#2 喫煙防止条例を遵守した上で、夢がある
改めまして、やあ。俺の名は「桐生 ダークメイソン」。
決してふざけているわけじゃない。日本人の父とアメリカ人の母から生まれた名だ。ハーフ特有の一発屋芸人のようなネーミングが起こっているのはご理解いただきたい。
さて、軽く紹介をしておこう。俺は『大三元高校』に通う高校3年生。新学期早々、俺のクラスに転校生の女子がやって来たのだが、それがまた強烈なやつだった。どんな風に強烈なのかは、前の話を読んでくれれば分かるから割愛する。何でもかんでも人を頼るのはよくないからな。
「はい終わり終わ・りぃ~~!!はいもうペン置きぇぇぇ!キンコンカンコン鳴ったからもうペン置・・・くぇぇぇぇぇぇ!!」
全身全霊をかけた教師のアナウンスを経て、新学期テストの解答用紙を前へ前へと回していく。うん、100点だこれ。
「ねえ」
隣の転校生が、声をかけてきた。無愛想な態度ゆえ無視しようかと思ったが、普通に対応した。俺は真面目な生徒だからな。
「なにか」
「この学校に電波暗室はあるかしら?」
あるわけねぇだろ、公立高校だぞここ。特務機関じゃねぇんだぞ。
「ないよ」
「そう、使えないわね」
おい。使えないってのは、俺のことじゃないだろうな。電波暗室のないこの公立高校をディスってるんだよな、転校生。
「じゃあ、人気のない所はどこ?それくらいならあるでしょう」
もう一つ質問がきた。タバコでも吸うのかと思い、屋上を提案した。
「屋上・・・悪くないわね」
だろう。副流煙も上空に逃げていくし、喫煙するにはもってこいだ。
「じゃあ、ついてきてちょうだい」
なんでだよ。俺はタバコなんて吸わねぇぞ・・・と思ったが、転校生は一言もタバコを吸える場所を教えてくれだなんて言ってない。勝手に妄想を走らせたことを反省し、彼女の目的を聞いた。
「話があるの。それも重要な」
転校してきて1時間。互いの名前も知らない間柄で、どんな重要な話があるというのか。何の話か聞こうと思ったが、急かすように睨み付けられたので、俺は彼女とともに屋上へと向かった。
「いい眺めね、ここ」
屋上に着くやいなや、景色の感想をつぶやく。あいにくの曇り空ですら『いい眺め』と評価できる懐の深さに敬礼。もちろん右手で。
「ミサイルでも落ちてきたら綺麗でしょうね」
なぁ何でそんなこと言うん。ラッセンの見過ぎで美意識感覚が崩壊したのか?
「で、話ってなんだ。転校生」
「・・・その『転校生』って呼び方、やめてくれない?」
いやお前が名乗らんからやろがい。今ある情報を最大限に生かした呼び方だぞ、これ。
「あぁ、そういえば名乗ってなかったわね。『シーリン・ヘジテイト』よ。シーリンと呼んでちょうだい」
えぇマジか。ずっと日本人だと思ってました。こんな平安美人すら嫉妬するくらいの綺麗な黒い髪と黄味色の肌を見せておきながら外国人なのかよ。人は見た目によらないんだなぁ。にしても日本語流暢すぎひん?
「で、シーリンさん。何の話ですか」
改めて俺がここに招かれた理由を問う。シーリンは軽く微笑んで、口を開ける。
「あなたに協力してもらおうと思ったんだけど」
何の協力だ。ゴミ拾いボランティアか?
「協力してくれる?」
いやだから何の協力なんだよ。内容によるだろうが、協力するもしないも。
「何の協力ですか?」
「私の夢のための協力よ」
だーかーらー、さっきから何一つ軸が定まらないんだよ。お前の夢のために協力してほしいってだけで、お前のどんな夢のためにどう協力すればいいか分からないんだよ。
「夢って、なんです?」
「そりゃあもちろん、あれよ」
意味ありげに回答を溜める。よし、この間に予想してやろう。そうだな、じゃあ『アイスクリーム屋さん』。なんか最近引退したアスリートが転職してたもんな。これ絶対ナウいもんな。絶対この人の夢アイスクリーム屋さんだよ。アイスクリーム屋さんになりたいんだよ、この人。
「ダークヒロインよ」
くそっ外した。まぁ、それもそうか。アイスクリーム屋さんなんて、他人に協力してもらわなくても自力でなれるもんな。俺みたいなアイスクリーム素人に協力してもらった所で何の役に立たないもんな。
・・・ん。ちょっと待て、この転校生いまなんて言った?
「悪い、聞き取れなかった。もう一回言ってくれ」
一ミリも悪いと思ってないけど、申し訳なさを飾り付けて答えのおかわりを注文した。俺の直感では「ダークヒロイン」って言ってたような気がするけど、そんなわけないもんな。
「ダークヒロインよ」
なるほど、ダークヒロインでフィニッシュのようだ。『よし、やっぱ俺の直感は間違ってなかった』と喜ぶべきか、ダークヒロインを夢見ている眼前の転校生に対しどういう反応をすればいいかを悩むべきか・・・
頭の中が整理できないから、この葛藤は3話までの宿題にさせてもらおう。