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第117話「温泉なのじゃ」

 リスタ王国 温泉施設への道 ──


 翌日リリベットは、フェルトとマーガレットを連れて馬車に揺らされていた。ドロシアに誘われてガルド山脈の温泉施設に向かうためである。馬車の周辺には近衛の女性隊員が二人、騎乗で並走し護衛している。


「温泉とは、そんなに良いものなのじゃろうか?」


 未だに温泉に対して懐疑的なリリベットは、隣に座っているフェルトに尋ねる。


「う~ん、そうだね。温泉は入ると暖まって気持ちいいし、色んな効能があることが多いね。肩こりや腰の痛みに効いたりするんだ」

「ほぅ、肩こりに効くのじゃな。私も昔は無縁じゃったが……レオンが産まれてから、肩がこりやすくなったのじゃ」


 リリベットは自分の肩に手を添えて揉む、少し硬くなっている感触に辛そうな表情を浮かべた。フェルトは微笑を浮かべていたが、マーガレットはじーっとリリベットの胸を見ながらボソリと呟く。


「それは成長されたからですよ」

「確かに、背は随分と伸びたのじゃ」


 そう言いながら、リリベットは自慢げに胸を張るのだった。




 馬車でガルド山脈の麓まで着くと、リリベットたちはそこから歩くことになった。まだ舗装はされて無かったが木材などの運搬のために、道はしっかりと踏み固められていた。


 リリベットは温泉施設に向かいながら、歩道をキョロキョロとか眺めると木工ギルドのメンバーが作業をしているのを見つけた。


「ふむ、随分と整備されているようじゃな? ……っと」

「ほら、手を! 滑りやすいようだから気を付けないと」


 転びそうになったリリベットを支えたフェルトが、そのまま手を差し出す。リリベットは小さく頷いて、その手に左手を乗せた。フェルトにエスコートされて山道を登っていくと、見慣れない建物が見えてきた。


「あれが目的地じゃろうか?」

「たぶん、そうだろうね。ほら、あそこにドロシアさんが立ってるよ」


 建物の前にドロシアが立っており、リリベットたちを発見すると早足で近付いてきた。


「陛下、お待ちしておりました」

「うむ、ご苦労なのじゃ。開発は順調に進んでいるようじゃな?」

「はい、木工ギルドや大工房(ドリラー)の皆さんが頑張ってくれましたから」


 まだ途中だが開発の成果に、ドロシアは満足そうな顔をして頷く。


「さぁ、どうぞこちらへ」


 ドロシアに勧められたまま、一行はその後に続いて建物に中に入っていく。



◇◇◆◇◇



 ガルド山脈 温泉施設 エントランスフロア ──


 建物の中に入ると仮設ながらしっかりとした作りになっており、この辺りの建築様式ではなく、かつてコウジンジィが住んでいた紅庵に似た雰囲気だった。リリベットは物珍しそうに見回すが、フェルトは見慣れているのかドロシアに向かって尋ねる。


「ここはジオロ共和国の家みたいだね?」


 ドロシアは頷くと、更衣室のドアの前に立つと案内を開始する。


「はい、木造建築に関してはジオロ式が、耐久度も趣があっていいですからね。さて、こちらが更衣室になってます。中で服を脱いでさらに奥が温泉になっていますので、そのままお進みください。お着替えは中に用意してあります」

「ふむ、では行ってみるのじゃ。二人はしばらく待ってて欲しいのじゃ」

「はっ!」


 リリベットは護衛に付いてきた近衛に待機を命じると、マーガレットを連れて更衣室に入っていく。フェルトは二、三、ドロシアに尋ねたあと、男性用の更衣室に入っていく。



◇◇◆◇◇



 温泉施設 露天風呂 ──


 先に浴場に着いたのはリリベットとマーガレットだった。浴場は崖のようになっており見晴らしが良く、その中に岩で囲まれた温泉がある。厳しい崖をよじ登りでもしない限り、外からは見えない配置になっていた。一糸纏わぬ姿で後ろ髪をお団子状に結ったリリベットは、物珍しそうに眺めている。


「ふむ……聞いてはいたが、外なのじゃな? それに凄い匂いなのじゃ」

「そうですね。私もはじめて見ましたが、不思議な感じです」


 そう答えたのは、リリベットの後に付いて来ているマーガレットだ。彼女は入浴のために同行しているわけではないので、多少軽装になってはいたが普通に服を着ており、香油などが入っている籠を持っていた。


