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第47話「防衛ラインなのじゃ」

 リスタ王国 王城 中庭 ──


 レオンたちが学校に行っている間、リリベットはサリナ皇女と共に中庭でお茶会を開いていた。彼女たちの他にはヘレンとマーガレット、護衛には近衛からサギリ、皇軍からはジャハルがついている。


 サリナ皇女が紅茶を一口飲むと、小さくため息をついた。


「はぁ、あの子ちゃんとやれているかしら?」


 しっかりしていても心配してしまうのが親心であり、リリベットもレオンを入学させるときは相当悩んでいた経緯もあり、サリナを安心させようと慰めの言葉を口にした。


「報告によると身分もばれておらぬようじゃし、馴染んでおるようなのじゃ。アイラ皇女は、しっかりしているから大丈夫じゃろう」

「そうだといいのだけど……」


 サリナ皇女が少し暗い表情を浮かべていると、ふいにスカートの端を引っ張られた。彼女がそちらを見ると、ヘレンがクイクイっとスカートを引っ張っていた。


 首を傾げたサリナ皇女だったが、すぐに笑顔を作ってヘレンに尋ねる。


「どうしたのかしら? ヘレン王女」

「だっこ!」


 ヘレンはそう言いながら両手を目一杯広げる。サリナ皇女はクスッと笑うと、ヘレンを抱き上げて再び椅子に腰掛けた。そして、ヘレンを抱き上げたことで昔を思い出したのか、サリナ皇女がしみじみと語り始めた。


「あの子も、このぐらいの歳の頃は可愛かったけど、今では随分と大人びてしまって」

「今でも十分可愛らしいのじゃ」

「ねぇさま、かわいいのじゃ」


 リリベットとヘレンが擁護すると、サリナは不思議そうな顔で首を傾げた。


「あら、ヘレン王女はアイラのことを姉様と呼ぶのね? 私のことはなんて呼ぶのかしら?」


 ヘレンは少し首を傾げてから、満面の笑みを浮かべると


「……ねえさま」


 と答えた。その瞬間、あまりに可愛らしいと思ったサリナは、ヘレンを思いっきり抱きしめたのだった。


 その後、人肌で少し眠そうにしていたヘレンの前に、マーガレットがプリンを置くと、目がパッチリと開いて手をテーブルに伸ばしながら


「プリンなのじゃ~」


 と喜びの声を上げた。しかしマーガレットがサリナから、ヘレンを受け取ろうとしたところ、彼女はサリナの服を掴んで拒否した。


「やぁ、ねえさまといっしょ!」

「あらあら、それじゃ私が食べさせてあげるわ」


 サリナ皇女はそう言うとスプーンで一口掬い上げると、ヘレンの口に運んであげた。ヘレンはそれをパクリと食べると、足をバタバタと動かしながら


「おいしいのじゃ~」


 と叫び、再びサリナを見つめると口を開けてアピールをした。それを見ていたリリベットはボソリと呟く。


「う~む……本能的に甘えさせてくれる人に懐くようじゃな」

「この中で、一番甘えさせてくれる人を選んでますね」


 マーガレットもやや呆れ顔で答えた。サリナ皇女はヘレンに甘えられて、いつの間にか自分のプリンまで食べさせていた。


「むふぅ~」


 ヘレンも沢山食べれてご満悦といった表情を浮かべているが、それすら可愛いのかサリナ皇女は彼女の頭を撫でている。次第に気持ちよくなってきたのかヘレンは、そのまま眠ってしまった。


「次は息子が欲しいと思っていたけど、こうしていると娘もいいですね」


 サリナがうっとりとそう呟くと、リリベットが興味津々といった感じで尋ねる。


「ほぅ、次の子の予定があるのじゃな?」

「えぇ、レオは世継ぎが欲しいようなのですが、私の体を気遣ってくれてゆっくりなんです」

「皇女殿下は、まだお若いですから十分授かることも可能でしょう」


 マーガレットがそう言うと、リリベットも頷いた。サリナ皇女は現在二十八歳、十七の時にアイラを出産してから体調を崩していたこともあり、第二子は生まれていなかった。


「若いと言えば、私よりリリベット様のほうがお若いでしょ? そちらのご予定はどうなのかしら?」

「う……うむ、まぁ頑張っておるのじゃ」


 突然尋ねられて驚いたからなのか、昨夜のことを思い出したのか、リリベットは少し照れながら答えた。その様子に、サリナ皇女はからかうように微笑むと呟いた。


「ふふふ、羨ましいわ。たくさん愛されているのね」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 北バルコニー ──


