第143話「妖精会議なのじゃ」
リスタ王国 王立学園 中等部の教室 ──
教室内がザワザワと騒がしくなっていた。騒ぎの中心は、壇上に上がっているタクト・フォン・アルビストン学園長と二人の男女である。
「諸君、君たちの新しい仲間を紹介しよう。まずはこの度中等部に転入してきたアイシャ・フォン・フェザー君だ。彼女はレオン殿下の従妹に当たるのだが、以前初等部に体験入学していたから知っている者もいるだろう」
アイシャは、一歩前に出て丁寧にお辞儀をする。
「皆様、よろしくお願いします。クルト帝国から参りましたアイシャ・フォン・フェザーです」
「おぉぉぉぉぉ!」
男子生徒を中心に歓声が上がる。女子生徒たちもヒソヒソと噂話をしていた。
「静粛にっ!」
学園長の一言で歓声が治まり静かになる。そして、彼はもう一人の紹介を始めた。
「そして、こちらの方が新たに教員になられたシャルマール・フォン・アルタール先生だ。剣術を中心とした授業を受けもっていただく」
シャルマールと名乗ったのは、アイラの護衛騎士であるジャハルである。彼も身分を隠すために偽名を使うことになったのだ。彼も一歩前に出て挨拶をする。
「シャルマールだ、よろしく頼む」
「きゃぁぁぁ、カッコいい!」
今度は女子生徒を中心に黄色い声が巻き上がった。
しばらくして再び静かにさせた学園長は、ジークやレオンが座っている方向を指差す。
「ではアイシャ君は、レオン殿下の隣に座るといい」
「はい」
アイシャは返事をすると、ゆっくりと階段を上りレオンの隣に座る。その間に学園長とシャルマールは教室から出ていき交代で教師が入ってきた。レオンの周りにはシャルロットやカミラがおり、身を乗り出すようにアイシャに声を掛ける。
「アイシャさん、またこの国に来てたんだねっ」
「ちょっと聞いてないわよっ!? 来るなら来るで連絡ぐらいしないよっ!」
久しぶりにみるアイシャに興奮気味の二人に、彼女は微笑みかける。
「お久しぶりね、二人とも。また仲良くしてくれたら嬉しいわ」
アイシャの微笑みの威力は異性に限らず同姓にも発揮する。シャルロットもカミラも、少し恥かしそうに顔を赤くするとやや俯きながら答える。
「と……当然じゃないっ!」
「友達なんだし、当たり前よっ!」
ジェニスなどはすでに王城で挨拶を交しているため、いつもの七人の中で彼女が転入してくるのを知らなかったのは、一般市民のシャルロットとカミラの二人だけだった。
「皆さんもよろしくお願いしますね」
アイシャは周りを見回しながら微笑んだ。
授業が終わった教室 ──
授業が終わると教室内の生徒たちが、アイシャの周りに集まってきた。そして色々と質問を投げかけていく。中には「恋人はいるのか?」などという質問も飛び交っているが、アイシャは微笑むと
「ふふふ……どうでしょうね?」
と首を傾げるだけだった。これが思わせぶりに見えたのか余計に盛り上がる男子生徒に、女子生徒たちは冷ややかな視線を送っている。
こうして初日から人気者になってしまったアイシャは、これから始まる学園生活に期待を膨らませるのだった。
◇◇◆◇◇
リスタ王国 王城 ヘレンの部屋 ──
マリーがヘレンと共に絵本を読んでいると、ヘレンは静かに寝息を立てて眠り落ちていた。マリーは静かに微笑むと、絵本を手にして掛けていた椅子から立ち上がる。ふとテーブルの上を見ると、妖精たちが円陣を組んで座っていた。
「殿下が起きてしまうので、あまり騒いではダメですよ?」
一声掛けると妖精たちはコクコクと頷いている。マリーも小さく頷くと部屋から出ていった。
マリーが出て行くと、妖精たちは「ひゃー」とか「とぅー」とか喋りだした。成長した妖精たちは周辺の言葉を覚えて話すと言われているが、彼らがちゃんとした言葉を話しているところを見た者はいない。しかし妖精同士はテレパシーのようなもので、意思疎通をしているので問題はなかった。
「よし、じゃ会議の続きをするわよ」
そう切り出したのは、二番目に増えたリーフという固体だった。成長すると髪の色や瞳の色に属性による変化が現れるため、顔は同じだが最初の妖精であるシブとの区別が付くようになってきていた。みんなのお姉さん的ポジションで、緑色の髪に葉っぱ型の髪留めがチャームポイントだ。
