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第114話「調印式なのじゃ」

 ノクト海 港町アーレン近海 クイーンリリベット号 甲板 ──


 調印式の準備をして戻ってきたリリベットは、微妙な空気が流れていることに気付き監視のためにその場に残したマーガレットを一瞥する。


 それに対して、マーガレットは特に問題ないと小さく首を振る。リリベットは気を取り直して、サリマール皇帝とラァミル王の顔を見て尋ねる。


「ふむ、何かあったようじゃが……調印はそのまま進めてもよいじゃろうな?」

「無論だ」

「こちらも異論はありません」


 リリベットは小さく頷くと、後ろで控えていたフェルトに目配せをする。フェルトはサリマール皇帝とラァミル王の前に同意書と、羽ペンとインクを置いた。


「それではクルト帝国並び、ザイル連邦の講和調印を執り行うのじゃ。説明するまでもないのじゃが、両国でその内容を確認後、同意書にサインをするのじゃ。両国に一通ずつ、そして調停国である我が国で一通保管することとするのじゃ。異論はないじゃろうか?」


 リリベットが再び二人の君主を見ると、二人とも静かに頷く。


「フェルト、よろしく頼むのじゃ」

「では私、リスタ王国外務大臣フェルト・フォン・フェザーが、条文を読み上げますので確認をよろしくお願い致します」


 フェルトが先程決定した講和の条件を読み上げると、二人の君主は黙って頷いている。


「……以上です。両国とも問題が内容であればサインをお願いします」


 フェルトの締めの言葉で二人の君主が、ほぼ同時にペンを取りサインをはじめた。サインが終わるとフェルトがお互いの同意書を確認してから、交換して改めてサインをすると一度リリベットの元に戻された。そしてサインに問題がないことが確認されると、最後に調停国であるの国主であるリリベットが二通にサインをした。


 そしてリリベットは下に紙を引き、二通の同意書をピッタリと合せて並べると、その中心にリスタ王国の紋章が彫られた大きめな印章を押す。


 その印章が光輝くと同意書も同様な輝きを見せた。しばらくするとその光が収まり、同意書は割符のように半分ずつ押された印と、中心に判が押された同意書が一枚複製されていた。


 フェルトは割符のように分かれた同意書をそれぞれの君主に渡し、中心に押された同意書を手元に収めた。そしてお互いの君主が歩み寄ると力強く握手を交す。リリベットはそんな彼らの手の上に手を軽く置いて宣言する。


「これでクルト帝国と、ザイル連邦の和平が成立したのじゃ。我が国は、お互いの永遠なる平和と繁栄を願っておるのじゃ」


 リリベットがそう締め括ると、調印を見守っていた三国の臣下たちは一斉に拍手を送った。


 こうして、後に「クイーンリリベットの奇跡」と呼ばれた戦いは、両国の和平という形で幕を閉じたのだった。



◇◇◆◇◇



 調印式が済んだリリベットたちは、両国の末永い友好を願った祝いの宴をクイーンリリベット号の食堂で行なった。それから数日後、帰国したリリベットたちは、子供たちの顔を見るために子供部屋を訪れていた。



 リスタ王国 王城 子供部屋 ──


 リリベットたちが部屋に入ると、マリーとヘレンがいた。リリベットに気がついたヘレンが彼女に向かって走り出したが、何故か途中で止まって泣き叫びはじめた。


「うわぁぁぁぁぁん……こ、こわいのじゃ~」


 そう叫ぶと猛ダッシュでマリーのスカートの中に潜り込んでしまう。その周りを小人たちがビシッと守るように囲んでいる。マリーは少し困った表情で、スカートの裾を少し上げて出てくるように諭す。


「ヘレン様、出てきてください。あの方は貴女のお爺様ですよ?」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 マリーの脚を必死に掴んで抵抗するヘレン。フェルトは隣で弱った顔をしているヨハンの肩をポンッと叩く。


「だから言ったでしょう、父上。ヘレンにはまだ早いって」

「うむぅ……アイラでも、ここまで怖がられなかったのだが……」


 ヨハンとフェルトは、とても似ていない親子でスラリと細身のフェルトに比べて大柄で熊のような肉体を誇るヨハンは、ヘレンのような幼子から見ると怪物のように見えるらしく、出発前に会ったときもこんな様子だった。


