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第14話「学園祭なのじゃ」

 リスタ王国王立学園は、次代の王国を担う人材を育成させることを目的に、リリベットが提案して設立した学校である。生徒数は年々増加しており、今では千人を越えるほどになっている。学園長は創設時と変わりなく、タクト・フォン・アルビストンが就いていた。


 学ぶ機会を保証する王国の方針により、運営資金や授業料などは王国と王家から出ている。そのため財務大臣ヘルミナにとっては、肥大する生徒数は校舎の増築や教員の増強等々の予算の増加であり、頭を常に悩ませている問題ではあったが、未来への投資と諦めて日々資金繰りを頑張っていた。




 リスタ王国 王立学園 校庭 ──


 本日は王立学園の校庭で、学園祭開催の式典が執り行われようとしていた。開校当初は校庭とは名ばかりの更地であったが、現在ではちゃんと整備されており、勉学だけでなく運動の授業なども取り入れられている。


 式典に参加しているのは全校生徒と地域住民の一部、アルビストン学園長と、講師を除いた教師全員、王家からは女王リリベット、そのパートナーとしてフェルト、王太子レオンと妹のヘレン、子供たちの面倒を見るためにマリーがついている。大臣からは、学芸大臣ナディア、典礼大臣ヘンシュ、学園長のパートナーとして財務大臣ヘルミナが出席している。


 学園祭の熱気に浮かれた生徒たちは落ち着きがなかったが、まず学園長のアルビストンが壇上に立つと少し静かになった。


「諸君、本日は学園祭である。皆、楽しみにしていたことだろう。今すぐにでも駆け出したいと思っている子も多いようだ」


 生徒たちから少し笑いが漏れる。アルビストンは満足げに頷くと話を続ける。


「こんな状況では長い話をしても無駄だろうから、私からは一点だけだ。例年ふざけすぎて周辺の店に迷惑をかける生徒が出るが……王立学園の生徒として、分別を持って楽しむように! 私からは以上だ」


 アルビストン教授からの言葉が終わると、続いて女王リリベットが壇上に立った。女王として尊厳を損なわない程度の赤いドレスに身を包んでおり、その美しい姿に彼女が壇上に上がった瞬間、男子生徒を中心にざわめきが起こった。


「おぉぉぉぉ!」


 リリベットは特に気にした様子はなく祝辞を始めた。


「今年も皆の元気な姿を見れて、私は嬉しく思うのじゃ。本日から三日間は学園祭である。日々、勉学に勤しむ諸君らだが、この期間は肩の力を抜いておおいに楽しむとよいのじゃ」


 リリベットの言葉に生徒たちは大きな歓声を送っている。ヘンシュ大臣は慌てて「静粛に!」を連呼しているが、なかなか収まらなかった。しばらくしてなんとか収まると、リリベットは席に座っていたレオンを壇上に呼ぶ。


 レオンが少し緊張した面持ちでリリベットの隣に立つと、今度は女子生徒がざわめき始める。


「レオン殿下よ?」

「可愛い! こんなに近くで見るのはじめてよ」


 リリベットは、短く息を吸うと言葉を続ける。


「これは後に正式に発表されるのじゃが、次の入学時から学園の募集要項が変わり、我が息子レオンがお主らの仲間になる予定なのじゃ」


 生徒や周辺住人から驚きの声が上がったが、リリベットがレオンの背中をそっと押すと、レオンがお辞儀をして挨拶を始めるとすぐに静まった。


「レオン・リスタです。僕も母様のように国民の方々と、親しくしたいと思っています。入学した際はよろしくお願いします」


 改めてお辞儀をしたレオンに対して、生徒たちは大歓声を持って返すのだった。


 その後、リリベットたちが壇上を去ると、学芸大臣のナディアが壇上に上がり、彼女の開催の宣言をもって学園祭が始まったのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 教授通り ──


 式典が終わったリリベットたちは、そのまま返らず祭を見物していくことになった。リスタ王家とマリー、そして直衛に近衛隊長のラッツと副隊長のサギリ、あとかなりの数の近衛が気付かれないように周辺を守っていた。


