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第51話「帰国なのじゃ」

 リスタ王国 王都 リスタ港 ──


 途中でトラブルはあったものの、黒鮫号(ブラックシャーク)は無事にリスタ港に戻って来ていた。オルグが係留ロープを投げると、待っていた船乗りはロープをビットに繋いだ。


 タラップを船に取り付けると、リリベットを先頭にクルージングを楽しんだ面々が降りてきた。穏やかな雰囲気で、出迎えた皇軍や近衛たち声を掛けていく。


「ジャハル、剣を返すぞ」


 レオナルドが腰から外した剣を待っていたジャハルに差し出すと、彼は一歩下がりながら、それを受け取り自らの腰に戻した。


「ご無事で何よりです」

「あぁ、特に問題はなかったよ。お前たちは心配のしすぎだ」


 実際は海賊船と遭遇するというトラブルが発生していたが、レオナルドは軽く笑って誤魔化していた。


 もう一人、リリベットたちを待っていた人物がいた。やや紫よりの黒髪をしており、褐色の美女で水着のような薄着をしている女性の名はレベッカ・ハーロード。海洋ギルド『「グレートスカル』の現会長で、オルグの孫娘にあたる女性である。


「レベッカ! どうしたのじゃ?」

「陛下、元気そうだねぇ。今日はヘレンちゃんはいないのかい?」

「うむ、ヘレンは小さいからのぉ、海に落ちでもしたら大変なのじゃ」

「う~ん、それは残念だねぇ」


 女海賊といった風貌のレベッカだったが、実は大の子供好きで特に小さな女の子を抱きしめるのが好きなようだ。リリベットも小さい頃はよく餌食になっていた。そんな彼女の目に止まってしまったのが、シャルロットだった。


「おぉ! ひょっとしてお前が、ピケルの旦那の娘のシャルロットか?」

「えっ!? そうだけど、貴女は?」


 レベッカは問答無用でシャルロットを抱きしめると、彼女の頭をまるで猫を撫でるように撫でまわした。シャルロットは慌てて手足をジタバタと動かしている。


「な、な、何なの~!?」

「思ったより可愛い子だねぇ、どうしてハーロード家(ウチ)に来なかったんだい?」


 突然のことにシャルロットが戸惑っていると、横にいたレオンが答えてくれた。


「その方はレベッカ・ハーロードさん。オルグ船長のお孫さんで、海洋ギルドの長だよ。さっきオルグさんが言っていた方だね」

「げ、下宿予定だった?」


 シャルロットの問いにレオンが頷くと、彼女は何とかレベッカから離れて、レオンの後ろに隠れてしまった。


「あらあら、何もとって食ったりはしないよ? レオン王子も一緒に抱きしめてやろうか?」

「いえ、僕は結構です」


 レオンは慌てて首を横に振って答えた。それに対して、レベッカは残念そうな顔をするのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 ラフス教会 ──


 その日の夕方、サーリャが夕食の用意をしていると、港からシャルロットが帰ってきていた。


「あらシャルちゃん、帰ってたんだ? おかえりなさい」

「うん、ただいま~」

「レオン殿下とのクルージングはどうだったの?」

「楽しかったよ、やっぱりアイシャさんもいたけど……でもキャプテンオルグに会えたんだっ!」


 サーリャは野菜を切りながら、目を輝かせてオルグから聞いた物語を、語っているシャルロットの声を聞いていた。


「へぇ、あのお爺さん、そんなに凄い人だったのね?」

「凄いなんてもんじゃないよ、だって伝説のキャプテンオルグだよ!? 海賊で憧れてない人なんていないんじゃないかなぁ?」


 ちょっと興奮気味に話すシャルロットに、サーリャはクスッと笑う。


「本当に楽しかったのね。船の上では何をしてたの?」

「釣りしたり、鯨を見たりしてたよ! あと、料理も作ったんだ」

「シャルちゃんが?」

「ううん、あたしもちょっと手伝ったけど、オルグさんがやってた」


 サーリャは何か納得したように頷き


「あはは、まぁ王家や貴族の方々は、普段料理なんてしないだろうからね」


 と軽く笑うのだった。


「出来たのは豪快な磯汁って感じのスープだったんだけど、おいしかったよ! レオンさまも褒めてくれたんだ~」

「あら、よかったわね……でもあんまり嬉しそうじゃないのね?」


 少しシャルロットのテンションが、下がったのを感じたサーリャが首を傾げながら尋ねると、シャルロットは目を輝かせながら答えた。


「せっかくレオンさまに食べて貰うなら、もっと可愛いのがよかった~」

「可愛いのってクッキーとかケーキとか? シャルちゃん作れるの?」


 シャルロットは首を横に振る。サーリャは少し呆れながらため息を付く。


「それじゃ、まずは作れるようにならないとね。と言っても、私もクッキーぐらいしか焼けないけど。今度学園がお休みのときに一緒に作ってみましょうか?」


 と微笑みながら尋ねると、シャルロットは嬉しそうに返事をするのだった。


「うん、きっとだよ!」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 正門広場 ──


 それから二日後、ついに宰相一家が帰国する日になった。その見送りのためにリスタ王家や宰相フィン、典礼大臣、近衛隊、紅王軍(クリムゾン)などが、正門広場に集まっていた。


