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第60話「懇談なのじゃ」

 マオリィがリスタ王国に訪れてから十日ほど経過した頃、王城の中庭ではレオン(・・・)主催のお茶会が開かれようとしていた。事の次第は二日前、リリベットの元に訪れたミュゼの相談に端を発する。



 リスタ王国 王城 子供部屋 ──


 リリベットが午前で公務を終らせて子供たちと過ごしている時、紅王軍(クリムゾン)の隊長ミュゼ・アザルがリリベットを尋ねてきた。


「女王陛下、御団欒のところ申し訳ありません」

「うむ、大丈夫なのじゃ。何か火急の用じゃろうか?」


 ミュゼは首を振ってから、少し恐縮したように話を切り出した。


「いいえ、実はマオリィのことで相談がありまして……」

「ふむ、あの子か……どうじゃろうか、生活には慣れたかの?」


 リリベットの問いにミュゼは苦笑いを浮かべながら答えた。


「あはは……慣れたと言えば、とても慣れてますね」

「その物言いじゃと、何か問題があるようじゃな?」


 リリベットが首を傾げながら尋ねると、ミュゼは最近のマオリィの生活についてリリベットに報告をはじめた。


 その報告によると、マオリィは朝早くから起きて寝具を片付けると、同じく起きているコウ家の者たちと朝の修練を開始する。そして食事をしたあとは、休憩を挟みながら延々と紅王軍(クリムゾン)の修練に参加していると言うのだ。


 それを聞いたリリベットは、頭を抱えながら呟いた。


「多少はそんな気もしていたのじゃが……まさか、そこまではとはな。それでミュゼはどうしたいのじゃ?」

「やはり子供らしいことをさせたいと思っております。しかし、私の周りに同年代の子を持つ者がおらず、仕方がなく陛下に相談に参った次第です」


 ミュゼはそう言いながら頭を下げた。リリベットは困った表情を浮かべると、側にいたマリーに話を振る。


「う~む……どうしたものじゃろうか、マリー?」

「そうですね。聞いた話では世間知らずのお転婆みたいですから、まずは同年代の子と接するところからじゃないでしょうか?」


 マリーの提案に、リリベットは頷いた。


「確かに、同世代の子とのふれあいは必要かもしれぬのじゃ……修練以外であの子が興味を示すものは何かないじゃろうか?」

「う~ん……あ、そういえば」

「何か思いついたか?」

「はい、意外と甘いものが好きなようです。訓練の合間にお菓子を差し入れると、訓練を放ってでも食べてますね」


 ミュゼの話に、リリベットはクスッと笑った。


「なんじゃ、ちゃんと子供らしいところもあるのじゃな」


 リリベットの言葉に、マリーは何か言いたげにクスクスと笑っている。リリベットは咳払いをすると、改めてミュゼに提案した。


「ごほんっ……お菓子に興味があるのじゃったら、お茶会を開くのはどうじゃろうか?」

「お茶会ですか? 陛下が時々開催しているというアレですか?」


 リリベットは首を軽く横に振る。


「今回は私の主催では意味がないのじゃ、そこで同年代のレオンに主催させようと思うのじゃ。レオンも学園に通い、親しい友人も増えたじゃろうし良い機会なのじゃ」


 そこへ丁度、学園からレオンが帰ってきた。妹の様子を見ようと子供部屋に入ってくると、リリベット、マリー、ミュゼの三人から見つめられて、少し驚いた表情を浮かべている。


「た、ただいま戻りました、母様」

「うむ、丁度よいところに戻った、ちょっとこちらに来るのじゃ」


 リリベットがそう言いながら手招きをすると、レオンは大人しく彼女の元に近付いてきた。


「レオン、お主にお茶会を主催して欲しいのじゃ」

「と、突然ですね?」


 レオンがキョトンとした表情で首を傾げたので、リリベットはレオンに事の次第を説明する。


「……つまり友人を誘って、その子の歓迎会を開くようなものですか?」

「ふむ、まぁそうじゃな」


 レオンは少し考えたあとに頷いた。


「わかりました、僕の友人に参加できるか聞いてみます」

「うむ、マリーはレオンに付いて、色々手伝ってやってほしいのじゃ」

「はい、陛下」


 こうしてレオン主催のお茶会が、開催されることになったのである。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 中庭 ──


