表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族ってね  作者: 宮原叶映
11/50

隣にいる→隣にいない

予告通り、過去編です。

このお話は、『だいじょうぶという言葉」の過去編でもあります。一部分ですが。


「京介。お前、めぐみのことが好きなんだろ?俺は、めぐみと結婚する。お前、アイツに想いを告げないのか? 」

 

 いつだったのか忘れたけど。そう言った心友の言葉が忘れられない。時雨は、優しいやつだ。


 自分の奥さんになる彼女のことを、好きな俺にそんなことをいうだもんな。


 俺は想いを最期まで、彼女に()()()()とは告げなかった。


 彼女は、俺の想いに気が付いてこんなことを言ってきた。

 

「京ちゃんとは、一緒にいれないけど。京ちゃんの隣にいるから。しぐちゃんと一緒にいるから。私たちは、京ちゃんのことを()()だって思ってるよ」

 

 めぐみは、やんわりと俺のことを振ったのだ。そして、()()と言ってくれた。

 でも、俺は、何かを分からないんだ。

 ()()って。

 あまりにも、子供時代が残酷すぎた。

 家庭間環境が悪すぎて、親からの愛情をもらったことがない。

 施設で育った俺たちきょうだいは、()()が分からないんだ。


 そのときの俺は、何てめぐみに言ったのか覚えていない。

 

「京介、それでいいのか? 」

 

 と、透が言った。


 たぶん、めぐみと会って話した後だったと想う。


 透は俺の顔を見て、泣きそうになっていた。俺は彼の顔がよく見えなかった。たぶん、俺も、泣いていたと想う。


 あいつは、ずっと、俺のことを心配していた。


 時雨とめぐみが、仲良く笑いあっているとき。


 二人の世界にいられている意味がなくなったとき。


 いつも俺を助けてくれた。


 自分自身の顔は、見えない。透には、今の俺がどう写ってたんだろうか。

 俺は、言った。

 

「もういいんだ」

 

 透は、そのあと何かを言おうとした。それを無視して、その場を去った。

 

「みんな、京兄のことを心配してるんだよ。素直になったら」

 

 と、空が言った。

 

「そんなこと、分かっている」

 

「じゃあ、何でしないの? 」

 

 と、空が言った。

 

「うるさい」

 

「恐いんでしょ?言葉にしたら、現実になるから」

 

 と、空が言った。

 

「そうじゃ……」

 

「ないって、言わさない! 」

 

 と、空が言った。

 

「じゃあ、どうしたらいいんだよ!! 」

 

 俺は、怒鳴った。

 

「みんなが、言ってたでしょ? 」

 

 と、空が言った。

 

「何を? 」

 

バチッン

 

 俺の頬が、痛くなった。

 

「いいんかげんにして! 」

 

 と、空が言った。

 

「痛い」

 

 俺は、頬をおさえた。


「めぐみさんには、時間がないの! 」

 

 と、空が言った。

 

「時間がない? 」

 

「何寝ぼけたことを言ってるの?知ってるくせに!今日、めぐみさんは時雨さんと結婚式するの!事件とかいって、式が近づいたら家に帰らなくて。みんな、心配していたの!なのに、なんで、みんなを傷付けるの? 」

 

 空は、泣き崩れた。

 

「ごめんな」

 

 俺は、言った。

 

「想いが、実のならくなくてもいいから。めぐみさんに、言葉を送って。じゃないと、絶対にお互いが後悔するから。お願い」

 

 と、空が言った。

 

「ごめんな。いってくるよ」

 

 俺は、言った。

 

「うん」

 

 空が、言った。

 

 そうだ。思い出した。これは、時雨とめぐみが入籍をする()()だ。役所に、婚姻届を提出しに行く。


 そのあと知り合いの店を借りて、小さなパーティーをする。それが、二人にとっての結婚式だ。


 俺が、二人のものに着いたときには、めぐみが、車に乗り込もうとしたときだった。

 

「めぐみ! 」

 

 めぐみは、驚いた顔をしていた。でも、嬉しそうだった。

 

「京ちゃん」

 

「少しだけいいか? 」

 

「うん」

 

 これが、自分の想いを告げたことになるか分からない。

 俺たちの関係をハッキリさせないといけない。

 

