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家族ってね  作者: 宮原叶映
20/50

温かいね

 れんかは、空の部屋のドアをノックした。

 

コンコン

 

「先生、晴山です」

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 れんかは部屋の中に入ると、毎度この部屋の惨状に顔には出さないが驚く。空の部屋は、端から見たら汚いと言われるだろう。だが、空が曰くこれが自分にとってベストらしい。


 机には、文房具類やメモに使っているコピー用紙が散らばっている。忙しかったのか、掃除はされていない。

 その証拠は、床を見れば分かる。空の髪の長さは、肩ぐらいで、量が多い。

 考えことをしているときの癖で頭をかく為か、床に抜け落ちた髪の毛が所々に落ちている。部屋の片隅に、コロコロが置いてある。二つのゴミ箱には、紙くずやティッシュなどで溢れそうになっている。

 


「すいません。いつもこんな部屋で……」

 

「構いません。これが、先生のベストの部屋なんですから」

 

「ありがとうございます」

 

 れんかが来る度に言われている。

 

「では、読まさせていただきます」

 

「お願いします」

 

 れんかは、空から渡らせた原稿を読む。その後、打ち合わせまでも終わらせた。


 まだ京介は、帰ってきていない。しかし、時間は迫っている。両者は、少し焦っていた。

 

「れんかさん」

 

 いつもと違う空の改まった言い方に、れんかの背筋も自然にピンとなる。

 

「はい。どうしましたか? 」

 

「仕事の話じゃないのですが」 

 

「はい」

 

「透兄のことです」

 

 れんかは、その言葉を聞いて彼女の言いたいことを察した。

 

「先程の透くんが、京介さんに送ったライミの内容についてですね? 」

 

「はい」

 

 れんかは、空と……いや西原きょうだいと長い付き合いだ。話の意図や少ない言葉でも、何を言いたいのか分かる。

 空の言いたいことは、こうだ。透は、何て京介に連絡事項を送ったのか。


 れんかはかくかくしかじかで何となくは内容は分かってはいるが、詳しい内容を教えてもらっていない。唯一内容を知っているのは、空だけだ。

 

『ショッピングモールで飯を食った。

 海李くんが、体調を崩した。

 かかりつけの病院があったから、そこに行った。

 扁桃腺が、腫れた。

 今、寝てる。

                   以上』

 

 透の話の中身があるのかないのか、分からない文章を空が朗読する。

 

「ありがとうございます。透くんらしいですね」

 

「そうですよね。何年社会人してるのかって言いたいです。でも、私が迎えに行ったことやれんかさんのことを誤魔化す為ですけどね」

 

「はい」

 

 透の言葉のなさは、相手のことを想うこと自分自身を守るためのある意味武器だ。

 

「れんかさん。服を乾燥機にかけたんですよね? 」

 

「はい」

 

「京介兄が帰ってくるまでに、服を着替えてくださいね」

 

「あっ」

 

 服を着替えてないとおかしい。透がした連絡事項には、雨で濡れたという文章はひとつもない。

 透が風呂に入ってるので、乾燥機を置いてる場所に近づくのは危ない。

 

コンコン

 

 部屋のドアの方でノックがした。

 

「俺だ」

 

 ドアの外から透の声がした。

 

「透兄、入っていいよ」

 

「あぁ」

 

 透が、ドアを開け部屋に入ってきた。

 

「仕事の話は、終わったのか? 」

 

「それ、今聞くの? 」

 

 空が聞く。普通ドアをノックして名乗ってからそれを言うはずだ。

 

「空が、いいって言うから入ったんだけどな」

 

「ごめん」

 

「あぁ」

 

 透は、れんかの方を見る。

 

「れんか、時間」

 

 透の短い文章でも、彼女らは彼の言いたいことが分かる。時計を見る。京介が、帰ってくるまで後十分……。

 

「ありがとう!!透くん、相変わらずお風呂長かったよね? 」

 

「そうか?シャワーにしたんだけどな。出た後に、紘季くんと打合せしてたからな」

 

「「はぁ? 」」

 

 まさかのれんかと空が、ハモった。


「透兄!! 」

  

「透くん!! 」

 

