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第41話「恋敵なのじゃ」

 リスタ王国 王立学園 初等科の教室 ──


 リリベットたちが、グレート・スカル号の視察をしているころ、レオンは王立学園の教室にいた。


 最初の授業が終わり休憩時間になると、レオンやジェニスといった人気のある生徒は、すぐに他の生徒に囲まれてしまうのだが、シャルロットは急いで席から立つと、レオンの元に行き声をかけた。


「レ、レオンさま! 昨日のパレード見てました! カッコよかったですっ!」

「あぁ、シャルさん、観に来てくれてたんだね。ありがとう」


 と笑顔で返されただけで、幸せな気分に浸るシャルロットだったが、首を小さく横に振って気を取り直した。彼女は彼に聞かないといけないことがあったのだ。


「あ、あのっ! 昨日、レオンさまの隣にいたベールをした女性なんですが……きゃっ」

「あっ、それ私も気になります!」


 シャルロットが尋ねようとしたところ他の女生徒が割って入り、さらに他の生徒たちも興味津々に集まり始め、シャルロットは弾き出されてしまった。これにはさすがのシャルロットも、かぶっていた猫を脱ぎ捨てて、押しのけてきた女生徒に指差しながら怒鳴る。


「ちょっと! いまあたしが話してただろっ!?」

「あら、貴女いたんだ?」


 この挑発的な態度を取っている女生徒の名前はカミラ・アルマーテと言い、旧レティ領の主要都市で活動していた大きな商家の娘である。彼女の両親が皇帝直轄領とされ、色々と制限がかかり商売がしにくくなった旧レティ領から、急成長しているリスタ王国への移住を決めたため、この学園に入学することになったのだ。


 彼女もレオンに好意を抱いており、入学当初からレオンと仲良くしているシャルロットを目の敵にしているのだった。


 今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気に、レオンが慌てて仲裁に入った。


「ふ、二人ともちょっと落ち着こう」

「はい、レオンさまっ!」


 レオンは同時に同じように返事をする二人に、意外と仲が良いのでは? と思ったが、そんなこともなく二人とも目から火花を飛ばしあっていた。


 そんな様子を見つめながら、ジェニスはぼそっと呟いた。


「本当に元気な子だな~」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 修練所 ──


 翌日の朝、完全復活を遂げたフェルトは、レオンに頼まれて共に修練所に来ていた。しばらく基礎的な練習をしたあと、少し休憩を挟んで仕上げの練習に入ろうとしたところで、レオナルドとサリナ、その護衛のジャハルが修練所を訪れた。


