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第99話「決闘なのじゃ」

 ノクト海 デイタ島沖 ノーマの海賊 旗艦『サバナ』 ──


 シー・サーペント号の影から現れたブラック・スカル号の船首は、サバナ号の鉄の装甲をメキメキと砕き割り見事に右舷に突き刺さった。


 その衝撃に激しく揺れるサバナに、ブラック・スカル号から次々と渡り板やフック付きのロープが投げ込まれ、トク・ベアとその部下たちがなだれ込んでいく。


 それを見た船長コロズ・ノーマは、腰の蛮刀を引き抜くと部下たちに向かって怒鳴り散らす。


「てめぇーら、乗り込んできたぞ。ぶっ殺せぇ!」

「おぉぉぉぉぉ!」


 彼の部下たちもそれぞれが武器を持ち、乗り込んでくる海賊たちに斬りかかった。しかし、乗り込んできたのはシー・ランド海賊連合でも、有名な武闘派海賊である『海熊』のクルーである。


 トク・ベア率いる『海熊』のクルーたちは、身体能力の差をものともせず次々と海賊たちを斬り倒し、海に投げ込んでいった。そして、勢いのままコロズ・ノーマの元にたどり着くと、トク・ベアは巨大な蛮刀をコロズに突きつけて尋ねる。


「よぉ、そこの白いの! てめぇが、この船の船長か?」

「おうよ、俺様がノーマの海賊頭領コロズ・ノーマ様よっ」


 追い込まれたとはいえ、まだ数的優勢に立っているからか余裕たっぷりの顔で答える。そんなコロズの態度にトク・ベアも鼻で笑った。


「はっ、まさかテメェみたいな腰抜けが頭領なのか? 頭領ってんなら、そんな後ろに隠れてねぇで出てきやがれ」


 トク・ベアが馬鹿にしたような顔で手招きをすると、コロズは牙をむき出しにして怒りだし部下を押しのけてトク・ベアの前に出てくる。


「誰が腰抜けだって!? いいだろう、俺様が勝負してやんぜぇ!」


 トク・ベアは再び鼻で笑うと、何も言わず長大な蛮刀を肩に乗せて構えた。周りの海賊たちは親分同士の対決に、お互いの争いを止めて少し距離を取り戦いやすい場を作りはじめる。


「テメェ……名は?」

「俺は海熊の船長トク・ベアだ。かかってこいよ、ケモノ野郎っ!」


 コロズは一瞬牙を見せると雄叫びを上げながら突進して、振り上げた蛮刀を力任せに振り下ろした。トク・ベアはそれを躱すと、肩に乗せていた蛮刀をコロズに向けて振り下ろす。


 その攻撃は甲板をひしゃげさせるほどの威力だったが、コロズはすでにそこにはおらずバックステップをしてそれを躱していた。


「へっ、でかい図体の癖に、速ぇじゃねぇーか!」


 トク・ベアは、忌々しそうに呟くと再び蛮刀を肩に担ぐ。コロズは腰を落としてニヤリと笑っている。


「うぉぉぉぉぉ!」


 再び雄叫びを上げて甲板を蹴ったコロズは、手にした蛮刀をトク・ベアに向かって振り下ろした。トク・ベアは先程と同じように一歩下がって躱すと、蛮刀を振り下ろそうと力を込める。しかし、その瞬間コロズの左手の爪が、トク・ベアの腹を引き裂こうと襲い掛かってきた。


「なっ!?」


 トク・ベアは咄嗟に蛮刀を離して、右腕で襲い掛かる爪をガードする。その鋭い爪はトク・ベアの腕の肉をごっそりと抉り取るが、彼は腕から鮮血を噴出しながらもガラ空きの左脇腹に蹴りを入れて、コロズを吹き飛ばした。


 トク・ベアは血で染まった右腕をぶら下げながら、左手で落とした蛮刀を拾うと再び肩に担いだ。そしてマストまで吹き飛ばされたコロズは、顔を歪めながら脇腹を押さて立ち上がると武器を構えた。


「はっ、効かねぇなっ!」

「強がんじゃねぇ、ケモノ野郎!」


 一見、大量の血を流しているトク・ベアが不利に見えたが、彼の太い脚で蹴られたコロズも肋骨が二本砕けており、かなりの激痛に襲われていた。


 今度はトク・ベアの方から動いた。コロズに向かって突進すると、担ぎ上げた蛮刀を一気に振り下ろす。コロズは後ろに飛んでそれを躱したが、先程までより明らかに遅くなっており咄嗟に反撃には移れなかった。


