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第95話「増殖なのじゃ」

 リスタ王国 王城 中庭 ──


 グレートスカル号を、シー・ランド海賊連合とノーマの海賊との戦に送ったリスタ王国では、表向き情報を集める以外にやることはなく、のんびりとした日々を過ごしていた。


 リリベットは、中庭のテーブルに座って紅茶を飲んでいた。


「こんな平和な日々が、もっと続けばいいのじゃ」

「本当にその通りですね。もう一杯飲みますか?」


 マーガレットが訪ねると、リリベットはカップを置いて小さく頷いた。マーガレットが紅茶を入れている間に、目の前の芝生で駆け回ってるヘレンに目を向けた。


「んんっ?」


 リリベットはふと違和感に気が付き、驚いた表情を浮かべる。ヘレンの周りにいる小人が、二人に増えていたのだ。


「小人が増えているのじゃ!?」

「あら、本当ですね?」


 紅茶を入れ終わったマーガレットが、顔を上げてヘレンの方を見るとそう呟いた。リリベットはヘレンに手招きをして近くに呼ぶ。それに気が付いたヘレンは一直線にリリベットに向かってくると、そのまま彼女に飛び込んだ。


「かぁさま~」

「うむ、元気いっぱいなのじゃ。それでヘレンよ、いつの間にか小人が増えているようじゃが?」


 リリベットが首を傾げて尋ねると、ヘレンも同じように首を傾げてから二パーと笑って答える。


「ふえたのじゃ~」

「ふ~む?」


 リリベットが小人たちを拾い上げてテーブルに置くと、ヘレンが彼女の膝の上によじ登ろうとしていた。リリベットはヘレンを抱き上げると自分の膝の上に乗せる。そしてマジマジと小人たちを覗き込むと、二人の容姿には若干の違いがあるようだった。


「同じようで……同じじゃない感じなのじゃ。最初からいたほうはどっちなのじゃ?」

「こっちがシブなのじゃ!」


 リリベットの疑問に、ヘレンは一人の小人を掴みながら答えた。やはり違いがわからないリリベットは、もう一人の小人を指差し訪ねる。


「この子はなんと言うのじゃ?」

「こっちは、リーフなのじゃ」


 いつの間にか名前まで付けられていた小人を見つめながら、リリベットは諦めたようにヘレンの頭を優しく撫でた。


「まぁ増えてしまったものは仕方がないのじゃ、しっかり面倒をみてやるのじゃぞ」

「うんなのじゃ~」


 リリベットに頭を撫でられて、ヘレンは両手を広げて喜ぶのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王寝室 ──


 数日後の夜、その報せはリリベットとフェルトが寝室に入ったころに訪れた。


 リリベットが鏡の前で身だしなみを整えていると、扉をノックする音が聞こえてきた。二人で寝室に入ったあとは、よほど緊急でなければ部屋に訪れる者はいない。リリベットは不思議そうに首を傾げると、扉に向かって声をかける。


「どうしたのじゃ?」

「お休みのところ申し訳ありません、陛下」


 声の主はマーガレットだった。リリベットは安心したように入出を許可すると、扉が開きマーガレットが、ゆくっりとした歩調でリリベットの元までくると、丁寧な所作でお辞儀をする。


「失礼致します。先ほど西の城砦より伝令が参りまして……」

「ふむ、用件はなんなのじゃ?」

「はい、ザイル連邦の外務大臣ココロット様が、陛下に拝謁を求めているとのことです」


 リリベットが驚いた表情を浮かべていると、フェルトが彼女に近付き尋ねてくる。


「ココロット殿が? おかしいな……訪問の予定などなかったはずだけど、それに陸路で?」


 通常ザイル連邦からは、グレートスカル号で乗りつけるため海路を使用する。今は連絡船としてリスタ王国商船団が代わりに運行されているが、まだ中間海域付近にいるはずである。