 その後ろには近衛隊のラッツがおり、どうやら彼が案内したようだ。


「フェル、朝から訓練とは精がでるな」

「兄上? どうしてこちらに?」

「なに、お前が剣の修練を積んでいると聞いたのでな。久しぶりに相手をしてやろうかと思ってな」


 レオナルドはそう言いながら、上着を脱ぐとそれをサリナ皇女に手渡してから壁に掛けてあった木製の大剣を手にして軽く振る。


「ふむ……少し軽いか?」

「いやいや、僕じゃ兄上には勝てませんよ」


 フェルトは首を横に振りながら答えたが、レオナルドは軽く笑って巨大な木剣を肩で担いだ。


「良いではないか! 何も本気で戦おうという訳でもないしな。それに私もここ数年は忙しくて、まともに剣が振れてないのだ」


 フェルトはこれ以上何を言っても無駄と悟り、ため息を付くと手にした木剣を構えた。


 ともに剛剣公ヨハン・フォン・フェザーの血を継ぎ、幼少の頃より彼の指南を受けた身ではあったが、フェルトは今まで兄であるレオナルドに勝ったことがなかった。


 緊張した空気の中、最初に動いたのはフェルトだった。レオナルドの右側、つまり大剣を持っているほうに回り込むと、レオナルドの顔を目掛けて木剣を突き込む。


 レオナルドはそれを僅かに躱すと、右足を下げて肩に乗せた大剣を一気に振り下ろした。石造りの床は轟音と共に砕け散ったが、フェルトは後ろに跳び下がって再び構えている。


「正直、兄上には勝てる気がしませんが……息子が見てますので、もう少々頑張らせてもらいますよ」


 フェルトが真剣な表情でそう言うと、レオナルドはニヤリと笑うのだった。




 その後、十分ほど経過したが決着は付かず、レオンは登校時間が迫ってきたのでその場を後にした。フェルトとレオナルドは、お互いタオルで汗を拭きながら笑いあっている。


「兄上、随分鈍られたのではないですか?」

「ははは、言うようになったな。しかし、フェルは随分と腕を上げたな」


 レオナルドの素直な感想に、フェルトは少し照れながら


「まぁ、私も護るべきものが増えましたから」


 と答えるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 子供部屋 ──


 レオナルドたちが修練所に向かっている間に、アイラはヘレンに会いに子供部屋を訪れていた。部屋に通されると、マリーとヘレンがおり何かを読んでいた。


 まずアイラに気が付いたマリーは立ち上がってお辞儀をする。それを見たヘレンが、入ってきたアイラに気が付くと笑顔になって駆け寄って抱きつく。


「アイラ~」

「そうそうアイラですよ、ヘレン王女」


 アイラはニコニコしながらヘレンを抱き上げたが、マリーが慌ててヘレンを窘める。


「ヘレン様、いけません。アイラ皇女殿下、もしくはアイラ様とお呼びください」

「アイラこ……こぅ?」


 ヘレンはよくわからないといった顔で首を傾げている。それに対してアイラは微笑みながら、首を横に振って答える。


「別に呼び捨てでも構いませんわ。でも、せっかくだから姉様と呼んでくれたら嬉しいな」

「ねぇさまっ!」


 ヘレンが満面の笑顔で大声で呼ぶと、アイラは嬉しくなって思いっきり抱き締めると、ヘレンの頬に自分の頬を当てている。傍目から見ればすっかり姉妹のようである。


「それで、ヘレン王女は何を読んでたのですか?」

「『ようじょおうのおはなし』なのじゃ~!」

「まぁ、私も好きなお話です、一緒に読みましょうか?」

「いいよ~」


 アイラとヘレンがソファーに座って、一緒に絵本を読みはじめたので、マリーはお茶の準備を始めるのだった。アイラはヘレンを膝に乗せたまま、情緒たっぷりに絵本を読み聞かせている。


「あぁ、無数の矢が飛んできました、幼い女王のピンチです」

「たいへんなのじゃ~」


 ヘレンは目を輝かせながら、それに合の手を入れている。マリーはクスッと笑いながら、テーブルにティーカップを置くと紅茶を用意していた。


「幼き女王は愛する貴公子と結ばれ、彼女が愛した国民たちは、皆心から祝福したのでした。おしまい!」

「やったのじゃ~」


 大はしゃぎするヘレンに、アイラも微笑むと彼女の頭を優しく撫でる。




 絵本が終ったヘレンは、ソファーの隅に置いてあった猫のぬいぐるみを持つと、ニコニコしながらアイラに突き出した。


「ねぇさま! こんどは、おにんぎょうなのじゃ~」


 アイラはそれを受け取ると、少し考えたあとぬいぐるみをヘレンに向ける。そして声を調整しながら、その容姿からは想像もできない声を出した。。


「えっと……我輩、ノワだよ。遊ぼうよっ! ……確か、こんな感じ?」

「あははは、上手いですね。アイラ皇女殿下」

「えっ!?」


 ドアの方から声が聞こえアイラが驚いて振り向くと、制服を着ているレオンがそこにいた。


「あっ、にぃさま~」


 ヘレンはぴょんっとソファーから降りると、レオンに駆け寄って抱きついた。アイラは変な声を聞かれたのが恥ずかしくなったのか、ぬいぐるみで顔を隠している。


「朝食前に様子を見に来たのですが、妹と遊んでくれてありがとうございます」

「い……いえ、ヘレン王女と遊ぶのは、私も楽しいですから」


 その後、レオンを含めてしばらく談笑したあと、揃って朝食を取りに食堂に向かうのだった。





◆◆◆◆◆





 『朝食風景』


 食堂ではリスタ王家と宰相のフィン、帝国宰相一家が揃ってテーブルについていた。護衛のジャハルは家族での食事ということで、食堂の外で待機している。ヘレンの隣には補助としてマリーが控えている。


 食事のあとレオンは通学のために席を外したが、残りは食後のお茶を楽しんでいた。


「サリナ皇女、例の体験入学の件はいかがじゃろうか?」

「よろしいですわよね、レオ?」


 改めてサリナ皇女に尋ねられて、レオナルドは渋々といった感じで頷いた。


「ふふ、レオも娘には弱いのです」

「あはは、どこも同じじゃの~」


 リリベットはそう言いながら、ちらりとフェルトの方を見る。


「それでは午後にでも、学芸大臣と学園長と話を詰めておくのじゃ」

「ありがとうございます、叔母様!」


 念願の学園生活にアイラ皇女は目を輝かせていた。

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