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第107話「王者の風格なのじゃ」

 魔の海域 クイーンリリベット号 ──


 宝玉に片手に肩で息をしているリリベットに、マーガレットが水が入ったグラスを差し出した。


「う……うむ、ありがとうなのじゃ」


 受け取った水を飲んで一息ついたリリベットは、再び両軍に戦闘停止を呼びかけている。その間にレベッカは状況の確認をしている。


「化け物は倒したか?」

「はい、暴れていた化け物は魔導砲によって吹き飛びました! あれで生きてたら驚きですよ」


 宝珠を通して見張りから報告される連絡にレベッカは大きく頷く、この船では伝達手段として宝珠を使用しているため、グレートスカル号などの他の船のようなタイムラグは発生しない。レベッカは続けて機関室のガウェインに尋ねる。


「爺さん、主砲はすぐに撃てるかい?」

「無理言いなさんなぁ、冷却と再充填にしばらくかかるわっ」


 先程戦場を切り裂き、要塞の一角ごと暴れていた水龍を吹き飛ばした閃光は、クイーンリリベット号の船首についている剣型の主砲であり、精霊力の塊を充填して射出する機構になっている。


 グレートスカル号を一撃で轟沈できる威力を! というオルグの笑い話程度の注文に、工房長ガウェインが真面目に応えてしまった結果、生まれてしまった高威力超遠距離砲である。ただし一撃ごとに冷却と再充填が必要であり、連射ができない上に動力に使用している精霊力を射出するため、艦全体の出力も低下してしまう弱点もある。


「レベッカ! 艦をもっと近づけるのじゃ」

「了解、てめぇら行くよ! 全速前進だっ!」


 せっかくのレベッカの命令だったが、宝珠からガウェインの声が聞こえてくる。


「今はぁ出力五割ぐらいが限界じゃぁ」

「ちっ、仕方がないねぇ……可能な限りの速度で進めっ」

「おー!」


 こうしてクイーンリリベット号は、両軍が対峙する戦場中央に向かって前進を開始した。



◇◇◆◇◇



 魔の海域 ガトゥム要塞 作戦室 ──


 突然の出来事の連続に、ラドン王子は作戦室まで引き返してきていた。


「いったい、どうなっている?」

「はっ、南東より発射された謎の閃光が水龍を撃破、我が要塞の一部も崩壊しております。そして戦闘を止める声が、この海域にいる全兵士に聞こえているようです」


 部下の一人の報告に、ラドン王子は首を傾げている。


「いったい何なのだ、さっきの攻撃は帝国の新兵器か!? あんな攻撃を再び放たれたら、この要塞といえど無事では済まんぞ!」

「王子! 南東方面から、所属不明の白い船がこちらに向かって来ています」


 それを聞いたラドン王子は目を見開いて、すぐに攻撃を命じる。


「所属不明!? 馬鹿が、この海域で我々以外は全て敵だ。超長距離バリスタを食らわせてやれ!」

「王子、おそらく先程の閃光を放った船だぞ、あまり刺激するのは……」


 色々な出来事が重なりすぎて、すっかり弱気になっているラッカー将軍は、ラドン王子を止めようとするが、ラドン王子はそれを押しのけて再び命じる。


「構わん、放てぇ!」


 ラドン王子の命令でガトゥム要塞から放たれた散弾は、クイーンリリベット号に降り注いだが、その瞬間艦の周りに防殻のような光の膜が現れ、全ての攻撃を弾き返していた。


「ぜ、全段弾かれた模様ですっ!」

「な、なんだと!?」


 ラドン王子も驚きを隠せず頭を抱えていると、再び怒鳴り声のような声が頭の中に響き渡る。


「いま撃ってきたのは誰じゃ~驚いたじゃろうがっ! もう少しで着くから大人しくしているのじゃっ!」



◇◇◆◇◇



 魔の海域 クルト帝国連合艦隊 旗艦『ノインベルク』甲板 ──


 エリーアス提督は響き渡る声に頭を押さえながら、見張り台に向かって叫ぶ。


「この若い女性の声に、特徴的なしゃべり方はまさか!? おい、船の所属はわかったか?」


 先程から目を凝らして近付いてくる船を監視していた見張りは、ようやく掲げている旗を発見した。


「提督、旗が見えました。赤地に大きな輪に龍の紋章……リスタ王国ですっ! リスタ王国の旗を掲げています」

「やはりそうか……くっ、あの国の存在は海軍にとって悪夢だな……あのような船を隠し持っていたとは」


 エリーアス提督はそう呟くと、これ以上戦闘を続行するのは危険と判断し、全艦隊に向かって停戦を命じたのだった。



◇◇◆◇◇



 魔の海域 クイーンリリベット号 ──


 両軍からリスタ王国旗が確認できる距離に到着したあと、リリベットはようやく自身の身分を明かした。


「私はリスタ王国女王リリベット・リスタなのじゃ。両軍は停戦し、代表者を我が船に派遣するのじゃ、むやみに脅しはしたくないのじゃが……我が艦の主砲の威力を味わいたくはないじゃろう?」


