をした。その時京介が言った。

 

「……今回ばかりは……ヤバイかもな……。安堂さんのおかげで犯人……確保出来た……ありがとう……」

 

「何、言ってるんですか?西原さんのおかげです。僕の奢りで焼き肉食べましょう。西原さんのご家族を連れてきてください。僕は、一人身なので、大勢で食べたいです」

 

「…………まかせとけ。空に……言ってください。黙ってろ!って……」

 

 京介は、そこで意識を失った。


 安堂にとって、その言葉の真の意味は、分からない。だか、空には分かったんだろう。

 それだけ、いやそれ以上にお互いが悲しい想いをしている。

 

 

 安堂は三人がベンチから立ち上がり、病院をあとにするまで見守ったのだった。

京介と透は、空に迷惑をかけすぎです。


読んでいただきありがとうございます。

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