エピローグ「女王の帰還なのじゃ」
リスタ祭から数ヵ月後、この日はリリベットの二十四歳の誕生日だった。つまりリスタ王国二大祭の一つ『女王生誕祭』の日でもある。
すでに城内の政務には復帰していたが、妊娠期間も含めおよそ一年ほど国民の前に姿を現してなかった女王リリベットが、本日のパレードで久しぶりに国民の前に立つことになっていた。
リスタ王国 王城 子供部屋 ──
パレードが始まるまでの時間を利用して、リリベットは子供部屋に来ていた。子供部屋にはマリーがおり、揺り篭の中にはエリーゼが寝転がっている。
リリベットは揺り篭の中のエリーゼの顔を覗きこむ。エリーゼはリリベットの顔を見て笑っている。
「相変わらずエリーは元気なのじゃ」
「あー」
揺り篭から抱き上げて、背中を擦ると母の体温が気持ちいいのか、エリーゼは気持ち良さそうに笑う。リリベットがふと揺り篭を見ると、ピンクの髪の妖精が一人じっとリリベットを見つめていた。
「うむ? こやつは、確か……ヘレンの妖精なのじゃ。どうしてこんなところにいるのじゃ?」
「あー」
「あぁ、それは殿下が妹君を心配して一人付けてるみたいですよ。特に邪魔にはならないので、そのままにしてあります」
マリーがにこやかに答えると、リリベットはクスッと笑う。
「ふふ……ヘレンも姉として、自覚が出てきたのじゃな」
「あー」
リリベットは、エリーゼの頬をつつきながら首を傾げる。
「のじゃ?」
「あー」
「む? さっきから『のじゃ』に反応しておらんか?」
マリーは苦笑い気味に呆れた顔で答える。
「ふふふ……ヘレン殿下の時もそうでしたが、語尾で反応にしてる感じがしますね。また『のじゃのじゃ』言いだすかも知れませんよ」
「むぅ……それは困るのじゃ」
リリベットから受け取ると、マリーはエリーゼをあやし始めた。さすがに手馴れたもので、しばらくしてエリーゼは眠りについたので、そっと揺り篭に戻した。
「うむ、もうすぐ時間なのじゃ。マリー、エリーをよろしく頼むのじゃ」
「はい、お任せください」
◇◇◆◇◇
リスタ王国 王都 大通り ──
多くの国民がリリベットの復帰を祝うために大通りに集まっていた。衛兵たちは総出で国民が飛び出さないように警備をしている。その間をパレード隊が進み、先頭と最後尾を騎士団の選抜隊、先頭の騎士団の後に紅王軍、リリベットたちが乗る中央の馬車を囲むように近衛隊が護っている。
リリベットたちが乗るのは八頭の白馬が曳く馬車で、壁はなくステージのようになっている式典用の特別仕様だ。その上に乗ったリリベットは、正装に身を包み赤いマントを翻しながら、笑顔で手を振っていた。その周りには夫であるフェルトや子供たちも乗っており、一緒に手を振っている。
「女王陛下万歳!」
「おめでとうございます、陛下~!」
「おかえりなさい、陛下!」
リリベットを一目見ようと集まった国民からは、暖かな歓声が巻き起こっていた。
「うむ、ありがとなのじゃ~! 皆にも心配をかけたのじゃ!」
パレードはゆっくりと進み、国民一人一人に返すかのようにリリベットは言葉を掛けていく。
「リスタ王国万歳! リリベット様万歳!」
久しぶりに受ける国民の言葉に、感謝を感じながらリリベットは微笑む。
「みんなで幸せになれる国をつくるため、私も頑張っていくのじゃ! これからもよろしく頼むのじゃ!」
帰ってきた女王の言葉に呼応するように、国民たちは大歓声を上げ、それを祝福するように白く美しい鳥がリスタ王国の空に向かって飛びだったのだった。
END.
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