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家族ってね  作者: 宮原叶映
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一本の電話

 紘季は、家を出る前に時雨達から頼まれたのとを果たすため。


 放課後になったとたんに、教室を飛び出した。駐輪場に行き、そこから全速力で自転車をこぐ。そして、校門をかけ抜ける。

 

 紘季の友達は、そんな彼のことを過保護という。そして、中学も一緒だった人は、無理してほしくないと思った。学校の門を抜けて、かわいい双子達が待っている保育所に向かう。


 紘季は迎えを頼まれたときには、いつも全速力だ。それは、紘季が通う高校と藍李達が通う保育所の方向が正反対だからだ。


 家から歩いて学校までが四十分かかる。自転車なら、それの半分になる。家から保育所まで歩いて、十分かかる。


 紘季は、一度家に戻って自転車を置き、玄関の鍵を開けて玄関のとこに貴重品以外の荷物を残したリュックを置く。玄関の鍵を閉めて、また全速力で走る。


 紘季が保育所に、着くとすぐに保育士の先生が藍李達を呼ぶ。


「藍李ちゃん、海李くん。お兄ちゃんが、迎えに来てくれたよ!帰る準備をしてね!」

 

「「はーい」」

 

「紘季くんは、二人が来るまで、息を整えてね」

 

「はい。いつも、すみません」

 

「ゆっくりで、いいの」

 

「はい」

 

 さっきいったように彼は何事において全速力だ。体力は、サッカーしているからある方だが。

 テスト前は部活が休みで、少し体力は落ちたといい訳をしたい。体力はあったとしても、自転車と歩きの全力は、さすがに疲れるだろう。


 藍李達が、紘季のもとに戻ってきた。

 

「「ひろにい!」」

 

「藍ちゃん!海くん!おかえり!」

 

「「ただいま!!」」

 

「先生、いつもありがとうございます。それでは、失礼します」

 

「紘季くん、いつもしっかりしてるね。さよなら!」

 

「「さよなら」」

 

「さよなら」

 

 今日は、いつもより荷物が多い。金曜日なので、お昼寝の布団がある。紘季達の場合は、二人ぶん。


 右側には、布団。左側には、藍李と海李が手を繋ぐ。二人には、自分の手さげ鞄をもってもらう。

 

「きょうね、えをかいたの!」

 

「どんな絵を描いたの?」

 

「かぞくのえをかいたの!」

 

「帰ったら、見せてくれる?」

 

「うん!」

 

「海くんは、今日、なにしたのかな?」

 

「えほん」

 

「絵本読んだの?」

 

 海李は、うなずく。そういう話をしながら、行きと違って、ゆっくりと帰る紘季だった。


 家に帰り、紘季は二人に手荒いうがいをするように言った。そして、玄関に置いている自分の荷物を回収して、リビングに置く。それから二人がいる、洗面場に行く。


 紘季も、手洗いうがいをして、二人と一緒にリビングに行った。二人に好きなことをしてもらうように伝え、自分は、テスト勉強をする。

 

「ひろにい。おとうさんとおかあさん、まだ?」

 

 集中していた紘季は、藍李の声を聞いて、時計を見る。時刻は、十九時半だ。遅い。


 いつもなら十九時前には、ただいまと家に帰ってるはずだ。紘季は不安になり、急いでスマホを取り出してめぐみに電話をかける。


 着信の音はするが、出る気配がなく、留守番サービスになる。時雨にも、一応かけるが、同じく繋がらない。一度、落ち着こうと、めぐみが用意してくれた晩御飯を温めて食べることにした。

 

 めぐみが、「不安になったときは、とりあえず美味しいご飯を食べよう」と中学時代の紘季に言った言葉だ。その教えに、従ったのだ。藍李たちは、お腹がすいているのか、すごい勢いで食べる。


 だが、紘季はご飯を食べても美味しく感じない。ご飯を食べる手が止まる。


 そして、目から涙がこぼれる。その様子に、藍李と海李も泣きそうになっている。


 二十時になり、家の固定電話が鳴った。紘季は、すぐさま受話器をとる。

 

「もしもし、立花(たちばな)です。どちら様ですか?」

 

「もしもし、こちらは〇〇警察署の安堂(あんどう)です。立花時雨さんと立花めぐみさんのお宅で、間違いないですか?」

 

 紘季は、嫌な予感がした。

 

「はい」

 

「息子さんですか?」

 

「はい。立花紘季といいます」

 

「紘季くん、落ち着いて聞いてください」

 

「はい」

 

「君のお父さんとお母さんは・・なので・・・・・ください。紘季くん?だい・・・・・・」

 

ガチャン。

 

 紘季は、途中から安堂の声が遠くから聞こえてるようで、それ以上聞きたくなくて、受話器を置く。そして、泣き崩れた。藍李と海李も、つられて一緒に泣いた。

 

ピンポーン ピンポーン ドンドン!

