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第37話「懐柔なのじゃ」

 リスタ王国 王城 子供部屋 ──


 レオンとアイラ皇女が子供部屋に訪れると、食事を終えたヘレンとラリーが遊んでいた。ヘレンはレオンと一緒に来た女性を母親だと思い、駆け寄るとスカートに抱きついた。


「かぁさま~!」

「きゃっ!」


 その小さな悲鳴に驚いたヘレンは、アイラを見上げ難しい顔をすると一目散に逃げ出して、マリーの後ろに隠れてしまった。


「かぁさまじゃないのじゃ~」


 マリーがアイラに対してカテーシーでお辞儀をすると、アイラはそれに対して右手を少し上げて答えた。そして膝を折って、その場に座るとヘレンの目線に合わせて


「ヘレン王女、先ほどもお会いしましたが、私は貴女の従姉妹にあたるアイラ・クルトです」


 とニコッと微笑んだ。その笑顔の直撃を受けたラリーは、少し顔を赤くしてボーっと見つめている。ヘレンはアイラ皇女の優しげな雰囲気に警戒心を解いたのか、マリーの後ろから出てトコトコと寄っていくと彼女の手を取り


「ヘレンなのじゃ」


 と微笑えんだ。その瞬間、アイラはヘレンを引き寄せて抱きしめるのだった。


「なんて可愛らしい子なんでしょう。私は妹や弟が欲しかったのです」

「ふにゃ~」


 最初は若干の抵抗をみせたヘレンだったが、アイラ皇女の暖かさと良い香りに、すぐに気持ち良くなってしまい、今ではアイラの腕の中で幸せそうに笑っている。


 ヘレンが落ち着くと満足そうな笑顔を浮かべたアイラは、横に立っていたレオンに向かって尋ねる。


「レオン様、この可愛らしい子を戴いてしまっても?」

「いえ、僕の妹ですからやめてください」


 レオンがきっぱりと断ると、アイラはとても残念そうな表情を浮かべた。そして、左手をレオンに向けるとニコッと微笑む。


「弟も欲しいのです」

「えっ僕は……って、うわっ」


 アイラは一歩下がろうとしたレオンの手を捕まえると、そのまま引き寄せて抱きしめた。レオンは抜け出そうとしたが、暴れると余計なところを触ってしまいそうなので、すぐに顔を赤くしながら大人しくなってしまった。


「レオン様も可愛らしいです」


 あっという間に懐柔されてしまったリスタ兄妹は、しばらくしてアイラが満足すると、ようやく解放されたのだった。




 アイラ皇女はマリーの近くにいたラリーを見つけると、首を傾げながら尋ねた。


「君はどこの子? 確か叔母様には、子供は二人だと聞いていたのだけど」


 それに対してはマリーは答えた。


「この子は私の子供です。アイラ皇女殿下」

「こちらの方は、マリーさんです。僕たちの乳母でお世話をしてくれています。彼は僕の親友のラリーです」


 マリーに続いてレオンが付け加えるように、マリーとラリーの紹介をした。アイラは頷くと、ラリーの方を見ながら


「よろしくね、ラリー」


 と微笑んだ。ラリーは顔を真っ赤にしてマリーの後ろに隠れてしまったが、アイラは特に気にした様子はなく、ヘレンの方を向いて尋ねた。


「ヘレン王女は、何をして遊んでいたのかしら?」


 ヘレンは先ほどまで遊んでいたところから大きな猫のぬいぐるみを持ち上げると、それをアイラに突き出して二パーと笑った。


「おにんぎょう~なのじゃ~」

「あら、可愛らしい猫ね?」


 ぬいぐるみを受け取ったアイラは、その手を持ってヘレンの前に立たせると、その手を振りながら


「私とお友達になってくださいな」


 とおどけてみたが、ヘレンは微妙な顔をして首を横に振ると


「ノワはそんな喋り方しないのじゃ~」


 と窘められてしまった。これにはアイラも弱った顔をしてレオンに助けを求めた。レオンはそれに応じて、アイラからノワと呼ばれた猫の人形を受け取ると、彼女と同じように立たせ少し声色を変えて


「やぁ、ヘレン。我輩と一緒に遊ぼうぜ!」


 と言って見せると、ヘレンは二パーと笑ってそれに抱きつくのだった。




 そんな感じですっかり仲がよくなったアイラとレオンたちが遊んでいると、迎えの者が子供部屋に訪れた。それに対してアイラはもう一度ヘレンを抱きしめると


「それではレオン王子、それにラリーもおやすみなさい」


 と言って、そのままヘレンを抱き上げて部屋から出て行こうとするが、レオンに呼び止められてしまう。


「アイラ皇女殿下、妹は置いていってくださいね」

「あら、残念です……」


 アイラはそう言うとヘレンをマリーに手渡し、改めてお辞儀をしてから部屋を後にするのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 応接室 ──