「二人の結婚を祝いたいんだ。だから、友として、隣にいてもいさせて欲しい」

 

「もちろんだよ! 」

 

 めぐみは、笑顔で答えてくれた。

 時雨はというと、車の助手席で目頭をおさえている。





「って、こともあったな」


「懐かしいね。京ちゃん? 」


「そうだな」


 ()()は、時雨とめぐみの結婚記念日だ。俺は、たまたま仕事が非番だった。二人に連絡をとり、一緒にご飯を食べに行った。そして、二人の結婚に至ったことを、当時を振り返りながら話に花を咲かせていた。


「京介。空ちゃんに、感謝しないとな」


「そうじゃないと、お互いに後悔してたと思う」


「うん。友としてって言ってたけど。私にとって、京ちゃんは大切な()()だよ! 」


 俺は、()()ってやっぱり分からない。でも、なんだか嬉しかった。


「ありがとう! 」


 あぁ、幸せだ。二人が、生きてる。二人がいなくなったって、嘘だ。

 これは、()()()()()。そうだろう?

 

「きょう……す」

 

 嫌だ。夢から覚めたくない。

 

「きょうすけ」

 

「透か?京介。そろそろ、俺たちは()()からな」

 

 

 時雨は、助手席の窓を開けて言う。めぐみは、車に乗り込む。


 エンジンをかける。


「逝くな! 」


 車が、どこかへ進んでいく。

 

「逝くな! 」

 

 二人に、向かって手を伸ばす。当然、二人には、届かない。


 二人は、ドンドン離れていく。


 でも、伸ばした手に感触があった。目を開くと、透の顔があった。

 

「透? 」

 

 透は、俺の手を掴んでいた。そして、その瞳には涙があった。

 

「泣いてんの? 」


 透は手を放し、目元の涙を拭う。

 

「アホ。泣いてないわ。どっかの誰かと違ってな」

 

 そう言われて、自分の目元を触る。冷たい。それは、頬にも流れている。

 

「無理するなよ? 」

 

「あぁ」

 

 俺は、起き上がる。今更なことを聞くことにした。

 

「何で、俺の部屋にいる? 」

 

「それはな。心配したからだ。紘季くんたちの両親が、亡くなったんだ。その二人は、京介にとっても大切な人だから。空と一緒に、お前を(なぐ)めたとしても。そんな簡単に、気持ちの整理出来ないだろ?京介のことだ。寝れたとしても、うなされるだけだからな」

 

「それは、お前もだろ? 」

 

 透は俺の言葉が何に対するものなのかが、分かったようだ。

 

「あぁ。そうだな」

 

 透も、少し辛い顔をしていた。彼にとっても、大切な人たちが突然亡くなったのだ。

 

「心配してくれて、ありがとうな」

 

「いいんだ」

 

 透は、ため息をした。それには、どんな意味があるのか分からない。

 

「藍李は空のとこで、海李は俺と一緒に寝てた。でも、藍李ちゃんが途中で起きてぐずってな」


 と、透は唐突に話し始めた。京介は、慣れているので文句を言わない。


『おかあさん、おとうさんどこ?』


 と、泣く。無理もない。藍李はまだ幼い。それと、いつも一緒に寝てた紘季たちもいない。


 隣にいるのは、会ったばかりの空で余計に心にくるものが、あったんだろう。


 空は、なかなか泣き止まない藍李を、透のところにつれていく。


 藍李は、熱が出ている。だが、精神的なものだ。透は、うつる心配はないと判断した。そのため、海李だけ一人はかわいそうと、二人を紘季の部屋に連れて行った。そのほうが、紘季たちも安心すると想ったからだ。

 

「えっ?紘季は、大丈夫なのか? 」

 

「あぁ。大丈夫だ。紘季くんも、起きてくれてな。今は、仲良く一緒に寝てるよ」

 

「そうか」

 

 と、京介は安心する。


 時雨の心友として隣にいた、友としてめぐみの隣にいた京介。


 時雨とめぐみの親子として、隣にいた紘季と藍李と海李。


 今夜は、京介たちにとっても、紘季たちにとっても、大切な人を失った日だ。


 もう、隣にいない。


 どれだけ、探してもめぐみと時雨もいないのだ。

読んでいただき、ありがとうございます!

次回は、ショッピングモールに行きますよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