 学園から教授通りに出ると、普段のお洒落な外観とは打って変わり、屋台が立ち並びそれぞれが大いに盛り上がっていた。


 マリーに抱っこされているヘレンの頬を、プニプニと突きながらリリベットは尋ねる。


「ヘレンは何をしたいのじゃ?」

「おかしがほしいのじゃ~!」


 あまりの人の多さに興奮しているのか、ヘレンは眼を輝かせながら手を振り上げた。


「お菓子とな……ふむ、これだけ店があると、どれがよいのやら……」


 リリベットがキョロキョロと見回していると、屋台を出していた一人の店員と目があった。正確には合ってしまったというのが正しいのだが、その店員は茶色い獣のような耳と尻尾を持つ、亜人と呼ばれる種族の女性だった。


 リリベットの目が合った店員は、すごい勢いでリリベットに近付いてくると、気さくに声を掛けてきた。


「陛下~陛下やないのぉ~! 祭見物? それなら、うちの店で何か買っててや~!」


 纏わりついてくるような接客に、リリベットは若干引き気味になる。


「なぜ、お主がここにおるのじゃ! 最近は帝国方面の開拓で出張に出ておると聞いておったのじゃが」

「あははは、儲け話があるところにファムさんありや」


 この連邦なまりで喋る女性の名前はファムといい、一応(・・)王国お抱えの商人である。お金儲けに余念がなく、すぐに法の抜け穴を突いてくるので、ある意味一番リスタ王国の商取引に関する法律を整備させた人物だと言える。


 リスタ王国を足がかりに、今では帝都にも店を出し荒稼ぎしていると評判である。時々、学園の特別講師として呼ばれることもあるようで、その授業は意外と人気があるとのことだった。


「それで、それで、何が欲しい……ひゃんっ!」


 突然、変な声を出したファムにリリベットが首を傾げると、彼女の尻尾にいつの間にか下ろされていたへレンが張り付いていた。


「モッフモフなのじゃ~」

「し……しっぽはダメやて、やめてぇなぁ~」


 ファムは尻尾を振って振り払おうとするが、ヘレンはガッシリと掴んでキャッキャと笑っている。


「陛下ぁ、この子、離してくれんのやけど?」

「お菓子を欲しがってたのじゃ」

「お菓子やな! ほらほら、飴ちゃんやで~」


 ファムはポケットから、なぜか持っている飴を取り出すとヘレンを釣るように見せる。ヘレンは、ファムの思惑通り尻尾から手を離して飴に飛びついた。そして、リリベットに駆け寄ると嬉しそうに笑う。


「かぁさま、アメもらったのじゃ~」

「そうか、そうか、それはよかったのじゃ」


 リリベットがヘレンの頭を撫でてあげると、今度はフェルトに見せびらかしに行った。ファムは自分の尻尾を撫でながらおどけた調子で答える。


「まったくヒドイ目にあったわ~、あの娘ほんま陛下にそっくりやなぁ。陛下も子供の頃、よぅウチの尻尾を引っ張って、このガキぼてくりまわしたろか~! と何度思ったことか」

「へぇ……そんなことを考えていたんですか?」


 その声を聞いたファムは耳から尻尾までピーンと逆立ち、ギギギギと壊れた機械のように首を回すと声の主を見つけた。


「マ……マリーさんやないのぉ! 嫌やわぁ、冗談に決まっとるわ~……ほな、ウチは店番に戻るわっ!」


 と言い残して、ファムはそそくさと自分の店に逃げていってしまった。


 リリベットはそんな後ろ姿を見て、呆れた様子でレオンに向かって


「レオン、学園に通っているとき、もしファムに絡まれたらマリーを呼ぶと良いのじゃ」


 と告げるのだった。





◆◆◆◆◆





 『学園祭』


 リスタ王国建国記念日の「リスタ祭」、女王リリベットの誕生日を祝う「女王生誕祭」に続く新たなお祭である。期間は三日間で、教授通りを中心に出店などが立ち並び、大変な賑わいを見せる。


 リスタ祭や生誕祭とは違い、学生が中心であるため酒類は基本提供されないが、テンションが上がった学生が店先で暴れて、店に損害がでる事件が度々起こっている。


 最終日に校庭にある大樹の下で告白すると、恋が実るというジンクスがあるとの噂があるらしい。


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