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第159話「説得なのじゃ」

 リスタ王国 王都 ラフス教会の一室 ──


 サーリャは「リリベット懐妊」の噂が、広まっていることに驚いていた。レオン王子やヘレン王女の時は、国民に対して公式発表したのは悪阻が治まり妊娠が安定してからだった。しかしサーリャが王城で見たリリベットは、妊娠初期といった症状であり、まだ発表するには早いと思ったのである。


「学園の近くだと、もうこの話で持ちきりだよっ!」


 サーリャが首を傾げていると、コンラートが笑いながら声を掛ける。


「ははは、まぁ良い話なんだしいいんじゃないか? それより私たちのことを」

「えぇコンラートさん。シャルちゃん、食事の前にちょっと聞いて欲しいの」


 シャルロットは首を傾げると、ヨドスたちと一緒にテーブルに着いた。サーリャもコンラートの横に腰を掛ける。


「シャルちゃん、実は私コンラートさんと婚約することになったの」

「そうなんだ、婚約……えっ!?」


 驚いて机を叩いて立ちあがるシャルロット、反動で鍋が少し浮いて大きな音を立てた。そして、シャルロットはキッとコンラートを睨む。サーリャには幸せになって欲しいが、姉と慕っているサーリャが取られるのも嫌なのである。


「いつの間に……ぐぬぬ」

「そんなに睨まれても困るな」


 コンラートが少し照れるとシャルロットは、そっぽを向いて椅子に座った。


「そ……それじゃ、サーリャお姉ちゃん……東の城砦に行っちゃうんだね。そうなると、なかなか会えなくなっちゃうな~」


 王城から東西の城砦には馬車で半日ほどの距離であり、学生のシャルロットが気軽に行ける距離ではなかった。定期便の馬車も一応出ているのだが、商人を除く国民が王都と城砦間を移動することはあまりないため、馬車の数は少なくなっていた。


 シャルロットは少し寂しそうな表情を浮かべていたが、サーリャは首を横に振った。


「ううん、私はここに残るつもりよ」

「えっ!?」


 予想外の答えにシャルロットが驚いていると、サーリャはコンラートを一瞥して微笑んだ。


「お爺ちゃんのこともあるし、ピケルさんからシャルちゃんを預かっているんだから、少なくともシャルちゃんが卒業するまでは残るつもりよ。コンラートさんもそれでいいって」


 シャルロットがコンラートを睨むと、彼は黙って頷いた。そこまで黙っていたヨドスが、ようやく口を開いた。


「サーリャよ……ワシのことは気にせんでいいのじゃよ。夫婦が離れて暮らすなど、ラフス様の教えにも反しておる。コンラートさんと一緒に東の城砦に移り住むといい」

「そうだよ、サーリャお姉ちゃん! お爺ちゃんのことなら、あたしに任せてっ!」


 サーリャの重荷になることを望まない二人は、サーリャを説得しようとするがサーリャは首を横に振る。


「でもお爺ちゃん……ここから移るつもりはないって前から言っていたし、シャルちゃんだって危なっかしいもの置いてなんていけないわ。……さぁ、このお話はここまで! 冷めちゃうから、そろそろ食事にしましょう」


 これ以上説得は聞きたくなかったのか、サーリャは無理やり話を終らせて鍋の蓋を開けると、皆にシチューをよそい始めるのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 ラフス教会 ──


 翌日コンラートは任務があるため、東の城砦に戻ることになった。サーリャは王都に残り、今は教会内の掃除をしている。


「やっぱり隅とか埃がたまってるわ。お爺ちゃんは掃除とか無理だし、シャルちゃんは結構大雑把だから」


 クスッと笑いながら埃を掃いたあと、設置されている長椅子を綺麗に拭いていく。そんな事をしていると教会の扉が急に開いた。


 この時間の訪問客は珍しいため、サーリャが驚いて振り向くと、そこにはメアリーが立っていた。


「あれ、メアリーちゃん? どうしたのこんな時間に……お仕事は?」

「今日は店長に休み貰ってきたっ!」


 メアリーはズカズカと教会内に入っていくと、サーリャの前まで来て彼女の肩を掴むとそのまま抱きしめた。急に抱き締められたサーリャは驚きの声を上げる。


「わっ、ど……どうしたの、メアリーちゃん!?」

「おめでとう、サーリャ!」


 最初は戸惑ったサーリャだったが、すぐにこの親友が自分の婚約のことを言っているのだと気が付いた。どこから聞き付けてきたのだろうとは思ったが、微笑みながらメアリーの背中を優しく撫でる。


