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第77話「試験なのじゃ」

 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 無事にリスタ王国へ帰還したフェルトは、南の城砦でミュゼやマオリィと別れたあと、城に戻り女王執務室でリリベットに報告に来ていた。部屋にはフェルトの帰還を聞いたフィンも訪れている。


 リリベットの対面にフェルトとフィンが座る形でソファーに腰を掛けると、マーガレットがお茶の用意をしてくれた。


 リリベットは紅茶に少し口をつけたあとに、澄ました顔で口を開いた。


「改めて、長旅ご苦労だったのじゃ」

「ありがとうございます、陛下」


 宰相の手前、二人とも対外的な態度で接していたが、それを見ていたマーガレットがクスッと笑う。リリベットはそれを睨むと、文句を言うのを我慢しているようだった。


「……それで? 帝国側の状況は、どんな感じなのだ?」


 話が進まないと思ったのか、宰相フィンが帝国の状況をフェルトに尋ねる。フェルトは小さく頷くと話しはじめた。


「帝国側は兄を中心に、アイゼンリストの件に対応することになっていました。帝都では交戦派と静観派に別れていて、当然交戦派が主流になってます。しかし、アイゼンリスト襲撃が獣人や亜人の手によることから、背後にザイル連邦がいると見て連邦ごと標的にしようとする派閥と、襲撃してきたノーマの海賊だけを標的にすべきだという派閥に別れています」

「ふむ……レオナルド殿も大変のようだな」


 フィンは、友人関係になったレオナルドの苦労を察して呟く。


「今はノーマの海賊討伐派が主流ですが、数日後には帝都にソマリの港で起こった出来事と、ザイル連邦の帝国への疑惑も伝わると思います。そうなれば、ザイル連邦侵攻派の勢いが増す可能性が高いですね」


 フィンとリリベットはそれを唸りながら聞いていたが、リリベットはあまり自信がなさそうに尋ねる。


「レオナルド殿には、ザイル連邦の……なんじゃったか、なんとか王子の話はしたのじゃろ?」


 リリベットの曖昧な質問に、フェルトはクスッと笑って


「ラァミル王子だね。もちろん彼が戦争を望んでいないことは話したけど、残念ながらクルト帝国もザイル連邦も好戦的な国だからね……どうなることか」


 と首を横に振りながら答えると、リリベットは難しい顔をしながら呟く。


「ふむ……やはり我々ができることは少なそうなのじゃ」


 しばしの沈黙のあと、リリベットが思い出したように頷いた。


「そう言えば……レベッカから聞いたのじゃが、シー・ランド海賊連合の船が、交戦旗を掲げているらしいのじゃ」

「交戦旗? 何かあったのかな? リスタ王国の船舶に被害は出ているのかい?」


 フェルトの質問に、リリベットは首を横に振った。


「特に被害は出て無いようじゃな。近付いてはくるのじゃが、王国旗を確認できる距離までくると引き返していくらしいのじゃ。どうやら特定の船を捜しておるようじゃな」

「おそらく狙いはノーマの海賊だろう。最近、連合との衝突が多いと聞いている」


 フィンの答えに、フェルトは少し考えたあとに呟く。


「……状況が混沌としてきましたね。海賊連合がノーマの海賊と対立、ザイル連邦とクルト帝国が緊張関係になりつつあり、クルト帝国やザイル連邦と海賊連合は元々仲が悪い」


 リスタ王国は平和そのものであり、穏やかな日々を過ごしているが、この国を取り巻く情勢は日に日に悪化しつつあった。


「ふむ、とりあえず情勢を見守るしかないのじゃ。宰相は情報を今後とも集めて欲しいのじゃ」

「わかりました、お任せを」


 リスタ王国も方針を決め、今後も情勢を見守ることに決定した。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国が方針を決めてから、二ヶ月経過していた。その間、リスタ王国を含む諸国や海賊たちに大きな衝突はなく。シー・ランド海賊連合とノーマの海賊の小競り合いがあった程度である。


 もちろん表向きは動きが見えないだけで、宰相の放っている密偵によると、クルト帝国で兵たちの移動や訓練を行っており、着々と戦争の準備を始めているとのことだった。


 そんな中、リスタ王国の王立学園では、中等部への進級試験が行われようとしていた。


 今回の試験に参加しているのは、レオン、シャルロット、カミラの三人と、その他成績の上位者である。ジェニスは成績優秀であるため試験は免除されていた。レオンの成績も免除されるべきものだったが、王家の力で進級できたと思われたくないために、わざわざ試験を受けることを決めたのだった。