「うむ……今はどちらにお出でなのじゃ?」

「西の要塞で滞在中とのことです」


 リリベットは少し考えると、フェルトを見つめて尋ねる。


「そうなると王都に着くのは早くても、明日の朝じゃろうか?」

「うん、そうだね。おそらく昼頃かな」

「わかったのじゃ、ココロット殿にはいつでも歓迎すると伝えるのじゃ」

「はい、わかりました」


 マーガレットは再び丁寧にお辞儀をすると、リリベットたちの寝室を後にするのだった。




 リリベットが少し考えながら首を傾げていると、フェルトが改めて尋ねた。


「どうしたんだい?」

「う~む、時期や緊急性を考えても、此度の戦争の件じゃと思うのじゃが、いったいどのような用件じゃろうな?」

「そうだね、我が国の友好国と戦争になった場合に、解消されることになっている『平和条約』についてか……もっと明確な要請があるのかもしれないね」


 フェルトはそう言いながら、リリベットの肩に手を置いた。リリベットはビクッと震えるとソワソワしはじめる。


「とにかく、そろそろ寝ようか?」

「う……うむ、そうじゃな」


 リリベットは椅子に座ったまま、フェルトの方を向くと両手を広げてみせた。フェルトはクスッと笑うと、リリベットを抱き上げてベッドまで運びはじめる。


「そんなに甘えなくても、これぐらいの距離歩けるだろう?」

「お……夫に甘えれるのは、妻の特権なのじゃ!」

「仰せのままに、女王陛下」


 フェルトはリリベットをベッドまで運ぶと、そのまま自身もその横に寝転がる。


「残念だけど、今日はもう寝ないといけないね」

「なっ!?」


 リリベットが驚いて、飛び起きるように半身を起こすとフェルトに抗議の視線を送る。


「だって、明日は朝から忙しくなりそうだろう?」

「むむむ……」


 頬を膨らませたリリベットは軽くフェルトの胸を叩くと、そのままゴロンとベッドに転がりソッポを向いてしまった。フェルトは眉を寄せて困った顔をしながら、彼女の頭を優しく撫でていると、しばらくして微かな寝息が聞こえてきた。


「おやすみ、リリー」


 フェルトはリリベットの頬に軽くキスをすると、自身も明日に備えて眠りにつくのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 会議室 ──


 翌日、昼になる前ぐらいの時間に、ココロット大臣が王城にたどり着き、すぐに拝謁を求める報せがリリベットの元に届いた。リリベットはフェルトの他に宰相のみを同席させ、謁見の間ではなく会議室で会うことにした。


 リリベットたちが会議室で待っていると、近衛に連れられてココロット大臣が入室してきた。その姿にまずリリベットやフェルトが驚く、以前の猫の顔ながら気品に満ちた様子はなく、どことなくくたびれた様子だったからだ。


 ココロット大臣は、ザイル式のお辞儀をするとゆっくりと感謝の言葉を口にした。


「突然の訪問にも関わらず、ご拝謁にあずかり感謝致します、女王陛下」

「なに、友好国の使者殿であれば、この程度の融通はいくらでもつけるのじゃ」


 リリベットはそう答えながら、手で座るように示した。ココロット大臣は頷くと、指定された椅子に腰を掛けた。


「それで……今回は、色々と異例な訪問なのじゃが?」

「非礼に関してはお詫びいたします。我が国……いえ、ラァミル王子の頼みを聞いていただきたいのです」


 リリベットは、フェルトを一瞥して頷いた。そして、フェルトが改めて尋ねる。


「ラァミル王子のお願いと言うと、国家ではなく個人としてでしょうか?」

「はい、我が国はいまクルト帝国と戦争状態になろうとしています。単刀直入に申しますが、それを止めるのを手伝っていただきたいのです」


 リリベットは、困ったような表情を浮かべて告げる。


「ふむ、貴国とクルト帝国が衝突寸前なのは、我が国としても憂慮することではあるのじゃが、知っての通り我が国の力はとても小さいのじゃ」


 ココロット大臣は、机に手をついて身を乗り出す。


「失礼ながら海戦であれば、その限りではないはずです!」


 ココロット大臣の勢いに押されるように、リリベットは椅子に深く腰掛ける。


「つまり……グレートスカル号で、戦争自体を止めて欲しいという話じゃろうか?」

「よろしくお願いします。もはや、この戦いを止めるには、あの船の力を借りるしか……」


 懇願するようなココロット大臣の言葉だったが、リリベットはさらに困ったような表情を浮かべて、今度はフィンの方に視線を投げかけた。フィンは小さく頷いて答える。


「ココロット殿……申し訳ないが、グレートスカル号は現在遠洋に出ているため、しばらくは戻ってこないのだ」

「な……なんですって!? いつです、いつ戻りますか?」

「予定では、早くても一月後ぐらいだろうか?」

「そ……そんな……」


 ココロット大臣はショックのあまり緊張の糸が切れたのか、そのまま気を失ってしまうのだった。





◆◆◆◆◆





 『妖精リーフ』


 いつの間にか増えていた妖精のリーフは、以前からいるシブに比べるとしっかり者のようで、危ないところに行こうとするヘレンのスカートを掴んで止めたり、一緒になって行こうとするシブを叩いたりする姿が目撃されている。


 見た目はあまり変わらないが、やはり個性があるようだった。

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