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第112話「見学なのじゃ」

 リスタ王国 王城 地下専用港 ──


 地下専用港には、クイーンリリベット号とグレートスカル号が停泊していた。グレートスカル号にはノーマの海賊の捕虜の一部が、そのまま閉じ込められているため、紅王軍(クリムゾン)と衛兵隊が船の周囲、及び船内を警備している。


 ルネの娘ミルを連れて地下専用港に来たリリベットは、そんなグレートスカル号を見てぼそりと呟いた。


「早急にグレートスカルから移送しなければ、面倒なことになるのじゃ」


 さすがに捕虜を連れたまま、グレートスカル号を大陸連絡船として運用するわけにはいかず、現在も交易は急遽組織された武装商船団で賄っている状況だ。しかし、移送するにも王都には大規模な収容施設などがないのである。


 困った表情を浮かべていたリリベットをよそに、ミルは目を輝かせながらグレートスカル号とクイーンリリベット号を見つめている。


「凄いですっ! 現在の魔導工学の粋を集めた船が二隻も!」

「ふむ、動力炉が見たいのじゃったな?」

「はいっ!」


 リリベットは、整備をしていた作業員に声を掛けタラップの準備をさせた。そのタラップを上り甲板に出ると、そのまま機関室に向かうために船内に入っていった。


「聞いたところによると、ガウェインは機関室で調整しているらしいのじゃ」



◇◇◆◇◇



 地下専用港 クイーンリリベット号 通路 ──


 停船しているにも関わらず機関室に来るまでの通路も何故か明るく、ランタンのような輝きで暗闇を照らしていた。ミルがそれらにも興味深々に眺めていくので、リリベットは少し呆れた顔で尋ねる。



「すまぬのじゃが、先に機関室に向かってもよいじゃろうか? お主をガウェインに紹介したいのじゃ」

「は、はい、すみませんっ、陛下!」


 ミルは慌てた様子で、リリベットの元に駆け寄ると深々と頭を下げた。リリベットは彼女の頭を軽く撫でると、そのまま機関室に向かった。




 機関室前の扉まで辿りつくと、リリベットは中にいるガウェインを呼び出した。しばらくして扉が開きガウェインが現れると、髭を擦りながら尋ねてきた。


「なんだぁ女王かぁ、何の用だぁ?」

「うむ、この子をお主に紹介したかったのじゃ。それと動力炉も見せて欲しいのじゃ」


 ガウェインは髭に覆われているため表情は伺いしれないが、ミルを一瞥して尋ねる。


「なんだぁ、そのガキはぁ?」

「ルネの子でミルという名じゃ。お主が造った動力炉に興味があるらしいのじゃ」

「ミルといいます。魔導工学を専攻していますっ! ガウェイン工房長、お会いできて光栄です」


 ミルは再び目を輝かせながら、深々とお辞儀をした。


 魔導工学を学ぶ者で、グレートスカル号の設計者であるガウェインの名を知らぬ者はおらず、時折彼を尋ねようとリスタ王国に訪れる学者がいるが、地中深くにある大工房に辿りつけず断念する者が多数だった。


「ほぉ、ガキの癖に動力炉に興味がなぁ、まぁいいだろうぉ、付いてこぉい」


 のしのしと機関室に中に入っていくガウェインに、リリベットたちも黙って後についていった。



◇◇◆◇◇



 専用港 クイーンリリベット号 機関室──


 動力炉の前まで来ると、興味津々といった感じでミルがあちらこちらを調べはじめた。ガウェインは好きに見ろといった様子で特に気にせず、椅子に腰を掛けると広げた図面を眺めている。


 リリベットは特にやることがなかったので、ガウェインが見ている図面を覗き込むが、内容はさっぱりわからずガウェインに尋ねる。


「ふむ……よくわからんな。ガウェインよ、停船中の艦で何をしているのじゃ?」

「んぁ? あぁ、この前の航海で色々問題がわかったからなぁ、調整してんだよぉ」


 ガウェインはバンバンと図面を叩いていたが、図面を読むことができないリリベットは首を傾げることしか出来なかった。しばらくして見学を終えたミルがリリベットたちの所に戻ってくると、図面を指差しながら開口一番で尋ねる。


「ここの順路をこうした方が、効率がいいのではないでしょうか?」

「なんだとぉ? ……むぅ一理あるなぁ、だがここを変えたら、このカーブで負荷がかかるだろうぉ」


 ミルの指摘にガウェインは唸りながら答え、それに対してミルも考えて自分なりの答えをガウェインに伝えていく。そんな感じで魔導工学の談議が白熱していくと、もはや何を言っているのかわからないリリベットは、呆けた顔で聞いていることしか出来なかった。


