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第126話「おめかしなのじゃ」

 リスタ王国 教授通り 白毛玉(ラビッツネスト) ──


 お茶会の翌日、サーリャはシャルロットと共に白毛玉(ラビッツネスト)に訪れていた。白毛玉(ラビッツネスト)は教授通りにあるので学生向けの衣服も販売しているが、どちらかと言えば貴族や王室を相手に商売もする高級店である。


 今日は学園が休みということもあり、客層は二十~三十代の女性が殆どで、店内は穏やかで落ち着いた雰囲気が流れていた。


 そんな店内にサーリャが入ってきたのを発見したメアリーは、さっそく声を掛けてきた。


「サーリャにシャルロットちゃん、よく来てくれたわ」

「メアリーちゃん、一応来たけど……やっぱりこの服で良くない?」


 少し出掛けるだけのためにわざわざ服を用意するなど、とても贅沢だと感じているサーリャはあまり乗り気ではなかった。しかし、そんなサーリャにメアリーとシャルロットが食ってかかる。


「何言っているの!? どこの世の中にデートに行くのに、わざわざ修道服を着ていく子がいるのよっ!」

「そうだよ、せっかくだから可愛い格好しなくちゃ!」


 二人の勢いに押され、サーリャは苦笑いを浮かべて後ずさる。しかしメアリーとシャルロットは、サーリャの両脇をしっかりと押さえると店の奥へ引っ張っていくのだった。



 白毛玉(ラビッツネスト) 試着室 ──


 白毛玉(ラビッツネスト)の試着室は、それなりに大きな部屋で五人程度なら狭くない程度の広さがある。壁の一面は鏡になっており、予め用意してあった服が掛けられてあったり、机の上に箱のまま置いてある。


