プロローグ
新作です!
どこにでもあるような普通の家庭だ。両親は、とても優しく、怒るときはとても怖い。
その二人の子供は、三人きょうだいだ。長男は、高校一年生の紘季。彼から十歳離れている双子のきょうだいで長女は、藍李と次男は、海李。どこにでもあるような五人家族だった。
ある金曜日の朝。
紘季は朝早めに起きて身支度をすると、母のめぐみの声がした。その声は、リビングからだ。
「紘!藍!海!朝ご飯よ! 」
「はーい! 」
「父さん、紘と一緒に藍と海の着替えを手伝ってあげて」
「分かった」
三人きょうだいは、同じ部屋で川の字になって寝てる。
「紘、お父さんそっちにいって大丈夫? 」
「大丈夫! 」
「母さん、紘季何だって? 」
父親の名は、時雨。彼は幼い頃に病気で、左耳の聴力を失っている。そのため、少し聞き取りにくい。そして、少し口が悪い。
「父さん。紘はね。「大丈夫! 」って言ってるよ」
「ありがとう」
「いいのよ」
時雨は、紘季の部屋の前にドアをノックする。その後すぐに、ドアが開く。
「お待たせ。父さん」
「入るぞ? 」
「うん」
なぜ、時雨も手伝うかというと、双子はなかなか起きない。紘季だけじゃかわいそうだという判断のもと決められたことだった。
「紘季は、藍李を起こせ。父さんは、海李を起こす」
「分かった! 」
紘季は、時雨と話すときは出来る限り右側で身ぶり手振りと気持ちゆっくりめに話す。双子は育ち盛りで、二人同時で話すのでいつも紘季とめぐみが通訳となって話す。
「藍ちゃん、朝だよ。起きて!ごはん食べれないよ? 」
「うぅ……」
「海李、起きろ!飯食えないぞ? 」
「・・・・」
数分後。
「藍ちゃん!起きて! 」
「海李!起きろ! 」
「ダメだ。起きねぇな」
「そうだね。父さん。じゃあ、もう僕たちだけで食べる? 」
「そうだな」
時雨が、ドアノブに手をかけたとき。
「「たべる! 」」
双子は、同時に起きて叫ぶ。
「はぁ……」
やっと、起きた二人は、時雨の顔を見てビックとなる。
「お前ら、いつも早く起きろよ……。父さんは、腹が減ってんだ」
「「ごめんなさい! 」」
「じゃあ、服着替えようか? 」
「「うん! 」」
「父さんは、海李を手伝うわ」
海李は、うなずく。一対一で話すときは、基本無口になる。
「僕は、藍ちゃんを手伝うね」
「うん! 」
藍李は、元気で絵を描くのが好きな女の子だ。
「お揃いの服着たい!海くんは? 」
「海李。上の服は、お揃いがいいか? 」
海李は、うなずく。朝は、眠いのかうなずくか頭を横に振るしかしない。
「じゃあ、この服かな? 」
「それにするか」
「父さん、お腹が空いてるの限界きた? 」
「うるさい」
「だって、さっきからお腹なっているよ」
「うるさい! 」
時雨の顔は、お腹が空きすぎてイライラしているのでとても怖い。
「さっさと、着替えて行くぞ! 」
「「「はーい」」」
そのあと、大急ぎで着替えさせてリビングに向かう。
「あら、今日はいつもより早かったね」
「父さんが、お腹の限界を越えてて」
「なるほどね。さぁ、ごはんにしよう」
「「「「「いただきます」」」」」
時雨は、すごい勢いでご飯をかきこむ。途中でむせて、めぐみがすぐに飲み物を渡す。それは毎日のことだ。いい加減に落ち着いて食べたらいいと思う。その間紘季は、藍李と海李の相手をする。
「紘、今日はサッカー部休みだっけ? 」
「そうだよ。もう少しで、テストだから。部活は休みなんだ」
「紘季なら、勉強しなくても一位とれるんじゃないか? 」
「そんなことないよ」
「無理せずに、ほどほどに頑張るのよ」
「うん。ありがとう」
「紘季。今日、母さんとお出掛けするんだが。藍李と海李の保育所の迎え頼めるか? 」
「うん。大丈夫だよ。遅くなるの? 」
「あぁ。晩御飯までに、帰るけどな」
この家の晩御飯の時間は、十九時だ。
「分かった!晩御飯作ろうか? 」
今日は、時雨とめぐみにとって特別な日だ。
「いいの? 」
「うん。大丈夫だよ」
「紘季、無理するなよ?お前の大丈夫は、なにか無理をしてるときによく言ってるからな」
「無理なんかしてないよ」
「勉強したいんだろ? 」
「うん」
紘季は、基本何でも出来るが、色々とため込みやすいので周りがいつも心配している。家族思いで、優しい子でもある。
めぐみは、パンッと手を叩く。
「じゃあね、こうしよう。藍と海の迎えに行って、二人だけで遊んでもらう。紘は、勉強する。晩御飯は、なにか作って置いておくね。帰るのを、待ちきれなかったら先に食べること。いいね? 」
「うん。分かった!ありがとう! 」
「ひろにい! 」
「藍ちゃん、どうしたの? 」
「じかんだいじょうぶ? 」
その言葉に、紘季は、パアッと時計を見る。
「あっ! 」
「紘季、急げ! 」
「うん! 」
「藍と海は、お母さんが送っていくからね」
「ありがとう! 」
紘季は、急いで準備をして玄関に向かう。靴を履いて、玄関の扉を開こうとしたとき。めぐみは慌てて、紘季を呼び止める。その後ろから、時雨達がぞろぞろやってくる。
「紘!弁当忘れているよ」
「ありがとう!じゃあ、行って来ます! 」
「気を付けてね! 」
「「「「行ってらっしゃい」」」」
紘季は、笑顔で家族に手を振り玄関の扉を閉める。これが、最後の両親と過ごした時間とも知らずに。
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