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第120話「整列なのじゃ」

 リスタ王国 王城 中庭 ──


 リリベットがマーガレットを連れて中庭の脇にある通路を歩いていると、どこからかピーピーと笛のような甲高い音が聞こえてきた。不思議に思ったリリベットは首を傾げながら尋ねる。


「何の音なのじゃ?」

「おそらく……あちらにいるヘレン様かと?」


 マーガレットに言われてリリベットが中庭の方を見ると、ヘレンとマリーが居るのが見えた。確かに音はそちらから聞こえてきており、ヘレンが口に何かを咥えているのが見える。


 リリベットが近付くと、彼女を発見したヘレンが駆け寄ってきた。


「かぁさまなのじゃ~! ピッピー!」


 この音はやはり笛だったようで、ヘレンが咥えてピーピーと音を鳴らしている。リリベットはヘレンを抱き上げると、微笑みながら尋ねる。


「なんで笛を吹いているのじゃ?」

「リーフからもらったのじゃ~」


 ヘレンは嬉しそうに手をパタパタ動かしながら答えたが、リリベットは少し自信がなさそうに尋ねた。


「リーフ……確か妖精の名じゃったか? そういえば、今日は見当たらぬのじゃ」


 リリベットは周りを見回すが、いつもヘレンの周りでチョロチョロしていた妖精たちの姿が見えなかった。


 ヘレンはニマリと笑い大きく息を吸って笛を咥えると、思いっきり吹き鳴らした。あまりの音量にリリベットは驚きながら後ずさる。


「ヘレン、耳元で吹くのはやめるのじゃ」


 リリベットが娘に窘めながら頬を指で突いていると、近くの草むらからワラワラと妖精たちが集まってきた。リリベットがヘレンを突いていた指で数を数えると七人おり、見たこともない鎧を着た妖精も混じっている。


「……また増えている気がするのじゃが?」

「ピッピ~?」


 怒られると思ったヘレンは、とぼけた顔で視線を逸らしている。リリベットは呆れた様子でヘレンを降ろすと、側に控えていたマリーに尋ねる。


「いつの間に増えたのじゃ?」

「私が確認した限り、今朝には七人になってました」

「確かミリヤムは、妖精は七~八人で行動していると言っておったが、これ以上増えないじゃろうな?」


 リリベットたちが話している間に妖精たちは、またバラバラに散りはじめ、ヘレンは笛を吹きながらそれを追いかけている。


「まったく制御できておらぬのじゃ」

「妖精は悪戯好きらしいですから……仕方ありませんね」


 諦めた表情を浮かべると、マリーは短く息を吸った。


「整列っ!」


 マリーから発せられた号令で、妖精たちは大慌てでマリーの前に整列する。何故かその隣にヘレンも同じように並んでおり、マリーは困ったような表情を浮かべえると呟いた。


「ヘレン殿下は、並ばなくていいんですよ?」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王立学園 ──


 ジンリィやミリヤムがリスタ王国を離れてから数ヶ月が経過していた。この日、リスタ王国の学府エリアにある王立学園では、新たに初等部に入学する生徒たちが集まってきていた。


 その中には、ラッツとマリーの末の息子であるラリーと、コウジンリィの従姪にあたるコウマオリィの姿もある。マオリィに関しては普段着ることがない洋服を着ており、とても居心地が悪そうだった。


 壇上ではタクト・フォン・アルビストン学園長が、新入生に対して演説をしていた。


「年齢制限が緩和してから二度目の入学式です。準備期間がなかった前回に比べ、今回の入学生は若い子が多いようです」


 学園長の言うとおり、前回あぶれてしまった子供も今回の入学しており、入学生の平均年齢は大幅に下がっている印象だった。


「……では、皆さんの健やかな学園生活を祈っています」


 学園長の言葉が終わると、司会の教師がやや上ずった声で次の人物の名前を呼ぶ。


「リ、リリベット女王陛下の名代として、フ……フィン宰相閣下、よろしくお願い……しますっ」


 比較的人当たりの良いリリベットに比べると、厳しい印象がある宰相フィンは一部の国民から恐れられている。美しく整った顔立ちは主婦を中心に絶大な人気があるが、いつも堅い表情をしており子供たちにはあまり人気がない。


「女王陛下の名代としてきたフィンだ。諸君、まずは入学おめでとう。これから学園生として学業に励むことになる諸君らの中には、いずれ我が国の発展に寄与する人材が現れるだろう。一日も早くそうなることを女王陛下も私も期待している」


 新入生を祝った言葉ではあるが堅い表情のまま淡々と話すため、新入生たちにプレッシャーを与えてしまっている。学芸大臣ナディアがフィンのところまで近付くと、小声で二つ、三つ言葉を交した。フィンは小さく頷くと締めの言葉を口にする。