 この部屋に連れて来られたサーリャは、鏡の前に立たされてボーっとしていた。その間にメアリーとシャルロットが、彼女のために服を選びはじめている。


「お姉ちゃんは、やっぱり白でしょ!」

「やっぱりお子様ね。デートは普段と違うところを見せるのが吉なのよ! シャルロットちゃんもレオン殿下のラフな格好とか見たらドキッとするでしょ?」


 メアリーに言われて少しラフな格好のレオンを想像したシャルロットは、少し顔を赤らめて足をパタパタと踏み鳴らした。


「うん、いいかも……」

「しかも、それが自分のためにしてくれた格好ならどう?」

「……凄くいいかもっ!」


 シャルロットが想像してニヤけている間に、メアリーは服を見繕って彼女に見せる。


「でも、あまり派手な色の服は似合わないだろうし、大人しい感じで……この辺りかな?」

「う~ん可愛いけど、ちょっと地味すぎない? もっとこう露出があったほうがギャップが出ていいんじゃ?」


 シャルロットは自分が選んだ服をメアリーに見せるが、それに一早く反応していたのはサーリャだった。彼女は困ったような表情で首を横に振る。


「ちょ、ちょっと、シャルちゃん、そんな服は嫌よ!?」

「え~可愛いのに」


 サーリャが嫌がったので、シャルロットは渋々手にした服を元の場所に戻した。メアリーはしたり顔で、シャルロットに言う。


「シャルロットちゃん、ダメよ……サーリャの魅力を引き立てるには露出は必要ないわ。サーリャ、ちょっとコレを着てみてよ」


 メアリーは、嬉しそうに服といくつかの箱をサーリャの横の机に置いた。しかし、いつまでも着替えようとしないサーリャに首を傾げる。


「どうしたの?」

「えっ、人前で着替えるのはちょっと……」

「別に女同士だしいいじゃない? そう言えば、学生の頃もこそこそ着替えていたわね」


 二人とも王立学園の中等部の卒業生である。メアリーは学生の頃を思い出して頷きながら、サーリャににじり寄っていく。


「いいから、着替えなさいっ!」

「きゃぁ!?」


 メアリーは手馴れた手つきでサーリャの修道服を脱がしていく。サーリャを下着姿にすると、メアリーは微妙な表情を浮かべて尋ねる。


「サーリャ、そんな下着しかないんじゃないでしょうね?」

「えっ……だいたい同じ感じだけど」


 サーリャが身に付けている下着は実用一辺倒といった感じで、年頃の女性が身につけるような可愛らしいものではなかった。その姿にメアリーは深いため息をつく。


「これは下着から選ばなくちゃダメね」

「別に見せるわけではないし、下着はそのままでも……」


 サーリャがそう呟くと、メアリーは凄い剣幕で怒りだした。


「何を言っているの!? 二人ともいい大人なのよ! 見せることになるかもしれないじゃない!?」

「えぇ!?」


 そんなつもりはまったくないサーリャが驚きの声を上げると、メアリーは箱の中から服を取り出してサーリャに差し出す。


「ほら、とりあえず下着は後で選ぶとして、とりあえず着てみなさい」

「う……うん」


 さすがに下着姿のままは嫌だったのか、今度は大人しく服を着はじめる。メアリーは所々で服の丈などをチェックしていく。




 しばらくして着替え終ったサーリャに軽く化粧をしたメアリーが軽く肩を叩くと、彼女は閉じていた目を開いた。そして、鏡で自身の姿を見つめながら呟く。


「……すごい」


 シャルロットやメアリーも嬉しそうに笑いながら、サーリャを褒めはじめる。


「お姉ちゃん、可愛い!」

「うんうん、私の見立てに間違いはなかったようねっ!」


 メアリーは全身の最終チェックをしながら、サーリャの髪を撫でる。


「髪も……もう少し整えたほうがいいわね。あとでやってあげるわ」

「えっ……うん、お願い」


 サーリャもここまで来たら諦めたのか、抵抗することなく大人しく頷いた。自分の姿を見つめているサーリャに、仕立て屋としての達成感を感じたメアリーは、パンッと手を叩くと微笑みながら告げた。


「さて、次は下着を選びましょうか!」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 ラフス教会 サーリャの部屋 ──


 コンラートとの約束の日、サーリャは自室の鏡台の前に座らされていた。仕事を休んだメアリーが彼女に化粧を施しており、彼女は目を閉じたままメアリーに話しかける。


「ねぇ、メアリーちゃん」

「なに? あまり動かないでね」

「本当にちょっと演劇を観に誘われているだけなのよ。やっぱり、ここまでする必要はないんじゃないかな? 変に思われるかも」


 色々と考えて不安になったサーリャに、メアリーは呆れた様子で答える。


「まだ言っているの? 大丈夫だって、女が自分のために綺麗になってくれて喜ばない男はいないわ。それに……」


 メアリーはサーリャの肩を叩いて、化粧が済んだことを教える。サーリャは目を開けて鏡に映る自分を見て、驚いた表情を浮かべている。


「こんなに可愛いんですもの、例え脈なしの男でも落とせるわっ!」


 サーリャはジーっと自分の顔を眺めながら呟く。


「自分じゃないみたい……お化粧するだけで、だいぶ印象が変わるんだね」


 化粧道具を自分の化粧箱に片付けながら、メアリーがウインクをして答えた。


「まぁサーリャは美人だから、ちょっとしか化粧してないし、そこまで変わらないけどね。でも、あんたもいい加減化粧道具ぐらい揃えなさい」


 サーリャは普段化粧をしないが、お茶会などで登城する際は、それなりの身なりにする必要があるため必要最低限は持っている。しかし今回は全然足りないため、メアリーが自分の化粧箱を持参してきていた。


「今まで必要がなかったから」


 サーリャの仕事は祈りを捧げ、教会に訪れる信者の悩みを聞いたり、簡単な怪我を治療したり、困って人々に炊き出しをしたりすることである。どれも必要最低限の身なりをしていれば、着飾る必要がなく、どこに行くのも修道服で済ませてしまっていたのだ。


「サーリャ、そろそろ時間じゃない?」

「えっ、うん、そうだね。ちょっと緊張してきたわ」

「城門広場で待ち合わせだっけ?」

「うん」


 城門広場はリスタ王城から大通りの間にあり、かつてサーリャが祖父であるヨドスと一緒に布教をしていた広場である。美しい噴水があり、恋人たちの待ち合わせ場所としても定番のスポットだ。


 サーリャが鏡台から立つと、メアリーはハンドバッグを差し出した。


「これに必要なものは全部入っているから」

「あ、ありがと……それじゃ行ってくるね。あっ……付いてきたりしないでね? 恥かしいから」

「あははは……大丈夫だって」


 最後に釘を刺されたメアリーは、苦笑いを浮かべながら手を振っている。サーリャが出て行くと、自分の手荷物を持って外に出る。そして、空を見上げながら呟くのだった。


「さて、追いかけますか」





◆◆◆◆◆





 『メアリーとサーリャ』


 彼女たちが出逢ったのは、王立学園に在籍中だった頃である。王都へ移住してきたばかりのサーリャは大人しい性格もあり、友達と言える関係が築けないでいた。そんなサーリャに誰とでもすぐに仲良くなれるメアリーが、気軽に声を掛けてきたのが最初である。


 その頃から、メアリーはサーリャを親友であり妹のようなものと思っているし、サーリャもメアリーを姉のように慕っていた。

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