 リスタ王国 王立学園 教室 ──


 試験が始まる前、レオンが座っている席にシャルロットとカミラが訪れていた。シャルロットは、その性格に反して成績が良いのだが、カミラの成績は平凡であった。その為か試験を前に、緊張でガチガチになっている。


そんなカミラにシャルロットが声をかける。


「カミラ、そんなにガチガチで大丈夫なの? もうすぐ試験が始まる時間だけど」

「だ、だ……大丈夫に決まってるじゃない! わ、わたしを誰だと思っているの!?」


 言葉とは裏腹に自信の無さが見てとれるカミラに、レオンは微笑みながら声をかける。


「カミラさん、大丈夫! 君なら落ち着いてやれば、解けない問題はないはずだよ」

「えっ、そ……そうだよね! 頑張るわっ!」


 レオンの言葉で多少は落ち着いたカミラは、ぎこちなく笑っている。シャルロットはそんなカミラの肩に手を置きながら励ます。


「カミラだって、一緒に勉強頑張ったんだから大丈夫だよ!」


 この二月程はレオン、ジェニス、シャルロット、カミラの四人で、放課後に図書館で試験対策をしていたのだ。


「そうよね……って、あんただってギリギリなはずじゃない、シャルロット!」


 手を上げて怒りながら文句を言うカミラは、もう緊張らしきものはなかった。




 そんな感じで話をしていると、教室にタクト・フォン・アルビストン学園長が入ってきた。


「試験を始める。皆、決められた席に着くように」


 アルビストン学園長が静かな口調で告げると、試験を受ける生徒たちは一斉に自分の席に着いた。学園長は一番前の席の生徒に問題用紙と解答用紙を手渡すと、生徒は一枚ずつ取って他の生徒に回していく。


「配っている間に諸注意だが、数学、国語、社会の三科目を各一時間、間に十分ずつ休憩がある」


 学園長が説明をしている間に、問題用紙と解答用紙が配られた。学園長は配り終えたのを確認すると、球体の魔道具に手を触れる。


「それでは始めるぞ? まずは数学からだな、時間は一時間。終了時には、この珠から音が出るので筆を置くように……それでは始め!」


 その言葉と共にアルビストン学園長が触れていた珠が一瞬輝き、数字を刻みはじめる。こうして、中等部への進級試験が始まったのだった。




 そのまま順調に試験は進み、数学、国語、社会と三教科が無事に終了すると、カミラとシャルロットは机に潰れるように伏せていた。他の生徒たちも何名かは、試験の重圧から解放されたことに安堵していた。


 そんな生徒たちを見て、アルビストン学園長は締めの言葉を始めた。


「皆ご苦労だった。もし今回の試験が残念な結果であっても気に病むことはない、また挑戦すればよいのだ。君たちは若いのだからな」


 この中等部への進級試験は、半年に一度程度のタイミングで試験があり、初等部が修了しても年齢制限を超えていなければ、何度でも受けることができる。


「それでは結果は、玄関ホールに二日後に張り出すこととする。その時の紙にも書いてあるが、合格者は中等部の講堂に集まるように」


 学園長はそう言い残すと、教室から出て行った。


 学園長と入れ替わりに、外で待っていたジェニスがレオンのところへ歩いてきた。


「どうでしたか? レオン殿下」

「うん、大丈夫だと思う」


 レオンの返答からは自信が窺えた。シャルロットとカミラは疲れているのか、ゆらゆらとゆっくりな歩調で近付いてきた。ジェニスは、そんな彼女たちにも尋ねる。


「君たちは、どうだったんだい?」


 シャルロットは苦笑いを浮かべながらも親指を立てた。


「たぶん、大丈夫……きっと!」


 カミラは頭を抱えながら、首を横に振っていた。


「だ……ダメかもしれない」


 カミラの呟きによって、四人の生徒たちの間に微妙な空気が漂うのだった。





◆◆◆◆◆





 『試験明け』


 微妙な空気が漂っていた四人だったが、シャルロットが明るい声で


「試験も終わったし、何か甘いものでも食べに行こう!」


 と声を掛けると、レオンは頷きながら答える。


「いいね。学食かな?」

「せっかくだから教授通りのアムリタまでいかない?」


 シャルロットの提案に、ジェニスとレオンも頷く。そして、レオンはカミラに向かって微笑みながら誘う。


「ほら、カミラさんも行こう! 甘い物を食べれば元気になるって母様も言っていたよ」


 レオンに誘われたことで、カミラはパァと明るい顔になった。


「はいっ、レオンさまっ!」


 こうしてレオンたちは、アムリタで試験明けをお茶会を楽しんだのだった。

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