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第12話「恋する瞳なのじゃ」

 リスタ王国 王都 ラフス教会前 ──


 翌日の昼頃、昨日のメンバーに加えて、マリーとレオン、それにヘレンが教会前に到着していた。昨日の晩にラッツに頼まれ、マリーが両殿下の散歩のついでならという条件で来てくれたのだ。


 マリーがノックをすると、扉を開きサーリャが出てきた。


「何度来られても……って、あれ? マリーさん!?」

「お久しぶりですね、サーリャさん」


 お茶会の際の給仕は基本的にマリーがやっていたため、この二人は顔見知りだった。マリーの後からヘレンが飛び出すとサーリャの足に抱きついた。


「やぁ~つかまえたのじゃ~」

「えっ!? えっ、なんですか、いったい?」


 突然の出来事にサーリャが戸惑いながら首を横に振る。マリーは微笑みながら頭を下げる。


「サーリャさん、ごめんなさい。ラッツたちの話だけでも聞いて貰えないかしら?」


 このマリーの説得により、話を聞いて貰えるようになったラッツたちは、教会内の一室に通されることになった。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 ラフス教会の一室 ──


 教会にはそれほど広い部屋ではなかったので、ラッツとピケル、そしてサーリャだけが参加することになり、マリーとリリベットの子供たち、それに海賊の二人は外で待っていることになった。


「それで……どういうことなんでしょうか?」


 状況が理解できていないサーリャが対面に座っているラッツたちに尋ねると、ラッツがピケルに手を向けながら紹介する。


「えっと、こちらがピケル・シーロードさん。昨日も言ったけど、シャルロットちゃんのお父さんなんだ」

「昨晩は、娘がお世話になりました」


 ピケルはそう言って深々と頭を下げる。その丁寧なお辞儀にサーリャは戸惑いを感じていた。


「それで、娘は私のことをなんと言ってましたか?」


 ピケルの問いかけに、サーリャはシャルロットに聞いたままを伝える。それを聞いたピケルは豪快に笑い出した。


「ははははは! いや……失礼。なるほど、真実ではないが嘘とも言い切れない表現ですな」

「……とおっしゃいますと?」


 サーリャは怪訝そうな表情を浮かべながら尋ね返した。ピケルがシャルロットが学校に通うのが嫌で逃走したことを告げると、今度はサーリャが恥ずかしそうに頭を下げた。


「知らないこととは言え、昨晩は失礼しました……」

「いえいえ、それで娘は……んっ?」


 ピケルが微かに開いている扉に気がつき、そちらを見ると覗き込んでいたシャルロットと目があった。


「シャルロット、待ちなさいっ!」

「あっ、やばい!」


 見つかったことに気がついたシャルロットは、外に向かって一目散に逃げ出した。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 ラフス教会前 ──


 ラフス教会の扉から勢いよく飛び出してきたシャルロットは、目の前にいた誰かとぶつかってしまった。


「いったぁ~誰だよ!」


 シャルロットは文句を言いながら、自分が押し倒して組み敷いている相手を見て固まってしまった。


「いたたた……」


 それは綺麗な金髪に緑眼の少年、王太子のレオン・リスタだった。次の瞬間、シャルロットの目の前に黒い何かが飛んできた。それに対してレオンが慌てた様子で叫ぶ。


「マリーさん、ダメだ! 女の子だよっ!」


 その声によるものか、元々止めるつもりだったのかはわからないが、マリーの蹴りはシャルロットの鼻先でピタリと止まった。


「殿下……ご無事ですか?」

「うん、ごめん……君、退いてもらえるかな?」


 シャルロットが慌てて立ちあがると、レオンも立ち上がり微笑みながら尋ねる。


「君は大丈夫だったかな?」

「えっ……うん、大丈夫……」


 先ほどまでの勢いがなくなり、どことなく恥ずかしそうに頷くシャルロットだったが、その頭上にゲンコツが振り注いだ。


 ゴツンッ!