 レオンの呼びかけに応じた参加者は、総勢で二十名ほどになった。まずお菓子が目当てのヘレン、親友のジェニスとラリー、ラリーの姉であるラケシスとイシス、双子に呼ばれたジーク、レオンに呼ばれればどこにでも付いて行きそうなシャルロットとカミラ、その他学園の友人たちが数名である。


 かなりの人数が集まってしまったため、お茶会というよりはビュッフェ型式のパーティのような形式になっていた。


 そんな中、ミュゼに連れられてマオリィが中庭に入ってきた。同じような子供がたくさんいることに驚いたのか、キョロキョロと周りを見回している。


 そこにレオンが声を掛けた。


「はじめまして、君がコウマオリィさんだよね? 僕はレオン・リスタだよ」


 レオンはそう言いながら握手を求める。しかし、マオリィはやはり手は取らず、掌に拳を当てるジオロ式の挨拶をした。


「ボクはコウマオリィなのだ」

「それではこちらに、皆に紹介するよ」


 マオリィ以外は学生なので、レオンのエスコートで一人ずつ挨拶をしていく。


 シャルロットとカミラは、レオンにエスコートされているマオリィを羨ましがっていたが、その他の生徒たちは興味津々でマオリィに質問してきた。


「その挨拶ってジオロ式なの?」

「ボクだって、可愛い~」

「変わった服だねっ! ちょっと触らせて~」


 など、あまり他国に出ないリスタ王国の子供たちにとって、他の大陸にあるジオロ共和国の文化は興味をそそるものだったのだ。マオリィも最初は押され気味だったが、徐々に慣れてくると拳法の構えを見せたりして、すぐに馴染んでいった。


 一通り挨拶が終わるとレオン中心に立ち、一同に挨拶をはじめた。


「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます。今回は交流の一環として、この場を設けさせていただきました。是非楽しんでいってください」


 レオンがお辞儀をすると、暖かな拍手が巻き起こった。レオンは少し照れたような表情を浮かべている。


 今回のお茶会は大きな長机が中庭に持ち込まれ、一口大で食べやすいケーキやクッキーなどが並べられており、給仕にはマリーを筆頭に女王付きメイドが数名と、普通のメイドと執事が数名控えていた。


 丸机や椅子もいくつか用意され、数グループにそこに座り分かれて歓談を始めていた。その一つ、レオンのテーブルにはマオリィとカミラ、あと同じく初等部の女生徒が一人座り、シャルロットは出遅れて、ジェニスやラリーたちと一緒の席に座っていた。


「カミラァ、何が『ちょっとシャルロット、あのケーキおいしそうよ?』だ! あたしがちょっと目を離した隙に、レオンさまの隣に座って!」


 シャルロットが歯軋りしながらカミラを睨みつけると、カミラは声を上げないように手を頬に当てて高笑いのポーズを取っていた。ジェニスは苦笑いを浮かべながら、そんな彼女を慰める。


「まぁまぁ落ち着いて、今回はマオリィさんの交流がメインだから、しばらくしたら席が代わるはずだよ」

「むむむ……そ、そうよね。ありがとう、ジェニスくん」


 シャルロットは澄ました顔で、給仕のメイドが淹れてくれた紅茶を飲むと、落ち着いた様子で短く息を吐いた。





◆◆◆◆◆





 『見守る大人』


 レオンがマオリィを連れて紹介をしている頃、その様子を二階の窓から見ていたリリベットは、横に控えているマーガレットに尋ねる。


「レオンは上手くやっているようなのじゃ……ところで、妙に女の子が多い気がするのじゃが?」

「レオン殿下はルックスも可愛いですし、女子に人気が出そうですからね。それに今回はジーク君もいますし」


 男子はレオンの他にラリーとジェニス、そしてジークの四名しかおらず、残りは全て女生徒だった。その女生徒も、上から見るとジーク派とレオン派に二分しているのがわかる。


「むむむ……レオンの将来が少々心配なのじゃ」

「レオン殿下なら、きっと上手くやりますよ」


 大人たちが見守りながら、レオン主催のお茶会が始まるのだった。

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