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第24話「仲直りなのじゃ」

 リスタ王国 教授通り 甘味処『アムリタ』 ──


 その日、アムリタの店長は再び青い顔をしていた。


 前回リリベット訪問で肝を冷やしていたのだが、彼が出した紅茶にはリリベット自身も満足して帰っていった。その結果、女王陛下が訪れた店と話題になり大繁盛しているのだ。


 その日も店内での飲食はもちろん、お持ち帰りの客も一時間待ちという大変混在した状況だった。店内のことは他の店員に任せて、店長はお持ち帰りの客に対応していた。


「はい、次の方~おまたせ……しましたぁ!?」


 急に上ずった声をあげた店長に、目の前にいる一見家族連れにしか見えない女性が、人差し指を鼻の前に当てて「静かに」というジェスチャーをする。


 店長が驚いたのはこの女性にではなく、彼女が抱き上げている女の子と、側に立っている男の子のほうである。慌てた様子の店長が小声で言う。


「レ……レオン殿下と、ヘレン殿下、当店になにか御用でしょうか? 殿下たちであれば、お……お待ちいただかなくても、いつでもお届けいたしますのにっ」


 この日、店長の目の前に現れた一見家族連れにしか見えない四人は、帽子などで軽く変装をしているレオンとヘレン、そして普段着を着ているマリーとラッツだった。レオンは真剣にケーキの入ったショーケースを見つめながら、首を横に振って答える。


「いいえ、国民の方々の商売を邪魔してはいけないと、母様から言われてるので」

「きょ……恐縮ですっ!」


 マリーは眠っていたヘレンを揺すって起こす。


「むにゃ? ついたぁ?」

「はい、ヘレン様。ほら、おいしそうですよ?」


 マリーがヘレンを下ろすと、一目散にショーケースに張り付くと目を輝かせるのだった。


「きらきらなのじゃ~」


 そして苺ムースの乗ったケーキに目を付けると、ピョンピョンと飛びながらマリーに言った。


「これ! これがいいのじゃ!」


 マリーは微笑みながら、再び抱き上げると店長に向かって


「では、その赤いものを四つ、いただけますか?」


 と注文すると、彼はすぐに苺ムースの乗ったケーキを箱に詰め始めた。続いてレオンが注文をする。


「店長さん、僕はこのプリンを二つください。えっと……箱を別にして貰えますか?」

「は……はい、ただいまっ!」


 店長は二箱にケーキを入れてショーケースの上に置いた。マリーが料金を差し出すと、店長は恐縮しながらそれを受け取った。そしてケーキの入った箱をラッツが持ち、プリンが入った箱はレオンが持つと店長に向かって


「ありがとう、また来ます」


 と微笑みかけるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 路地 ──


 アムリタでプリンを購入したレオンは、途中で馬車から降りて路地を歩いていた。マリーとヘレンは先に帰って行ったが、ラッツが護衛として同行している。


「ラッツさんは、マリーさんを怒らせたときは、どうしてますか?」


 歩きながら突然尋ねてきたレオンに、ラッツは少し驚いた顔をしながら答える。


「マリーを怒らせたときですか? う~ん、だいたいヒドイ目にあいますね……」

「えぇっと……謝ったら許して貰えますか?」


 ラッツは少し考えたあと、ニコッと笑って頷いて答えた。


「えぇ、怒りの度合いによって時間は違いますが、しばらく優しく接していれば許してくれますよ」

「……そうですか」


 ラッツの答えに少し納得したのか、レオンは手にしたプリンの箱を見て頷く。ラッツもある程度事情は聞いていたため、そっとレオンの肩に手を置いて


「大丈夫ですって、レオン王子ならニコッと微笑むだけで、大抵の女性は許してくれそうです」


 と元気付ける。そんなやり取りをしている間に、レオンたちは目的地であるラフス教会に到着したのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 ラフス教会の一室 ──


 扉をノックするとサーリャが対応してくれて、レオンたちはすぐに教会内の一室に通されていた。ソファーに座ってしばらく待っていると、シェルロットを呼びに行ったサーリャが困った顔で戻ってきて、扉の前で頭を下げる。