 しばらくして二人の話が終わると、ガウェインは大きく頷く。


「なるほどなぁ、神経伝達に関する魔導工学の応用ったぁ、やるじゃねぇかガキィ」


 どうやらミルの提案は通ったようで、ガウェインは図面に色々と書き込みはじめた。ミルはそれを眺めながら満足そうに笑っている。二人を見ていたリリベットは決心したように頷くと、ガウェインに告げた。


「ガウェインよ、このミルが学園を卒業したら機関室を任せようと思うのじゃが、どうじゃろうか?」

「あぁ? うむぅ、そうだなぁ。俺も工房があるからなぁ、いいんじゃねぇか?」


 この一言でミルの機関室への内定が決まったのだった。彼女には給与のほかに王家より研究費が支払われる約束がされ、クイーンリリベット号に乗船している間も、自由に研究を続けていいことが伝えられた。


「よろしくお願いしますっ!」



◇◇◆◇◇



 クルト帝国 エンドラッハ宮殿 会議室 ──


 クルト帝国に訪れたフェルトは、謁見の間での挨拶を済ませたあと会議室に呼ばれていた。そこには宰相レオナルドと連合艦隊提督エリーアスも同席している。


「さて、すでにエリーアスより報告されているが、リスタ王国が介入して戦争を止めたそうだな?」


 やや不機嫌そうに確認を取るサリマール皇帝に、フェルトは小さく頷いて答えた。


「はい、我が国としましては、両国の争いは好ましくありませんので……」

「ふんっ、貴国には貴国の都合があるのであろうが、あの戦争は我々の戦いだった。それを勝手に止めた以上、普通であれば無事では済まさんところだが……正直な話、止めてくれて助かったところもある」


 思いがけない言葉に、フェルトは首を傾げながら尋ねる。


「……と言いますと?」

「エリーアスから聞いたが、ザイル連邦の戦力は余の想像を越えていた。あのまま戦っていれば、余の海軍は負けないまでも大きな被害を受けていただろう。そうなれば海軍の三分の一が失われ、大陸近海の制海権も失っていたかもしれん」


 もしサリマール皇帝の想像通りに制海権が失われた場合、その経済的損害は天文的な数字になっており、下手をすれば帝国が転覆する可能性もあった。


「よって此度の仕儀は不問とする……ご苦労であった。ノーマの海賊の引渡しに関しては、我が国から護送を派遣するので引渡してくれればよい。それに関しては感謝状とともに褒賞も出そう」


 輸送手段が乏しく、護送に関して頭を抱えていたリスタ王国にとっては、正直ありがたい申し出だった。


「ありがとうございます、助かります」


 フェルトが丁寧にお辞儀をすると、サリマール皇帝は満足そうに頷いてレオナルドを一瞥した。レオナルドは小さく頷く。


「それとザイル連邦から書簡が届いている。内容は和睦の申し出だ。しかし、講和会議の場所を海上、そして第三国の船で執り行いたいと申してきているのだ」

「第三国ですか?」

「名指しはしていないが、おそらくリスタ王国(お前の国)のことだろうな。なにやら強力な新造艦があるのだろう?」


 レオナルドが鋭い眼光でフェルトを見つめると、フェルトは仕方がないといった様子で頷く。


「わかりました、クイーンリリベット号を手配します。講和会議に参加するのは兄上でよろしいですか?」

「いや、余が自ら向かうことにする。相手も王が出てくるとのことだ、対等な立場ということを示さねばならん。……それに新造艦というのも興味があるのでな」


 新しい玩具を貰った子供のような顔で笑う皇帝に、レオナルド宰相は呆れた顔で同行を進言する。


「陛下が行かれるのでしたら、私も……」

「お前はダメだ。余が帝都を離れるのだ、お前が残らないでどうする?」

「しかし、それでは陛下の身は誰が護るのですか? もしもの時、並みの者ではザイル連邦の獣人兵に対抗できませんが……」

「心配するな、お前たちの父上に頼むことにする。それなら異論はあるまい?」


 サリマールはしたり顔で尋ねるが、これにはレオナルドもフェルトも異論はまったくなかった。何しろ彼らの父親は帝国最強と言われているフェザー公爵であり、その強さを誰よりも知っていたからである。


「合流は指定された海上で行なうことにする。そこまではエリーアス、頼めるな?」

「はっ、必ずや無事に送り届けます」


 エリーアス提督が敬礼をしながら答えると、サリマール皇帝は満足そうに頷いた。





◆◆◆◆◆





 『制海権と経済』


 すでに奪われた北方海域、つまりノクト海だけでも相当な経済的損害が出てしまうが、リスタ王国という自由な航行ができる国があることで、損害の規模はそれでも抑えられていた。


 その上西の海域まで奪われれば三大大陸間での交流が断たれ、経済的な損害は天文学的な数字になってしまうことだろう。

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