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第36話「紹介なのじゃ」

挿絵(By みてみん)

 リスタ王国 王城 正門広場 ──


 重い音を響かせながら王城の正門が開かれると、黒馬に乗った騎士たちが護衛した黒塗りの馬車が入ってきた。その馬車には金で竜の紋章、つまりクルト帝国の皇家の紋章描かれており、乗っているのが皇家所縁の者であることを示していた。


 正門から入ってすぐの所にある正門広場では、リリベットを含む国の重鎮と子供たちが出迎えに出てきており、馬車からその人物たちが降りてくるのを待っている。


 黒塗りの騎士の一人が馬車の扉を開けると、まず金髪碧眼の男性が降りてきた。髪は少し長いが全体的な印象はフェルトに似ており、見ただけでフェルトの血縁者なのがよくわかる。


「あちらがレオナルド殿じゃな」


 リリベットの呟きに、隣に立っているフェルトが頷く。レオナルドが馬車のほうに手をやると、金髪碧眼の美女がレオナルドの手を取って降りてきた。ふわりと揺れる金髪のウェーブに、整った顔立ち美しい青い瞳は宝石のようだった。


 その美しさにリリベットも思わず息を飲む。


「あの方が、サリナ皇女のようじゃな……噂に違わぬ美しさなのじゃ」

「ふふ……僕は、リリーのほうが可愛いと思うよ」


 フォローのつもりなのかフェルトがそう呟くと、リリベットは顔を赤くして彼を睨みつけた。


「こ、公務中じゃぞ!」


 そして、レオナルドが再び馬車に手を差し出すと、もう一人がその手を取って降りてきた。サリナ皇女と違いウェーブはかかってはいなかったが、同じく金髪碧眼の美少女だった。


「……フェルトよ、彼女がアイラ皇女なのか?」

「うん、私も会うのは数年ぶりだけど、凄く美しくなったね。まるで初めて見た時のサリナ皇女のようだ。親子でもこんなに似るもんなんだな……」


 リリベットとフェルトは二人とも驚いていたが、その意味は少し違っていた。


「お主、アイラ皇女は確か十一歳と言っておったじゃろう?」

「確かそのはずなんだが」


 リリベットが驚いているのは無理はなかった。彼女は十一歳にしては大人びていたし、思わずレオンが「綺麗な人だな……」と呟くほどの美少女だった。


 全員が馬車から降りると、レオナルドたちはフェルトに向かってゆっくりと近付いてくる。そして、フェルトとレオナルドが握手を交した。


「ようこそいらっしゃいました、兄上!」

「しばらく世話になるが、よろしく頼む。それで……そちらの方が?」


 彼はリリベットを一瞥してから尋ねてきた。それに対してフェルトは笑顔で答える。


「はい、我が妻であり、この国の女王リリベット・リスタ陛下です」


 リリベットにお辞儀をして改めて口を開いた。


「お初にお目にかかります、女王陛下。私はクルト帝国宰相レオナルド・フォン・フェザーでございます」

「うむ、お噂はかねがね……私がリリベット・リスタなのじゃ。我が国を代表して、お主たちを歓迎するのじゃ」


 レオナルドはニコッと微笑むと、サリナ皇女に手をやり彼女の紹介を始めた。


「こちらが我が妻サリナ・クルトです」

「はじめまして、リリベット様。今日はお会いできることを、とても楽しみにしておりましたわ」


 サリナがふわっと微笑むと、リリベットを護るように緊張した面持ちで控えていた近衛隊の隊員たちも、一瞬で柔らかい雰囲気に包まれてしまった。そして、サリナ皇女はもう一人の美少女の背中を押して、リリベットの前に出すとそのまま紹介をする。


「この子が娘のアイラです」

「はじめまして、叔母様。お会いできて光栄です!」


 とても美しいカーテシーで挨拶をしてきたアイラだったが、異様なほど目を輝かせていた。リリベットがそのことに少し驚いていると、サリナ皇女が付け加えるように説明してくれた。