 トク・ベアは、そのまま一歩踏み込み横薙ぎに蛮刀を振り回す。一段と鋭いそれを躱しきれないと悟ったコロズは、手にした蛮刀で受け止めた。攻撃自体は何とか受け止めたが押し込まれた分、砕けた肋骨が押し込まれて苦痛に顔を歪ませた。


「ぐぅぅぅぅ!」


 しかし、コロズは渾身の力でトク・ベアの蛮刀を弾き飛ばすと、振り上げた武器を彼の肩目掛けて振り下ろした。バランスを崩したトク・ベアは咄嗟に蛮刀から手を離すと、軽くなった左腕でコロズの蛮刀の鍔元で受け止めた。


 血を噴出しながらも骨で止まった蛮刀に、コロズは驚きの表情を浮かべる。その瞬間、再び彼の左脇腹に抉り取るような衝撃が襲い掛かったのだった。


 コロズの脇腹にはトク・ベアの右拳がめり込んでおり、その威力に砕けた肋骨が肺を突き破ったのか、転がるように倒れこむと咳き込みながら吐血を繰り返していた。


「うごっ……がっ……ごぼっ!?」


 トク・ベアは転がりまわるコロズを見下ろしながら、血で染まった両腕を振り上げて、勝利の雄叫びを上げた。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 周りにいたトク・ベアの部下たちも、一斉に武器を振り上げ自分の親分の勝利に沸きあがる。対するコロズの部下たちは一様に肩を落として、武器を投げ捨てて投降をはじめたのだった。


 それからしばらくあと、ノーマの海賊の旗艦『サバナ』に白旗が掲げられ、その海域の戦闘はシー・ランド海賊連合の勝利で終ることになったのだった。



◇◇◆◇◇



 ノクト海 デイタ島沖 シー・ランド海賊連合 旗艦『オクト・ノヴァ』 ──


 オクト・ノヴァ号がいる海域でも同じように砲撃船のあと白兵戦になっていたが、数で勝るシー・ランド海賊連合が無事に勝利していた。


「連絡艇の報告では、グレート・スカル号についていった海賊たちが、敵旗艦に乗り込み勝利したそうですぜ」


 船乗りの一人がピケルに報告すると、ピケルは張り詰めた表情をようやく崩すと、拳を振り上げて宣言した。


「連合の勝利だっ!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 周りにいた海賊たちも一斉に拳を振り上げて、勝利の雄叫びを上げた。


 しかし、今回の海戦でかなりの数の船が犠牲になっており、その修理費や捕虜としたノーマの海賊の処分など問題は山積みだった。


 リスタ王国からは戦が終わり次第グレートスカル号を戻すように頼まれていたが、海賊連合側も予想外に被害が出たため、現状でグレートスカル号がいなくなれば、捕虜にしたノーマの海賊たちが再び暴れる可能性もあった。


「さて……どうしたものか」


 勝利に湧きかえる部下たちを余所に、ピケルは一人考え込むのだった。



◇◇◆◇◇



 クルト帝国 ノイスターン沖 連合艦隊旗艦『ノインベルク』 ──


 デイタ島沖海戦が起きていたころ、クルト帝国の西方にある港町ノイスターンから、複数の軍艦が出航していた。この艦隊は、ザイル連邦遠征のために組織されたクルト帝国連合艦隊である。その数およそ二百隻、かつて『幼女王の聖戦』と呼ばれた大戦の時と同程度の規模の艦隊である。


 その旗艦『ノインベルク』に乗船している提督エリーアス・フォン・アロイスは、北の海をじっと見つめながら呟いた。


「敵にどのような戦力があろうと、必ず勝たねばならない」


 皇帝の勅命ということもあったが、先の大戦ではグレートスカル号を一時的に航行不能にするといった功績をあげたものの、最終的にはリスタ王国とシー・ランド海賊連合の襲撃を受け、撤退を余儀なくされたという苦い経験をしている。


 エリーアスの中では、その汚名を返上したいという思いが強かった。その為、調練や準備などはいつも以上に念入りにしていたし、作戦なども幾通りも考えてある。


 そんなことを考えながら、彼はポケットの中から一通の手紙を取り出すと、それを広げて中身をもう一度確認して呟いた。


「これは……大きな借りになりそうだな」





◆◆◆◆◆





 『戦後処理』


 デイタ島沖海戦に勝利した海賊連合は、自走できる船はそのまま海都に向けて帰港を開始し、損害が大きな船はその場か、近くのデイタ島まで牽引して修理することになった。


 捕虜のほとんどはグレートスカル号に収容されることになり、その船底に放り込まれ海都まで連行中である。


 肺に骨が突き刺さったコロズ・ノーマもグレートスカル号の船医に助けられ、何とか一命を取り留めていたのだった。

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