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第49話「出航なのじゃ」

 リスタ王国 王都 リスタ港 ──


 翌朝リリベットとフェルトは、王城から馬車で出発して別邸に向かった。そしてレオナルドたち一家と同乗してリスタ港へ向かう。


 レオンは別行動を取っており、他の馬車でラフス教会のシャルロットを拾ってから、同じくリスタ港へ向う予定になっていた。


 ヘレンは、さすがに海はまだ危険ということで、マリーと共にお留守番をすることになった。普段なら駄々を捏ねるヘレンだったが、今は新しく買って貰った『しーらんどだいかいせん』という絵本に夢中になっている。


 シー・ランド大海戦とは、かつてリスタ王国の元大海賊グレート・スカルと、シー・ランド海賊連合との間で起きた海戦で、グレート・スカル四十七隻、対シー・ランド海賊連合約二百隻との戦いのことである。


 結果としては連合旗を掲げたグレートスカル号に対して、シー・ランド海賊連合内のかつての仲間たちが呼応することで、戦いの元凶となった海賊を排除したため、シー・ランド海賊連合と大海賊グレートスカルは和解した。


 その後リスタ船舶は襲わないという取り決めたことで、現在の状況に至っている。


 その大海戦の立役者が、リリベットたちを出迎えた浅黒い巨漢の老人 オルグ・ハーロードである。


「おぅ、来たか陛下にフェルトの坊主」

「うむ、今日はよろしく頼むのじゃ」

「坊主はやめてくださいよ、私はもう三十歳ですよ?」


 フェルトは不満そうに答えたが、オルグは豪快に笑うと


「がっはははは! ワシの三分の一じゃ、まだまだ坊主だな」


 と聞く耳を持たなかった。リリベットは、オルグにレオナルドたちを紹介すると、彼は面倒くさそうに手を振り


「そんな堅苦しい挨拶なんぞいらねぇよ」


 と言って、親指を船の方に向けてニカッと笑う。


「今日はこいつに乗ってもらうぜ!」


 この船はオルグの私物で、それほど大きくはないがグレート・スカル号と同じく魔導帆船であり、風が無くても推進力を得れる機構が取り付けられている。その船を見たフェルトは懐かしそうに呟いた。


「この船って結婚する前に乗った船だよね? 懐かしいなぁ」

「うむ、そうじゃな」


 リリベットもフェルトが覚えていたことが嬉しいのか、ニコニコとした笑顔で答えた。




 少し離れたところにいたアイラは、仲睦まじい二人を見つめながら呟いた。


「叔父さまと叔母さまって、本当に仲が良さそう……いいな~、私にもあんな人がいれば、きっと楽しいのだけど」


 それを聞いたレオナルドは渋い顔をしながら尋ねる。


「あ~……アイラには、まだ早いんじゃないか?」

「あら、お父様? 叔母さまだって、私と同じぐらいの歳の頃に、叔父さまと結婚なさったのですよね?」

「う……うむ、確かにその通りだが」


 娘に言い負かされているレオナルドに、サリナはクスッと笑った。


「ふふふ、貴族の結婚は早いですから、もしいい人を見つけたら私に相談なさい。お父様の説得を手伝ってあげるわ」

「はい、お母様!」


 アイラが嬉しそうに返事をすると、レオナルドは眉間の皺をさらに深めるのだった。




 しばらくすると、レオンたちを乗せた馬車が港に到着した。


 馬車から降りたレオンは、振り返って馬車に手を差し伸べる。その手を取ってシャルロットが馬車から降りてきた。まだまだ子供だが一端の紳士淑女に見えなくもない。


「お待たせしました、皆さん」


 レオンがそう言うと、シャルロットも軽く頭を下げた。それに対してリリベットは頷くと、オルグの船を指差しながら告げた。


「うむ、揃ったようじゃな。では、そろそろ乗船するのじゃ」


 まずリスタ王家とシャルロット、続いてレオナルドたちが乗船したが、その後から乗り込もうとした皇軍と近衛たちはオルグに止められてしまった。ジャハルは剣に手を掛けながら叫ぶ。