「とりあえず、入ってみるのじゃ」


 リリベットはそのまま真っ直ぐに温泉に近付くと、恐る恐る片足の先を付けて温度を確認してから温泉に浸かる。


「ふわぁぁぁ、確かにいい感じなのじゃ」


 あまりの気持ち良さに蕩けるような表情を浮かべながらそう告げると、マーガレットは少し困ったような表情を浮かべてリリベットに尋ねた。


「陛下、この広さでは湯に香油を垂らしても無駄ですね……どうしましょうか?」

「ふむ……後で直接塗れば良いじゃろう」


 そんな話をしていると、バスローブを着たフェルトが浴場に入ってきた。そんなフェルトにリリベットは気持ち良さそうな顔をして呼び掛ける。


挿絵(By みてみん)


「フェルト、こっちなのじゃ。よい気持ちじゃぞ」

「ん? え~っと……」

「どうしたのじゃ? 今更恥ずかしがることもないじゃろう?」


 リリベットは特に気にした様子ではないが、フェルトは戸惑った様子だった。


「いや……リリーは別に構わないのだが、マーガレットの前で脱ぐのは少し抵抗があるかな」


 苦笑いをしているフェルトの言葉に、マーガレットはクスッと笑う。


「別に見慣れてますが?」


 マーガレットは急ぎの用事であれば、いつでもリリベットの元へ来る許可をされており、それが例え夫婦の営みの最中でも参上する。そのためフェルトの裸など見慣れたものなのだが、当の本人は気にしているようだった。


 リリベットは小さくため息をつくと、マーガレットに向かって頼む。


「マーガレット、更衣室で待ってて欲しいのじゃ」

「わかりました、これはどうしましょうか?」


 マーガレットは頷くと、手にした香油が入った籠を見せる。


「ふむ、それは後でフェルトにしてもらうのじゃ」

「わかりました、では後ほど」


 香油などが入った籠をその場に置くと、マーガレットは一礼して更衣室に戻っていった。それを見送ったフェルトは、ようやくバスローブを脱いで温泉に浸かりリリベットの隣に座った。


「あぁ……いい湯だね。疲れが吹っ飛びそうだ」

「うむ、お風呂とは全然違うのじゃな。広くて気持ちいいのじゃ。しかし、皆と一緒に入るのに抵抗を感じる者もいそうじゃが」


 リリベットの疑問に、フェルトが答える。


「今回は混浴にしているけど、実際は男性用と女性用にわけるようだよ。湯の洗浄や温度調整はあそこの柱がしてくれるらしい」


 フェルトが指差した方向を見つめると、そこには柱が一本立っていた。ドロシアの話ではあの柱が常に湯を綺麗にしているらしい。リリベットは、パシャパシャと肩にお湯を掛けながら納得したように頷く。


「ほぅ、なるほどなのじゃ。これほど気持ちいいのなら、来場者も増えそうじゃな」

「そうだね、思ったより良い感じだし、観光客も呼べるかもしれないよ」


 しばらくそんな話をしていると、リリベットの顔が少し赤くなってきた。それに気が付いたフェルトは心配そうに尋ねる。


「リリー、大丈夫かい? そろそろ上がらないとのぼせてしまうよ」

「ふむ……そうするのじゃ、それでは身体を洗うのじゃ。いつもはバスタブの中なのじゃが、温泉ではどうすればよいのじゃ?」


 リリベットの問いに、フェルトは並べてある椅子を指差しながら答える。


「ほら、あそこにある椅子の前に魔導具があるだろ? アレを操作するとお湯が出るんだ」

「ふむ、なるほどなのじゃ」


 リリベットは頷くと温泉から出る。その美しい肢体は十分に暖められたようで、ほんのりと赤く染まっていた。椅子に座ったリリベットは、フェルトに向かって告げる。


「それではフェルト、頼んだのじゃ」


 そんなリリベットの言葉に、フェルトは驚いた表情を浮かべながら尋ねた。


「えっ、私が洗うのかい?」

「当たり前じゃろう? ここには私とお主しかおらぬではないか、早くするのじゃ」


 仕方がないといった様子のフェルトは、温泉から上がると置いてあった籠を拾って、リリベットの後ろまで歩いていく。そして、椅子を一つ寄せるとリリベットの後ろに座るのだった。






◆◆◆◆◆





 『リリベットの入浴』


 朝晩や汗をかいた時などに入浴するリリベットだが、基本的に脱衣から入浴まで女王付きのメイドたちが行ってしまうため、自分で身体や髪を洗ったりはしない。


 彼女がすることと言えば大人しくバスタブに浸かっていることと、使用する香油を尋ねられた時に答えるぐらいである。


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