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第4話「会議なのじゃ」

挿絵(By みてみん)

 リスタ王国 地下専用港 ──


 切り立った丘の上にある王城の地下には、普段は水門が閉じている巨大な港がある。本来は王族用の港なのだが、通常時は海洋ギルドが所有している、魔導帆船グレート・スカル号の専用港として利用されている。その港にリリベットと子供たち、それにメイドのマーガレットとマリーが訪れていた。


「おおきなお船が入ってきたのじゃ~」


 入港してきたグレート・スカル号に、ヘレンは大はしゃぎでピョンピョンと飛び跳ねている。いつもは王太子として少し堅い雰囲気のレオンも、グレート・スカル号の前では歳相応に目を輝かせていた。


 しかし、その中で一番そわそわしていたのはリリベットである。彼女の心を落ち着きがないものにしているのは、もちろんグレート・スカル号などではない。


 港のアームが完全にグレート・スカル号を固定すると、舷がスライドしてタラップが現れた。そのタラップを蒼いマントを羽織った金髪の男性を先頭に、文官や近衛隊が何名か降りてくる。


 その男性は港に降り立ち、その青い瞳で真っ直ぐとリリベットたちを見つめると、朗らかに微笑を浮かべた。彼こそがリリベットの夫であり、レオンやヘレンの父フェルト・フォン・フェザーである。


 嬉しそうな表情浮かべたリリベットが近付こうと一歩前に出た瞬間、それより早くレオンとへレンがフェルトの所まで駆け出す。


「父様っ!」

「とぉさま~!」


 フェルトはしゃがみ込むと二人を抱きしめて、頭を優しく撫でながら尋ねた。


「二人ともいい子にしてたかい?」


 子供たちに後れることリリベットがフェルトの元まで歩くと、少し膨れた顔で子供たちを叱りつける。


「こら、お前たちズルいのじゃ!」


 フェルトは二人の子供たちの背中を軽く叩いたあと、立ち上がるとリリベットの前で敬礼をしながら


「外務大臣フェルト・フォン・フェザー、及び使節団二十名、ただいま帰還致しました。女王陛下」

「う……うむ、遠路ご苦労だったのじゃ」


 かなりソワソワした様子でそう答えたリリベットに、フェルトはクスッと笑って両手を広げた。


「ただいま、リリー」

「おかえりなのじゃ!」


 リリベットは我慢できずに飛びつく勢いで抱きつく。その瞬間マリーとマーガレットが、それぞれレオンとヘレンの視界を手で遮った。


「まっくらなのじゃ~?」

「えぇ、まっくらですね~」


 からかうように答えたマリーに、ヘレンは楽しそうにカラカラと笑うのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 会議室 ──


 外務大臣のフェルトが帰ってきたことにより、八人いる大臣たちが全て揃ったので、御前会議が開かれることになった。


 八大臣、すなわち国務・軍務・財務・内務・外務・司法・典礼・学芸の八職である。この中で財務大臣ヘルミナと典礼大臣ヘンシュ以外は、この十年間で代替わりをしている。元々先代や初代国王の御世からの大臣たちだったので、主な引退理由は老齢であったが中には天寿を全うした大臣もいた。


 まず席に着いたのは、財務大臣ヘルミナ・プリスト卿、現在は三十三歳。常世幼女(エターナルロリ)の異名に偽りなく、現在も十六歳頃の少女のような姿を保っている。彼女は数年前に、前学芸大臣タクト・フォン・アルビストンと電撃結婚しており一児の母でもある。財務大臣として国庫を守っている重要人物だ。


 続いて現れたのが典礼大臣ヘンシュ。王国内で執り行う式典関連を一手に担う、恰幅がよい初老の大臣である。


 三番目は軍務大臣シグル・ミュラー。かつての大戦でリスタ王国軍の参謀役を担い、その功績から軍務大臣に推挙された人物である。近衛隊を除く、衛兵隊、騎士団、遊撃隊である紅王軍(クリムゾン)、その三軍のトップである。


 そして一番若い大臣、学芸大臣ナディア・ノルニル。かつては演劇「幼女王シリーズ」の主演女優として、活躍していた彼女だったが第一期生として王立学園を主席で卒業後、前大臣タクトに見出され二代目の学芸大臣に任命された。王立学園を含む学問機関と、演劇団などの芸術団体を統括する大臣である。


 その後、国務大臣・内務大臣・司法大臣が席に着き、最後に外務大臣のフェルトが自分の席に着いた。


 そして八大臣を統括するのが、建国以来の宰相であるフィンだ。この九名に女王のリリベットを加えた十名が、リスタ王国の運営を担う中枢たちである。


 今回も議長は宰相フィンが務めており、彼は木槌を一つ打ち付けると会議の開始を宣言した。


「では、会議を始める! まずは提出されている議題からだが……」


 その後、彼らによってリスタ王国の懸案事項が、次々と処理されていくのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 王宮エリアの一室 ──


