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第13話「制服なのじゃ」

 リスタ王国 学府エリア 教授通り ──


 シャルロットの家出騒動が終り、ピケルが海都に帰ってから数週間が経過し、リスタ王国では、学園祭の準備がいよいよ本格化してきていた。


 王立学園周辺では設営が開始されて活気に溢れており、学園と王都中心地を結ぶ大通り、通称「教授通り」では、学生や買い物客などで大いに賑わいを見せていた。


 そんな中、シャルロットはサーリャに連れられて教授通りを歩いている。さすがに帝都ほどではないが、十二年前に創られた区画である学府エリアは若者向けに洗練されており、リスタ王国の中でも同じく国とは思えないほど明るい雰囲気になっている。


 そんな街の様子をシャルロットは、眼をキラキラさせながら眺めていた。シー・ランド海賊連合には領土というものがほとんどなく、ノクト海に点在する島に小さな港町がある程度である。その為、彼女は生まれてからほとんどの時間を海の上で過ごしており、物珍しいのも仕方がないと言える。


「わぁ!」

「シャルちゃん、はぐれないようにね」


 サーリャは、あちらこちらを見て回っているシャルロットを捕まえると、手を繋いで目的地に向かって歩き出した。


「今日はどこに行くの、サーリャお姉ちゃん?」

「シャルちゃんの服を買いに行くのよ」


 シャルロットは、自分の服を見ながら首を傾げた。


「別に破れたりしてないけど?」

「まぁまぁ着いてからのお楽しみよ~」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 教授通り 白毛玉(ラビッツネスト) ──


 白毛玉(ラビッツネスト) は教授通りにある大きな被服店で、学生向けのお手頃価格の服やアクセサリーなどを取り扱っており、王族や貴族向けにもオーダーメイドで注文を受けたりしている店だ。


 そんな白毛玉にサーリャとシャルロットは入って行く。シャルロットは、ここでも周りに飾られている衣装を見て目を輝かせていた。


「わぁ綺麗だ、ピカピカと輝いているよっ!」


 入り口で騒いでいるシャルロットと、それをニコニコと見つめているサーリャに、一人の女性が声を掛けてきた。


「サーリャにシャロちゃん、よく来たねっ!」

「あらメアリーちゃん、こんにちは~。今日はよろしくお願いしますね」


 サーリャは現れたメアリーにお辞儀をする。この白毛玉はメアリーの職場で彼女は針子として働いていた。そんなメアリーを見たシャルロットが


「あ……メアリーおば……っ!?」


 と口にしようとした瞬間、メアリーに頭をガッシリと鷲掴みされた。


「メアリーお姉ちゃんねっ! 私はサーリャと一つしか違わないのよ?」

「いたたたた……メアリーお姉ちゃん!」


 ほぼ素顔のサーリャと、バッチリ化粧しているメアリーである。実際の年齢以上に開いて見えてもおかしくはないのだが、そこは譲れないラインだったらしい。


 メアリーはシャルロットの頭を離すと、二人に向かって


「さて、今日は制服だったわよね? 丁度注文も一段落しているから部屋が開いているわ。こっちに来てくれるかな?」


 と告げると、店の奥に向かって歩き出した。サーリャとシャルロットは、一度顔を見合わせてからメアリーについていく。




 メアリーたちが入った部屋は、さほど広くない部屋だったが壁が大きな鏡になっていた。メアリーは、サイドテーブルに大きな箱を乗せると、シャルロットに向かって笑顔を向ける。


「じゃ、とりあえずこれに着替えてくれるかな?」


 眼をパチクリさせたシャルロットが箱を開けると、そこには紺のジャケット、白いシャツ、赤いネクタイとスカート、その他諸々の細かな物が入っていた。


「これは……?」

「それは王立学園の制服よ、シャルちゃん」


 後ろからサーリャが声を掛けてくる。王立学園では規定の制服を着用すべきという校則があり、生徒は全て制服を用意しないといけない。経済的豊かではない生徒もいるので、王家が資金を用意してくれ無料で配給されるものだった。これは経済的な理由で差別を生まないための配慮でもある。


