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第52話「お仕置なのじゃ」

 リスタ王国 王城 子供部屋 ──


 宰相一家が帰国してから十日が経過していた。慌しかったリスタ王国もようやく落ち着きを取り戻しつつあった。公務を終えたリリベットが子供部屋に訪れると、ヘレンが大きすぎる帽子を被り、紙を丸めた棒状のものを振り回してラリーと遊んでいた。


 リリベットは、少し眉を上げるとマリーに尋ねた。


「あの子たちは何をしておるのじゃ?」

「海賊ごっこですね」


 子供たちを見つめながら答えたマリーに、リリベットは首を傾げながら再び尋ねた。


「海賊ごっこ?」

「はい、この前買っていただいた『しーらんどだいかせん』が大層気に入ったようで……」


 リリベットが微妙な顔をしながらソファーに腰を掛けると、マリーは早速お茶の準備を始めた。海賊ごっこに夢中になってたへレンが、ようやくリリベットの存在に気がついて駆け寄ってきた。


「かぁさま~」

「ふむ、楽しそうでなによりなのじゃ」


 ヘレンは二パーと笑うと、棒を掲げながら宣言する。


「ヘレン、かいぞくになるのじゃ!」

「却下なのじゃ」


 リリベットが即答で答えると、ヘレンが首を傾げながら尋ねてきた。


「きゃっかなのじゃ?」

「海賊になることは、ダメということなのじゃ」


 ヘレンは目を見開き地団駄を踏んで暴れ始めた。


「やぁ! ヘレン、かいぞくになるの~」

「却下なのじゃ」


 リリベットが首を横に振ると、癇癪を起こしたヘレンが棒を振り上げた。


 しかし振り下ろした時にはすでに棒がなくなっており、ヘレンは戸惑いながらキョロキョロと辺りを見回している。そんなヘレンの後ろから声が聞こえてきた。


「ヘレン殿下、棒で人を殴る……ましては陛下を殴るなどいけません!」


 ヘレンが後ろを振り向くと、棒を片手にマリーが仁王立ちしていた。少し怒ったマリーに怯えた表情のヘレンは、逃げ出してラリーの後ろに隠れてしまう。


 それを見たリリベットは、ため息を付くと告げた。


「ふぅ……これはお仕置が必要なようじゃな。マリー、ヘレンは三日間おやつ抜きなのじゃ」

「かしこまりました、陛下」


 マリーは深々と頭を下げると、ヘレンが泣きながらラリーの後ろから駆け寄ってきて、リリベットのスカートを掴んだ。


「やぁ、やぁなの~、やぁ~」


 リリベットは、そんなヘレンを抱き上げると背中を優しく撫でた。


「ヘレン、悪いことをしたときはどうするのじゃ?」

「うっ、うぅ……ごめんなさぁぃ……」


 ヘレンは謝りながら、リリベットの服をギュっと掴んだ。リリベットも微笑みながら、彼女の頭を撫でて落ち着かせていく。


 しばらくして泣き止んだヘレンに、リリベットは言って聞かせる。


「ヘレン、まず棒で人を殴ってはいけないのじゃ」

「……うん」

「海賊ごっこはいいが、王族は海賊にはなれないのじゃ」

「おうぞく?」


 ヘレンは首を傾げて尋ねてきた。


「う~む、王族とは王様の家族のことなのじゃ。ヘレンは母様のことは好きじゃろう?」

「うんっ」

「大きくなったら、母様みたいになれるとしたら嬉しいじゃろう?」

「うんっ、嬉しいのじゃ~」


 ヘレンがニッコリと笑うと、自然にリリベットも笑みがこぼれた。


「母様は王様なのじゃ。海賊より強いし偉いのじゃ!」


 リリベットが自信満々に言うと、ヘレンは目を輝かせながら答えた。


「ヘレン、おーさまになるのじゃ~!」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 海洋ギルドの応接室 ──


 次の日の昼過ぎ、海洋ギルドグレート・スカルの応接室には、四人の男女が集まっていた。一人は外務大臣としてのフェルト、現ギルド長のレベッカ、その祖父であるオルグ、そしてシー・ランド海賊連合から、シャルロットの父親であるピケル・シーロードが来ていた。


 まずフェルトが口を開く。


「まずはお集まりいただき、ありがとうございます。今回は海賊連合傘下のシー・サーペントがリスタ船籍の船、しかもリスタ女王の乗っていた船に向かって砲撃した件ですが……」


