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第119話「別れなのじゃ」

 リスタ王国 地下専用港 ──


 リリベットの他に、フェルトとミュゼが帰国するジンリィたちを見送りのために地下専用港を訪れていた。


 見送りにきてくれたリリベットたちに対して、緑色の正装に身を包んだリョクトウキがジオロ式の敬礼をする。


「此度の調停、我が国を代表して深く感謝致します。補填金に関しては本国に持ち帰り、必ず約束は果たします」

「うむ、両国の友好は成ったのじゃ、貴国とも友好的でありたいものじゃな」

「もちろんです、少なくとも貴国に海戦で挑むことはしませんよ」


 トウキは少しおどけた感じで答えるとウィンクをしてみせた。これはトウキが実際に感じた本心でもあったが、極力それを悟られないようにしているのである。そんなトウキにリリベットは微笑みかけて握手を求める。


「道中の安全はグレートスカル号が保証するのじゃ」

「ありがとうございます。この船ならば道中に心配はありません」


 リリベットたちが挨拶を交わしている間に、ミュゼとジンリィも別れを惜しんでいた。


「ミュゼ、主上のことよろしく頼むよ」

「はっ、身命を賭しまして」


 ミュゼが敬礼して答えると、ジンリィは微笑みかけながら彼女の肩に手を置いた。


「硬い硬い……もう少し肩の力を抜きな」

「は……はいっ」

「それと悪いんだが、マオのこともしばらく頼むよ。なぜかミュゼには懐いているようだしね。ん? そういえば今日は来てないのかい?」


 マオリィがいないことに気がついたジンリィは、キョロキョロと周りを探ってからミュゼに尋ねる。


「さっきまでは居たんですが……どこに行ったんでしょう?」


 ジンリィはクスッと笑うと、手にした双龍刀をグルグルと廻して側にあった木箱に突きつける。


「マオ、それで気配を消しているつもりかい?」

「…………」


 木箱からは何も物音がしなかったが、ジンリィは指を三つ立てて数えはじめる。


「三つ数えるうちに出てこないと、木箱ごと吹き飛ばすよっ! 三……二……」


 その脅しに屈したのか、矛を手にしたマオリィが木箱を蹴って天高く飛び上がる。


「師匠、覚悟っ! コウ家五天『(マオ)』が奥義っ! 雷めぇ……ごぅ!?」


 いきなり襲い掛かったマオリィの額に、ジンリィが投げた礫が見事に命中した。そして、バランスを崩して落下してくるマオリィを、ジンリィが飛び上がって空中でキャッチすると静かに着地する。


「うぅ、師匠ひどいのだ……」

「奇襲した程度で、この私が後れを取るわけないだろう?」


 マオリィは猫のように襟首を掴まれ、ミュゼの前の差し出される。


「ミュゼ、この子を頼んだよ」

「はい、ジンリィさん。マオ、なんでいきなり襲い掛かったりしたのよ?」

「師匠が滞在中に一本取ったら、ボクも連れてってくれるって言ったのだ……ふぎゃ」


 ジンリィが手を離すと、マオリィは落下して尻餅をつく。


「勝負は勝負、しばらくこの国で頑張るんだねぇ」

「うぐぐぐぐ」


 悔しそうに歯軋りしているマオリィに、ミュゼは苦笑いを浮かべている。




 そんな彼女たちも見ていたリリベットは、呆れた様子でぼそりと呟く。


「あやつらは、何をやっているのじゃ」

「はっはは、まぁ武闘家なんてあんなものですよ」


 トウキは笑いながら答えたが、一頻り笑うと真剣な表情になり再びジオロ式の敬礼をする。


「それではそろそろお暇します、女王陛下。……最後に一つだけ覚えておいてください。我がリョク家は受けた恩を忘れません。何かお困りのことがあれば、当家の門を叩きください……必ずや力になりましょう」

「ふむ、お主もまた来るとよいのじゃ」


 その後、リョクトウキはジンリィと共にグレートスカル号に乗船していった。しばらくして出航の時間になると、グレートスカル号はゆっくりと動き出しジオロ共和国に向けて出発した。



