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第55話「従士なのじゃ」

 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 リリベットが執務机に向かって報告書に目を通していると、前室の扉をノックする音が聞こえてきた。


 リリベットが顔をあげてマーガレットを一瞥すると、彼女は会釈をして前室の扉を開けて、扉の向こう側の人物と二言三言交してから、リリベットの近くまで戻り口を開いた。


「陛下、騎士団のコンラート・アイオ殿が謁見を求めてますが?」

「コンラートが? 何か報告じゃろうか? まぁとにかく会うのじゃ」

「はい、わかりました」


 マーガレットは再び会釈をしてから執務室を出ると、コンラートを連れて戻ってきた。




「陛下、お目通りいただきありがとうございます。騎士団所属従士コンラート・アイオ。騎士団長ミュルン・アイオの命によりご報告にまいりました!」


 コンラートが敬礼してから、そう告げるとリリベットは軽く首を傾げて尋ねる。


「火急の用件じゃろうか? いつもなら報告書で済ませるじゃろう?」

「いえ、いつも通りの報告になりますっ!」


 コンラートが差し出してきた報告書をマーガレットが受け取ると、封を切ってからリリベットに渡した。リリベットはその内容を読んでから、さらに首を傾げた。


「確かにいつも通りじゃな? 他には何かあるのか?」

「えっと……いえ、以上であります!」

「ふむ……では、下がってよいのじゃ」

「はっ!」


 コンラートは何かを言いたそうな顔をしていたが、再び敬礼をすると執務室を後にするのだった。微妙な顔をしたリリベットはマーガレットに尋ねる。


「いったい何じゃったのじゃ?」

「さぁ? ひょっとしたら報告のついでに王城か街のほうに、用があったのかも知れませんね」


 マーガレットの言うとおり、特に用がなくても登城しておきながら、騎士家の者が女王に謁見を求めないのは無礼に当たるとされている。


「そのような慣習は、廃止にしてもらっても構わぬのじゃが……」


 リリベットは、少し面倒くさそうにそう呟くのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 大通り ──


 リリベットへの報告が終わったコンラートは、キョロキョロと何かを探すように王都の大通りを進んでいた。


 それを見た子供たちは、綺麗な鎧を着て馬に乗っているコンラートを見て、目を輝かせながら集まってきた。


「わぁ、騎士様だ!」

「馬鹿っ、服の色を見ろよ。従士様だよ!」


 小さな子には区別は付かなかったがコンラートは青い服を着ており、騎士の着る黒い服とは区別されている。百名しかいない騎士はもちろん人気なのだが、騎士の卵とも言える従士も国民から人気を集めていた。


 彼は馬から下りると、子供たちに尋ねる。


「君たち、この辺りに教会はないかな?」


 子供たちはお互いの顔を見合わせると、首を横に振って答えた。


「教会って何? 神殿なら海のほうにあると思うよ」

「そうか、ありがとう。では、またな」


 そう言って子供たちと別れると、コンラートは再び馬に乗って大通りを進み始めた。


「やっぱり陛下に聞いておけば、よかっただろうか?」




 しばらく進むと、今度は巡回中の衛兵隊と遭遇した。王都のことなら警備を担当している衛兵隊に尋ねるのが一番だと思ったコンラートは、馬から下りると衛兵隊に話しかけた。


「ちょっといいかな?」

「はっ、何でしょうか?」


 衛兵の二人は敬礼をして尋ねる。


「この辺りに教会はないだろうか?」


 その質問に、衛兵たちは少し自信がなさそうに答えた。


「教会ですか? どこかで聞いたような?」

「う~ん、移民街のほうにあった気がしますね」


 ここでも曖昧な返事が返ってきた。これには理由があり、リスタ王国の国民はそもそも宗教には熱心ではなく、教会という建物自体に馴染みがないのだ。


「移民街は西の方だったな?」

「えぇ、あの道を右に曲がって、後は真っ直ぐ進めば着きますよ」


 衛兵の一人が、少し先の十字路を指しながら教えてくれた。コンラートは礼を言うと、また馬に乗って進み始めた。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 移民街 ──


 移民街に足を踏み入れたコンラートは、物珍しそうに建物を眺めながら進んでいた。彼は王都出身ではなく西の城砦の出身で、今は東の城砦に勤めているため、ここ数年で発展した移民街は初めて来たのだ。