 シャルロットは、断れない雰囲気を察してか渋々と制服に着替えると、鏡の前でクルクルと回ってみた。


「可愛いわ、シャルちゃん!」

「そ……そうかなぁ?」


 サーリャに褒められて、照れた表情を浮かべるシャルロットだったが、メアリーは真剣な表情で眺めていた。


「ちょっと大きかったかしら?」


 彼女はそう呟くと、ややブカブカの制服のサイズを計り始める。計り終わるとしゃがみこんで別の箱を引っ張り出し、ジャケットを取り出すとシェルロットに差し出した。


「これに替えてみて?」

「メアリーちゃん、シャルちゃんは成長期だからすぐにピッタリになっちゃうんじゃ?」


 サーリャの一言に火がついたのか、メアリーは立ち上がると熱く語り始めた。


「何言っているのサーリャ! 女の子はその瞬間を輝く義務があるの! そんなブカブカの服なんて着ていたらバカにされちゃうわ!」

「そ……そんなもの?」


 サーリャは、よくわからないと感じで首を傾げる。


「サーリャは何度言っても、修道服しか着てないからわからないかも知れないけど、女の服は戦衣装なのよっ!」


 などと熱弁をふるっている間に、シャルロットは着替え終わっていた。メアリーは彼女を見つめると、うんうんっと頷き。


「今度は完璧ねっ!」


 シャルロットは、鏡に映った自分の制服姿を見つめて嬉しそうに微笑むのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 一方その頃、リリベットの執務室には、典礼大臣ヘンシュと学芸大臣ナディアが訪れていた。ヘンシュが差し出した資料を、執務机のリリベットが受け取ると内容を確認する。


「学園祭のスケジュールと予算じゃな……まぁ例年通りであれば、問題ないじゃろう」


 リリベットはそう言うと、書類にサインをしてヘンシュに差し出した。


「ありがとうございます。陛下、式典に合わせまして、是非式典用の衣装を新調をしていただきたく……」

「いや、それはよい。無駄遣いするとヘルミナが怒るのじゃ」


 リリベットがばっさり断ると、ヘンシュは少し残念そうな顔をするが、お辞儀してから一歩下がった。続いてナディアが資料を差し出しながら告げる。


「陛下、以前から懸案になっていた募集範囲拡大の件です」

「ふむ……」


 リリベットはそれを受け取りながらも、あまり乗り気ではない様子だった。このナディアが言っている募集範囲拡大とは、王立学園の入学規定である八歳~十六歳を拡張し、六歳~十八歳にするという提案だった。


 王立学園の人気が高まったことと、人口も増えたことで国が豊かになり国民の生活も安定したことで、子供に早くから教育を授けたい親が増加。そのため入学規定の見直しを求める声が、数年前から上がっているのだ。


 リリベットも、この案自体はよい傾向だと関心を示しているが、レオンが丁度六歳だということもあり、息子のために規定を変えたと謗りを受けるを心配しているのだ。


 ナディアが渡してきた資料には、国民に対して行った意識調査の結果が書かれていた。


「賛成派が四割、女王陛下の決定に従うが五割五分、反対派が五分……これでは却下したほうが問題になるじゃろうな?」

「はい、でもおそらく陛下が見送るとおっしゃえば、どちらも文句は言わないでしょう」


 それほど国民の多くは、女王リリベット及びリスタ王家を敬愛しており、彼女の決定であれば素直に従うだろうと考えられていた。リリベットは唸りながらナディアに尋ねる。


「次の募集は学園祭のあとじゃが、予算は確保できるのじゃろうか?」

「はい、すでにプリスト卿に申請して、承認を受けています」

「ふむ……では児童増加により教室の空きや、教員の不足は……」

「全て抜かりなく」


 ナディアが推進派なのは知っていたが、あまりの手回しのよさにリリベットは驚くしかなかった。そして諦めたようにため息をつくと、書類に承認のサインをしてナディアに手渡した。


「私の負けじゃな、時間はないがよろしく頼むのじゃ」


 書類を受け取ったナディアはビシッと姿勢を正し敬礼した。


「はいっ、お任せください」


 こうして王立学園の募集要項が変わり、より広い範囲に門戸が開かれたのだった。





◆◆◆◆◆





 『家庭教師』


 王立学園の募集要項には、読み書きと簡単な計算というものがあるが、これは修道院に併設している学習塾に通っていた者が対象であるためである。レオンやラリーは学習塾には通ってはいないが、幼少の頃よりヘルミナが家庭教師についていた。


「殿下とラリー君は、なかなか筋がよろしいですね」


 ヘルミナに褒められて、少し照れる二人の少年たち。特にレオンに関しては、王立学園の中等の範囲に達しつつあり、幼い頃のリリベットを思わせる才能を感じさせるほどだった。


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