表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/170

第160話「お祝いなのじゃ」

 リスタ王国 王城 学芸大臣執務室 ──


 王城に着いたメアリーは、まずリリベットに謁見を求めたが、連れてこられたのは学芸大臣の執務室だった。


 中に入ると部屋にはナディアだけおり、執務机に座ってメアリーを見つめている。


「よく来たわね、メアリー」

「どうしたの、ナディアちゃん? 私、陛下に用があるんだけど」


 なぜ連れてこられたかわからないメアリーが首を傾げると、ナディアは首を横に振る。


「陛下は体調不良でお会いになれないわ。ねぇ、メアリー今日は城下が騒がしいようなんだけど何でかしらね?」

「ナ……ナディアちゃん、なんだか目が怖いよ?」


 明らかに怒っているナディアに、メアリーが後ずさる。


「さっき衛兵に聞いたんだけど、ある噂が流れてるみたいなの。しかも出所は『陛下の友人』だって言うじゃない?」

「へぇ……そ……そうなんだ?」

「私は誰にも喋っていないし、サーリャは人の噂話を楽しむような子じゃないわよね?」


 迫力が増すナディアに、メアリーは目を逸らす。


「……何か言うことは?」

「ごめんなさい、手紙を貰った時に口を滑らせましたっ!」


 メアリーが凄いよく頭を下げると、ナディアはため息をついて席を立つと、メアリーにソファーを勧め自分は対面に座った。


「まったく……気をつけなさいよ? この噂のお陰で、朝からヘンシュ大臣が走り回っているんだから」


 リリベットの妊娠の噂が広まってしまったことに関して、後手に回った国は急いで公式発表をすることが決定した。調子が悪いリリベットを国民に見せると、不要な動揺が走る可能性があるため、異例ながら女王からの発表ではなく、レオン王子からの発表ということで調整が進んでいる段階だ。


 その式典のために、典礼大臣ヘンシュが走り回っているのだった。


「それで、陛下にお祝いを言いに来たの? 残念だけど朝から調子が悪いみたいで、侍医のルネ先生から安静にさせるように言われているのよ」

「そうなんだ……じゃナディアちゃんでもいいんだけど」


 メアリーはリリベットから受け取った手紙を見せながら、サーリャの説得について説明した。ナディアは困ったような表情を浮かべると


「う~ん、それはちょっと難しいわね」

「どうして?」

「メアリーの言うこともわかるけど、国が支援するぐらいじゃサーリャは納得しないと思うわ」


 普通の国民に国から全面的に支援するという案は、財政面から考慮しても難しいのだがヨドスは国の英雄であるため、リスタ王国としても金銭的、及び人的支援を行なうことに難色を示すことはない。


 しかしナディアには、その程度でサーリャが納得するとは思えなかったのだ。


「まぁ一度、ヨドスさんとサーリャで、ちゃんと話したほうがいいんじゃないかしら?」

「う~ん、そうだよね。ちょっとヨドスさんに相談してみることにするわ」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 子供部屋 ──


 城内や城下が騒がしくなったことを肌で感じているのか、ヘレンはそわそわしていた。ソファーに座っているマリーのスカートを引っ張ると首を傾げる。


「さがわしいのじゃ~まつりなのじゃ?」

「いいえ、違いますよ。あれは皆さんが『陛下おめでと~』と言っている声です」


 マリーが優しく微笑みながら答えると、ヘレンはパァと明るい顔して両手を広げる。


「おそとまで、おでかけしたいのじゃ~」

「おでかけですか? でも城下は今騒がしいですからね」


 マリーが渋ると、ヘレンは涙を浮かべながら上目遣いで訴えかける。


「めぇなのじゃ?」

「……仕方ありません。では、行きますしょうか?」

「わーいなのじゃ!」


 マリーのお許しが出るとヘレンはピョンピョンと飛び跳ね、その周りを妖精たちが走り回っていた。しかし、マリーはそんな妖精たちを見つめると


「貴方たちはお留守番ですよ?」


 その言葉に妖精たちが「ヒィー!」とか「ヒャー!」とか言いながら、一斉に抗議を開始すると、マリーは冷ややかな瞳で見下ろしながら首を傾げ


「……何か?」


 と尋ねた。妖精たちは一斉に震え上がり、それ以上は何も言わなくなる。しかし、ヘレンは再びマリーのスカートを引っ張りながら懇願する。


「シブたちもつれてくのじゃ~」

「仕方ありませんねぇ……わかりました。貴方たち籠に入っていなさい、勝手に出たらわかってますね?」


 妖精たちはコクコクと頷くと、一斉にマリーが指差したサンドイッチなどを入れる手提げ籠に入っていく。


「それでは殿下、おでかけ用に着替えましょうか?」

「はーいなのじゃ~」


 マリーは手提げ籠を持ち上げると、ヘレンを連れて別室に向かうのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 大通り ──