「変わった場所だな」


 多種多様の民族が一時的に入居するエリアだけあって、様々な文化が融合しており、国内にいながら違う国に迷い込んだような錯覚に陥るほど、風変わりな街なのだ。


 キョロキョロしながら街道を進んでいたコンラートに、道に水を撒いていた中年の主婦が声を掛けていた。


「そこの鎧の兄さん、どうしたんだい? 何か困りごとかね」

「えぇ、教会を捜しているのですが、ご存知ありませんか?」

「教会? 教会ってヨドス爺さんのところかね? それならもう少し進んだところを右だよ」


 ようやく具体的な場所が聞けたコンラートは、微笑むとお礼を言った。


「ありがとうございます、マダム」

「どうってことはないさね。迷ったら役所で聞いてみるものもいいよ」


 再び感謝を表すためにお辞儀をしてから、コンラートはさらに街道を進むのだった。




 しばらく進んでいると、道端で蹲る老人がいた。コンラートは慌てて馬から降りると、その老人に駆け寄った。


「大丈夫ですかっ!?」

「うぅ、腰が……」


 老人は腰を擦りながらうめいている。どうやら腰を痛めて歩けなくなったようだった。


「すぐ医者を呼んできます!」


 コンラートが立ち上がると、その老人は彼の足を掴んでそれを止めた。


「あ……ありがたいのですが、家に戻れば娘が治してくれますので……」

「わかりました」


 コンラートは出来るだけ丁寧に老人を抱き上げると、馬の鞍の上に乗せて紐で簡単に固定した。


「それで、家はどちらですか?」

「は、はい……あちらですじゃ」


 老人はなんとか街道の先を指して行き先を示した。コンラートは極力揺れないように、馬を引いてゆっくりと歩き始めた。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 ラフス教会 ──


 コンラートと老人はラフス教会に辿りついていた。彼は馬を止めて教会の正門をノックする。


「すみません、誰かおられますか?」


 すると教会の奥のほうから、綺麗な声が聞こえてきた。


「は~い……どちら様ですか?」


 サーリャが扉を開けて、そこに立っていた人物と目が会うと驚いた顔をした。


「あ、貴方は確か……演習の時の……」

「あぁ、やっと逢えましたね。お嬢さん……と言いたいところなのですが、この老人が倒れているところに遭遇しまして」


 コンラートは一歩下がってサーリャの視界を空けると、彼女の目には馬の上で苦しんでいる祖父の姿が映っていた。


「おじいちゃんっ!」


 サーリャはそう叫んでヨドスに駆け寄ると、彼の肩に触れながら尋ねる。


「大丈夫なの? どこが痛いの?」

「うぅ……腰じゃよ、情けない限りじゃ……」


 ヨドスが痛みに耐えながら答えると、サーリャはヨドスの腰に軽く手をやって小さく息を吸い込んだ。


「愛の女神ラフスよ。その慈愛を持って、この者の痛みを和らげたまえ」


 サーリャが呟くように祈りの言葉を捧げると、彼女の手は白い光で輝き始め、苦しそうだったヨドスの顔が徐々に安らいだ表情に変わっていった。


 それを後ろで見ていたコンラートは、関心したように呟く。


「へぇ、これが神官が使えるっていう癒しの光か、初めて見ましたよ」

「あ、おじいちゃんを連れてきていただいて、ありがとうございます」


 サーリャが頭を下げると、コンラートは首を横に振って答えた。


「いえ、私が居合わせたのは偶然ですから。それよりお爺様を教会内に運びましょう」


 そして、紐を解くとヨドスを馬から降ろし、担ぎ上げると教会内に入って行ってしまった。サーリャはボーっとその背中を眺めていたが、ハッと気がついて慌てて後を追うのだった。





◆◆◆◆◆





 『実は仲良し?』


 王立学園の食堂で、シャルロットとカミラが食事後に話をしていた。レオンのことでいがみ合っている二人だが、アイシャの件で同盟を組んで以来、少しは仲良くなったようだった。


「サーリャお姉ちゃんって優しいし美人だし、よく男の人に声を掛けられてるけど、恋とかにはあまり興味ないみたいなんだよね」

「へぇ……でも神官さまなら、そんなもんじゃない?」


 あまり興味なさそうなカミラの返事に、シャルロットは不満そうな顔をしている。


 そんな話をしていると、食堂から見える廊下にレオンが通りかかっているのを、カミラが見つけた。


「あっ、レオンさま! ほら、先にいくわよ! シャルロット」

「ずるいぞ、カミラ!」


 いち早くレオンを追いかけたカミラに、シャルロットは慌てて席を立つとカミラの後を追いかけるのだった。

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