「うん、ありがとう……メアリーちゃん」

「幸せになるのよ?」

「うん……」

「式にはちゃんと呼んでね?」

「うん……」


 メアリーは泣いていた。そのことに気が付いたサーリャも、まるで自分のことのように喜んでくれる親友の存在に自然と涙が流れる。


 しばらくして落ち着いた二人は自然と離れた。そして、お互いの顔を見て笑いあう。


「ふふ……サーリャ、凄い顔よ?」

「メアリーちゃんこそ、化粧が崩れて凄いことになってる……」

「えっ!?」


 メアリーは驚くと、すぐにカバンから化粧道具を取り出して鏡で確認すると、急いで化粧をしなおしていた。


「今日の昼頃には、ちゃんと報告にいくつもりだったんだけどどこで聞いたの?」

「昨日、陛下から手紙が来てね。そこに書いてあったのよ」

「なるほど、陛下からか……あっ! ひょっとして、陛下のことも書いてあった?」


 サーリャが尋ねると、昨日の出来事を思い出したのかメアリーは苦笑いを浮かべる。その顔にサーリャは全てを悟った。


「書いてあったのね」

「そ……その話はいいのよ!」


 昨日散々店長に怒られたため、あまり思い出したくないのかメアリーはサーリャの話を遮った。


「それで式はいつ頃なの?」

「一応、三ヶ月後を考えているみたい。準備とかはコンラートさんがしてくれるから、私はまだよくわからないのよ」

「あ~……それじゃアイオ家でドレスも用意しちゃうかな? せっかくなら私が作ってあげようと思ったんだけど」


 サーリャは嬉しそうに微笑むとポンッと手を叩く。


「それは嬉しいっ! 作ってもいいか、コンラートさんに聞いておくねっ」

「うん、わかったわ。それで、そのコンラートさんはどこにいるのかしら?」

「従士の任務があるから、今朝から東の城砦に戻っているわ」

「あらら、そうなんだ? それでサーリャはいつ向こうに移るの?」


 メアリーが首を傾げて尋ねると、サーリャは顔を軽く横に振った。


「ううん、少なくてもシャルちゃんが卒業するまでは残るつもりよ」


 メアリーはガッシリとサーリャの肩を掴むと首を振った。


「サーリャ、貴女! 新婚早々別居するつもり!?」

「えっ……うん、だってお爺ちゃんも心配だし、一人になんてさせられないでしょ~ぉぉぉ?」


 最後のほうはメアリーに、ガクガクと揺らされながら答えるサーリャに眉を吊り上げる。


「新婚早々別居とか、そんな新婚がどこにいるの!?」

「そんなこと言っても……」

「とにかく絶対ダメ! ヨドスさんやシャルロットちゃんは、私が見ておくし信者の人たちだっているじゃない。だから大丈夫、貴女は安心して行きなさい」


 メアリーの必死な説得だったが、サーリャは困ったような顔をして答える。


「ありがとう……考えておくね、メアリーちゃん」




◆◆◆◆◆





 『大騒ぎの大通り』


 サーリャの顔から説得が不調だったと感じたメアリーは、王城に向かって大通りを歩いていた。


「サーリャが意外と頑固なの忘れていたわっ。これはナディアちゃんや陛下に相談しなくちゃ」


 大通りは大賑わいになっており、まるでリスタ王国二大大祭の一つリスタ祭のようになっている。不思議に思ったメアリーの耳に、人々の噂話が聞こえてきた。


「陛下がご懐妊らしいわよ? 本当に嬉しいニュースだわ」

「ヘレン様が生まれてからだから、五年ぶりぐらいか?」

「でも、本当なのかい? 王家から発表はないんだろう?」

「なんでも陛下の友人が話していたらしいぜ」


 その話を聞いて、メアリーは顔を青くして足を早める。


「うっ……思ったより細かい噂も飛び交ってる。このまま王城に行ったら、お縄とかないよね?」


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