 サリナ皇女とリリベットは軽くハグをしたあと、微笑みながら言葉を交す。


「それではリリベット様、お会いできて光栄でしたわ」

「こちらも光栄だったのじゃ、サリナ皇女殿下。お互いなかなか自由に動けぬ身ゆえ、機会は少ないじゃろうが再びお会いできることを、心からお待ちしておるのじゃ」

「ふふふ、意外とすぐに会えるかもしれませんよ?」


 その言葉は彼女の予想だったのか、何か意図があったのかはわからなかったため、リリベットは首を傾げた。続いてアイラ皇女ともハグをして別れの挨拶を口にする。


「アイラ皇女、お主もまた来るとよい。我が国はいつでも歓迎するのじゃ」

「はい、叔母様。この国での出来事は夢のようでした。また必ず来ますから、待っててくださいねっ!」


 少し寂しそうな表情のアイラだったが、そんな彼女にヘレンが駆け寄ってきて飛びついた。アイラは慌ててヘレンを抱き上げながら尋ねる。


「どうしたの? ヘレン王女」

「ねぇさま、またなのじゃ~」


 ヘレンは二パッと笑うと、そのままアイラの首に手を廻して抱きついた。アイラは少し泣きそうになったが、ヘレンの背中をポンポンっと叩く。


「え……えぇ、また会いましょうね」


 アイラはヘレンの後を追ってきていたマリーに、ヘレンを手渡すと軽く手を振ってから、サリナと共に馬車に乗り込んだ。


 一方レオナルドは、フェルトと握手をしながら別れを惜しんでいた。


「それでは元気でな、フェル。まぁ、あの調子なら心配ないだろうが、奥方を大事にするとよい」

「ははは、言われなくても大丈夫ですよ。兄上も道中はお気をつけください。国境までは紅王軍(クリムゾン)が同行致します」

「あぁ、わかっているさ」


 レオナルドは続いて、フィンと握手をした。


「今回の旅では、貴方のような賢人との出会いが一番の収穫でした。どうですか、このまま帝国へ来ませんか? 貴方なら相応のポジションを用意できますが」


 彼の真剣な表情にフィンは少し驚いた表情を浮かべてたが、気を取り直して軽く笑い飛ばし


「ははは、レオナルド殿は冗談もお上手だ。それは光栄でありますが、私はリスタ王家に永遠の忠誠を誓っておりますので」


 と答えるのだった。レオナルドは心底残念そうな顔をしたが、すぐに微笑みを作り


「それでは、また会いましょう」


 と告げてから、颯爽と馬車に乗り込むのだった。




 リリベットが右手を軽く上げる。その合図を見た典礼大臣のヘンシュが、さらに合図を出すと音楽隊が演奏を開始した。


 その音楽に合わせて馬車が動き始め、正門担当の衛兵が「開門!」の掛け声と共に、正門を開き始めた。レオナルドたちを乗せた馬車は、皇軍と紅王軍(クリムゾン)に護られながら、帝都に向けて王城を出発するのだった。





◆◆◆◆◆





 『帰路』


 王都を出発した帝国宰相一家は、針路を東に向けた。馬車の中ではレオナルド、サリナ、アイラの三名が談笑をしている。


「リスタ王国か……中々面白い国だったな」

「えぇ、帝国とは何もかも違って、とても興味深い国でした。リリベット様も可愛らしい方でしたし」


 サリナ皇女は、さっそくリリベットのことを思い出したのか、にこやかに笑っている。


「お父様、帰りはフェザー領に寄られるの?」

「あぁ……父上、つまりお前のお爺様だが、孫に会わせろとうるさいのでな。二日ほど滞在する予定だよ」


 お爺様と聞いて、アイラは目を瞑って震えている。サリナ皇女はアイラの肩に軽く手を置きながら、レオナルドに尋ねる。


「前回訪問したのは、四年ほど前でしたかしら? この子ったらフェザー公に会うなりに、泣き出してしまって」

「あの時の父上の顔は覚えているよ。まるで子ネコでも拾ったようにうろたえていた」


 アイラは顔を赤くしながら怒りだした。


「二人とも意地悪です! ちょっと大きな人だったから、驚いてしまっただけなのにっ!」

「まぁアイラも、もう十一だ。さすがにもう大丈夫だろ?」


 レオナルドが尋ねると、アイラは若干震えながら答えた。


「も、もちろんです。お爺様はお優しい方ですもの……大丈夫に決まってます!」


 その態度にレオナルドとサリナは、クスッと笑うのだった。

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