「貴様、何をするかっ!」

「がっははは、そんな大声出さんでも聞こえておるわ。悪いが鎧を着ている連中はダメだ」


 ジャハルはさらに問答を続けようとしたが、レオナルドがタラップから降りてきてそれを遮った。


「ジャハル、大丈夫だ」

「しかし、宰相閣下!」

「では、剣を一本貸してくれ。私の剣の腕は知っているな?」


 それに対してジャハルは、渋々自分が手にしていた剣を腰から外すと、それをレオナルドに渡した。レオナルドは振り返ると、それを掲げながら尋ねる。


「女王陛下、すまないが帯剣してもよろしいか? 心配性な部下がいるのでな」

「うむ、構わぬのじゃ。私はレオナルド殿を信じておるからな」


 リリベットが答えると、レオナルドは微笑むと腰に剣を差して、再び乗船するのだった。その後をオルグが続きタラップを外すと、近くで待機していた船乗りに合図をする。


 船乗りは、ビットから係留ロープを外すと船に投げ入れた。こうしてリスタ王家とシャルロット、そしてレオナルドたちはオルグの船に乗って大海原へと出発するのだった。



◇◇◆◇◇



 ノクト海 黒鮫号(ブラックシャーク) ──


 オルグの私物である黒鮫号は高速船であり、今もノクト海を猛スピードで進んでいた。


 吹き抜ける潮風と水しぶきを浴びながら、初めて海に出るサリナやアイラは船首ではしゃいでいたが、シャルロットは目をキラキラさせながら、舵を握る老人を見つめていた。


「シャルさん、どうしたの?」


 レオンが首を傾げながら尋ねると、シャルロットは前のめりに答えた。


「レオンさまっ! あの人、伝説の大海賊キャプテンオルグですよねっ!?」

「えっ? うん、グレート・スカルのオルグさんだね」

「やっぱり! わぁ、凄い!」


 レオンからすれば、オルグは時々変なことを言う老人なのだが、海賊に憧れているシャルロットにとっては、オルグは伝説の海賊なのだ。


「そんなに気になるなら話しかけてみればいいよ!」

「え、そんな……」


 あまりに大きすぎる存在に尻込みするシャルロットだったが、レオンは彼女の手を掴むとオルグの元まで引っ張っててしまった。


「オルグさん」

「ん? おぉ、レオン坊主じゃねーか、どうしたぁ?」

「シャルさんがお話したいみたい」

「シャル……あぁ、ピケルのとこの小娘かっ! がっははは」


 オルグは豪快に笑いながら、シャルロットの頭をガシッと掴むとグリグリと撫で回した。


「こいつはな、本当はうちに下宿する予定だったんだぜ? 女の子が来るってんで、レベッカが大騒ぎしてたんだがな。他の場所に下宿するって聞いて落ち込んでたぜ!」


 ピケルは当初シャルロットを、旧知のハーロード家に預けるつもりだったが、諸々ありラフス教会のサーリャに預けることになったのだった。


「しかし、小娘! 貧弱な(ケツ)じゃな。もっと肉を食え、肉を!」


 シャルロットは少し顔を赤くしながら臀部を隠すと、レオンの後ろに隠れてしまった。しかし、ようやく意を決したのか


「キャプテン オルグ! 海賊時代のお話を聞かせてっ!」


 と叫ぶようにお願いするのだった。オルグは少し面を食らったのか、一瞬苦笑いを浮かべたが、すぐに豪快に笑い出した。


「がっははは、いいぞぉ! そうじゃな……じゃ取って置きの『竜の心』の話でもしてやろうかのぉ」

「わぁ!」


 シャルロットは再び目を輝かせながらオルグの話を待った。『竜の心』とは、オルグたち大海賊グレートスカルがとある遺跡から発見したもので、巨大魔導帆船グレートスカル号の心臓部に当たる魔石である。


 オルグがそんな冒険譚をシャルロットに聞かせていると、艦首のほうで水平線を眺めていたアイラが首を傾げながら、横にいたリリベットに尋ねる。


「叔母さま、あの遠くにある白いのは何かしら?」

「ん~? ……波か何かじゃろうか?」


 リリベットも首を傾げていると、フェルトは手にしていた望遠鏡をリリベットに差し出した。リリベットが、それを使って水平線を見つめると、白い船が揺れているのが見えた。


「うむ、どれどれ……? どうやら船のようじゃな、そこそこ大きい船のようじゃが」


 そう言いながら、手にした望遠鏡をアイラに差し出すと、アイラもその方向を見つめた。


「白くて凄く綺麗な船が……こっちに向かって来てますね? 黒地に白い輪の旗みたいですが」


 アイラはそう呟くと、再び首を傾げるのだった。





◆◆◆◆◆





 『黒鮫号(ブラックシャーク)


 オルグの私物の魔導帆船である。オルグが土竜の爪(ドリラー)のガウェイン工房長と共に、改造を重ねており優れた走波性と船足を持つ反面、武装等は施されていない。定員は三十名ほどだが、クルージングを楽しむなら今回程度の人数が限界である。


 通常の帆船では、操船のための船乗りが必要だが、この船はオルグ単独で動かせるようになっているのも特徴だ。

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