 リリベットはヘレンに近付くと、目線を合せて両手を広げてみせる。


「ほら、ヘレン出てくるのじゃ」


 スカートからチラッとリリベットの顔を見たヘレンは、バッと飛び出てくるとそのままリリベットに抱きついた。


「かぁさま、こわいのじゃ~」

「大丈夫なのじゃ。見た目は怖いが、義父様は良い人なのじゃ」


 リリベットの言葉に不思議に思ったヘレンは、首を傾げて尋ねる。


「かぁさまのとぉさま?」


 リリベットはクスッと笑うと、ヘレンをそっと抱きしめて答える。


「正確には父様の父様なのじゃ」

「とぅさまのとぉさま?」

「そうなのじゃ、ほれ、ゴルドと大差ないじゃろう?」

「やぁぁぁぁぁ」


 リリベットはヘレンの顔をヨハンのほうに向けようとするが、必死にしがみ付いて抵抗している。


「これ、ヘレン、そんなに掴んだら痛いのじゃ」

「いやっいやっいやっ~」


 予想より遥かに強い力で掴まれていることに驚きながら、ヘレンの背中を優しく撫でて落ち着かせようにする。


 結局その日はヘレンがまったく懐かず、ビクつきながらもヨハンをチラチラと見るようになるまでに三日が経過していた。



◇◇◆◇◇



 その日、剛剣公ヨハン・フォン・フェザーと武神コウジンリィの練習試合が行なわれることになっていた。場所はリスタ王城の修練所で行なわれることになったが、非公式のものであり見物人は限られた数人がいる程度だった。



 リスタ王国 王城 修練所 ──


 見物に来ていたのはリスタ王家の面々とマリーとマーガレット、近衛隊からは隊長のラッツと副隊長のサギリ、衛兵隊長のゴルドと退屈そうに見ているミリヤム、紅王軍(クリムゾン)からはミュゼとマオリィが来ていた。


 王家の中でもリリベットとヘレンはあまり興味がなかったが、フェルトとレオンは剣の練習を欠かさない程度には剣術に興味があり、目を輝かせている息子を見て呟く。


「いったい何が楽しいのじゃろうな?」


 ラッツは再びジンリィの技を見れるのを楽しみにしていたし、サギリに関しては剛剣公と武神の戦いなど二度と見れないと、真剣な表情で見つめている。


 ゴルドはオフなのか仕事中なのかわからないが、酒瓶を片手にミリヤムに尋ねる。


「おい、お前さんはどっちに賭けるね?」

「正直どっちでもいいわ」

「そう言うなって、秘蔵の酒を賭けてやるぜ」

「ふ~ん」


 ゴルドの秘蔵の酒に少しやる気を出したのか、ミリヤムはじっと二人を見つめてから答えた。


「剛剣公ね」

「ほぅ、じゃ俺はジンリィに賭けるわ。彼女には色々世話になったしな……ところでなんでフェザー公なんだ?」


 ゴルドが酒を煽りながら尋ねると、ミリヤムは鼻で笑って答える。


「私もそれなりに腕に自信があるからジンリィとなら多少は戦えると思うけど、あのおじさんは無理だわ……あの気配、ドラゴンと大差ないわよ? 大戦のときに苦戦した黒騎士すら一太刀で終わらせれるんじゃない?」

「いや、さすがにそりゃ……って、そんなにかっ!?」


 ゴルドは驚きながらバリバリと髪を掻く、そしておどけた様子で提案する。


「なぁ、やっぱり賭けはなしで……」

「ダメに決まってるでしょ」


 ミリヤムが、からかうように小さく舌を出して拒否をすると、ゴルドは頭を抱え唸っていた。


 マオリィはヘレンを抱っこしながら、レオンと一緒に見ていた。彼女はユラユラと揺れながら、ヘレンに尋ねる。


「ヘレンは、どっちが勝つと思うのだ?」

「わからないのじゃ~」

「マオリィさんは、どっちが勝つと思いますか?」


 レオンが興味津々に尋ねると、マオリィは小さく拳を振り上げた。


「もちろん師匠なのだっ! おっちゃんも強いけど、師匠は最強なのだ」

「僕はやっぱりヨハンお爺様かな。ジンリィさんの伝説も知ってるけど、この大陸だと剛剣公の名は絶対だからね」

「にぃさまがおうえんするなら、ヘレンもするのじゃ~」


 レオンがヨハンを選ぶと、ヘレンも一緒になって両手を広げて応援をはじめた。それを見ていたヨハンはニカッと笑うと、親指を立てて応援に応えるのだった。





◆◆◆◆◆





 『契約の印章』


 正式な書類であることを示す魔法の印章、お互いの書面を跨いで押すことで、書類を複製する魔法が込められている。国家間だけではなく商人などの契約などに使用され、複製された書類の上に、正式な契約した書類を置くと押されたインクが光輝く仕組みになっている。


 製造者は輝きの森のハイエルフと言われており、この魔法を偽造する技術や魔法はまだ見つかっていない。

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