「いった~! 誰だよっ!?」


 頭を両手で押さえながら後を睨み付けると、額から血管が浮かんでいるピケルが仁王立ちしていた。


「げっ……親父!」

「この馬鹿娘がぁ!」


 シャルロットは、そのまま奥襟を掴まれて教会内に引きずり戻されてしまった。その様子を見つめて、マリーは首を傾げながら側にいたラッツに尋ねる。


「もう片付いたのかしら?」

「うん、たぶんね。あとは親子で話し合ってもうしか……」


 その後、ラッツの言うとおり、サーリャを含め父娘の話し合いが行われた。その結果は彼女はラフス教会から王立学園に通うことになり、シャルロットの家出騒動は終わりを告げたのである。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 中庭 ──


 数日後マリーから久しぶりにサーリャの話を聞いたリリベットは、中庭でお茶会を開催することにした。


 参加者は数年来の友人であるナディアとメアリー、そしてサーリャである。レオン、ヘレン、ラリーの三人はガゼボの周りで遊んでおり、給仕と子供たちの世話役としてマリーとマーガレットが控えていた。そして護衛として近衛が四名ほど、中庭の入り口付近などで待機している。


 王城で勤めている学芸大臣ナディアと、リリベットが他愛もない会話を楽しんでいると、おしゃれな格好をした金髪の女性と、白い修道服に身を包んだサーリャがシャルロットと手を繋いで、一緒に歩いてくるのが見えた。


「くくく……サーリャよ、いつの間に子を産んだのじゃ?」


 リリベットがおどけた様子で尋ねると、サーリャも軽く笑いながら


「ふふふ……どうですか、可愛いでしょう?」


 と答えると、ナディアは少し戸惑いながらシャルロットとサーリャの顔を見ている。金髪の女性が笑いながらナディアを指差して


「あははは……ナディアちゃん、驚きすぎだよ! 冗談に決まってるでしょ」


 とからかってきたので、ナディアは少し顔を赤くしてそっぽを向いて怒る。


「わ……わかってるわよ。メアリーは笑いすぎよっ!」


 この金髪の女性がメアリーといい、リリベットの友人の一人だった。現在は服飾関係で働いている。相変わらずの明るい性格で男性にもモテるのだが、男運が悪いのか恋多き性格が災いしているのか長続きせず、未だに未婚である。


 一頻り笑ったあと、リリベットは気を取り直してシャルロットを見つめる。


「いや、すまぬのじゃ。お主がピケルの娘シャルロットじゃな?」

「うん、あたしがシャルロットだよ、お姉ちゃんは誰?」


 そう尋ねてきたシャルロットに、リリベットは少し驚いた顔をした。この国において自分の顔を知らない者など非常に珍しいからだ。


「私はリリベット・リスタ、この国の女王なのじゃ。お主はこの国にしばらく住むと聞いた、あまり騒動を起こさぬようにな」


 突然の大物の登場にシャルロットはビクッと震えると固まってしまった。そんな様子をクスッと笑い、リリベットは周りで遊んでいた子供たちを呼びつける。集まってきたレオンたちが、首を傾げながら尋ねてきた。


「母様、どうしましたか?」

「うむ、この子とお主たちは歳も近いようじゃ。彼女も一緒に連れていってあげると良いのじゃ」


 リリベットに言いつけられたレオンは、シャルロットに笑顔を向けながら手を差し出す。


「この前の子だよね? 僕はレオン・リスタ、僕たちと一緒に遊ぼう!」

「シャ……シャルロット・シーロードです。よ……よろしくお願いします、レオンさま」


 シャルロットは赤面しながらレオンの手を取ると、子供たちは飛ぶような勢いで走って行ってしまった。その様子にリリベットは怪訝そうな顔をして首を傾げながら尋ねる。


「サーリャよ……まさかと思うのじゃが、あの娘……」

「はい、どうやらそのようで……」


 サーリャが少し申し訳なさそうに答えると、リリベットは笑いながら


「あはは……レオンめ、隅に置けぬのじゃ。まったく誰に似たのやら」


 と呟いた。


 その後、マリーが運んできてくれたお茶を楽しみつつ、恋人や子供たち、それに仕事の話などをしながら、四人は優雅なお茶会を楽しんだのだった。





◆◆◆◆◆





 『シャルロットの恋心』


 話し合いの結果、意外なほどすんなり学校に通うことを決めたシャルロットは、夢見心地な雰囲気でボーっとテーブルの上の花を見つめていた。


 そんな様子のシャルロットを心配したサーリャは、彼女の肩にそっと手を乗せる。


「どうしたのシャルちゃん、大丈夫?」

「サーリャお姉ちゃん……っ!? お姉ちゃん、さっきあたしとぶつかった子のこと知ってる?」


 そう尋ねられたサーリャは、先程シャルロットが馬乗りになっていた少年のことを、思い出しながら答える。


「えぇ、あの方はレオン・リスタ殿下よ」

「レオン! レオンさまかぁ」


 再びニコニコしながら思いに耽るシャルロットを見て、ふと思い当たったのか呟いた。


「あっ……この瞳、メアリーちゃんと一緒の瞳だ……」


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