 

 約十分後、玄関から音がした。二人が、帰ってきたんだ。あの人からの電話は、嘘だと思った紘季は、急いで玄関に向かう。でも、二人なら、鍵を持ってるはずだ。


 何で呼び鈴を押すのだろうと、少し冷静さを取り戻した。人の気配を感じたのか、扉の向こうにいる人物は大声で呼び掛ける。

 

「紘季!西原京介(にしはらきょうすけ)だ。頼むから、ドアを開けてくれ!」

 

「えっ?京介さん? 」

 

「早くしろ! 」

 

「わ、分かりました」

 

 紘季は、鍵を解除して玄関の扉を開ける。西原京介とは、小さいときから紘季たちとよく遊んだことがある人物だ。

 

「紘季。さっき、安堂さんから、電話来ただろう?なぜ、来ない。早くしないと時雨が・・・」


「えっ?」


「いいから、双子のチビ連れて来い!!俺が、連れてってやるから!」

 

 紘季は、なにかなんだか分からなかった。さっきの安堂からの電話。京介の職業は、警察官だったはず。


 もしかしてと思っていると・・・。藍李と海李が、おびえながら玄関にやって来た。

 

「ひろにいどうしたの? 」

  

 答えられたない紘季。

 

「おい!お前ら、ついてこい!お父さんとお母さんが、待ってるぞ! 」

 

「「行く!! 」」

 

「紘季、お前はどうする? 」

 

 紘季は、頷くしか出来なかった。

 

「よし! 」

 

 急いで電気を消し、戸締まりをして、西原の車に乗り込む。西原の向かった先は、病院だった。


 西原は病院に着くと、どんどん病院の中を進んでいく。その後ろを紘季たちは、必死についていく。たどり着いた先は、手術室前だ。手術中という文字が赤いランプで光っている。紘季が、固まっていると。藍李が、西原に話しかける。

 

「おとうさんとおかあさんは? 」

 

「この中だ。お父さんはな」

 

 西原は、「おかあさんは? 」と、聞かれないようにすぐに言う。


「ここで、お父さんが、出てくるのをこのお姉ちゃんと待ってろよ。俺は、お兄ちゃんと話すことがあるからな」

 

「「うん! 」」

 

 西原の言ったお姉ちゃんは、婦警(ふけい)だ。紘季は、西原の言葉の意味をすることをなんとなく分かってしまった。


 西原と紘季は、静かで誰もいない部屋に移動した。その場所は、病院に頼んで借りたもの。


 西原は、真剣な顔で言う。刑事の目をしていた。そして、言える範囲のことを紘季に伝える。

 

「紘季、落ち着いて聞け」

 

「・・・」

 

「時雨……お前のお父さんとお母さんは、事故にあった」

 

「・・・・」

 

「子供が、信号がない交差点で飛び出したんだ。お母さんは、その子供に気付いてブレーキをしたが、間に合わないと判断して急いでハンドルをきって、誰もいない電柱やガードレールなどがあるとこに車をぶつけた。事故直後、お母さんは少し意識はあったが、すぐに息を引き取ったらしい。お父さんは、今も手術室で、頑張っているが・・・」


「・・・」

 

「なにか、言ったらどうだ?」

 

「う・・・?」

 

「う?」

 

「嘘?お母さんが、死んだはずない!何で、嘘つくんですか?今日は、二人の結婚記念日なのに。何で?お母さん達は、悪いことをしたんですか?何で……」

 

 紘季は、突然泣きながら叫ぶ。

 

「落ち着け!ごめん。悪いことを言った」

 

「すみません」

 

 西原は、きれいなハンカチを紘季に渡す。


「紘季のお母さんたちは、悪いことをしてない。お前のお母さんは、いいことをしたんだ。お母さんは、その子供の命を守ったんだ」

 

「だからって、お母さんは……自分は、死んで。お父さんは、死の危険があるんでしょ?何で、こんなことにならないといけないの?ねぇ!教えてよ! 」

 

 紘季の言葉に対して、西原は、「それは、言ってはいけない。お母さんに失礼だ」と事故の原因について、何も言わなかった。

 いや、違う言えなかった。西原も想うことがあるのかもしれない。

 

 コンコンと、部屋の入り口からノックの音が聞こえた。

 

「安堂です。西原さん、今大丈夫ですか? 」

 

「はい。どうぞ」

 

 安堂は、紘季に声が聞こえないように、西原の耳元で小声で話す。

 

「ありがとうございます。先に、行ってください。すぐ行きますから」

 

 それを聞いて、安堂は部屋を出た。

 

「紘季、落ち着いて聞け」

 

「まさか……お父さんも」

 

「お父さんな、なんとか命はとりとめた」

 

 その言葉に、紘季は少し安心した。


「……無事ってことですか?」

 

「いや、違う」

 

「えっ? 」

 

「一度心臓が止まってから、再び心臓が動くのに時間がかかりすぎた。つまり、脳の障害が残る可能性がある。記憶障害や言語障害、身体不自由になって、自分の意志で動かせないかもしれない」