「ごめんなさい、この子ったら昔から『幼女王』のお話が好きで、貴女のファンなのです」

「う、うむ……それは嬉しく思うのじゃ! では私の子供たちも紹介しておくのじゃ。レオン、ヘレン、こっちに来るのじゃ」


 リリベットが呼ぶと、レオンに手を繋がれてヘレンが近付いてきた。リリベットはまずレオンの紹介を始めた。


「この子が、王太子のレオンなのじゃ」

「はじめまして、伯父様、伯母様、そしてアイラ皇女殿下。僕がレオン・リスタです」


 レオンの紹介が終わると、今度はいつの間にかフェルトの足にしがみついて隠れているヘレンの紹介をする。


「そのフェルトに隠れているのが、娘のヘレンなのじゃ。ヘレン、挨拶をするのじゃ」


 フェルトの足を掴みながら頷いたヘレンは、少し恥かしそうに俯きながら


「……ヘレンは、ヘレンなのじゃ」


 と自己紹介をすると、再びフェルトの影に隠れてしまった。リリベットは少し困ったような表情を浮かべている。


「少し人見知りをする子なのじゃ。気分を害さないでいただけると助かる」

「ははは、子供のことですから特に気にしていませんよ」


 そう答えたレオナルドに、リリベットはほっと安堵の息をつく。


「それでは長旅で疲れたじゃろう? ささやかながら宴を用意させていただいたのじゃ」


 リリベットは、そう言いながら彼らを城中に誘うのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 食堂 ──


 長いテーブルの上座にはリリベットが座り、リスタ王国側はフェルト、レオン、そして宰相のフィンが座り、クルト帝国側にはレオナルド、サリナ、アイラの三名が座り、その後ろには黒衣の騎士が一名立っている。


 リリベットはそのことを気にして、黒衣の騎士に声を掛ける。


「そちらの護衛の方も食事を共にするとよいのじゃ」

「いいえ、私は結構です」


 即座に断られてしまったので、少し気落ちしたリリベットを見て、サリナ皇女が


「良いではないですか。ジャハル、貴方も座りなさい」


 と告げた。ジャハルと呼ばれた騎士は、帝国式の敬礼をすると兜を脱いだ。短く切り揃えた黒髪に整った顔をした青年は、そのままアイラ皇女から少し離れた位置に腰を掛ける。


 リリベットが給仕に目配せをすると、給仕は彼の分のテーブルをセットし、他の給仕が一名増えたことを厨房のほうへ報告に向かった。


 しばらく歓談をしていると食事が運ばれてきた。ふと何かに気が付いたサリナ皇女が尋ねてくる。


「ところでリリベット様、ヘレン王女のお姿が見えませんが?」

「うむ、ヘレンはテーブルマナーがまだ出てないのじゃ。家族だけで食事する際は一緒なのじゃが、ゲストの前ではさすがに……」


 少し弱った表情を浮かべたリリベットに、サリナ皇女はふふっと笑う。


「あら、(わたくし)たちは気にしませんわ。だって義理とはいえ家族ではないですか。ねぇ、レオ?」

「あぁ、そうだな」


 リリベットがフェルトの方を一瞥すると、彼は小さく頷いた。


「それでは次回からは同席させるのじゃ」

「ふふ、楽しみですわ」




 そして食事が終わると、リリベットはサリナ皇女の質問攻めにあっていた。アイラ皇女がそんな母親に羨望の眼差しを送りながら文句を言う。


「お母様ばかり、叔母様とお話して!」

「あら、私だって義妹(いもうと)とお話したいわ。今日は私に譲りなさいな、貴女は子供同士で話してらっしゃい」


 サリナは娘の訴えを軽くいなしてしまう。リリベットは困った表情を浮かべていたがレオンを呼びつけると


「レオン、しばらくアイラ皇女のお相手をするのじゃ。申し訳ないがアイラ皇女も明日以降で時間を取るので、今日はレオンたちと遊んでやってほしいのじゃ」


 と頼んだ。それに対してレオンとアイラは頷くと、一緒に部屋から出て行くのだった。





◆◆◆◆◆





 『ヘレンの食事』


 リリベットたちが、サリナ皇女たちと食事を共にしているころ、ヘレンはラリーともに食事を取っていた。給仕にはマリーが付いており、ヘレンは今日あったことなどを、楽しそうに報告したりしていた。


 その食事は正直上手だとは言えなかったが、リリベットやフェルトもヘレンには甘く、マリーも王太子のレオンや自分の子供のラリーほど厳しくしたりはしなかった。


 そのためヘレンは口の周りを汚したりするが、時々マリーが口の周りを拭いてあげると二パーと笑って


「おいしいのじゃ!」


 とフォークを突き上げて喜ぶのだった。


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