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第80話「海洋ギルドなのじゃ」

 リスタ王国 海洋ギルド『グレートスカル』 ──


 レオン、シャルロット、ジェニスの三人は、海洋ギルドに訪れていた。この時間になると市場と同様、人は疎らで港の利用許可を得るために、訪れている船乗りや商談をする商人などがいるだけである。


 レオンたちは、ギルドに入ると真っ直ぐカウンターに向かい、受付嬢に話しかけた。


「こんにちは、レベッカさんはいますか?」

「えっ? あ、レオン王子じゃないですか!? 会長ですか? ちょっと待っててくださいね」


 突然のレオン訪問に驚いた受付嬢は待つように頼むと、急いで会長室にレオンの訪問を伝えに向かった。しばらくして戻ってくると、笑顔を浮かべながらお辞儀をした。


「会長がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」


 レオンたちは受付嬢に導かれて会長室に向かった。




 会長室に入ると執務机の上には山の様な書類が積んであり、その奥から声が聞こえてきた。


「珍しい客が来たもんだねぇ、いったい何の用だい?」


 書類の山の陰から出てきたのは、褐色の美女であり海洋ギルドの長でもあるレベッカ・ハーロードである。レベッカは入ってきた三人の顔を見て、不思議そうな顔をして首を傾げた。


「レオン殿下に、そっちの生意気そうなのは大臣ちゃんの息子だったか? それにシャルロットちゃんじゃないかい、本当に珍しい組み合わせだねぇ」

「な……生意気そうって」


 ジェニスが苦笑いを浮かべながらお辞儀をすると、レベッカに授業の一環で『幽霊船』の調査をしていることを伝えた。それを聞いたレベッカは軽く笑う。


「あははは、授業ってのは建前で、ちょっと冒険でもしてみたいってのが本音だろ?」

「う……さすがにバレてるや。それで最終的には実際に海に出て確認したいんだけど、船を貸して貰えないかな?」


 シャルロットが、そう頼むとレベッカは少し眉を吊り上げた。


「子供たちだけで海なんて、ダメに決まってるだろう?」

「そこをなんとかっ!」


 シャルロットが食い下がってみせるが、レベッカは首を横に振りながら、彼女の頭に手を置いて撫でると優しく諭した。


「海に住んでたシャルロットちゃんはともかく、他の子たちは船にも海にも慣れてないから、子供だけで船に乗せるわけにはいかんだろ? しかも『幽霊船』が出没するのは霧が濃い朝方だっていうしな」

「やっぱり、ギルドの方でも噂は把握しているんですね?」


 ジェニスが尋ねるとレベッカは頷き、机の上から紙の束を手にして、それを彼に手渡した。ジェニスはそれを読みながら考え込む。


「これは幽霊船に関する報告書ですね?」

「僕にも見せてくれ」


 レオンに請われて、ジェニスは報告書の一部を彼とシャルロットに渡した。


 その報告書には霧の濃い朝に出没していること、リスタ近海でも西域のみに現れること、巨大さ故にわかり難いがかなりの船足が出ていること、特に攻撃したり接近したりしてくることはないことが挙げられていた。


「あたしが知ってる噂より全然詳しい!」

「僕が調べてたものよりもだ……」

「えっ、ジェニス君、調べてたの?」

「ちょ……ちょっと噂を耳にしただけさっ!」


 シャルロットが首を傾げて尋ねると、ジェニスは慌てて首を振って否定した。そのやり取りをレオンは面白がって笑うと、ジェニスとシャルロットは少し照れた様子で黙ってしまった。


 レオンは報告書を見ながらレベッカに尋ねた。


「レベッカ会長、こんなに情報が集まってるなら、ひょっとしたらもう目星がついているんじゃ?」

「えぇ!?」


 シャルロットたちと共にレベッカも驚いた表情を浮かべていたが、彼女は微妙な笑みを浮かべると頷いた。


「なかなか勘がいいじゃないか! あぁ、私は幽霊船の正体を知っているよ」

「なっ!?」


 レベッカの衝撃の告白に、レオンたちは驚きながら尋ねる。


「えっ、幽霊船の正体っていったい!?」

「う~ん、教えてやってもいいんだが……それじゃ面白くないだろう? まぁアレコレ考えてみるといいさ」


 レオンたちは納得いかない顔をしながらも、今後の方針について話し合いを始めた。


「う~ん、これ以上は、教えてもらえそうもないな」

「とりあえず情報は貰えたし、皆と合流しない?」

「そうだね、それがいいと思うよ」


 これ以上、レベッカから情報や譲歩が得られないと悟った三人は、他のメンバーと合流することを決めた。レベッカにお辞儀をすると、そのまま部屋を出て行こうとしたが、レベッカはシャルロットを呼び止めた。


