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第27話「デートなのじゃ」

挿絵(By みてみん)

 リスタ王国 ラフス教会内の一室 ──


 いよいよレオンと一緒に出かける日が訪れた。「任せて」と言っていたサーリャを信じて、王立学園の制服を着たシャルロットは、今にもスキップするような気分……ではなく、緊張して忙しなく鏡の前で確認していた。


「へ……変じゃない? サーリャお姉ちゃん」

「大丈夫、大丈夫、シャルちゃんは可愛いから」


 サーリャは落ち着かない様子のシャルロットを、励まそうと明るく声を掛けている。シャルロットが、彼女のトレードマークである船長帽をかぶろうとすると、サーリャはそれを止めて


「今日は海賊はお休みです」


 と微笑むと、玄関の方からノックする音が聞こえてきた。サーリャはシャルロットに「待っててね」と告げてから、玄関に来訪者の確認を向かった。


 しばらくして戻ってきたサーリャは、何故か嬉しそうな顔をしていた。


「やっぱりレオン殿下たちでしたよ。さぁシャルちゃん行きましょう」


 シャルロットは少し躊躇したが、サーリャに奪われた船長帽を一瞥すると


「えぇぃ、海賊は度胸っ!」


 と叫んでから、玄関に向かうのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 ラフス教会の玄関 ──


 シャルロットが玄関の扉を開けると、そこにはレオンと近衛隊長のラッツが立っていた。その姿を見たシャルロットは目を丸くしている。そして、なんとか声を振り絞って尋ねた。


「そ……その格好は?」

「え? 学園生活の練習に、制服を着用するように言われたのですが、シャルさんだって着ているみたいだし?」

「えっ? えっと?」


 シャルロットが戸惑いながらサーリャを見ると、彼女は満面の笑顔でやりきった顔をしていた。


「そ……そう! 練習、練習なの。レオンさまは、とっても似合ってるね」


 何とか取り繕うように言うと、レオンはニッコリと微笑み


「シャルさんも、とても可愛らしいですね」


 と返した。シャルロットは顔を真っ赤にしながら俯くと小声で呟く。


「か……可愛いって、何でそんな自然に、本当に年下なの!?」


 レオンは常に父のような紳士を目指しているので、フェルトを真似て女性には常に優しく接するようにしているのだ。


 俯いているシャルロットに、首を傾げながらレオンが言う。


「それじゃ、行きましょうか? シャルさん」

「は、はいっ!」


 シャルロットがレオンの元に歩いていくと、サーリャが彼に向かって頭を下げる。


「それではシャルちゃんをお願いしますね、殿下」

「はい、お預かりします」


 レオンは笑顔で答えるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 街道上 乗合馬車の上 ──


 レオンとシャルロット、そして護衛として同行しているラッツの三人が、教会を後にすると大通りに出て乗合馬車に乗った。


「レ、レオンさま、今日はどこに行くの?」

「まずは学府エリアを見て回ろうかなって。僕たちが学園に通うようになったら、一番行くエリアだからね」


 この乗合馬車は、大通りから学府エリアへ向かう馬車であり、レオンは専用の馬車を使うことになるが、シャルロットはこの乗合馬車を利用することになる。


 王城があるエリアと学府エリアを繋ぐ街道は、木工ギルドによって整備されており、大衆向けの乗合馬車でもさほど揺れなかった。しかし、屋根などはなく風が吹き込んでくる。シャルロットは、髪が乱れないように押さえながら尋ねる。


「風が強いね。乗合馬車(これ)って雨の時とか、どうするんだろ?」


 シャルロットの問い掛けに、ラッツが一瞬口を開こうとするが慌てて口を噤んだ。今日は二人の邪魔をせずに、背景のように前に出ないように命じられているのだ。


「確か雨の時は……骨組みを組み立てて、天幕を張るはず?」


 レオンはそう言いながら御者を見ると、彼はかぶっていた帽子を軽く上げた。どうやら正解のようだ。


「海の上だと船室に引っ込むか、雨具をかぶるかだったなぁ」

「そう言えばシャルさんは、船の上で暮らしてたんだったよね? 僕、船はほとんど乗ったことがなくて、どんな感じなの?」


 突然尋ねられたシャルロットは戸惑ったが、少しでも興味を持ってもらったことが嬉しかったのか、少し興奮気味に喋りはじめた。


「一面に広がる青い海があって潮風がとても気持ちよくって、周りには乱暴でむさ苦しい男たちばっかりだけど、みんな子供みたいにはしゃいで飲んで、毎日がお祭みたいで楽しかったなぁ」

