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第123話「条約違反なのじゃ」

 リスタ王国 王立学園 初等部の教室 ──


 校舎裏のエザリオ一味とマオリィの騒動から、一週間が経過していた。どこから耳に入ったのか、学園内で喧嘩したことがミュゼに発覚したため、マオリィはこっぴどく怒られてしまっていた。


 そして、初等部では大きな変化が起きていた。


「姐さんっ!」

「またお前か、誰が姐さんなのだ!」


 頭を踏まれたエザリオが怪我から回復したのは、あの日から三日後だったがそれ以来マオリィを『姐さん』と呼びはじめたのだ。初等部の中でも目立つ存在だったエザリオが、急にマオリィの子分のようになったことで様々な憶測が囁かれていた。


 結果として、マオリィも一般生徒から距離を置かれることになってしまったわけだが、本人はあまり気にした様子はなかった。


「ボクはお前なんて子分にした覚えはないのだ、子分はラリーだけで十分なのだ」

「僕は子分になった覚えがないんだけど……」


 いつの間にか子分にされていたラリーが不満げに答えた。それに対してマオリィは驚いた表情を浮かべる。


「な、なんだと!? 付いて来いって言ったら、わかったって言ったのだ!」

「えぇ、あれはマオリィさんが呼び出されたから、心配になって付いていっただけだよ」


 予想外の回答に、マオリィは不満げに提案する。


「それじゃ勝負するのだ、ボクが勝ったら子分になるのだ」

「そんなの嫌だよ、友達じゃダメなの?」


 ラリーは女の子に手を上げるなと、ラッツから教育されているため、マオリィとは戦う気はなかった。マオリィは少し考えたあとに小さく頷く。


「友達……じゃそれでいいのだ。姉ちゃんに友達は沢山作れって言われているからな」

「よかった、それじゃ改めてよろしく」


 無邪気に微笑みながらラリーに差し出された手を、マオリィはぎこちなく握り返す。エザリオはそれを羨ましそうに見つめていた。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 女王執務室 ──


 リリベットの元に各部署からの報告書が届いていた。


 まず内務省から届いた報告では、温泉開発は順調に進んでいるようだった。また財務省が行なった、今後の発展における収益予想を算出したものを添付してあった。


「ふむ、まぁ順調のようじゃな」


 軍務省からは海軍新設に関する報告が来ていた。数が多い衛兵から海軍への転属を希望する者もかなり見込める様子だが、技術職に関して募集はあんまり芳しくないようだった。


「むぅ航海士や操舵士はともかく、コックや船医じゃと? 私もまた捜しに行かねばならんのじゃ」


 そして、財務及び外務省から連名で報告書が上がって来ていた。


「ふむ……交易船団と海賊についてじゃと?」


 リリベットは報告書のタイトルをボソリと呟くと、真剣な表情で報告書を読みはじめた。


 報告書の内容は交易船団の規模拡大と海賊被害についてで、今まではグレートスカル号に頼りきりだった大陸間の交易だったが、最近では商船団を派遣するようになっていたが、度々海賊の脅威に晒されているという。


「海賊連合とは協定済みのはずじゃが……接近はしてくるが、すぐに撤退するじゃと?」


 報告書によると、商船団はたびたびシー・ランド海賊連合の海賊船に襲撃されている。しかし特に被害は出ておらず、ある程度近付くと海賊船はそのまま引き返していくという。


 しかし、たびたび襲ってくるので船乗りたちは、その度に臨戦態勢を取らねばならず、精神的な重圧を感じているという。


「ふむ、どういうことじゃろうか? ピケルを呼んで聞いてみるしかないようじゃな」


 報告書には近くシー・ランド海賊連合の頭領ピケル・シーロードから事情を聞くことになっていると書かれていた。


 リリベットが次の報告書に手を伸ばすと、マーガレットがお茶と焼き菓子を用意して戻ってきた。


「陛下、そろそろ休憩になさいませんか?」

「うむ、そうじゃな」


 リリベットは手にした報告書を机の上に置くと、休憩を取るためにソファーに移動するのだった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 海洋ギルド『グレートスカル』 会議室 ──


 数日後リリベットはヘルミナと共に、海洋ギルド『グレートスカル』を訪れていた。最近頻発している海賊とのニアミスについて説明を受けるためである。護衛として近衛のサギリが同席していた。