 フェルトがそこまで言うと、ピケルは深々と頭を下げた。


「その件に関しては申し訳ない。我々としましても、あの御仁には苦労をしておりまして」


 そこにオルグが豪快に笑い飛ばしながらピケルに尋ねる。


「がっははは、あの婆はやっぱり変わってねぇようだなぁ?」

「てか、爺様が調子に乗ってビックスカルなんて、掲げてたからじゃないのかい?」


 レベッカが呆れた口調でそう言うと、オルグは笑いながら答えた。


「がっはは、まぁそうだろうなぁ。昔っから俺を見かけると、海でも陸でも一発かましてくるような女だった。若い時は、なかなかいい(けつ)してたんだがなぁ……」


 どこか遠い目をしているオルグの肩を、レベッカがパチンっと叩く。


「尻の話はいいんだよっ!」


 オルグが渋々黙ると、今度はフェルトが口を開いた。


「とりあえず我が国と海賊連合は、お互い不干渉が決まりですので、今後はこのようなことが無いようにお願いしたいのです」

「わかっております、フェルト殿」


 ピケルがそう答えると、フェルトは満足そうに頷いた。


「ところでピケルよぉ、シー・サーペント(あいつら)は何であんな所にいたんだ? あいつらの縄張りは、もっと北側だろう?」


 オルグがヒゲを擦りながら尋ねると、ピケルは穏やかな顔から真剣な表情に変わった。


「なんでも、どこぞの海賊がシー・サーペントに砲撃したらしいです。売られた喧嘩は残さず買うような人ですから、追いかけていたらあんな海域まで流れてたようですね」

「シー・サーペントに砲撃だぁ? どこの馬鹿だよ、あの婆のしつこさを知らねぇ若造か?」


 オルグの言いように、ピケルは苦笑いを浮かべていたが、最近のノクト海についての説明を始めた。


「最近ノクト海では、ノーマの海賊と小競り合いが頻発しているんですよ」

「ノーマっていや、はるか北方のハイエナ野郎じゃねぇか?」


 オルグが海賊をしていた頃は、ノーマの海賊の規模も小さかったが、今ではかなり傘下も増えていた。それでもシー・ランド海賊連合に比べれば小規模な団体なのだが、そんな海賊団が何故かシー・ランド海賊連合に嫌がらせを仕掛けてきているのだ。


 海賊は無茶苦茶に見えて、稼ぎにならないことはしない合理主義者が多い、それなのに一見無意味で不合理なことを何故してきているのか、そこがピケルもオルグにもわからないことだった。


「これまでも小競り合いはありましたが、それぞれ縄張りにしている海域には手を出してこなかったんですがね。このまま行くと大規模な海戦になるかも知れませんな」

「かっかかか、海戦おおいに結構! その時はワシらもいくぜぇ」


 そう答えたオルグに、フェルトは首を振って答える。


「我が国は戦争に参加するつもりはないですよ、オルグさん」

「カー! そんなこと言うなよ。ピケルたちには、あの大戦での借りもあるだろうがぁ」


 フェルトは唸りながら少し考える。


「それを言われると困るな……まぁリリーや宰相閣下の意思次第かな」

「それなら安心だぁ、陛下なら必ず許可してくれるぜぇ、あいつはよくわかってるからなぁ」


 海戦と聞いて年甲斐もなくはしゃいでいる祖父を、見守っていたレベッカは頭を抱えながら呟いた。


「まったく……嫌な予感しかしなよ」





◆◆◆◆◆





 『繰り返される日々』


 ヘレンがお昼寝をしている隙に、マリーは厨房に来ていた。王城のコックたちは夕食の準備を進めていたが、マリーは邪魔にならないように隅の方で、寝かせておいたクッキーの種を鉄板の上に並べていた。


 コック長のコルラード・ジュスティは、そんなマリーに声をかける。


「マリー嬢、今日もヘレン王女のお菓子作りか?」

「えぇ、起きたらオヤツの時間ですし、陛下にオヤツ抜きと言われて泣いてしまったので」


 なぜかニコニコしているマリーに、コルラードが不思議そうに尋ねる。


「何か良いことでもあったのか?」

「ふふふ……いえ、思えば女王陛下も、お菓子に釣られていたなと思い出しまして」


 マリーはどこか懐かしい情景を、思い出すように微笑むのだった。


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