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第83話「許可なのじゃ」

 リスタ王国 王都 ラフス教会 ──


 情報を集めてきたメンバーは、再びラフス教会に集まっていた。ここで資料をまとめながら待っていたジェニスは、何故か疲れた表情をしていた。


 戻ってきたシャルロットは、不思議そうに首を傾げながら尋ねる。


「ジェニス君、どうしたの? 疲れてるみたいだけど……」

「えっ、あぁ……大丈夫さ」


 そのまま全員が座ると、ジェニスがそれぞれの成果を尋ねた。


「それで……新たな情報は、何かあったかな?」


 ジークとラケシスは、首を横に振りながら答える。


「移民街のほうでは、あまり『幽霊船』の噂が広まってないようなんだ」

「うん、新しい情報はなかったわ」


 成果が上がらなかったジークは済まなそうな顔をしていたが、ラケシスは満足そうな顔でジークを見つめていた。そんなラケシスにイシスは小声で尋ねる。


「どうだったの?」

「ん~? 楽しかったわ~」


 はぐらかすラケシスと問い詰めているイシスがじゃれている間に、今度は貴族街に向かったレオンとカミラが報告をはじめた。


「残念ながら、僕たちもあまり成果はなかったよ」

「貴族の人たちは、『幽霊船』なんかに興味がない感じだった」


 シャルロットは、あまり雰囲気が変わらない二人を見て、進展がなかったと安堵のため息をつく。そして、キャプテンオルグとの約束を皆に話しはじめた。


「あたしの方は成果があったよ、キャプテンオルグが船を出してくれるって!」

「おぉ、それは助かるね。さすがシャルロットさんだ」


 ジェニスが褒めると、シャルロットは少し照れて笑っている。


「でもオルグさんが子供たちを船に乗せるには、親の許可がいるって言ってたんだよ。三日後に出航するから、とくにレオンさまは絶対許可を取るようにって念押しされたの」

「それは当然だろうね。レオン殿下は王太子だし、陛下の許可が必要だと思う」


 ジェニスの言葉に、レオンは微妙な表情を浮かべながら唸っている。


「う~ん、母様は許してくれるかな?」

「私は両親が東の城砦だから、世話役に頼むしかないな」


 ジークも困った顔をしていたが、さらに困った顔をしていたのがラケシスとイシスである。むしろ二人で手を取り合って少し震えていた。


「お父様はともかく……お母様は、絶対許してくれないわ!」

「お父様に頼んで、口添えしてもらおう」

「お父様がお母様に勝てるわけないじゃない!? ここは陛下にお願いして口添えしてもらうしか!」


 カミラやシャルロット以外は王族や貴族の出であり、親の許可を取るのに苦労しそうなのである。


「最悪、全員で参加できなくてもいいけど、可能な限り今日明日で許可を取るようにしよう」


 ジェニスがそうまとめると、メンバーたちは全員頷いた。こうして三日の出航に向けて、各自が準備を進めることになったのである。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 リリベットは、今日の政務を終らせて休んでいた。首の辺りに張りを感じたのか、右手で首を擦っている。そんなリリベットにマーガレットが声をかける。


「陛下、大丈夫ですか?」

「うむ……すこし張っているようじゃが、この程度であれば平気なのじゃ」

「そうですか? では、お茶でも用意しますね」

「うむ、頼むのじゃ」


 リリベットたちがそんな話をしていると、レオンとエアリス姉妹が尋ねてきた。何故か入り口を守っていた近衛隊長のラッツも後ろからついてきている。


 突然の訪問に、リリベットは首を傾げながら尋ねる。


「お主たちが、この部屋に来るとは珍しいのじゃ。いったいどうしたのじゃ?」

「実は、母様にお願いがあって来ました」

「ふむ? 申してみるのじゃ」

「三日後にオルグさんの船で皆とクルージングに行く話があって、それに参加したいんです」


 レオンが真っ直ぐな瞳でリリベットを見ながら頼み込むと、リリベットは唸りながら考え込みはじめた。


「レオン、海は危ないのじゃ」

「はい」

「自分が王太子なのは、自覚しておるのじゃろうな?」

「……はい」


 少し暗い顔になったレオンに、リリベットはそれ以上は言わず口を噤んだ。リリベットは指で机をトントンと叩きながら少し考えると改めて口を開いた。


「ラッツ、お主と何名かで護衛に付くのじゃ。それであれば許可するのじゃ」

「ありがとうございます! ラッツ隊長、お願いしますね」


 リリベットが、ここまで慎重になるのは自身の息子というだけでなく、レオンは王太子であり次代の国王であること、そして最近の情勢不安のためだ。つい先日も家族で乗った際に、挨拶程度とは言え海賊船に襲われたばかりである。