「あの……すみません、レオン殿下。シャルちゃん『恥かしくて会えない』と言ってまして」

「そ、そうですか、一言謝りたいと思っていたのですが……」


 レオンは落ち込んだ様子で、プリンの箱を差し出しながら告げた。


「それではこれを、よかったらシャルさんに」

「これはご丁寧にありがとうございます……だ、そうですよ、シャルちゃん!」


 サーリャがそう言いながら、思いっきり扉を開けると修道服を着たシャルロットが、バランスを崩して部屋の中に転がり込んできた。どうやらまた覗いていたようである。


 シャルロットが顔を上げると、レオンと目が合ってしまった。顔を赤くして逃げていこうとしたところをサーリャに捕まり、ソファーに強制連行されてしまう。


「ほら、さすがにレオン殿下に失礼でしょ。ラッツさん、ちょっとお茶を淹れてきますので、手伝って貰えますか?」

「えっ、しかし、護衛の任務中ですので……」


 ラッツは任務中なのを理由に断ったが、レオンはラッツの方を向いて


「ラッツさん、僕は大丈夫ですから」


 と言うとラッツは頷き、サーリャと共に部屋から出ていく。




 二人きりになったレオンとシャルロットだったが、シャルロットは顔を赤くして俯いている。そんなシャルロットに、レオンは頭を下げながら言う。


「この前は、僕の不注意でごめんなさい」


 レオンの不注意とはシャルロットの叫び声を聞いて、確認もせずに診察中の部屋に入ったことである。丁度ルネによって服を捲り上げられていたシャルロットは、バッチリ裸を見られたのだった。


「えぇ!? なんで、レオンさまが謝るの!?」


 いきなり謝罪されたことに、シャルロットが慌てて尋ねる。あれは事故であり、シャルロットからすれば、叫び声を聞いて駆けつけてくれたレオンに、謝ってもらうことなどないのである。レオンはキョトンとした顔で首を傾げる。


「人に嫌な思いをさせたら、謝るのは当然のことですから」


 あまりに真面目に答えたレオンに、シャルロットは思わず笑ってしまった。


「あはは、別にレオンさまに見られたから嫌とかじゃなくて……ただ恥かしかっただけです」


 最後の方は呟くように言うと、モジモジと恥かしがって顔を少し赤くしている。レオンはホッとため息をつくと


「そうだったんですか、僕はてっきりシャルさんに嫌われてしまったのかと」

「そっ、そんなわけないです! むしろ大す……な、なんでもないです」


 思わず思いの丈を口走りそうになったのを、なんとかグッと我慢したシャルロットは、照れた様子で微笑んだ。


「そうなんですか、それはよかったです」


 それに合わせてレオンが微笑むと、すでにシャルロットの瞳はレオンの笑顔の虜になっていた。




 その後、サーリャたちがお茶を持って帰ってくると、レオンとシャルロットは一緒にプリンを食べて、すっかりと打ち解けている様子になっていた。


「あっ、そうです。レオン殿下?」


 何かを思いついたように、サーリャがレオンに話しかける。


「はい、なんでしょうか? シスターサーリャ」

「もしよろしければ、今度シェルちゃんに街を案内してあげて貰えませんか? 出来れば二人っきりで! シャルちゃん、この国に来たばかりであまり知らないので」


 突然、そんなことを言い出したサーリャに、シャルロットは目を丸くしている。


「えっと……ごめんなさい、シスターサーリャ……僕では難しいかな」


 レオンが申し訳なさそうに断ると、シェルロットはがっくりと肩を落とす。


「僕、おそらく一人で出掛けさせて貰えないので護衛つきになってしまいますし、僕もそれほど詳しくないので……それでも良ければ、喜んでエスコートさせていただきますが」


 少し自信がなさそうに言うレオンに、サーリャは喜びの表情を浮かべると頭を少し下げて頼み込むのだった。


「是非、お願いします!」





◆◆◆◆◆





 『愛の女神』


 お茶を淹れに行くと言いつつ、こっそりレオンとシャルロットの様子を覗き込んでいたサーリャは、二人が仲直りをしたことを大いに喜んでいた。そこにお湯を沸かせていたラッツが戻ってきて


「二人の様子は、どうです?」


 と尋ねると、サーリャは満面の笑顔で答える。


「もう大丈夫そうです。ありがとうございます」


 そして厨房に向かいお茶を用意すると、何かを決意したように呟いた。


「待っててね、シャルちゃん! お姉さんがもっとレオン殿下と、仲良くできるようにしてあげますから」

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