 リリベットとサリナたちが中庭でお茶会をしている頃、フェルトとレオナルドは王城の北側のバルコニーに来ていた。眼前に広がる大海原を見つめながら、レオナルドは感嘆の声を上げる。


「素晴らしい景色だな。帝都に居ては、このような景色は見ることができないからな、とても新鮮だよ」

「私も初めて見た時は感動しましたよ。兄上も少し休まれて小旅行でもなさったほうが良いのでは?」

「ふっ、お前までサリナのようなことを言うのだな」


 レオナルドはクスッと笑うと周辺を見回した。


「正面から見た時は、ただの城館かと思ったが……こちら側は、夥しい数の砲が配置されているのだな」

「陸地の国境線は東西の城砦で護ってますが、海側は無防備ですからね。他国や海賊の襲撃に備えるのは当然です」


 レオナルドは頷いた。


「この大量に並べられた砲が、かの大戦で西方艦隊を退けた『リスタの見えない壁』か」


 『リスタの見えない壁』とは、幼女王の聖戦と呼ばれている大戦時に、リスタ王国の領海に侵入、王都を海上から急襲したクルト帝国西方艦隊に対して、王城北側に配置してあった砲が雨のように降り注ぎ、彼らの侵入を拒んだことから付けられた、リスタ王国の防衛ラインの名前である。


 最終的には、リスタの見えない壁で足止めを食らった西方艦隊は、シー・ランド海賊連合からの強襲と、それに合わせて討って出たリスタ王国の海賊衆の挟撃に合い、壊滅状態で逃げ帰ることになったのだった。


「こちらから攻めるのは愚か者のすることだな……帝国の港ももう少し防衛力を増強しておいたほうがよいかも知れん」


 レオナルドは、並べれた砲を見ながらそう呟いた。それに対して、フェルトは呆れた表情を浮かべる。


「兄上、また仕事の話をしてますよ」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 ラフス教会内 ──


 サーリャが夕食の準備をしていると、シャルロットが浮かれた様子で帰ってきた。


「ただいま~」

「あら、シャルちゃん、なんだか上機嫌ね?」


 サーリャに尋ねられたシャルロットは、得意げな顔をして胸を張る。


「レオンさまと帰りに洋服を見てきたの! ……みんなと一緒だけど」

「まぁ良かったわね。寄ってきたのは、白毛玉(ラビッツネスト)?」


 シャルロットは頷いてから、嬉しそうに口を開く。


「うん、メアリーさんがみんなに似合う衣装を試着させてくれたんだよっ」

「へぇ、皆って言うと……あの子はどうだったの? 昨日話してくれた美人って言ってた子」


 シャルロットは少し暗い顔になると、拗ねたようにそっぽを向く。


「もちろん居たよ。あの子、レオンさまの親戚だし、ずっと一緒にいるもの。淡い色のワンピースを着て、レオンさまたちは見とれた」

「あらら……シャルちゃんのは褒めてくれなかったの?」


 シャルロットは思いっきり首を横に振って答えた。


「とても可愛いって褒めてくれたよ! でもなんか負けてる気がする……」

「シャルちゃんは可愛いから大丈夫よ! それに、その子は明日までなんでしょ?」

「うん、確か体験入学は三日って言ってたから」


 サーリャはニッコリと微笑むと、シャルロットの頭を優しく撫でる。


「大丈夫、自信を持って! さてと、夕飯の準備中だったわ。シャルちゃんも手伝ってくれる?」

「え、うん!」


 シャルロットはそう言うと先程までサーリャがやっていた、野菜の皮剥きを手伝い始めるのだった。船の上では手伝いもやっていたようで、中々のナイフ捌きで皮を剥いていくと、サーリャが微笑みながら


「レオン殿下がどうかは知らないけど、家庭的な子はポイント高いらしいわよ? 前にメアリーちゃんが言ってたもの」

「本当に!? じゃ、もっと頑張ろうっ!」

「ふふふ、怪我はしないようにね?」


 その後、調子に乗ったシャルロットは案の定指を切ったが、サーリャの癒しの術で傷は塞がり事なきを得るのだった。





◆◆◆◆◆





 『インスピレーション』


 子供たちを帰したメアリーは、白毛玉(ラビッツネスト)の一室で机に向かっていた。


「最近疲れ気味だったけど、あの子たちの服を選んでいたら、やる気出てきたわっ! あんな服も着せてみたいし、もっと可愛らしいのもいいかもしれない!」


 そんなことをブツブツと言いながら、メアリーは衣装のデザインを紙に描いていくのだった。


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