 会議室は大きな楕円のテーブルに幾つか椅子が備え付けられており、すでにレベッカとオルグ、そしてピケルが座っていた。


「待たせたのじゃ」

「いや、たいして待ってないさ」


 レベッカはそう返すと、リリベットたちに椅子を勧める。席に着くとさっそくヘルミナが問いただしはじめた。


「それでピケルさん、最近起きている襲撃についてですが……何か弁明があれば伺います」

「いや、まことに申し訳ない。最近偽の国旗を掲げている船が多いのですよ……」


 ピケルの話では、最近他国が偽のリスタ王国旗を掲げてノクト海を渡るケースが横行しており、遠めからは偽物か本物の区別がつかないとのことだった。元々大陸の連絡船はグレートスカル号だけだったため、普通の商船団は襲撃しても問題なかったが、リスタ王国でも商船団を利用した大陸間交易を開始したので、区別がつかなくなったのである。


「なるほど、偽の国旗ですか……困りましたね」


 ノクト海を自由に航海できることがリスタ王国の対外的な強みであり、それを他国も真似てくるとなると、本来リスタ王国に入る収益が横取りされている形になるのだ。


「レベッカ、どうすればよいのじゃ?」

「そうさね……とりあえず船体に目立つマークでも入れるってのはどうだい?」


 レベッカの提案に、ピケルは大きく頷いて答えた。


「それは良い考えですね。しばらくすれば相手も同じ手を打ってくるだろうが、上げ下げできる旗に比べれば随分難しくなろだろう」

「ふぅむ? 船体へのマーキングは、どのぐらいかかるじゃろうか?」

「マークとなると難しいですが、区別するだけなら……例えば赤い射線でもいいのですよね?」


 ヘルミナが尋ねると、レベッカとピケルが頷く。


「その程度でよろしければ、それほど予算はかからないかと」

「しかし当面はそれでよいとしても、他国が我が国の国旗を使っているとなれば問題なのじゃ」


 リリベットは唸りながら考えていると、ヘルミナが提案を口にする。


「外交ルートで抗議するにもまず拿捕臨検からはじめて、対象国を割り出さないといけませんね」

「うむ、そうじゃな。そうなるとやはり海軍が……」


 未だに設立の目処が立ってない海軍のことを思い出し、リリベットは頭を抱えている。そこにオルグが提案してきた。


「しょーがねぇなっ、じゃワシがしばらくその役目をやってやるぜ」


 相手の船を襲うという海賊稼業のような仕事に、若干目を輝かせているオルグにレベッカは呆れた様子で窘める。


「爺さま、やめとけって、歳考えろよ」


 レベッカに止められ、オルグは納得いかないといった表情で首を横に振る。その様子を眺めていたピケルが小さく頷くと口を開いた。


「確かにキャプテンオルグの年齢を考えれば、わからなくもありませんが……私は、それほど悪い案ではないと思いますよ」

「……どういう意味なのじゃ?」


 リリベットが首を傾げながら尋ねると、ピケルはオルグに掌を向けながら答える。


「キャプテンオルグなら人が集まりますし、現状船を集めることすら困難でしょう?」


 ピケルの言うとおり海軍新設をするには人も船も足りない状況だった。リリベットは、ヘルミナを一瞥して意見を求める。


「確かにピケルさんの言うことにも一理あります。海軍新設が難航していますし……」

「そうじゃな、出来る範囲でやるしかないのじゃが……オルグ、頼めるじゃろうか?」


 オルグはニカッと笑うと、自身の胸板を叩く。


「おぅ、任せときなっ!」


 こうしてリスタ王国を騙る船舶を、取り締まる組織の設立が決まったのだった。





◆◆◆◆◆





 『国際条約違反』


 三大陸基礎条約(通称国際条約)の一項目に、「航海中は自国以外の旗を掲げてはならない。許可を受けている限りはその限りではない」という項目があり、許可された観艦式などを除き、航海中の船舶が他国の旗を掲げることは明確な条約違反であり、該当国に命じられれば停船臨検を受ける必要がある。


 もし臨検要求から逃走した場合、準戦闘行為にあたり轟沈されても文句は言えない状況になる。


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