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第26話「勝負服なのじゃ」

 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 数日後リリベットが書類に目を通していると、マーガレットがフェルトからの手紙を持って執務室に入ってきた。マーガレットはナイフで封を切り、中身を取り出すとリリベットに差し出す。


 リリベットは極力澄ました顔で、それを受け取ると手紙を読み始めた。


 手紙にはもうすぐ帰国する旨と、今回の外交の成果が書かれていたが「愛の言葉」の一つもないことに、リリベットは頬を膨らませている。しかし、その中に興味を引く一文が書かれてあったのか、リリベットの表情が少し真剣なものになった。その表情に何かを感じたマーガレットが尋ねる。


「陛下、どうかなさいましたか?」

「お義兄(にい)様と、お義姉(ねえ)様が、近く我が国に訪れると書かれておるのじゃ」

「陛下の義兄、義姉と言いますと、レオナルド宰相とサリナ皇女でございますか?」

「うむ、お義父(とお)様の以来の大物なのじゃ。確かに会ってみたいとは前々から思っておったのじゃが……」


 リリベットはそう言いながら席を立つと、手紙を持ったまま扉のほうへ歩き始めた。その後ろ姿に向かってマーガレットが問いかける。


「陛下、どちらに?」

「うむ、まだ正式な打診ではないが、少し宰相に相談に行ってくるのじゃ」


 リリベットは、そう言い残すとそのまま出て行ってしまった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 宰相執務室 ──


 リリベットが部屋に入ってくると、宰相のフィンは読んでいた書類を執務机に置いて彼女を出迎えた。


「陛下、どうかなさいましたか? とりあえず、こちらへ」


 宰相はリリベットにソファーを勧めると、自身はその対面に座った。


「ふむ、フェルトから手紙が届いたのじゃ」

「外務大臣から? 拝見します」


 リリベットから差し出された手紙を受け取ると、宰相は一通りそれに目を通す。そして、少し驚いた様子で手紙を閉じるとリリベットに戻した。


「帝国宰相夫妻の訪問ですか、まだ正式な打診は来てないようですが?」

「フェルトが戻ってきた頃に、送られてくる予定のようじゃな」


 宰相は唸りながら頷くと、少し考えてから口を開いた。


「わかりました。では、この件は私と財務・典礼両大臣で準備を進めておきます」

「うむ、相手は帝国の重鎮じゃからな……失礼のないように、よろしく頼むのじゃ」


 リリベットは再度の念押しをしてからソファーから立ち上がり、執務室を後にするのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 リリベットが執務室に戻ってくると、その前室に軍務大臣シグル・ミュラーが待っていた。リリベットは彼と一緒に執務室に入り、ソファーに腰を掛けると彼に用件を尋ねた。


「それで、今日は何の用なのじゃ?」

「はい、模擬戦の件でございます」

「模擬戦?」


 模擬戦自体を忘れかけていたリリベットは少し思い出すように唸ると、すぐに思い出し謝罪の言葉を口にした。


「あぁ、すまぬ。模擬戦じゃな、先ほどから少し慌しくて、うっかり忘れておったのじゃ」

「何かありましたか?」


 シグルの問いかけに、リリベットが義兄(あに)夫婦が近く訪問する予定だということを伝えると、さすがにシグルも驚いた顔をした。


「それは……いろいろと大変そうですね」

「うむ、まぁそちらは宰相に頼んできたので大丈夫じゃろう。それで模擬戦のことじゃったか?」


 シグルは頷くと書類を一枚取り出して、リリベットに差し出した。


「はい、各隊の選抜が終わり模擬戦の日程が決まりましたので、ご報告に来たのです」


 リリベットは書類を受け取って一通り読むと、書類をテーブルに置いた。


「ふむ、一週間後か……思ったより急じゃが、これから何かと忙しくなるのじゃ、丁度よいタイミングじゃろう」

「それでは、このまま進めさせていただきます」


 リリベットの了承が取れたシグルは立ちあがると、敬礼してから部屋を後にするのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 ラフス教会の一室 ──


 王城が騒がしくなっているころ、ラフス教会ではシャルロットが呆然とボロ布を眺めていた。


 それは彼女が一番気に入っていた服で、地下坑道に迷い込んだ時にも着ていた服だ。視界の悪い坑道で動き回ったあげくに、気絶して倒れこんだせいで泥と煤まみれになり、救出されたあと城のメイドたちが洗ってくれたもののボロボロの状態だった。