「シャルロットちゃん、ちょっと? レオン殿下とジェニスはいいわ」


 レベッカに呼び止められたシャルロットは首を傾げながら、レオンたちに先に行くように言うと一人で部屋に残った。


「あたしに何か用、レベッカさん?」

「シャルロットちゃんは、船に乗りたくないかい?」

「えっ、貸してくれるの?」


 シャルロットは突然の質問に驚きながら返したが、レベッカは首を横に振った。


「それはダメって言ってるだろ? 船の操り方とか、そう言うのを覚える気はあるのか? って話さ。もし興味があるなら、私が教えてやろうと思ってねぇ」

「本当に? パパは、あんまり教えてくれなかったんだよね」


 シャルロットの父ピケル・シーロードは、シャルロットを海賊にするつもりがなく、彼女には船についてはあまり教えてこなかったのだ。レベッカはニヤニヤしながら、からかうように言う。


「パパ?」

「ちっ、ちが……親父っ!」


 シャルロットは恥ずかしがりながら訂正したが、レベッカはニヤニヤしながら答えた。


「いやね、そのパパに頼まれたんだが……」

「親父っ!」

「はいはい、その親父……つまりピケルの旦那に頼まれたんだが、もしシャルロットちゃんが望むなら、船乗りの心得を教えてやってくれってね」


 シャルロットは目を見開きながら、信じられないといった様子で答える。


「えっ、あのパパが!? 今までどんなに頼んでも教えてくれなかったのに!?」

「娘の成長に心変わりがあったのか、ちょっと前に会合を開いた時に頼まれたんだ。それで、どうするんだい?」


 シャルロットは両手を突きあげると、元気一杯に答えた。


「もちろんっ! 教えてよ、レベッカさん!」


 それを聞いたレベッカはニヤリと笑うと


「そうかい、じゃ学校が休みの時はギルドに顔を出しなっ」


 と告げるのだった。こうしてシャルロットの船乗りとしての第一歩が始まるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 大通り近くの公園 ──


 情報を集めた七人は、予定通り大通り近くの公園に集まっていた。


「皆、集まったようだね?」


 最後に来たシャルロットを見て、ジークが確認するように尋ねると残りの六人は頷いた。


「それで成果はどんな感じだった?」


 ジェニスがそう尋ねると、班ごとに調べてきたことを発表していく。ジェニスはそれを一つずつ書き綴ると、最後に大きく頷いた。


「やっぱりどの証言でも、現れるのは霧の濃い朝方で、音も無く現われるけど近付いては来ない。西方海域の目撃証言が多い……ということで間違いないようだ。あと海洋ギルドのレベッカ会長は、正体を知っているらしい」


 ジェニスが幽霊船についてまとめると、ラケシスが質問をする。


「レベッカさんが、何か知ってるなら聞いたほうが早いんじゃない?」

「レオン殿下がいるのに答えてくれないんだから、聞くのは無理だと思うわ」


 すぐにイシスが答えると、ラケシスは首を傾げながら口を開く。


「そうかしら? どちらにしろ、海洋ギルドが関係しているなら、実はギルドの船なんじゃないかしら?」

「う~ん、どうだろうね。その割には船乗りたちが騒いでる気がするな」


 ジークの感想に、少し済まなそうにレオンが答える。


「確かにそんな気がしますね。それと頼まれていた船の手配ができなかったんだ」

「レオンさまっ、そのことだけどキャプテンオルグに頼ってみたらどうかな?」


 すぐにシャルロットが助け舟を出すと、レオンは頷きながら答えた。


「そうだね。オルグさんなら、ひょっとして手伝ってくれるかも?」


 ジェニスは、ポケットの懐中時計を取り出すと時間を確認した。そして、まとめるように発言をする。


「結構いい時間になってきたし、明日からも情報収集と船の手配をしていくしかないよ。皆もそれでいいよね?」

「うんっ!」


 全員が頷いたことで、明日以降も調査を継続することが決定したのである。





◆◆◆◆◆





 『一歩リード?』


 その日の晩、ラケシスがイシスの部屋を訪れていた。二人とも寝る準備を済ませており、薄手のネグリジェを着て、横並びにベッドに座っている。


 ラケシスは、イシスの腕に絡み付くように抱き付きながら尋ねた。


「今日はどうだったのよ? ジークさんと二人っきりなんて羨ましいっ!」

「どうって、別になにもなかったわ。ジークと一緒に漁師の人に話を聞いただけだし……」


 そう答えたイシスにラケシスは驚いた顔を浮かべた。


「ジークゥ? ちょっといつの間に、そんな風に呼ぶようになったのよ!?」

「えっ、あ……ジークがそう呼べって……きゃっ!」


 ラケシスに飛び掛れたイシスはバランスを崩して、二人でベッドに倒れこむ。


「まったくも~一人で仲良くなって、今度は私に譲りなさいよっ!」

「それはどうしようかな~?」

「そういうことを言う妹はこうだ~」


 ラケシスにくすぐられてジタバタと暴れるイシス、一頻り笑わされると反撃に移り、二人でジャレあって疲れると、そのまま一緒に寝てしまうのだった。

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