 時間は少し遡り、食堂から移動したリリベット、フェルト、宰相のフィン、そしてレオナルドとサリナは応接室に来ていた。


 サリナ皇女とリリベットが話している間に、レオナルドとフィンは何か意気投合したようで、酒が入った盃を片手に二人で盛り上がっていた。その様子を見て驚いた表情を浮かべたサリナは呟いた。


「レオが、他人とあんなに楽しげに話しているのを初めて見たわ」

「私もなのじゃ……フィンはいつもムスッとしてて、仕事以外興味がないのかと思っておったのじゃ」


 フェルトはクスッと笑うと、少し寂しそうに意見を口にした。


「兄上も宰相閣下も頭の良い方だからね。自分と同じ水準の人と会えたのが、新鮮なんじゃないかな?」


 リリベットもサリナも神妙な顔をして頷くだけだったが、彼らのことをよく知っている二人にとっては妙に納得できる言葉だった。しばらくして気を取り直したサリナが尋ねてくる。


「それより、私は貴女たちのお話を聞きたいわ。帝都まで噂が聞こえて来るほど、仲睦まじい夫婦だと聞いているもの。何か秘訣はあるのかしら?」


 サリナの質問に、リリベットは少し驚いた顔をするとフェルトを見つめる。


「仲睦まじい夫婦らしいのじゃ?」

「まぁ仲は悪くないと思うよ、喧嘩などもしたことがないしね」

「そうじゃな。お主はお人良しじゃし、いつも優しくしてくれるのじゃ」


 リリベットたちの惚気話も、サリナ皇女は目を輝かてから優しげに微笑む。


「あら、本当に仲が良さそう……羨ましいわ。レオも優しいけれど、時々私たちより仕事優先にするところがあるから」

「む、それならフェルトもそうなのじゃ。いつも外国に出かけてばっかりで、私を構わないのじゃ!」


 プリプリと怒るリリベットに、苦笑いをするとフェルトが答える。


「そんなこと言われても、僕は外務大臣だからね」

「むぅ……あっ! あと、ちょっと優しくない時もあるのじゃ」


 何かを思い出したリリベットに、サリナは興味津々に尋ねる。


「フェルト様が優しくない時……興味があるわ。どんな時なの?」

「それはじゃな……」


 リリベットはサリナに耳打ちするように小声で答えた。その答えにサリナは流し目でフェルトを見つめると


「なるほど……そういう……」


 と呟くと、フェルトは慌てた様子で尋ね返す。


「えっ、ちょっと、何を話したの?」


 リリベットとサリナは、クスクスと笑いながら話をはぐらかすのだった。その様子は本当の姉妹のようだった。


 その後、十分に交流を楽しんだサリナ皇女とレオナルドは、アイラを呼びに使いを出したのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 別邸 ──


 この別邸はリスタ王家が所有する屋敷の一つで、国にとって重要なゲストの宿泊に使われることが多い。レオナルド、サリナ、アイラ、それに従者や護衛騎士たちは、フェルトの案内により別邸に移動していた。


「それでは兄上、帝都の屋敷に比べれば手狭でしょうが、滞在中はこちらの屋敷をお使いください」

「従者もそれほど連れてきているわけではないからな、このぐらいが丁度良いさ」


 レオナルドたちが住んでいるサリナ皇女の「薔薇の離宮」は、彼女の私邸である「白薔薇の館(ワイスロゼ)」の次に大きな建物であり、帝都では三番目に広い敷地面積を誇っているのだ。


「内部の警備に近衛、外周には紅王軍(クリムゾン)が付いております。何か御用がある場合は、近衛に言いつけください」

「ご丁寧にありがとうございます、フェルト様」


 フェルトの説明に、サリナ皇女が頷きながら答える。


「明日の朝、迎えに来ます。それではよい夜を」


 最後に明日の予定と就寝の挨拶をして、城に戻るために別邸を後にするのだった。





◆◆◆◆◆





 『優しくないとき』


 その日の夜、フェルトはベッドの中でリリベットの髪を弄りながら尋ねた。


「ねぇリリー、さっきサリナ皇女と話してたのは、何のことなんだい?」


 先ほどリリベットとサリナ皇女にからかわれたことが、未だに気になっており、もし本当にリリベットの嫌なことをしているなら、改めようと思っているのだ。


 リリベットは眠そうな顔をしながら、フェルトを見つめると彼の首に手を廻して耳元で小声で囁く。


「それはじゃな……」


 それを聞いたフェルトは納得したように頷くと、少し照れた表情を浮かべるとリリベットの耳元で囁く。


「それじゃ、今日は優しくしないとね……」

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