 そのことを知ったサーリャが、今度メアリーにお願いして同じものを作り直して貰うと約束してくれたが、最近のメアリーは制服騒動に巻き込まれており、未だに完成の目処が立っていなかった。


 それでもしばらく待てば作って貰えるのだろうが、問題になってくるのは近付いてきているレオンとの約束である。シャルロットが持っている服はピケルに押し付けられた子供っぽい服と、サーリャから借りている修道服のお古だけだった。


 シャルロットはベッドに頭から突っ込むと、泣きそうな声でジタバタと暴れる。


「こんなんじゃ、レオンさまとお出かけなんてできないっ!」


 そこに扉をノックする音が聞こえてくる。


「シャルちゃん、大きな声を出してどうしたの?」

「お姉ちゃん……」


 シャルロットはベッドから飛び起きると、扉を開けてそこに立っていたサーリャに抱きつく。


「サーリャお姉ちゃん、可愛い服を貸してっ!」

「えぇ!? 可愛い服って?」

「レオンさまとお出かけするときに着ていく服がないのっ!」


 その言葉でようやく理解したサーリャだったが、同時に困った顔を浮かべた。


「ごめんなさい、シェルちゃん。私、修道服しか持ってないのよ」


 以前から「女なんだからもっと着飾りなさい!」とメアリーに言われてはいたが、修道服さえあればどこでも問題がなかったため、特に興味を示してこなかったツケが回ってきていたのだ。


 サーリャの言葉を聞いたシャルロットは、心底落ち込んだ様子で部屋に戻っていく。サーリャも慌てて部屋に入っていった。


 そして、ベッドの上に並べられている服を見て、可愛らしいピンクの服を拾い上げるとシャルロットに見せる。


「こ……これなんて、可愛らしいじゃないかな?」

「そんな子供っぽいの嫌ッ!」


 シャルロットは首を横に振った。確かにサーリャの見せた服は、どちらかと言えばヘレンが着たほうが、似合うのではと思うほど子供っぽいものだった。


 おしゃれなどまったく理解してこなかったサーリャが、ほとほと困り果ててふとベッドに目をやると、ベッドの下から箱状のものが顔を出しているのを発見した。


「あっ、これならいいんじゃないかな」


 サーリャはそう言いながら箱を引っ張り出すと、それをベッドの上に置く。そして、シャルロットがその箱を開けると、新品の服がそこに入っていた。


「これ、学園の制服……確かにこれなら可愛いけど、あたしだけ制服なんて……」


 あまり気乗りがしていないシャルロットの手をガシッと掴むと、サーリャはニッコリと微笑んだ。


「大丈夫、私とラフス様を信じて! なんとかしてあげるから」

「……うん」


 他に縋るものがなかったシェルロットは、それを信じて頷くしかなかったのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 客室 ──


 翌日、サーリャはリリベットを尋ねて王城へ訪れていた。突然サーリャが来たと伝えられたリリベットと、マーガレットが客室に入ってきた。


「突然驚いたぞ、どうしたのじゃ?」

「はい、突然押しかけてしまい申し訳ありません。リリベット様」


 サーリャが頭を下げると、リリベットは少し慌てた様子でそれを制止した。


「気にしなくてもよいのじゃ。友人が会いに来てくれて、私は嬉しく思っておるぞ。まぁ座るがよいのじゃ」


 サーリャにソファーを勧めつつ、リリベットは対面に座った。


「それでどうした?」

「はい、実はお願いがありまして……」


 サーリャは昨夜のシャルロットの話とお願いをすると、リリベットはちゃかしたように言った。


「あはは! お主も、まるで母親のようじゃな」

「ふふふ……そうですね。なんだかシャルちゃんのことは、自分の子供のように思えてきてます」


 サーリャは息を飲むと確認のために尋ねる。


「それでお願いできないでしょうか?」

「ふむ、まぁ問題はないと思うのじゃ。レオンには私から話しておくのじゃ」

「あ、ありがとうございます」


 リリベットの言葉に、サーリャはほっとため息を吐き深々と頭を下げるのだった。





◆◆◆◆◆





 『勉強家』


 その頃、レオンとラリーは取り寄せた区画図を広げて悩んでいた。まず唸っているレオンが独り言のように呟く。


「う~ん、街を案内するって言っても、どこに行けばいいんだろ?」

「姉さまたちは、教授通りのお店の話をよくしてますよ」


 ラリーは、そう言いながら教授通りの辺りを指差した。当然ラリーも一人では、なかなか出かけられる歳ではないので、姉から聞いた情報が頼りである。


 こうして少年たちは悩みながら、お出かけプランを考えていくのだった。


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