「ごほんっ……難しいことを言ったが、まずここに並ぶ先達たちからよく学ぶことだ。それでは、私の挨拶はここまでにさせていただく」


 話し終えたフィンは後ろに下がって元の席に座ると、軽くため息をついて呟く。


「ふぅ……子供の相手はよくわからんな」

「フィン閣下は、子供が苦手ですか?」


 そう尋ねてきたのはアルビストン学園長だった。それに対して、フィンは小さく頷いた。


「苦手というほどでもないが、どうも怖がらせてしまうからな」


 子供の中でもヘレンは生まれたときからフィンと一緒にいるので、彼を恐れたりせず肩車をせがんだりする。対するフィンもヘレンにはどこか甘いことが多い。逆にレオンには若干厳しいところがあり、それは彼が王太子であるからだと思われる。


 そんな話をしていると、ナディアが入学式の閉式の挨拶を終えると、入学生や保護者を含む会場全体から拍手が巻き起こった。


 こうしてラリーとマオリィを含む、新入生が新たに学園に通うことになったのである。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 財務大臣執務室 ──


 入学式から数日が経過したころ、リリベットはマーガレットを連れて財務大臣執務室に訪れていた。しかしヘルミナは不在だったので、しばらく待つことにしたリリベットは、応接用のソファーに座っていた。しばらくすると、ヘルミナの秘書官の一人が緊張した面持ちで紅茶を差し出した。


「呼びに行きましたので、もう少しで来られるはずです」

「うむ、ありがとうなのじゃ。私のことは気にせず職務を続けてよいのじゃ」


 リリベットは気を利かせたつもりだったが、さすがに女王が待ってる状態で仕事をするのは難しかったらしく、秘書官は直立不動で固まってしまっていた。


 そんな時、ようやくヘルミナが執務室に戻ってきた。走ってきたのか、やや呼吸が荒くなっている。


「陛下、何か御用でしょうか? お呼びいただければ、私から伺いましたのに」

「うむ、なんだか急かしたみたいで悪かったのじゃ。お主に少し頼みごとがあるのじゃ、それなのに呼び立てたら悪いじゃろう?」


 ヘルミナは首を傾げると、リリベットの対面のソファーに腰を掛けた。女王であるリリベットがヘルミナを呼び出すのは、まったくおかしいことではない。それでも自ら足を運んだということは、個人的な頼みごとなのだろうとヘルミナは察していた。


「それで、どんな頼みごとですか?」

「ふむ、ヘレンのことなのじゃ」

「ヘレン殿下の?」

「そろそろ勉強をさせようと思うのじゃが、どうじゃろうか?」


 ヘルミナは少し考えるように黙っている。ヘレンの年齢は現在四つであり早い気もするし、もう始めてもおかしくない年齢である気がしているのである。


「それで、私に家庭教師をせよと?」

「うむ、ラリーも学校に通うようになったことじゃし、よいタイミングじゃと思ったのじゃ」

「ヘレン殿下に、お勉強をする意思はあるのでしょうか?」


 ヘルミナの質問に、リリベットは苦笑いを浮かべている。


「一応、聞いてみたのじゃが……よくわかってなかったようじゃな」

「そうですか……わかりました。では一度勉強会をやってみましょう」


 ヘルミナの返答に、リリベットは嬉しそうに微笑んだ。


「おぉ、やってくれるのじゃな」

「はい、ただし一つだけ条件があります」


 ヘルミナが右手の人差し指を立てると、リリベットは首を傾げて尋ねる。


「条件じゃと? 申してみるのじゃ」

「勉強会にはマリー殿に同席していただきたい」

「ふむ、マリーにか……まぁ大丈夫じゃと思うが何故なのじゃ?」


 ヘルミナは苦笑いを浮かべると答えた。


「私だけでは、ヘレン殿下を甘やかせてしまうかもしれませんから」

「……ふむ、みんなヘレンには甘いのじゃ」


 王城に勤務する者は総じてヘレンに甘く、多少のわがままなら笑って済ませてしまう傾向にある。その中で乳母であるマリーと女王付きメイドのマーガレットは、怒らせると怖いことを知っているのか、ヘレンもわがままはあまり言わないのだった。





◆◆◆◆◆





 『ヘレンの妖精たち』


 増加を続けているヘレンの妖精たちだが、現在は七人まで増えていた。最初の妖精でお調子者のシブと二人目の妖精でしっかり者のリーフがリーダー格のようで、その後に増えた妖精たちは一応彼らに従っているようだった。


 中に手先が器用な妖精がいるらしく、彼らの服や鎧などの装備品はどこからか材料を調達して拵えているようだ。


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