 

「でも、生きてるんでしょ? 」


「生きてるが、長くは生きられないかもしれない。意識が戻ってない。このまま、戻らないかもしれない。植物状態になるかもしれない」

 

「えっ? 」

 

 紘季には、もうなんだか分からなくなった。


「とりあえず、お父さんの病室に行くぞ」

 

 西原は半ば強引に、紘季を連れ出す。時雨の病室に着くと、先に藍李たちがいた。

 

「ひろにい、おとうさんだいじょうぶ? 」

 

「ひろにい、おかあさんは? 」


 次々、藍李達に問い詰められる。


「お父さんは、……」

 

 紘季は、しゃべれなくなった。涙が、こぼれていくからだ。

 

「お父さんは、大丈夫だ」

 

 代わりに、西原が答える。希望は、少ないかもしれないが、そう言うしかなかった。

 

「お母さんは、……」

 

「お母さんはね、別のとこで眠ってるよ。でも、もう起きないよ」

 

 西原が、めぐみのことを言おうとしたのを(さえ)って、紘季は、なんとか話す。

 

「なんで? 」

 

「何でも」

 

 その答えに、藍李は不服そうな顔をしている。


「うっ…」

 

 いっせいに、時雨の方を見る。


「えっ?お父さん!? 」

 

「……うるさい」

 

 と、時雨は、少しずつ目を開きながら言う。


「「おとうさん」」

 

「静かに……してくれ。こっちは……身体中が痛い。そして、眠い」

 

 時雨は、声のする右側を見る。


「時雨、目覚ましたのか? 」

 

「京介か、うるさい」

 

「相変わらず、口悪いな。そんな無駄口叩けるなら大丈夫だな! 」


 西原の言葉に、時雨は、少し口角を上げた。

 

「めぐみは、そうか……」

 

 時雨は、その場にいないめぐみに、そういうことかと一人で納得した。

 

「あいつは……強いな。めぐみは、「あの子達をよろしくね」って最期に言ってたな」

 

 時雨は、焦点のあわないようでどこかを見ている。声は、なんとなく聞こえるようだ。実際に時雨の話し方はいつもとは変わっていて、ハッキリしているようでしていない。

 

「お父さん」

 

「なんだ? 」

 

「こんなときだけど」

 

「うん? 」

 

「結婚記念日おめでとう」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 時雨は、嬉しそうな顔をする。


「おとうさん、みて! 」

 

「藍李か? 」

 

「うん! 」

 

 藍李はこっそり持ってきた、保育所で描いた家族の絵を時雨に見せる。

 

「よく、描けてんな! 」

 

 時雨は藍李の頭を撫でようとするが、あまり手が動かないみたいだ。悔しそうにしてると、紘季が時雨の腕を優しく持ち藍李の頭にのせる。

 そして時雨は、藍李の頭をポンポンとする。海李もして欲しそうにする。西原が、海李を抱き上げる。時雨は、同じように海李にもしてやる。


 時雨は、最後に紘季に頭を出せと言って彼の頭にもしてやる。その手や声は、以前と違って弱々しい。


 時雨は、順番に我が子を見ながら想っていることを言う。


「情けない……顔をするな。紘季は……もう少し周りを見ろ。……絶対に周りが……助けてくれる。お前は……強いから大丈夫だ」


 紘季の瞳には、溢れんばかりの涙でいっぱいになっていた。


「うん。分かった」


 なんとか、紘季は声を出す。


「藍李は……たくさん……絵を描いて……みんなに見てもらう」

 

「うん!! 」

 

 藍李は、キラキラした目をして元気に返事をする。


「海李は……もう少し……自分から話せるようにする」


「うん!がんばる」

 

 海李は、頷く。次に、西原を見る。西原の瞳にも、涙がいっぱいだった。時雨は、死を悟ったのだろう。真っ直ぐと彼を見つめた。

 

「京介……あとのこと……頼むぞ」

 

「何言ってんだ。時雨、やめろよな」


「お前になら……できる」

 

「分かったよ。安心して()け」

 

 時雨は、静かに頷く。弱々しいが、優しい顔をしていた。そして、我が子を見る。


 これが、本当の別れの挨拶だというように。



「紘季、藍李、海李、俺達の子供に……なってくれてありがとうな」


「お父さんに、なってくれて」


「「「ありがとう! 」」」


 紘季、藍李、海李は、時雨に精一杯の笑顔でお礼を言う。



「あぁ……眠い。めぐみのとこに逝くか」

 


 そう笑顔で言って、時雨は、眠った。

 

ピーーー

 

 紘季は、泣き崩れた。藍李と藍李は、紘季に抱きついて泣いた。西原も、静かに泣いた。


 時雨とめぐみは、自分達の結婚記念日の日に、愛する子供達を(のこ)してこの世を去っていた。

読んでいただき、ありがとうございます。



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