#1 2年通った高校を転校するってどんな気持ちなん?
「っっっしゃああああ、みんな今日から高校3年生や。受験やぞ受験。さぞ気張れや若人!!」
春です。新学期を迎え、担任の教師が意気揚々に教壇で叫んでいる。うるさい。
「じゃあ早速転校生の紹介や!拍手せぇよ拍手!!喝采でな!!」
さも新学期になれば転校生がやって来て当然みたいな口ぶりだ。なんでこんなナニワのおっちゃんみたいな奴が教師になれるのか極めて疑問。
「はいじゃあ~、入場!!ヴィヴァッッッ入場!!!」
教師が勢いよくドアを開けた。壊れた。しかしそんなこと、この教師は一切気にしない。壊れるほうが悪いのだといわんばかりの顔で、廊下にいる転校生を手招く。そして、転校生が教室に入ってきた。なんとも無愛想な顔をした女子だ。お辞儀45度、3秒静止し顔をあげる。そして開口。
「転校生です。よろしく」
そりゃあ見れば分かる。そういう時は名前を言うんだよ転校生。
「じゃあ、みんな!!仲良くするんやぞ!じゃあ今から新学期テストやるから!!教科書しまえ!!!今更詰め込んだって無駄なんだよこのヘコタレどもが!!!」
フルスロットルで進行していく。まだ転校生の名前も座る座席も知らないのに、教師はテストの解答用紙を配り始めた。誰かこいつを懲戒解雇にしてください。
「おい転校生!!!」
野球部の生徒が、勢いよく転校生を呼ぶ。なにやら言い足そうな面持ちだ。きっと名前を聞こうとするのだろう。うんうん。
「好きな食べ物はなんや!?」
違うそうじゃない。食べ物の趣向より、もっと他に聞くべきことがあるだろう、野球部。
「朝ごはん」
違うそうじゃない。好きな食事形態を答えるのではなく、好きな食べ物の詳細を答えるんだよ、転校生。
「おぉぉぉい、いつまで黒板の前につっ立ってんだ!?早くあそこの席に座らんか!!二宮金次郎くん人形かお前は!?」
教師の理不尽な怒号が響く。あんた言ってなかったよ、どこに座ればいいか。ていうか・・・
「よろしく、高校生」
転校生は俺の隣に座った。奇妙とはいえ挨拶をされたので、俺もスナップを利かせた挨拶を返す。
「よろしく、転校生」
「気安く話しかけないでちょうだい」
衝撃の返事が来た。挨拶を返しただけなのに煙たがられてしまった。内心驚いたが、決して顔には出さない。えらいぞ俺。そういうわけで、何も言い返すことはせず、俺は目の前のテストに集中することにした。
これは、普通の高校生である俺『桐生 ダークメイソン』が、現時点で名前の分からない女子転校生に日々苦しめられる物語だ。