 その日の晩餐のあと、フェルトが久しぶりに帰ってきたことにより、リスタ王家は王室エリアの一室で穏やかな時間を過ごしていた。


 フェルトとリリベットがソファーに座り、その両隣にレオンとヘレンが座っている。その周りにはマリーとマーガレットが控えており、お茶の用意をしていた。


「とぉさま~とぉさま~」


 兄妹の中で特にヘレンは、甘やかせてくれる父親が大好きであり、今もべったりとくっついている。レオンは妹の手前甘えるのを我慢しているのか、普通に日々の報告をしたりしているが、強く偉大な父に向けて憧れの視線を送っている。


「父様、明日剣術の稽古をつけていただけませんか?」

「ん? あぁ、大丈夫だよ。朝……いや、昼過ぎでもいいかな?」


 フェルトは一瞬、リリベットの顔を見てから答えた。リリベットは少し顔を赤くして視線を逸らす。レオンは嬉そうな顔をして頷いた。


「はい、楽しみにしてますっ!」




 しばらく家族の時間を過ごした彼らだったが、フェルトに抱き付いているヘレンがウトウトとしはじめたことで終わりを告げる。そんなヘレンにフェルトは微笑みながら尋ねた。


「ヘレン、そろそろおやすみの時間じゃないかな?」

「やぁ~……とぉさまといるの~」


 両手でガッシリとフェルトの服を掴み、頭を擦りつけながら首を振るヘレンにフェルトは困った表情を浮かべると、今度はマリーが助け舟を出す。


「殿下、そろそろ寝室に向かいましょう」

「やぁ~やぁ~……じゃ、とぉさまといっしょにねる~」


 ヘレンのそんな可愛いわがままだったが、ガチャと大きな音がしてフェルトがそちらを見ると、リリベットがソーサーとカップを持ったまま固まっていた。そんな様子にフェルトはクスッと笑うと、ヘレンを抱き上げたままソファーから立ちあがる。


「じゃ、ヘレンが寝るまで一緒にいるよ。ご本でも読んであげよう。レオンはどうする?」

「えっ、ぼ……僕は一人で寝れますから!」


 レオンは恥ずかしそうに顔を赤くするとソファーから立ち上がった。そして、フェルトとヘレン、レオン、マリーの四人は部屋から出るために歩き出す。リリベットは、それを残念そうな表情で見送っていたが、フェルトが立ち止まって振りかえり


「リリー、また()でね」


 と言うと、嬉しそうにパァと笑顔になったかと思えば、急に顔を赤くして俯きながら答えた。


「う……うむ、また()でなのじゃ」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王寝室 ──


 フェルトたちと別れたリリベットは湯浴みを済ませて、寝室に戻って来ていた。


 いつもの薄手のネグリジェに着替えたリリベットは、鏡の前に座ってマーガレットに髪を梳いて貰っている。そして、いくつかの香水の小瓶を見つめながら尋ねる。


「ど……どの香りが良いじゃろうか?」

「別に寝るだけなら付けなくてもいいのでは? フェルト様なら気になさらないかと」


 その答えにリリベットは思いっきり首を横に振るが、マーガレットの両手でガッシリと掴まれてしまう。


「陛下、髪を梳いているときに動かないでくださいませっ、髪が痛んでしまいますっ!」

「いたたた……三週間! 三週間ぶりじゃぞ!? なんか、こう……あるじゃろう?」


 マーガレットは髪を梳かしながら少し考えたあと、一番にあった白い小瓶を指差した。


「では、そちらのホワイトリリーで良いのでは? 確かフェルト様から贈られたものでしょう?」

「む……そうじゃな、確か好きな香りと言っていたのじゃ」


 リリベットは白い小瓶を持ち上げると、少しだけシュッと胸元にかける。ほのかに香る良い香りに少し気分が高まったのか、リリベットが気合を入れるようなポーズを取ると、マーガレットがクスッと笑う。


「はい、終りましたよ、陛下」

「うむ、ありがとなのじゃ」


 リリベットの支度を終えたマーガレットは、ドアの前まで歩くと振り返って尋ねる。


「それでは、陛下。私も今日は休ませていだきます。明日は、いつもより遅く……いえ、昼頃でよろしいでしょうか?」

「う……うむ、そうじゃな。では昼頃で頼むのじゃ」


 リリベットが恥ずかしそうに答えると、マーガレットはカーテシーをしてから部屋から出ていった。


 リリベットはベッドの上に座ると、ソワソワしながら入り口の扉が開くのを待つのだった。





◆◆◆◆◆





 『絵本』


 リリベットが香水選びをしている頃、ヘレンの寝室ではベッドの横の椅子に座りながら、フェルトが絵本を読み聞かせていた。三回目の絵本を読み終わったところで、ようやくヘレンはすやすやと寝息を立てて始める。


 部屋の隅で待機していたマリーは、ヘレンを起こさないように小声で


「お疲れ様でした、フェルト様」

「うん、マリーさんもいつも娘たちを見てくれて、ありがとうございます」


 フェルトはそっと席から立つと、手にした絵本をマリーに手渡す。


「ヘレンは、本当にこのお話が好きみたいだ」

「えぇ、おやすみの際には、この『おさなきじょおうのおはなし』をせがまれることが多いです」


 二人は声が出ないように笑うと、フェルトは軽く手を上げて


「では、よろしくお願いします」


 と言ってヘレンの寝室を後にするのだった。


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