 その決定に対して面白くなかったのは、エアリス姉妹だった。


「え~……お父様と一緒?」

「ラケシス、今回は仕方がないよ」


 彼女たちにしてみれば父親同伴で遊びにいくようなものであり、多感なお年頃の女の子としては面白くなかったのだ。そんな二人にリリベットが尋ねる。


「それで……お主たちは、なんで来たのじゃ?」

「私たちも陛下にお願いがあってきました!」

「お母様の説得を手伝ってください」


 ラケシスとイシスの懇願に、リリベットは納得したように頷いた。


「なるほど父親では頼りにならぬから、私を頼りに来たのじゃな? う~む……ラッツよ、娘に良いところを見せるチャンスじゃぞ?」

「任せてください、きっとマリーを説得してみせますよ」


 ラッツは自信満々に言うが、娘たちは半信半疑の表情を浮かべている。


「確か、三日後と言っておったな? もしラッツが説得できなければ、明日もう一度くるとよいのじゃ」


 リリベットは伝えると、手を扉のほうに向けて部屋から出ていくように示した。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 客室 ──


 王室エリアの近くにある客室は、現在マリーの部屋として使われている。貴族街にはエアリス家の屋敷があるが、リリベットの子供たちの世話のために、ほぼ城に泊り込んでいる状態だ。


 ある意味ラッツとは別居のような生活をしているとも言えるが、ラッツも近衛として城に常駐しているため、休むときはこの部屋を利用している。


 マリーが部屋に入ってくると、ラッツがソファーで寛いでいた。マリーを見たラッツはソファーから立ち上がると、両手を広げて微笑みながら彼女を出迎える。


「マリー、お疲れ様っ!」

「あら……ラッツ、来ていたのね」


 軽くハグをしたあと、ラッツはマリーをソファーに座らせると、酒棚の扉を開けながら尋ねる。


「何か飲むかい?」

「ふふ……何か頼みごとかしら? じゃ軽いものを」


 見事に言い当てられたラッツは頭を軽く掻きながら、マリーのために軽めの酒を用意して、彼女の前に置きマリーの横に座った。


 マリーは微笑みながら、ラッツの入れてくれた酒に飲む。


「それで何かしら? 今は機嫌がいいから、浮気の懺悔でも腕一本で許してあげるわ」

「いや、それ許してないだろ! って、浮気なんてしてないからな!?」


 ラッツは慌てて否定したが、マリーは楽しそうに笑っている。


「いやね、ラケシスとイシスに頼まれたんだよ」

「あら、あの子たちがあなたを頼るなんて、珍しいこともあるのね」

「そうはっきり言われると、微妙に傷つくんだけど……」


 マリーは、クスクスと笑いながら尋ねる。


「何を頼まれたのかしら?」

「あぁ、三日後にレオン殿下たちとクルージングをするらしんだけど、オルグさんに親の許可を貰って来いって言われたらしいんだ」

「あの人にしては、まともな意見ね。レオン殿下……と言うより陛下に気を使ったのかしら?」

「俺も殿下の護衛として参加することになったし、ラケシスたちも参加させてあげたいんだがどうかな?」


 マリーは少し考えたあと、小さく頷くとラッツの耳元で囁いた。


「ふふ、娘のためだけじゃなくて、私のためにも頑張ってくれたら許してあげます」




 翌朝 ──


 学園に行く前にラケシスとイシスは、少し疲れた様子のラッツから、マリーの許可が下りたことが降りたことを告げられて大喜びするのだった。





◆◆◆◆◆





 『疲れたジェニスの謎』


 資料をまとめるためにラフス教会に残ったジェニスだったが、シャルロットの学園生活が気になっていたサーリャの質問攻めにあってしまい、ほとんど作業が進めれなかった。


「シャルちゃんと、レオン殿下は仲良くしているのかしら?」

「君もシャルちゃんは、可愛いと思うわよね?」


 などの質問に対して、どぎまぎしながら答えるジェニスの様子から、何かに気が付いたサーリャは


「最後はお互いの気持ち次第だけど、ラフス様は全ての愛を見守っていられるわ。頑張ってね!」


 と微笑みながら伝えるのだった。

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