 如何にも陳腐な脅しであるが先程見せた主砲の威力は、その脅しに力を持たせるには十分な威力があった。




 しばらくして、最初にクイーンリリベット号に接舷したのは、クルト帝国の旗艦ノインベルクだった。ノインベルクもクルト帝国海軍の中では大きな船だが、クイーンリリベット号に比べれば小船程度の大きさである。


 リスタ王国側の誘導に沿って乗船してきたエリーアス提督と副官、そして海兵と思われる武装した一団がリリベットの前に立った。エリーアス提督は丁寧に頭を下げながら告げる。


「女王陛下、お初にお目にかかります。クルト帝国連邦艦隊提督エリーアス・フォン・アロイスと申します」

「リスタ王国女王リリベット・リスタなのじゃ。どうやらザイル連邦側も到着したようなのじゃ、しばし待つのじゃ」


 リリベットはそう言いながら、ザイル連邦側の動きを確認している。ザイル連邦はガトゥム要塞から高速艦を出しクイーンリリベット号に接舷、誘導に従わずズカズカとタラップを駆け上がってくる。リリベットたちの前に現れたのはラドン王子とラッカー将軍、そして屈強な獣人兵だった。


「貴様が、リスタ王国女王かっ!? 何をしにこんなところまで来たのだっ!」


 ラドン王子は、いきなりリリベットに取ってかかろうとするが、近衛隊によって阻止されて押し戻された。


「双方ともよく来てくれたのじゃ、いきなり殺し合いをはじめられても困るのじゃ、お互い両舷に分かれるがよいのじゃ」


 リリベットの言葉にクルト帝国側は素直に下がったが、ザイル連邦側は若干の抵抗をみせ、近衛隊に押されるように下がることになった。そして、リリベットは中央に小さな席を用意させるとまず自分が座り、両国の代表にも座るように告げた。


 エリーアス提督とラドン王子がゆっくりと近付くと、リリベットの左右の席に座る。しかし、ラドン王子は何かを発見したようで、机を叩きながら立ち上がった。


「ココロット! なぜ、貴様がそこにいる!? そうか、こんな茶番を演じさせてるのはラァミルの野郎かっ!」


 猛獣のように怒りを露にしているラドン王子に、リリベットはゆっくりとした口調で告げる。


「座るのじゃ」


 何かに気圧されるような不思議な感覚に襲われ、ラドン王子は黙ったまま席に着いた。


 二十年、リリベットが王位に着いてから過ごした時間である。その間には大戦もあり、数多くの死も経験している。その華奢な容姿からは想像できないが、まさに王威と呼べる王者の風格が彼女にはあったのだ。


「お互い顔を合わせたのは初じゃろうか? とりあえず名乗るのはどうじゃろうか? 私は先程名乗ったので割愛させていただくのじゃ」


 エリーアス提督は小さくお辞儀をすると所属と身分、そして名前を名乗る。


「クルト帝国 連合艦隊提督 旗艦ノインベルク艦長 エリーアス・フォン・アロイスです」


 続いてラドン王子が、不機嫌そうな顔で名乗る。


「ザイル連邦バルドバの子 第二王子のラドン・バルドバだ」


 二人が名乗り終わると、リリベットがいとも簡単といった様子で口を開いた。


「ふむ……私が今回来たのは、両国に戦争をやめてもらいたいからなのじゃ」


 そのリリベットの提案に、エリーアス提督は首を横に振りながら答える。


「大砲で脅して用件を飲ませようとは、貴国のやりようはまるで海賊だ」


 続いてラドン王子は鼻で笑う。


「はっ、どうせラァミルに言われて来たんだろうが、勝ち戦を止める理由はねぇな」

「それは我々とて同じだ。もう少しで勝利できたものを、貴女に水を差された」


 エリーアス提督の言葉に、ラドン王子は気に入らないといった様子で牙をむき出しにする。


「……とは言え、ここで提案を断れば、この船が敵にまわるって言うんだろ?」


 ラドン王子が尋ねると、リリベットは黙って頷く。


「それじゃ仕方ねぇな、ここでアンタを人質にして、この船を頂くってのはどうだ? 俺らを無用心にこんな近付けるなんてバカじゃねぇのか?」

「ふむ……後悔したくないのじゃったら、やめたほうがいいのじゃ」


 自信満々のラドン王子の脅しに、リリベットはニッコリと微笑みながら答えたのだった。





◆◆◆◆◆





 『王者の風格』


 普段は多少我が侭なものの穏やかな性格をした優しい女性であるが、女王として場に立つと王者としての風格を見せる。


 容姿は二十二歳の美しい女性だが、王の顔をしたリリベットには大国の外交官すら、敬意を示さざるを得ないと言われている。


 在位二十年、多くの国民を失った経験や、再出発(リスタート)に失敗した者への死刑宣告など、幼少の頃から多くの死にかかわった故の風格なのである。

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