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王城 正門広場 ──


 リリベットとフェルト、そしてその子供たちは王城の城門内にある広場に集まっていた。帰国するヨハンと護衛騎士たちを見送るためである。


 鎧を着こんでさらに大きく見えるヨハンに、ヘレンは若干怯えながらレオンの後ろに隠れている。しかしヨハンはニコニコと笑いながら、レオンごとヘレンを抱き上げてしまう。


「うわっ、ヨハンお爺様!?」

「はっははは、しばらく会えぬのだ、二人ともよく顔を見せてくれ」

「やぁぁぁ」


 ヘレンは嫌がって首を横に振っていたが、それでも出逢ったころに比べれば、拒絶反応がだいぶ弱くなっていた。


「はっははは、可愛いなぁ」


 そんな反応も楽しめるようになったヨハンは豪快に笑っていたが、フェルトが呆れた様子で窘める。


「父上、その辺にしてあげてください」

「むぅ……仕方がないな」


 ヨハンは二人を降ろすと、微笑みながら二人の頭を優しく撫でる。


「二人とも良い子にしているのだぞ。良い子にしていたら、何かご褒美を送ってやろう」


 ヘレンはパァと明るい顔になって、両手を広げるとピョンピョン跳ね始めた。


「ごほーびなのじゃ~」


 そんな様子を眺めていたリリベットは、一歩前に出ると綺麗な所作で会釈する。


「それでは義父(とお)様、いらぬ心配じゃろうが道中気を付けて欲しいのじゃ」

「はっははは、その辺の野盗や領土解放戦線(レジスタンス)などに遅れを取るような私ではないが、気遣い感謝するぞ。一度妻にも会わせたい、今度是非我が領へ来てくれ」

「えぇ、セラーナ様にも一度お会いしたいのじゃ」


 微笑みながら答えたリリベットだったが、ヨハンは少し寂しそうな表情を浮かべていた。それは彼の妻、つまりリリベットから見て義理の母にあたるセラーナを、彼女が頑なに義母(はは)と呼ばないことが原因だった。


 これはリリベットの中で、母とはヘレン・フォン・フェザーのことという想いが強いからである。ヨハンもそれについては理解していた。


 ヨハンは、リリベットの頭を撫でるとニコッと微笑む。


「あぁ、是非来てくれ」


 数年ぶりに子供のような扱いを受けたリリベットは少し戸惑っていたが、特に抵抗することなく微笑んでいた。




 別れの挨拶が済んだヨハンたちは、正門から自身の領へ向かって出発した。その背中を見つめながら、リリベットはボソリを呟く。


「あの感じ……あれが父親というものなのじゃろうか?」



◇◇◆◇◇



 リスタ王国 王都 衛兵詰所 隊長室 ──


 ゴルドが暇そうに欠伸をしていると、ノックもなくいきなり扉が開いた。そして、カラカラと笑い声が聞こえてきた。


「あら、大きな口ね」

「ふぁ……なんだミリヤムか、その荷物は……」


 ミリヤムの姿を見たゴルドは少し驚いた表情を浮かべた。彼が驚いたのは、ミリヤムが大きな鞄を背負い腰の周りなどにも、様々な鞄や袋をぶら下げていたからである。


「もう行くのか?」

「えぇ、もう行くわ。この国の危機は脱したようだし、また気ままな冒険者稼業よ」

「今度はどこに行くんだ?」

「しばらくは、この大陸にいると思うわ。ちょっと姉さんのところに行こうかと思って、たまには顔を出さないと怖いしね」


 ゴルドの質問に、ミリヤムは苦笑いを浮かべながら答える。


「お前さんはいつも急だな。来るときも行くときも」

「まぁね……ねぇ、アンタも……」


 ミリヤムは、そこまで言うと口を噤み首を横に振る。そんなミリヤムにゴルドはとぼけた様子で尋ねる。


「どうした?」

「……いえ、なんでもないわ。それじゃそろそろ行くわね。またね、筋肉!」


 ニヤリと笑いながらミリヤムが手を振ると、ゴルドも軽く手を上げて答える。


「またな、まな板!」


 ミリヤムはベーっと舌を出して振り返ると、そのまま出て行ってしまった。それを見送ったゴルドは机の下から酒瓶を取り出すと、ラッパ飲みで一気に煽る。


「……行けるわけねぇわなぁ」


 ゴルドは少し寂しそうに呟きながら、酒瓶を眺めるのだった。





◆◆◆◆◆





 『気ままな一人旅』


 リスタ王都を出発したミリヤムは、西の城砦に向かって歩いていた。馬でも半日、彼女が本気で走っても同じ程度かかる道中だが、特に目的があるわけではないのでのんびりと歩いている。


「……しかし、私が旅立つっていうのに、何か言うことはないのかしら。まったく、見た目に反して煮え切らないやつね」


 別れ際のゴルドの態度に不満をもったミリヤムは悪態をついている。しかし、王都のほうに振り返ると寂しそうに呟く。


「まぁ、また近いうちに顔を出してあげようかな。人族は放っておいたら、すぐにお爺ちゃんになっちゃうしね」

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