 女性人二人の睨みに、透は静かに後退りをしてドアの方に行って出ていった。つまり、逃げた。

 

「れんかさん」

 

「はい、先生」

 

 二人は、頷きあって部屋を飛び出す。ただし、海李が寝込んでいるのでこちらも静かに走る。

 透を怒るのは空が担当し、急いで着替えるのがれんかとなるべく静かに慌ただしく動く十分間の始まり……。

 


「透兄? 」

 

 透は、逃げ足が速いのですぐに見失う。

 最初に、空はリビングに行って透を探すがいない。次に、透の部屋に行くことにした。ドアをノックする。

 

コンコン

 

「透兄、いるんでしょ? 」

 

シーン

 

 しかし、ドアの向こうからの反応が無かった。

 

コンコン

 

 もう一度ノックするが、やはり反応はない。空は何を思ったのか、透の部屋に入ろうとした。


 部屋に鍵はかかっておらず、簡単に入ることが出来た。彼女は、久しぶりに透の部屋に入った。空は、部屋のドアを閉めなかった。


 彼の部屋は、空と違いきちんと掃除がされていてとてもきれいだ。

 壁の一ヶ所に、紐で吊るされた大きいコルクボードがかけられていた。そこには、何枚もの()()写真があった。


 三きょうだいが、施設や学校行事などの様々な場所で撮られていて時々、時雨たちが混ざっている。もちろん、両親が写っているのは一枚もない。

 

「親か……」

 

 空は、ボソッと一人言を言う。


 その背中を開けっ放しのドアから、そっといつの間にか部屋に戻っていた透が見守っていた。


 彼は、海李の様子を見に行っていた。そのため、部屋にはいなかった。

 

「空」

 

 透は、呼び掛けるが反応がない。空の瞳からスッと涙が流れていた。

 

「空」

 

 透は、もう一度呼び掛ける。空の頭にポンとして撫でる。空はビックと肩が上がる。

 

 そして、小さな泣き声が聞こえた。それを見てないぞというように、透は空を抱きしめる。空は答えるように、抱きしめ返す。

 言葉ではない大丈夫というように、ポンポンと背中を優しく叩くのを泣き声が聞こえなくなるまで続けた。


 透も、部屋のドアを開けっ放しにしていた。

 れんかは、途中で姿を見せない二人の様子を見に来た。透がそれに気が付き、彼女に合図を送る。彼女は頷き、その場を離れる。


 京介が帰ってきたのか、遠く離れた玄関から「ただいま」の声が聞こえた気がした。

 


 空は、ずっと二つのことで引きずっているものがあった。

 それは、自分が生まれてしまったこと。自分のせいで、兄たちが傷つけられることが無かった。

 もう一つは、どんなダメでグズな親を二人から引き離してしまったこと。彼女の行動がなければ、兄たちは間違いなく死んでいた。


 施設に引き取られ、様々な理由で親のいない子供との生活を何年もした。最初はきょうだいそろって、施設に馴染め無かった。あの事件はテレビのニュースにも取り上げられた。名前は伏せられても周りは気が付く。


 指をさされたり、腫れもののように扱われ続けた。その度に空は、泣いて京介と透に抱きついた。そんな時代を何年も過ごした。


 今、空が生きてるのは、二人の兄とれんかとめぐみと幸雅と時雨がといたからだ。

 

「空」

 

 透は、優しい声で空の名前を呼ぶ。

 

「透兄」

 

 聞き漏らしそうな声で、透を呼ぶ。

 

「ん?どうした? 」

 

「苦しい」

 

「ごめんな」

 

「ううん。ありがとう」

 

「そっか」

 

 透は、空を抱きしめる力を緩める。

 

「離してよ」

 

「嫌だ」

 

「何で? 」

 

「お前らも来い」

 

「えっ? 」

 

 次の瞬間、空は二人ぶんの温もりを感じた。

 

「バレたか」

 

「そうみたいだね」

 

 京介とれんかも、空を抱きしめる。

 

「温かいね」

 

 空は、嬉しそうに言う。

 

「あぁ。そうだろ」

 

 透の声は、嬉しそうに笑っていた。

読んでいただきありがとうございます。

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