「勝手に進めないでよ! 僕がリーダーだぞ」
反論したのはシブという固体で一応リーダーである。二人はヘレンと同じ髪型をしているがシブは水色の髪色だった。リーフはシブの文句を無視して話を進める。
「いいから、ヘレンさまのためにできることを考えるわよ」
「やはり敵から守るのが第一だろう?」
ややぶっきらぼうに言うのは、アマという名前で兜と盾、そしてフォークで武装している黒髪黒目の固体だ。手先が器用なようで、どこからか金属や木片などを持ってきて装備などに加工してる。
「敵って言っても、全然いないじゃない?」
首を傾げて答えたのは、二股に分かれた帽子をかぶった固体で名前をサイと言った。アマと同じく手先が器用だが、サイは布切れなどを集めてきて皆の服などを作るのが趣味のようだ。
「ヘレンさまをいじめるのは、陛下と呼ばれてる人間だよ」
手足をパタパタ動かして怒っているのは、最後に生まれた固体でラスという名前だ。髪をサイドテールのように結っている。ちょっとドジなところがあるが、失敗しても皆の妹のような存在のようで笑って許されていた。
「ばかっ! 陛下はヘレンさまが、一番大好きな人間よ。それに陛下の邪魔をしたらマリーが怒るわ」
「それは困るな~。マリーを怒らせるとクッキーが貰えなくなっちゃうよっ」
リーフがラスを叱ると、頭の上で赤い髪を結っている元気な固体が、手足をバタバタと動かして暴れている。この固体の名前はケキといい甘いものが大好きで、ちょくちょくクッキーなどをちょろまかしては、マリーやマーガレットに怒られている。
「新しい人間が来たじゃない? あの人間はどうなのかしら?」
そう首を傾げながら尋ねたのは、桃色の髪をしたビュテという固体で頭にカチューシャをしている。おしゃれに興味があるようで、サイに頼んではよく服を作ってもらっているようだ。
「新しい人間って、アイラって呼ばれてるやつだな」
「どうだろ? ヘレンさまとも仲が良いみたいだから、敵じゃないんじゃないかな?」
シブとリーフが答えると、アマが唸りながら意見を言う。
「うむ、しかし……よくヘレンさまをどこかに連れ去ろうとしているぞ」
「前にクッキー分けてくれたし、悪者じゃないと思うよっ」
ケキはその時を思い出したのか涎をたらしている。リーフは布でそれを拭いてあげると話をまとめた。
「まぁ警戒だけしておきましょう」
「うん、そうだね」
護衛の話が終わると、今度は物資調達の話を始める。
「それじゃ続いて、今日の物資調達よっ」
「だから、勝手に進めるな~!」
シブは相変わらず文句を言っているが、リーフはそのまま話を進める。
「じゃ、ケキとシブはクッキーの調達ねっ!」
「わかった~任せて~」
ケキがピョンピョン跳ねていると、リーフはシブを見つめて付け加える。
「シブはケキがつまみ食いしないように、ちゃんと見張っててね」
「仕方ないな~」
シブは面倒そうにしているが、期待されているのが嬉しいのか顔は笑っていた。続いてリーフはサイとビュテを指しながら頼む。
「サイとビュテは布の切れ端を捜してきて」
「わかったわ」
「りょーかーい」
二人が返事をすると、リーフは頷いて次の割り当てを発表する。
「私とラスはその他で必要そうな物を探してくるわ」
「わーい、リーフとだ~」
ラスは喜んで跳ねているが、足を滑らせて転んでしまう。リーフは泣き出す前にラスを助け起こすと最後に残ったアマに言う。
「アマはいつものように、ヘレンさまの護衛をお願いね」
「あぁ、任せるがいい」
アマは頷きながら手にしたフォークの持ち手の底で、軽く机を突いてカーンという音を鳴らす。
そして、七人の妖精たちはそれぞれ決められた役目を果たすために、行動を開始するのだった。
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『妖精族の成長』
未だに謎が多い精霊種である妖精族は、楽しい場所では増えると言われている。そして、七~八名ほどのコミュニティーを作り出し、言語はその周辺で話されている言葉を覚えて使用する。
身体も徐々に成長するが、人の顔程度までしか大きくはならず小柄である。子供のような見た目のため知能も子供並みと思われがちだが、十分に成長すれば人間の大人程度の知能がある。