 ヘレンを抱き上げた状態で大通りまで出てきたマリーは、大通りの賑わいをみてため息をついた。屋台ではリリベットの懐妊祝いと称したセールをしていたり、舞い上がった国民が昼時から酒を煽っていたりしていたからだ。


「皆さん、はしゃぎすぎですね」

「おまつりなのじゃ~!」


 ヘレンの声に反応して、国民たちが一斉にヘレンとマリーを見る。その視線にヘレンはビクッと震えると、マリーに思いっきり抱きついた。


「おぉぉ、ヘレン殿下! おめでとうございます。これでお姉さんですな~」

「ヘレン殿下も新しい兄弟が出来て、嬉しいでしょう!」


 大人たちが言っていることがあまり理解できてなかったが、みんなが笑っていたので自然とヘレンも笑う。そんな調子で何度か取り囲まれながらも大通りを進んでいくと、飴を売っている屋台の前を通りかかった。


「おっ、ヘレン殿下、おめでとうございます! これお祝いですよ、持ってて……って、あっ」


 棒つきの飴を差し出してきた屋台のオヤジは、ヘレンを抱き上げているマリーにようやく気がついた。


「これはこれは、マリーさんじゃないですか……あっ、やっぱり飴はマズイですよね?」


 マリーを怖がりながら一歩後ずさった屋台のオヤジだったが、マリーは優しく微笑みながら首を横に振った。


「いいえ、ありがとうございます。殿下、この方が飴をくれるそうですよ?」

「わーい、ありがとなのじゃ~」


 ヘレンが手を伸ばすと、屋台のオヤジは驚いた顔をしながら、飴をヘレンに差し出した。ヘレンが二パーと笑いながらそれを受け取ると、飴をペロペロと舐め始める。


 その瞬間、手提げ籠の蓋がパカッと開いたが、マリーががっしりと押さえて呟く。


「捻りますよ?」


 嬉しそうに飴を舐めているヘレンも、それを満足そうに屋台のオヤジも気がつかなかったが、マリーの手提げ籠が小刻みに震えていた。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 教授通り 甘味処『アムリタ』 ──


 しばらく大通りを歩いていたマリーたちだったが、レオンたちにもお土産を買って帰ろうということになり、教授通りの甘味処『アムリタ』まで来ていた。


 混み合うような時間ではなかったため、店長に誘導されて二人は椅子に腰掛ける。この店は意外と子供連れも多いのか、椅子の高さを変える台を用意してくれたため、ヘレンも問題なく座ることができた。


「おすすめのケーキを二つと、紅茶とこのジュースを一つ」

「シブたちのもなのじゃ~」


 ヘレンが手足をパタパタ動かしてアピールすると、マリーはため息をついてから注文を追加した。


「……では、ケーキをやはり四つと、冷たい紅茶をカップで一つお願いします」

「おすすめケーキ四つと、果実ジュース一つ、紅茶が二つ、その内一つが冷たくてカップでですね?」

「はい、お願いします」


 注文をとった店長は、不思議そうに首を傾げながらキッチンに向かった。




 しばらくして戻ってきた店長はケーキを四つ、ジュースをヘレン、紅茶をマリーのところに置くと笑顔でテーブルから離れていった。


 マリーがテーブルの上で籠の蓋を開けると、妖精たちがぞろぞろと出てくる。


「貴方たちのケーキはその二つです。そして冷たい紅茶を用意してもらったので、行儀よくするのですよ?」


 妖精たちは返事をすると、嬉しそうにケーキを食べ始めた。ヘレンはすでに食べており、口の周りがベトベトになっている。マリーが微笑みながら口の周りを拭いてあげると


「おいしいのじゃ~」


 とはしゃぐのであった。





◆◆◆◆◆





 『籠の中』


 飴の甘い匂いに誘われて、ケキが手提げ籠のゆっくりと蓋を開けて外を窺っている。それに対して、リーダー格であるリーフが慌てて窘める。


「ちょっとケキ、やめなさい! マリー(おおきなもの)に怒られるわよ!」

「平気、平気~。ちょっと甘いもの貰って来るだけだから~! って、うわっ!」


 手提げ籠の蓋を叩くように閉められたため、ケキはそのまま籠の中に落下した。


「いたた……なんだ~?」


 ケキが立ち上がって閉まってしまった蓋を見つめていると、外から


「捻りますよ?」


 という恐ろしい声が聞こえてきた。妖精たちは首を捻られる想像をしながら、震え上がったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