「へぇ楽しそうですね!」


 今まで聞いたこともないシャルロットの話に、レオンは目を輝かせている。そんな彼を見てシャルロットは、歳相応に可愛らしいところもあるんだなと感じてクスッと笑う。


「あたしが船を手に入れたら、きっとレオンさまを乗せてあげるねっ!」


 シャルロットは大見得を切って、そう宣言するのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 学府エリア 学園前 ──


 乗合馬車が学園前で止まると、レオンたちは御者にお礼を言って馬車から降り、その場で身体を少し伸ばす。


「ずっと座っているのも大変だね。シャルさんは大丈夫だった?」

「は、はいっ、大丈夫!」


 本当はでん部が少し痛くて、レオンから見えないように擦っていたのだが、急に声を掛けられて戸惑いながら返事をする。


「それじゃ、えっと次の目的地は……」


 レオンがポケットからメモ書きのようなものを取り出して見ていると、何者かが忍びよってきた。


「アンタ、レオン殿下やないのぉ! なんやの制服なんて着て、買い物? それならウチの店寄っててや~なんでも揃ってるでぇ」


 近付いてきたのは商人のファムだった。彼女の店は学園前という一等地に立っているのだ。レオンに纏わりつくように腕を絡める。


「それとも二人でデェト? そんなら彼女さんに宝石の一つでも贈らなぁ」

「デ……デート!?」


 突然デートと言われたシャルロットは上ずった声を上げる。


「ほら、陛下がいつも首から下げとるエメラルドのネックレス、あれフェルトの旦那が陛下に贈ったもんなんやけど、アレもウチの店で買うたんやで~、アンタ可愛い顔しとるからサービスし……んぎゃぁ!」


 突然叫び声をあげたファムにレオンは驚いて振り向くと、シャルロットが思いっきりファムの尻尾を引っ張っていた。


「レオンさまにベタベタしないでっ!」

「千切れる、千切れるやろ!」


 ファムは涙目になりながらレオンから離れると、尻尾を奪い返してシャルロットから距離を取った。


「な……なんちゅう、凶暴な子や」

「レオンさま、行きましょっ!」


 ファムは恨みごとを言っていたがシャルロットはレオンの手を掴むと、学園とは逆側へ走って行ってしまった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 学府エリア 教授通り ──


 レオンの手を引いて走ってきたシャルロットは、肩で息をしながら振り返って尋ねた。


「はぁはぁ……大丈夫、レオンさま?」

「はい、シャルさんこそ大丈夫?」

「うん、あたしは大丈夫だよ」


 レオンは多少息が乱れているものの、シャルロットほどは疲れてはいない様子だった。しかし、周りを見回して困ったような表情を浮かべた。


「でも……ラッツさんを、置いて来てしまったみたいだね」

「え? 本当だ、いない……どうしよう?」


 シャルロットが困っていると、レオンは握られている手を握り返して近くにある店を指差しながら提案する。


「あの店で少し待ってよう。なんだか美味しそうな飲み物が売ってるみたいだし」

「えっ、うん……」


 シャルロットは繋いでいる手をじーっと見つめながら、恥かしそうに頷いた。





◆◆◆◆◆





 『見守る瞳』


 実はラッツははぐれてしまったわけではなく、近くの店の屋根の上にいた。彼は極力背景に溶け込み「機会があれば二人きりにせよ」という命令に従って動いているのだ。


 これはマリーの「学園に通う前に少しぐらい女性と接したほうが良いのでは?」という提案に押し切られて、リリベットが許可した作戦で、今のところ順調に推移しているのだった。


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